第11話、「おかね富の市」。


ある冬の夜、十手を預かっている政蔵は、盗賊がお店から出てくるところに遭遇した。
盗賊は、鳩栗の大五郎の手下の甚助という男だった。
甚助はしがみつく店の者を刺し殺し、逃走した。

結局、政蔵は取り逃がしてしまい、甚助は盗賊仲間・大五郎の元に戻る。
もどった甚助に、たった300両の稼ぎかと大五郎は怒り、今度は大仕事を持ってくるように言い渡す。
甚助は既に、次の狙いを決めていた。
日本橋の油問屋、井筒屋だ。

油問屋の井筒屋は、裏では悪徳高利貸しだった。
そこは、仁左衛門も目をつけていた。
井筒屋に半年前から出入りしはじめたのは、雲霧一党の按摩を装った富の市だが、いまだに成果は出ていなかった。

富の市がやってきた井筒屋には、青物を売りに来る女・おかねも出入りしていて、おかねは富の市に常々親切にしていた。
冷やかされた富の市はうれしそうだったが、店先での冷やかしの騒ぎを聞いた主人が怒って、おかねも追い出されてしまった。
その日、家に戻った富の市は、おかねに恋焦がれていた。
最初は井筒屋に出入りするおかねから、何か聞きだせるかと思って近づいたのだが、本気で惚れてしまった。

富の市はそうつぶやくと、いつの間にか眠ってしまった。
するとおかねが昼間、主人に怒られてしまった詫びを言いにやってきた。
みやげに青物を持って来たおかねは、食事の用意をし始めた。
その時、おかねがうっかり、鉄瓶を持ち、熱さに思わず手を離した。

おかねが火傷をしなかったかと、あわてた富の市が駆け寄った為、富の市の目が見えることがわかってしまった。
だが富の市はおかねに思いのたけをぶつけ、女房になってくれと懇願した。
それを熊五郎が、外から見ていた。

熊五郎からの報告を受けた仁左衛門は、富の市はおそらく、おかねから何か聞きだそうとしているうち、本気になってしまったのだろう。
富の市は女に惚れると一心になってしまうので、井筒屋への潜入をしくじらないよう、注意が必要だと言う。
だが実はおかねは、盗賊・夜兎の文蔵の配下だったのだ。

おかねは富の市がひっかかったことを文蔵に報告し、文蔵はマヌケな奴だと笑った。
文蔵の肩をもみながらおかねは、きっと成果を上げてみせると言っていた。
それを聞いていた配下の助三も、喜んだ。
おかねの目的は富の市の持つ、井筒屋の情報だった。

富の市が按摩をしながら聞きだしたところ、井筒屋の主人・清右衛門は盗賊に入られても自分の金蔵は破れないと豪語していた。
扉は3重、鍵はなし。
全部からくりとなっており、それは井筒屋本人にしか開けられないと言うのだ。
家に戻った富の市は、井筒屋の絵図を描き始める。

その時、熊五郎がやってきた。
絵図はまだだと言う富の市に、熊五郎はそれは急かしてはいないが、おかねについて聞きたいと言った。
その時、気配に熊五郎が荷物のところに戻る。
おかねが戸を開けた。

忘れ物をしたと言って、おかねはまた出て行く。
熊五郎はおかねが、下駄の音をさせないことに気づく。
そっともどってきて、自分たちの話を聞くつもりだったのだろう。

おかねは盗賊改めの密偵か、それとも…、別の仕組みの者。
だが熊五郎の言葉を聞いた富の市は、激怒してしまった。
富の市は熊五郎につかみかかり、もしおかねがそんなだったら、首を切って持っていくと言った。

その夜、富の市は、おかねの作った飯をうまいと言って、もう何もいらないと言った。
おかねの顔をじっと見て、いつも目をつぶっているので、おかねの顔をまぶたに焼き付けたいと言う富の市に、おかねは笑った。
酒がなくなったので、おかねは買いに出る。

その頃、火盗は甚助の消えた古道具屋に目をつけ、見張っていた。
火盗は古道具屋について、聞き込みをする。
おかねが酒を買いに行った先に、助三が現れ、絵図を急かした。

家に戻ったおかねは、酔いつぶれた富の市が持っている絵図を見た。
そっと手を伸ばして、絵図を取り、広げる。
紙を上に乗せ、絵図を写し始める。
その絵図を持って、助三に渡す。

