第9話、「不知火の勇五郎」。


ある激しい雨の夜、石川島の人足寄場から脱走した男・不知火の勇五郎。
大泥棒のはずだが、火盗が言うには町方のやり方が甘く、本人の仕業だとわからないことは罪にできず、微罪で寄せ場送りとなったのだ。
勇五郎の人相書きが町中に貼られるが、それを見たお千代の顔色が変わる。

一刀流の達人ながら、人を殺めず、寄せ場送りで収まったたいした盗賊。
お千代は仁左衛門に、手足として使ったらどうかと勧める。
その頃、町では植木職人の仙之助が浪人と揉め事を起こして金を要求されていた。

高瀬が止めに入り、浪人は逃走したが、仙之助は傷を負って政蔵のところに担ぎ込まれた。
結果、仙之助は6日は安静にしてなくてはいけなくなった。
身元を確認する為に持ち物を調べていると、お店の絵図面と、主人、奉公人からその特徴が細かに書かれた書き付けが見つかった。
店の名前はわからなかったが、これこそが盗賊の間で売り買いされている「なめ帳」というものだった。

つまり、仙之助は盗賊だ。
式部のところに書き付けを持っていこうとする高瀬だが、政蔵ともう1人の同心は仙之助が目を覚まして書き付けがないことに気づかれるより、報告だけにしておきましょうと提案した。
風邪で伏せっていたはずのお頭を見て、火盗に報告に来た政蔵は驚く。

髪形、着物を変えてヒゲをはやした式部は、勇五郎そっくりだった。
人相書きが、どこかで見たような顔のはずだ。
それは式部そっくりだったのだ。

勇五郎は足の傷が元で、既になくなっていたが、元々、式部に似ていた。
だから勇五郎がなくなったのを隠して、雲霧に罠をかけようと式部は考えたのだ。
火盗では勇五郎に化けるなど危ないので止めるが、式部は屋敷で指揮をしているだけではなく、外に出て働き、皆の苦労を分かち合いたいと言う。

その頃、お千代はおもんと六之助に、勇五郎について探るように頼んでいた。
六之助が「姐さんが昔、好きだった人」と言って、お千代にピシリと否定される。
「私が惚れているのは一人だけ」。
すると六之助、「わかってます」。

お千代は七つの時、仁左衛門に拾われるまで、本所のお救い小屋にいた。
勇五郎はその小屋にいて、お千代の面倒を見てくれた男だった。
お千代は火事で焼け出されたので、両親の顔も知らない。

たった一つ、覚えていることと言ったら、勇五郎のこと、そして思い出の鈴だけだ。
もし、お手配の勇五郎が、あの時の勇五郎だったら…。
その時は、お千代は雲霧一党に誘おうと思っていた。

傷の癒えた仙之助は、政蔵に医者代を置いて、手厚く礼を言うと、出て行った。
その後を政蔵がつけていく。
だが、政蔵と密偵は途中で見失った。
あわてて探すその姿を、熊五郎が表向き営む古着屋からそっと見ていた。

仙之助は、その古着屋にいた。
政蔵が行ったのを確認すると、熊五郎はなめ帳を要求する。
それを見た熊五郎は、これがあれば頭数揃えれば仕事はできると言う。

仙之助が雲霧に買ってもらえないのかと言うと、熊五郎は「頭?」とそっぽを向く。
買わないのなら、と仙之助が立ち上がろうとすると、熊五郎が「俺に売れ」と言う。
「おめえ…、雲霧のお頭に内緒でやろうってのか」。

「頭になって、仕事がしてえんだよ」。
「金は?」
「金はうまく行った時の後払いだ。おめえと山分けだよ。人、集めてくれ」と熊五郎は言った。
熊五郎の依頼で、仙之助は1人働きしている粂三という男のところに行く。

「集められるか?」
「見せてくれな。お前さんのなめ帳を」。
すると、粂三は大物がいると言う。
「寄せ場を抜け出した不知火の勇五郎。この俺が面倒を見てるんだ。頭は誰だい?言えなきゃ断るぜ」。

