「星の流れに」

作詞:清水みのる
作曲:利根一郎

星の流れに身を占って どこをねぐらの今日の宿
すさむ心でいるのじゃないが 泣けて涙も枯れはてた
こんな女に誰がした

煙草ふかして口笛ふいて あてもない夜のさすらいに
人は見返る我が身は細る 町の灯影のわびしさよ
こんな女に誰がした

飢えて今頃妹はどこに 一目逢いたいお母さん
ルージュ哀しや唇かめば 闇の夜風も泣いて吹く
こんな女に誰がした


「星の流れに」という哀しい曲で始まる、「黒猫亭事件」。
BSフジで放送されていた「横溝正史シリーズ」も、この「黒猫亭事件」で終わりのようです。
また放送してほしい。


昭和22年の東京。
ある夜、見回りの巡査はバー「黒猫亭」の裏庭で、土を掘り返している男を見た。
男は黒猫亭の敷地の持ち主である隣の寺・蓮華院の若い僧侶・日兆であった。
蓮華院では昨年、和尚が栄養失調で亡くなり、今は日兆しかいない。

その日兆が掘り返したところを見ると、人の足が出ていた。
巡査も日兆もおののき、すぐに警察が呼ばれる。
遺体は30歳前後の女性とわかったが、顔も肉体的な特長がわかる部分も切られて、身元がわからなくなっていた。
黒猫亭の経営者の糸島大伍と妻のお繁は、黒猫亭を売って今は神戸に引っ越してしまっていた。

お繁には、土建業でどんどん事業を拡張している風間組の風間俊六という愛人がいた。
一方、糸島にもダンサーの鮎子という愛人がおり、夫婦は冷え切っているということだった。
風間は事務所を追い出され、行き場に困っていた中学の後輩・金田一耕助を呼んだ。

だが、やってきた金田一に風間は1日遅かったと言う。
新聞には、遺体はお繁として出ていた。
お繁は風間に、自分は殺されると訴えていた。
自分が殺されるか、鮎子を殺すか、もう、どちらかしかないと。

だが引っ越すに2週間前、事件が起きたと思われる日から、黒猫亭の女給もお手伝いも、お繁を見ていなかった。
化粧品にかぶれたということで、部屋にこもっていたというのだ。
当初は犬が掘り返したところから足が出ていたので、掘り返していたと言っていた日兆だが、問い詰めると証言を翻した。

実は日兆はお繁に惚れており、常日頃から黒猫亭につらなるお繁の住居を覗き込んでいた。
しかし2週間前、お繁が人前に姿を見せなくなってから日兆がのぞいたところ、別の女がお繁の着物を着て廊下に出て来たと言うのだ。
遺体はお繁とされたが、金田一耕助は遺体の顔がないことにひっかかっていた。

糸島は大陸に渡り、そこで同じく日本から来ていたお繁と夫婦になった。
戦争が終わって、お繁とは別々の引き上げ船で引き上げてきた。
その船の中で糸島は、小野千代子という女性をひっかけていた。

風間のところで働く男が、糸島と同じ船に乗っていて、一部始終を見ていた。
東京に着くと糸島はその千代子を、赤線に売り飛ばしてしまったのだと見ていた男は言う。
男は糸島を「嫌な男だ」とはき捨てるように言った。

さらに遺体の側には、黒猫の死体が埋められていた。
黒猫は、黒猫亭の名前の由来になった、猫のクロだと言う。
しかし、その途端、背後で猫の泣き声がする。
黒猫がいた。

この猫は埋められていた猫の兄弟猫で、糸島が猫が死んでしまったからと兄弟猫を貰って行ったのだという。
犯行の行われた座敷には血の跡が残っていたが、そこから猫の血も発見される。
猫は、2匹いた…。
金田一耕助はそこにこだわる。


以下、ネタバレです。


顔がないということは、探偵小説においては被害者と加害者が入れ替わっていることが多いと言う金田一耕助。
しかし、この場合はお繁が犯人なのか、鮎子が犯人なのか。
ところが金田一耕助は、鮎子という女性が実在したのかに疑問を持つ。

お繁は和服を着こなし、日本髪の和風美人。
一方、鮎子はまるで外人のような容貌に、ドレスを着ている洋風美人。
この2人を金田一耕助は、同一人物だと見抜く。

金田一耕助は戦争前、お繁が18歳の時に起こした、姑毒殺未遂事件の新聞記事を手に入れる。
そこには18歳のお繁の写真が、あった。
金田一耕助は写真を手にダンスホールに行くと、支配人も同僚のダンサーも「鮎子さんでしょう」「若い頃から美人ねえ」と言う。
一方、黒猫亭を知る巡査に見せると、「これはお繁の若い頃だ」と言った。