おおよその見当はつくが、このままでは急ぎ働きになると、おかねは伝えた。
文蔵は血を流すのが、大嫌いだ。
助三はうなづいて絵図を受け取るが、向かった先は文蔵のところではなく、甚助の潜む古道具屋だった。

出入り口と金蔵さえわかれば、どうせ、大五郎は血を見なければすまない。
そう言って、甚助は助三に「あの老いぼれ、生かしておいてはうるさい」と文蔵の始末を言い渡した。
一方、古道具屋を見張っていた火盗は助三が入ったきり、出てこないので、この男は客ではないと睨んでいた。

やってきた熊五郎と富の市が井筒屋について話をしている時、熊五郎が気配に気づいて戸を開ける。
すると、おかねが立っていた。
鼻緒が切れたので、もどってきたとおかねは言う。

「そうですかい、じゃあ、あっしが直しましょう」。
熊五郎が愛想よく言って、鼻緒を挿げ替え始める。
だが、鼻緒はスッパリ切れていた。

「女を消せ」。
帰り際、熊五郎は富の市にそう言った。
遠雷が鳴る中、富の市が家に入ってくる。

熊五郎からの報告を受けた仁左衛門に、お千代はお頭の勘が当たったと言う。
仁左衛門は熊五郎はもう、富の市に近づかないように言い、代わりに六之助を見張りに立てる。
万一の時は、仁左エ門とお千代で食い止める。
するとお千代は仁左衛門に、おかねという女を自分に見させてくれと頼む。

暗闇の迫る中、富の市とおかねは背中を向けて座っていた。
お千代が雨の中、富の市の家にやってくる。
富の市の腹が鳴る。

すぐご飯にすると言って立ち上がったおかねに富の市は「逃げようったってダメだ。俺が盗賊だから近づいたのか!?」と叫ぶ。
「お前は一体、何者なんだ。何が目的で俺に近づいたんだ!」
「一生ついていきます、ってあれは全部、嘘だったのか。おかね!」

涙ながらに富の市はおかねの首を絞めたが、殺すことは出来なかった。
おかねが咳き込む。
富の市は背を向け、「とっとと出てけ」と言う。
おかねは、フラフラと外に出る。

外は雨が降っていて、おかねが出て来て、お千代は隠れる。
おかねの後は、六之助がつけていた。
夜明け、古道具屋から助三が出てくる。
火盗はずっと、古道具屋を見張っている。

茫然自失で、おかねは文蔵の元へもどった。
おかねの様子がおかしいことに、文蔵は気がついた。
「おかしら…、あたし、どうしたらいいのか。どっちにしても井筒屋はもうダメ。せっかく図面まで手に入れたのに」。
おかねの声は震え、涙声になった。

すると文蔵が「何だと。井筒屋の図面が手に入ったのか」と驚く。
おかねはこの前、助三に渡していたので「とっくに届けさせたろう」と言う。
「そんなもの、受け取っちゃいねえぞ」。
「何だって」。

そこに助三が現れた。
「助三、おまえ」。
「姐さん、来ておいでだったの」。
助三が「図面は鳩栗の大五郎のところにある」と言うと、文蔵は「あんな男に体を売ったのか」と怒る。

「消えてもらわなくちゃならねえ!」
そう言うと、助三は文蔵を刺す。
「お頭!」
助三は、おかねも殺そうとする。

半死半生ながら文蔵は助三の足にしがみつき、おかねを逃そうとする。
悲鳴をあげようとしたおかねの口を、背後から六之助が抑える。
おかねは、六之助が連れて行く。

高瀬が文蔵の家に、飛び込んでくる。
政蔵に逃げる助三を追うように声をかけると、高瀬は再び家の中に飛び込む。
「鳩栗の、大五郎」と高瀬に言うと、文蔵は息絶える。

仁左衛門とお千代、富の市がいる野原におかねは連れてこられた。
おかねは七つの時から、文蔵に育ててもらったと話す。
その恩返しをするには、文蔵の為に働く以外、何も知らなかった。
自分はただ、文蔵に最後のお盗めをさせてやりたかっただけだ。