「雲霧」。
「嘘をつきやがれ。雲霧がスケをほしがるわけがねえ!」
「わけがあってな。雲霧の配下の熊五郎が一人でやろうっていうんだ」。

「熊五郎?もしかしたらそいつは、古着屋をやってる?」
「粂さん、おめえ、どうしてそんなこと知ってるんだ」。
「蛇の道は蛇よ」。
そう言うと、粂三は笑った。

お千代の脳裏には、優しかった勇五郎の思い出が蘇っていた。
そこへ、おもんと六之助が来た。
北町奉行所に忍び込んで、勇五郎のお調べ書きを持って来たと言う。

だが、奉行所に忍び込んだことが仁左衛門にわかってしまった。
2人は叱られて禁足となってしまった。
お千代は仁左衛門に2人を叱らず、自分がお仕置きを受けると言うが、仁左衛門は黙っていた。

その頃、粂三が火盗に、雲霧が引っかかったと知らせに来た。
勇五郎に扮した式部は、熊五郎に引き合わされた。
雲霧に会わせててくれるなら、百両で一緒にやると勇五郎は持ちかけた。
「そいつは…」。

そう言って帰って行く勇五郎の後を、熊五郎は尾行して行く。
勇五郎は一軒の女郎屋に入って行った。
そこで馴染みらしき女郎が勇五郎を見て、うれしそうな顔をした。

女郎はお京だった。
「つけられている」。
抱き合う2人を見た熊五郎は帰って行く。

熊五郎が治平とおもん、お千代に報告をしていた。
なめ役の話には、罠が多い。
だから熊五郎は仕組みを離れて、1人働きをする振りをして連中と付き合っていたのだ。

熊五郎は勇五郎が仁左衛門と会わせてくれるなら、やると言っていると話す。
会えなければ、自分の立場がなくなる。
だから治平に、仁左衛門に話をしてくれと熊五郎は言う。

すると仁左衛門がやってきていた。
仁左衛門は、勇五郎に会ってみようと言った。
ただし、1人で来ること。

「へえい!」と熊五郎は返事をする。
「お千代。お前も会ってみるか」。
「お頭!」
時は暮れ六つ。

駕籠に乗って、仁左衛門がやってくる。
その前には、勇五郎がいる。
床下には熊五郎を初めとする、配下が数人潜む。

挨拶をして勇五郎が近づこうとすると、「動くな!」と仁左衛門の鋭い声がする。
勇五郎はなぜ、盗賊の道に入ったのか。
すると勇五郎は、自分の家は明神下だったが火元となったと言う。

火事で両親はなくなった。
自分はお救い小屋で働いたと言う。
聞いていたお千代が、ハッとする。

その後、1人働きで義賊のようなことをしていたが、なぜ、雲霧に入ろうと思ったのか。
年のせいだと勇五郎は言って、組むか組まないか迫った。
お千代は仁左衛門に鈴を渡す。

仁左衛門は駕籠の戸を開けると、鈴を勇五郎に投げた。
勇五郎が鈴を見て、床に転がす。
仁左衛門がじっと見ている。
表から僧侶たちの読経の声が近づいてくる。

僧侶は火盗だった。
仁左衛門が刀を手に駕籠から降りて、近づこうとすると、勇五郎は戸を閉めた。
戸を開けた時には、勇五郎はいなかった。
「安部式部!」

外に出た仁左衛門の前に、墓の卒塔婆を背に、勇五郎、いや、式部が立っていた。
「仁左衛門、神妙にせい!」
僧侶に扮した火盗たちが、飛び出してくる。
仁左衛門が逃げる。

火盗が追う。
すると、目の前の枯れ葉が突如、舞い上がる。
火盗たちが目を覆う。

枯れ葉の中から、黒装束の熊五郎が立ち上がる。
火盗の背後には、吉五郎がいて、目潰しをまく。
さらに六之助と熊五郎は、目潰しをまく。

お千代は辺りをうかがいながら、床に転がった鈴を手に取った。
「貴様ぁ!」
高瀬を引っぱたいて逃げようとしたお千代だが、捕えられてしまった。

仁左衛門を前に、横に吉五郎が控えている。
背後にはおもんと、治平がいる。
「姐さん、捕まった…。俺のせいなんです、お頭」と熊五郎が膝づく。
「お千代を助け出す手立てはない」。

仁左衛門は立ち上がった。
「吉五郎」。
すると吉五郎は、熊五郎が見た岡場所を聞く。
仁左衛門が「岡場所?」と聞く。

粂造が、お京を連れ出している時、熊五郎がやってきた。
「熊五郎さん」。
「てめえ、いつから密偵に」。
粂造が熊五郎を張り倒して、逃げようとする。

熊五郎が仁王立ちになって、後姿を見送る。
すっと姿を消すと、粂三とお京の前に笠をかぶった吉五郎が現れる。
粂三とお京が、吉五郎と逆方向に逃げる。
すると、目の前に熊五郎がいる。

