幻の回と言われている「怪奇大作戦」の「狂鬼人間」。
少し前、いやだいぶ前、日本ではなく、外国関連で、これを見る機会がありました。
なるほど、見れば、この回が封印されてしまった理由はいくつか挙げられるでしょうね。

言葉の問題もあるでしょう。
放送禁止となった用語が、連発されている。
これ、消していたら話がわかんなくなっちゃう。

誤解を与える恐れもある。
現在、精神の病に苦しむ人を、ただでさえ苦しい闘病をもっとつらい思いをさせてしまうかもしれない。
それを思うと、封印せざるを得ない。
なるほど。

しかしこれは、決して、人を怖れさせようとか、そういう意図で作ったんじゃないと思います。
この回はある機械によって、人間を狂気に追いやり、犯罪を起こしても無罪にさせる女性を描いた話です。
その女性がなぜそんなことをするのかというと、彼女が夫と子供を殺されたのに犯人が無罪となった過去を持っているからです。
だけど、この話が誤解を呼ぶ恐れがあると判断する人がいるのもわかる。

なので以下、これを読みたい方だけクリックしてお読みください。
この話に関して、不愉快になるかもしれない方は、そんなつもりでは書いたのではありませんが、お控えください。
たまたまこの話を見られた人間の、単なるイチ・レビュー、感想と思っていただける方はお読みください。


刑法第39条
心神喪失者ノ行為ハ 之ヲ罰セズ
夜の、電車が止まっている線路で、自分を捨てた恋人を殺害し、笑う白いネグリジェの女性。

数ヵ月後、無罪になったこの女性が退院してくる。
白いネグリジェの女性が、退院のときは真っ赤な服を着ているんですね。
このコントラストの鮮やかさは、狙っていたんじゃないかと思います。

看護師たちに見送られ、彼女は晴れやかに歩き出す。
人を殺しても無罪になるほどの重症な人間が、数ヶ月で治るはずがない!
そんな重症なら、一生のはずだ!

彼女が退院する様子を見ていた町田警部は、怒る。
きっと彼女は、精神鑑定を欺いたはずだ。
しかし精神鑑定を欺くのは、不可能だ。

町田警部に声をかけるのは、SRIの牧。
気持ちはわかるが、彼女は完全に治ったのだ。
あきらめるしかないと牧に言われる、町田警部。

だが完治したはずの彼女は、あるブティックに向かい、そこでその女主人に大金を渡し、もう一度と懇願する。
ブティックの名前は、「それいゆ」。
しかし、「それいゆ」の女主人・美川冴子は「後にも先にも一度きり」と拒絶する。
SRIの牧は退院した彼女を尾行し、それを見ていたのだ。

やがてこの女性が起こした事件と、同様の事件が6件起きる。
悪徳金融業者の男性が日本刀で殺され、料亭から出てきた男が猟銃で殺害された。
だがいずれも、刑法第39条によって犯人は無罪となった。
ネグリジェの女性の事件を入れると、7件だ。

この辺り、日本刀で金融業者を殺す男性はなかなか怖い。
うーん、確かに子供が見たら、こういうのは怖いなあと思ってしまうかもしれない。
でも生ぬるい描写じゃ、この残虐さは伝わらないというところでしょうか。

いくらなんでも、人を殺した犯人が次々と無罪になるなんて!
町田警部は憤るが、どうにもならない。
そこでSRIも、捜査に乗り出した。

冴子に拒絶された女性が、今度は自分を捨てた恋人の、新しい恋人だった女性を殺害して逮捕された。
前と同じように狂気の笑いを浮かべる女性だが、今度は狂気を装っていると判明。
町田警部に「故意に人を殺した者は、死刑だ!」と言われて泣き崩れる。

そこで情状酌量のためにも、本当のことを語れと言われた女性は、数ヶ月前、元恋人が自分を捨てただけではなく、新しい恋人と一緒に自分を嘲笑ったことを語る。
ショックで女性は、自殺未遂事件を起こした。
病室にいる彼女を見舞ったのが、冴子だった。
冴子は死ぬぐらいなら、どうして相手を殺さないの?と言った。

それはもちろん、人を殺せば、自分が罪になるからだ。
だが冴子は、無罪になる方法を知っていると言い、退院したら自分を訪ねるように言った。
そこで彼女は、冴子にある機械、「脳波変調機」にかけてもらった。
彼女は一時的に完全に心神喪失状態となり、犯罪を犯し、無罪になったのだ。

この話を聞いたSRIは、冴子を罠にかけることにした。
牧は、恋人を無謀運転のスポーツカーにひき殺された銀行員を装った。
恋人は、SRIのさおり。
犯人は同じく、SRIのノム。

彼女の墓の前でたたずむ牧の前に、冴子が現れた。
冴子は、牧の状況を指摘する。
事件以来、仕事も辞めてしまった牧だが、相手を手に掛けることはできない。

そう、いくら憎くても、人は自分の身と引き換えに相手に復讐はなかなかしないもの。
それが人間。
保身でもなんでもない、自分を責めることはないと冴子は言う。
だけど、冴子が合法的に復讐を果たし、無罪になる手段を知っているとしたら?