雲霧の仕組みに近づいたのは、悪かった。
仁左衛門は刀を抜きながら、何か言い残すことはないかと聞く。
それは富の市に、だ。

おかねは涙ながらに、座っている富の市に「富の市さん!」と叫ぶ。
「あたしはおまえさんと一緒に暮らしていて、楽しかったよ。時々は盗めの為だってこと、忘れたこともあった」。
「…俺もだ」。
「おまえさんに惚れたのだけは、本当だった」。

「嘘だあーっ!」
「死んでいくのに、なんだって嘘なんかつくのさ!」
「お頭、あっしも一緒に殺しておくんなせえ!おかね!おかね!」
「お前さん!」

抱き合う2人に、刀を抜いた仁左衛門が近づく。
仁左衛門の刀が光る。
おかねが、目を閉じる。
仁左衛門の刀が閃いた。

何も起こらない。
おかねが目を開ける。
「お頭」と富の市が言う。

2人が頭を下げる
「おかね、さあ、やり直すんだ。どこへでも、好きなところへ行くがいい」。
だが、おかねは動かない。

「あたしの居場所はもう、富の市さんのそばしかありません」。
「お千代の目は、確かだったようだな」。
仁左衛門が、近くにいるお千代を見る。

富の市は、おかねとしっかりと抱き合う。
「わしの仕組みに入るつもりか」。
「あの、おかねは」と富の市が心配する。
「夜兎の文蔵の供養をせねばな」と仁左衛門は、言った。

「助三…」。
「居場所がわかるか」。
確か、助三には、あひる河岸に馴染みの女がいたはずだ。
富の市は、助三は自分がやると言った。

その頃、火盗も動き出していた。
井筒屋のからくりが判明し、仁左衛門はお盗めは今夜と決めた。
大五郎の方は放置しておく。
火盗もそれほど、バカではあるまい。

あひる河岸にやってきた助三の耳に、按摩の笛が鳴り響いた。
富の市が暗闇に、立っていた。
その背後から匕首を持ったおかねが「助三!」と叫んで、突進してくる。
おかねの匕首を押さえた助三に、追ってきた富の市が杖を向ける。

「簡単にやられて、たまるか!」
身を翻して逃げる助三だが、熊五郎がやってくる。
助三の匕首を止めると、投げ飛ばす。

熊五郎が倒れた助三から匕首を叩き落すと、富の市が刺す。
「おかね!」
その声で、走ってきたおかねが助三を刺す。
匕首を胸に刺したまま、助三が後ずさりし、川の中に落ちて、口をパクパクさせて浮いた。

大五郎一党がお盗めを前に、集まって来た。
「邪魔する奴は1人残らず、叩き切る。女子供も手加減しねえ」。
そう大五郎が言った時、火盗改めが踏み込む。
「火付け盗賊改め方である!神妙にいたせ!」

「だれだ?つけられたのは?お前か?」
そう言うと大五郎は、手下を刺し殺した。
火盗と大五郎一味は、乱闘になる。

その頃、井筒屋の表には雲霧一党が現れていた。
井筒屋の廊下に、油がまかれていく。
一方、大五郎一味と火盗は戦っていた。

井筒屋の蔵が破られ、金が持ち出される。
同じ頃、火盗相手に暴れていた大五郎が喉元を、山田籐兵衛に斬られた。
だが、さらに刀を振りあげたので、取り囲んでいた火盗に刺される。

その頃、井筒屋は、仁左衛門たちが油で千両箱を滑らせた音に目を覚ます。
廊下に出ようとして、井筒屋は転んだ。
油がまかれているのだ。
立ち上がろうとしても、無様に転ぶしかない。

それを見た仁左衛門が、影で思わず、吹き出している。
ツルツルと転びながら、井筒屋は蔵に向かう。
蔵が破られている。
「ど、泥棒!」と井筒屋が叫ぶ。

翌日、仁左衛門が、2羽のつがいの文鳥の入った鳥かごを手に、富の市が暮らす長屋に向かう。
冨の市とおかねは楽しそうに、幸せそうに暮らしていた。
それを表から見た仁左衛門は、声をかけずに鳥かごだけ置いて去った。

火盗改めの大五郎一味への手入れの話は、江戸中に響き渡った。
集団を組んでいる盗賊も、1人で働いている盗賊も、みな、火盗の怖ろしさに震え上がった。
その結果、井筒屋から消えた2千両の話は、ほとんど話にならなかった。