お京の手を取り、吉五郎が連れて行く。
反対方向に、熊五郎が粂三を連れて行く。
周りの客が何事かと、怖ろしそうに見ている。

お千代は火盗で、叩きの責めにあっていた。
しかしお千代は、火盗の叩きにあっても口を割らない。
山田が吐かせてやると言って、激しく叩く。
そこに式部がやってきた。

式部はいくら責めてもはかないだろう、むしろ自害されないよう、気をつけろと言う。
お千代の前に、式部は鈴を出した。
「この土鈴は、勇五郎との思い出の品。返してやろう」。
そして仁左衛門はどこの侍かと聞いた。

お千代は答えない。
「盗賊の世界が、それほど居心地の良いものか」。
その時、手紙を持って政蔵が来る。

手紙には、密偵2名を捕えられた者と引き換えるとあった。
取り引きには、式部一人で来ること。
この申し出に、火盗たちは憤慨する。
盗賊風情が、4千石の頭首に「出向け」など無礼な。

密偵との交換など、話にならない。
だが、式部はそんな意見を一蹴した。
反対する高瀬だが、密偵を見殺しにすれば密偵たちの信頼は失ってしまう。
今後の仕事ができなくなる、と言って黙らせた。

「決して、雲霧に屈したのではない!」
そしてお千代に「お千代、運の良い女よ」と言う。
山田も危険だと言うが、「わしが盗賊風情に斬られるとでも言うのか!」と怒った。

約束の場所に向かう時、仁左衛門を先頭に、吉五郎に捕えられて歩くお京が、自嘲気味に笑う。
「ふふふ、あはは」。
「何を笑う」。

「おかしいからさ。あたしみたいなゴミの為に、お殿様が来られるわけがないと思ってさ」。
しかし、仁左衛門は断言する。
「来る!」

火盗の捕り方が潜む中、仁左衛門はやってきた。
吉五郎が辺りに目を配る。
やがて、笠を目深にかぶった仁左衛門が、お京と粂三を連れてやってきた。

「安部式部!」
「いかにも!安部式部じゃ!」
「その女と引き換えに、この者を引き渡す!」
「あいわかった。高瀬!」

吉五郎が2人を連れて近づく。
高瀬がお千代を連れて行く。
同時に吉五郎と高瀬の手が離れ、お千代が仁左衛門の方へ、お京と粂三が火盗の方へ走る。

途端に仁左衛門と式部が走ってきて、刀をぶつけ合う。
式部の刀を仁左衛門が受け、互いに構えあう。
仁左衛門が刀を振るう。

捕り方が密かに迫ってくる。
吉五郎が懐に手をやり、爆薬を手にする。
仁左衛門が構え、式部にと走る。

式部が受け、互いにはじけあうように離れる。
「撃て!」
その声で、捕り方が一斉に発砲する。
吉五郎が爆薬を投げ、あたり一面、見えなくなる。

雲霧たちは消えた。
川を仁左衛門と、お千代を乗せた船が下っていく。
「私は…、死ぬつもりでおりました。七つの時に生まれ変わったことを忘れてしまった、罰でございました」。
お千代はそう言うと、鈴を川に流し、仁左衛門に寄り添った。


びっくりしましたよ~。
熊五郎が「頭になってやってみたい」と思いつめた表情で言うところ。
えっ、熊五郎が雲霧に内緒で?!

それはダメだと、熊五郎は何度も見て来たのでは?とか。
お頭に心酔しているんじゃなかったの?とか。
罠を警戒してのことだとわかって、さすがと思いました。

しかし、勇五郎が式部とは思わなかった。
さらに粂造という裏切り者がいた。
巧妙に仕組まれた罠。

だが、仁左衛門はすんでのところで、勇五郎が偽物と見抜いた。
それはお千代の鈴に対する勇五郎の態度。
だから刀を手に、殺気を身にまとって、降りてきた。

お頭を逃す時、走ってくる捕り方に向かって州走りの熊五郎が現れる。
まるで「新・仕置人」で、裏切り者の前に突如として死神が現れるシーンのようでした。
地面と思われた場所から、一陣の風とともに枯葉が舞う。

立ち上がる熊五郎。
まさに、得体の知れない敵の登場。
頭の中で、BGMが「新・仕置人」の寅の会で流れる音楽になってしまった!