本当はどこにもいないはずの鮎子が殺されていなくなったところで、誰も困らない。
またはお繁が殺されて鮎子が指名手配になったところで、元々いない女は捕まらない。
埋まっていた遺体は、千代子だろう。

お繁は千代子を言葉巧みに赤線から連れ出すと、殺してしまう。
そしてその日から、人前に姿を現さなかった。
千代子を殺したことを隠すために猫を殺し、血の跡を猫の血だといってごまかした。

お繁は、18歳の時の事件をねたに、大陸で自分につきまとう糸島が嫌でたまらなかった。
引き上げる時、糸島と手が切れると思ったのに、糸島はなおもお繁につきまとってきた。
すでにお繁には風間と言う、たった1人、おそらく生涯でただ1人、本気で愛した男がいた。
糸島への感情は、冷え切ったどころか、耐えられない嫌悪感にまで高まっていた。

そこでお繁は、自分に惚れている日兆を利用した。
日兆はお繁に誘惑され、夢中になり、やがて言われるまま、引越しの挨拶をしに行った糸島を殺した。
しかし寺を張り込んだ警察の目をかいくぐり、日兆は自殺してしまった。

自殺の理由は警察の手が迫ったことを察したというより、お繁の本意に気づいたからだろうと金田一耕助は言った。
日兆など、お繁にとってはもう用のない男だったから…。
そして金田一耕助は、寺の墓標がひとつ、落ち葉を敷いて立っていることに目を留めた。

落ち葉は、墓の上に積もるものだ。
つまり、これをどかしたことがあるということになる。
金田一の言う通り、墓標の下から糸島の遺体が出る。

寺を探っていると、そういえば、と張り込みの刑事が、夜、黒猫にミルクをやっている手を見たと言う。
てっきり、日兆と思っていたのだが、もしやお繁がまだ、寺の敷地内にいるのでは?
金田一が落とし穴のようにはまったことから、防空壕が発見され、金田一耕助も日和警部を先頭にした警察もそれをたどっていく。

すると、一軒の荒れた小屋にたどり着く。
2階に上っていく金田一の前に、「やっと来たね」と言って、ドレスを着てピストルを構えたお繁が立っていた。
「1人じゃ寂しいからね。あんたも一緒にいってもらうよ」と言うと、お繁は金田一にピストルの狙いを定める。

その時、「お繁!やめろ!」と風間が飛んで来る。
風間の姿を見たお繁は、力なくピストルを下げる。
お繁は逮捕された。

「戦争さえなければ、お繁は大陸には行かなかっただろうし、糸島には会わないですんだかもしれない」。
風間はそう言った。
「女はわからない。怖ろしい」と言う風間に金田一耕助は、お繁が風間だけは本気で愛していたのだと言う。
そしてその為に、糸島を殺す決意をしたのだろうと。

だが、風間にとってお繁は取替えのきかない女性ではなかった。
遊びと言っても良かったかもしれない。
風間は確かにお繁に優しかったが、その優しさがお繁を追い詰めたとも言えるのだと金田一耕助は言った。

お繁は冷たい鉄格子の中で、星の流れに…という、哀しい女性の運命を歌った曲を口ずさんでいた。
雨の激しい日、お繁は移送されていく。
ふとお繁が顔を上げた先に、風間がたたずむ。

お繁が、ハッとする。
風間がお繁を見つめる。
だが、お繁は警察官に促され、護送車に乗り込んでいった。
風間はお繁の去った後を見つめていたが、傘をさして雨の中、戻って行った。

事件のあった黒猫亭に、金田一耕助が旅支度をして来ていた。
黒猫をなで、抱き上げる。
そして、金田一耕助も去っていった。
後には黒猫だけが、事件のあった家の縁側に悠々と座り込んでいた。



黒猫亭事件は、私が読んだ本では、「本陣殺人事件」の後に収録されていた短編でした。
だからドラマでも、全部で2回。
2時間サスペンスにすると、ちょうど良いぐらいの長さかな?

マダム目当てに通う客が多い黒猫亭の、色っぽい和風美人のマダム・お繁。
太地喜和子のお繁=鮎子が適役過ぎる。
今これだけ妖艶な和風美女は、なかなかお目にかかれません。
着物が似合う和風美女はいるにはいますが、背徳的、悪徳の香りがちょっと足らない。

だけどこれが、バタ臭い鮎子も似合うんだな~。
アメリカ兵の腕にぶら下がって歩く、派手な服装と化粧の女性たち。
♪ほぉしのー、流れにー、身をうらなあって~♪のメロディが流れる。