今度は富の市の回。
六平直政さんが、いじらしい。
「俺が盗賊だから近づいたのか!」の叫びが哀しい。
おかねは、深浦可奈子さん。

文蔵は、何と、須賀不二男さん!
どちらかというと、凶賊の役が多かったような俳優さんですが、年老いた正統派の盗賊を実に見事に演じてくれています。
おかねを必死に逃そうとする文蔵の姿に、涙が出ます。

文蔵はおかねを、娘のようにかわいがったし、おかねも父親と思っていたんでしょう。
描写は少ないですが、この2人の年月と関係が伺えます。
血の繋がりはないけど、親子だったんですね。
こういうのを感じさせてくれるのが、良い俳優さんと女優さんのお仕事でしょう。

文蔵への情と、盗賊の掟と、富の市の一途さに悩むおかね。
この方、良い女優さんでしたね。
今いらっしゃったら、もっともっと役の幅を広げて活躍なさっていたと思います。
惜しい女優さんでした。

それを探るのは、熊五郎。
富の市とおかねが抱き合うのを、表からそっと盗み見る。
熊五郎の足元に子供がいて、ギャーギャー騒ぐ。

子供が騒ぐので、熊五郎は抱き上げて、口をふさいで、のぞき続ける。
ここがおかしかった。
はたから見たら、熊五郎はのぞきです。

しかし、おかねの足音がしないのに気づくとは、やはり熊五郎は只者ではない。
そっともどってきて戸の影にいるおかねに気づくと、おかねは「下駄の鼻緒が切れてしまって」と言い訳をする。
一転、笑顔で「あっしが」と言って、下駄の鼻緒を挿げ替えてやる熊五郎。

だが鼻緒の切り口はスッパリ切れていて、消耗した揚句に切れたとは思えない。
こちらが気づくことに、熊五郎が気づかないわけはない。
挿げ替えた鼻緒と、揃えた下駄にジワジワと怖さが偲び寄ってくる。
非情に「消せ」と言う熊五郎。

一緒に殺してくれと言う時の六平さんが、涙と鼻水で顔がグチョグチョなんですが、これが必死さを際立てる。
昔、漢文で習いました、涙と鼻水が一緒に出るのが、本当に泣くということだって。
昨今、これをやって必死さを出そうとする俳優さんもいますが、六平さんはもう、必死でなりふり構わなくてというのがピッタリ。
安易じゃない。

富の市の恋心を察してやるのは、お千代。
女性ならではの目で、おかねを見極めたいと言ってくれる。
そのお千代の目に、狂いはなかったと言う仁左衛門。

吉五郎に続き、お千代の人を見る目は間違っていなかった。
この辺りが、やっぱり人の上に立つお頭と、お頭の側にいたお千代ならでは。
いつも何かをかぎつけてくる熊五郎の勘の良さと、この見極めが雲霧一党にとって大事。
そして、刀で空を切り、生まれ変わったと言ってくれるお頭。

こうして、おかねは雲霧の仲間入り。
怖かった熊五郎だけど、見事にサポートしてくれる。
味方にすれば、これほど頼もしい男もないな。
腕は立つし。

感情を露わにする富の市と対照的に、非情な熊五郎。
お千代、吉五郎、富の市と来て、熊五郎には心動かされる過去はないのか。
でもいつも感情を表すことのない州走りだから、最終回での表情が効いてくる。

大五郎の「だぁれだぁあ~?」が切れ気味で、不気味。
金子研三さんです。
助三も妙にオカマっぽいと思ったら、残虐。
入鹿尊さん。

甚助は、塩見三省さん。
こちらも腹に何か秘めてそうな陰険さが上手いです。
火盗が見張る向かいの店の主人も、ちょっと抜けた感じがおもしろい。

表向きに油を扱う悪徳高利貸し・井筒屋が、油の中で滑るのが雲霧流の制裁。
それを見て、吹き出している仁左衛門がお茶目。
迫力ある顔との落差で、一層、仁左衛門が魅力的に映る。
富の市に家に向かう時、水溜りに足を取られて、立ち止まる様が井筒屋を思い出す。

カッコイイ男たち、その情、それに救われる人たち。
こういうのが見られるのが、時代劇の良さ。
とっても良い作品が残っていて、須賀さんも、深浦さんも、その中で見ることが出来て良かったと思います。


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2012.09.15 / Top↑
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