安部式部の中村敦夫さんが、勇五郎に変装。
いかにも泥棒といった、まあるいヒゲをはやして。
中村さん、あれ、絶対楽しんでやってると思う。

仁左衛門は逃げられたが、お千代がついに捕えられてしまった。
火盗の過酷な叩きが、お千代に襲い掛かる。
だが、式部は言う。
叩いても無駄だろう、と。

勇五郎の仕事を持って来たのは、熊五郎だった。
だから、自分のせいだと言う。
でも、お千代が捕えられたのは、逃亡に徹しないで、勇五郎との思い出の鈴を取りに行ったせいでもある。
さらにお千代の勇五郎の話がなければ、仁左衛門は自ら会いに出向くことはなかったかもしれない。

仁左衛門は、だから熊五郎を責めない。
あそこまでやる熊五郎を、責めることはできない。
ここで熊五郎を責めないのが、お頭の器。
だいたい、盗賊はこうした修羅場をいくつもくぐるもの。

お千代を助ける手立てはないと言いつつ、仁左衛門は諦めてはいないはず。
たぶん、お千代は口を割らない。
火盗は、お千代を責め殺すこともしないだろう。
なぜなら、式部の最終目標は仁左衛門のはず。

まだ、チャンスはある。
最終的にはお千代が刑場に行くまで、まだチャンスはある。
お千代は自分の甘い情でお頭を危ない目に遇わせた自分は、もう、死に値すると思っているよう。
私はお頭にだけ、気を許していればよかった…。

叩きにも耐えているというより、当然の罰を受けているように見える。
自分の情を利用した式部の顔を、じっと見る。
その表情は無表情に近い。

だが式部の「盗賊が居心地良いか」には、反応する。
居心地が良いのではない。
そこしか、居場所がなかったのだ。
お前たちには、わかるまい。

式部を見るお千代の目が、そう言っている。
その目は無表情だが、諦めに怒りと軽蔑が感じられる。
でも万が一、お千代が仁左衛門ではなく、式部に救われていたら…、今のお京のように働いてみせたに違いない。

お京の増田恵子さんは、元・ピンクレディー。
「雲霧仁左衛門」にミスキャストはないと思いましたが、このお京はピッタリ。
盗賊側からすると、裏切り者で、良く動く忌々しい女だが、裏を返せば彼女は懸命に尽くす密偵。

式部はかつて、六之助の為に式部は屋敷に勤めていた娘を失っている。
あの痛みが、式部には残っているはず。
だから、同じことをするわけがない。

自分の為に働いた者を、見捨てるはずがない。
第一、そんなことをしたら、密偵はもう動かない。
だが、仁左衛門はそういった計算ではなく、式部の人間性を信じていたと思う。

これほどまでに式部の為に働いた、お京を見捨てるわけがない。
お京の忠義には、式部への秘めた思いがある。
仁左衛門はそれを見抜き、式部も知っていると思っていたように見える。
自分が気づくものに気づかず、また、知っていてお京を見捨てる男ではないだろうと仁左衛門は確信していたのではないか。

それは自分の為に男を騙して情報を得る、お千代の姿に重なる。
死を覚悟しているお千代とお京、2人の女性。
ともにその女たちを見捨てられる、そんなお頭ではない。
そんなことで、勤まるお頭でもない。

仁左衛門と式部は、同じ方向を目指していれば、誰よりも互いを理解しあったかもしれない。
2人の直接対決である斬り合いは、互角。
仁左衛門も式部も、ともに追い込まれた感じはしない。

そして、今度のことで改めてお千代はもう一生、仁左衛門以外の為に生きることはないと誓った。
式部に汚された形になった鈴も、川に流す。
前回の仁左衛門とお千代のやり取りを知っていれば、この回は深くなるはず。
雲霧と火盗のどちらも人の弱いところ、人間らしい情の残る部分を探し、責めて来る。

だからこそ、信じるのは、信じられるのは目の前の仲間だけなのだ。
自分たちには、それしかないのだ。
雲霧一党の深い絆。
まるでそれは家族。

今回は雲霧一党が危機一髪でしたが、次回は雲霧によって火盗が歯軋りする、痛快な展開を見せます。
そして、死角はないと思われた吉五郎にも、柔らかい部分はあるのだということも見せます。
吉五郎が今まで、完璧な小頭であればあるほど、次回はこれがまた、感慨深くなります。


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2012.09.13 / Top↑
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