なぜ冴子が、そんなことをするのか。
冴子は語り始める。
それは冴子が夫ともに脳波の研究をして、日本のキューリー夫妻と呼ばれていた頃のことだった。
幸せな家庭だったのに、冴子はある夜、一瞬にして、夫と子供を殺され、家を火事にされてしまい、失ってしまったのだ。

ここも相当、怖い。
何と言っても、平和な日常に、理由もなく突然乱入してくるというのが怖い。
人間が、根源に感じている恐怖を刺激する描写というか。
こういうのって原始時代、突然、暮らしているところに獣がやってきて狩られて行ったDNAかなんかの記憶なんだろうかとか、余計なことを考える。

だが、犯人の行為は罪にはならなかった。
刑法第39条
心神喪失者ノ行為ハ 之ヲ罰セズ…

嘆き悲しんだ冴子はやがて自分の研究を利用し、人間を狂気に追いやる機械を発明した。
この脳波変調機で狂鬼人間を造り、無罪にする。
冴子はこうやって、刑法第39条に、そして人を殺しても無罪になる人間に復讐することを選んだのだ。

得体の知れない美女だった冴子が、一気にかわいそうになる。
人権とか、いろんなことが頭に浮かんでしまう。
誰に殺されようと、無残に殺された側には関係ないんだと。

犯人の人権は、守ってくれる。
だが、殺された側の生きる権利は、残された側の気持ちは、誰が守ってくれるんだ。
冴子の心の叫びが聞こえてくるよう。

この回が問題にされたのは、ただでさえつらく、苦しんでいる精神の病気にかかった人やその家族が怖ろしいものとして認識されてしまうこと。
それが偏見となって、排除や冷たい目で見られる恐れがある話だからだと思う。
こんな恐れを抱くような歴史があったからだと思うし、その心配はわかる。
だけど見ていると、それが目的でこの話を作ったのではないとわかる。

ここでは、刑法第39条が問題になっている。
けれど問題は、殺された人の人生。
その人たちを愛している人たちの心の痛み。

これが、癒されない現実。
その怒りを訴えたくて作った話なんじゃないかと、思いました。
人を殺した人間が大手を振って歩くなんて!という、町田警部や冴子の憤りがこの話の訴えたいことではないかと思うのです。

さて、牧はその機械によって、狂鬼人間にしてもらう約束をした。
うまく行ったはずなのだが、牧の心はどうも晴れない。
牧さん、優しいんだよ。
冴子の心の叫びを、牧さんは聞いてしまってるんだよ。

約束の日、牧には町田警部たちの尾行がつくが、尾行はまかれてしまう。
人並みはずれて頭のいい冴子は、牧が囮であることに気づいていたのだ。
トラックの荷台にある脳波変調機を頭に取り付けられた牧に、冴子は叫ぶ。
「思う存分、あなたの仲間を殺す事ね!SRIの牧さん!」

冴子は念のためにと実弾ではなく、空砲のはずだった銃に実弾を込めて、牧を解放する。
狂鬼人間となった牧は、銃を乱射しながら町を行く。
人々が逃げていく。

ここも、かな~り怖い場面。
いや、岸田さんの迫真の演技。
先ほどの、優しい牧のかけらもない表情。

牧はうつろで、それでいて狂気のまなざしでノムを見つけ、「殺してやる」と叫ぶ。
驚いて逃げるノムを、執拗に追いかけていく。
転んだノムを追い詰め、殺してしまう寸前、牧は町田警部たちに取り押さえられた。

計画が失敗したのを悟った冴子は、逃げた。
だが逃げ切れないと知った冴子は、脳波変調機が乗っているトラックの荷台に駆け込む。
そして自ら機械を頭に取り付け、ボリュームを最大にひねる。
うわあああ。

見ているこちらも叫びたくなるが、冴子の悲鳴があがる。
的矢所長たちが、トラックの荷台にいる冴子を発見する。
だが振り向いた冴子はうつろな目で笑みを浮かべ、的矢所長たちを見るだけであった。
この女優さんも先ほどの知性的な表情はどこへやら、迫真の狂気の演技。

事件は解決し、SRIに町田警部がやってくる。
急激に脳波変調機の最大のショックを受けた冴子は完全に狂ってしまい、回復の見込みはないと言う。
もう、ずっと狂ったまま。
一生、狂ったままだろう。

本当に殺されるところだったと、笑うノム。
事件の解決を喜ぶSRIと町田警部。
彼らを背にした牧は、悲しそうに視線を窓の外に向ける。

牧の視線の先には、何が見えたのだろうか。
…牧さんの人の痛みを感じ取ってしまう優しさ。
その痛そうな表情で、こちらの心も痛む。

「かーらーすー、なぜなくのー。からすはやーまーにー…」。
鉄格子から外を見ている冴子の、無邪気でうつろな歌声が響く。
ぷつりと、冴子の歌声は止まる。

冴子はこの歌を、なぜ歌っていたのか。
彼女の頭の中には、何が浮かんでいたのだろうか。
だがその目はもう、何も見ていない。

なんという、哀しい、切ないラスト。
森田芳光監督が、10数年前、刑法第39条を題材にした「39」という映画を作りました。
あらためて「怪奇大作戦」とは、すごい作品だったのだと思います。


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2013.05.02 / Top↑
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