これは、戦争が終わって町中に溢れた敗戦の民の悲しさを見た、清水みのる氏作詞の、「星の流れに」という曲。
敗戦で身を売るしか、生きて、いや、生きるどころかその日を食べていく方法がなくなった女性の、転落を歌った哀しい恨みの歌。
清水氏は、ある投書からこの曲を作ったそうです。

当初はブギだったこの曲は、軽く歌える歌ではないと、このメロディーに落ち着いた。
歌ったのは、菊池章子さん。
最初にこの曲を持ってこられたある有名歌手は、嫌な歌だと思った。
しかし、これは絶対ヒットするとも思った。

だから歌ったら、一生歌い続けなきゃならないだろうと思った。
それで、断った。
結果、菊池さんが歌ったわけですが、やっぱりヒットした。
元の題名は「こんな女に誰がした」だったそうです。

GHQから「反米感情をあおる」というクレームが来て、変更したとか。
宣伝、NHKでの放送自粛を乗り越え、菊池さんの歌声に、この歌詞に人々は涙した。
清水氏は投書の女性を心配して、「少しでも、印税を差し上げたい」とマスコミにも協力してもらい、何度もこの女性を探したそうです。
しかし女性は名乗り出ることもなく、どこの誰かもいまだにわかっていないようです。

どこで読んで、誰の話かは覚えてないんですが、この曲、まだ子供の、この記事の筆者が訳もわからず、ヒットして良く耳にするから覚えていて歌った。
♪こ~んな~、女に~、だぁれが~し~た~♪
そうしたら年の離れたお兄さんだったかな?が、ふと振り向いて「自分で勝手になったのよ」と怖い声で言った。
筆者はその様子を見て、2度とこの歌を歌わなかったと。

ううむ…。
いろいろと考えさせるエピソードと、そういうものがつきまとう哀しい歌「星の流れに」。
太地さんが演じることと、この曲を流すことで、お繁の身の上が詳しく描写しなくても予想がつく。
怖いけど、かわいそうな女性なんだなあ…と。

風間俊六は、近藤洋介さん。
「暗闇仕留人」の、「村雨の大吉」だ。
豪快なところ、人が良さそうなところが似ている。

女性が好きで、でも実はその優しさが1人の女性を犯罪者にするまでに追い詰めてしまったと、金田一に指摘されるまでわからない。
指摘された後は、お繁に対する哀れさに加えて、罪の意識で雨の中、護送されていくお繁をじっと見つめる。
お繁もそんな風間が好きだったんでしょう。
たぶん、2度と表には出てこないお繁と、風間の、外での最後の別れが哀しい。

風間の事務所に行った金田一が、うな丼を食べさせてもらうのに、「本物のうな丼ですか!」と言っている。
タバコまで貰って、金田一耕助、実にうれしそう。
金田一耕助の生活の苦しさと、風間さんの景気の良さ、豪快さが出てます。
和尚が栄養失調で死んでるのも、厳しい時代を感じさせます。

お繁は、金田一耕助には実に無情に道連れする宣言をしてピストルを発砲するんですが、風間さんを見た途端、大人しくなる。
ここでは金田一さんは、男性としては全然、報われない役どころ。
しかし、自分に銃を向けたお繁の気持ちを汲み取ってやるところなんかは、さすがです。

糸島は田口計さん。
ちょこっとしか、出番はありません。
日兆さんは、池田秀一さんです。

黒猫が犠牲になっているので、私としては最初は見るのをためらったんですが、実に良くできていました。
犠牲なった猫はかわいそうでしたが、象徴的に出てくる黒猫はかわいかった。
黒猫亭のインテリアも、なかなかオシャレ。

飲めないけど、レトロな雰囲気も素敵で、今あったら行きたいぐらいです。
でもこのレトロな雰囲気を、今だと「借り物」「作りました!」感なく再現するのは難しいと感じました。
とても自然に感じられる。
あの頃の空気も伝わってくる、ミステリーとしても見応えある一編です。

「犬神家の一族」とか「八つ墓村」みたいな、派手な事件じゃないんですけどね。
特に「横溝正史シリーズII」は、話題作は「I」でドラマ化してしまっているので、小品が多い印象です。
でも「黒猫亭事件」や「真珠郎」「不死蝶」なんかは、とても上手い作品になっていると思います。
派手な事件じゃないけど、その裏に犯罪に至るまでの人間の哀しさや、人生がしっかり反映されている。

猫が好きと言い、自分の中には猫の血が流れているのじゃないかしらと言っていたお繁。
なのに、クロを死なせたりしたから、いけないのじゃ。
猫のようなと言われながら、猫のようには生きられず、風間への愛情から人生を狂わせたお繁。
でも黒猫亭の跡地に残った黒猫は、新しい家主が来ても、たくましくしたたかに生きて行ったことでしょう。


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2012.10.02 / Top↑
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