グレース・ウィラーはミュージカルで一世を風靡した、大スターだった。
しかし符号の夫と結婚し、引退。
今は、忘れられたスターとなっていた。

そのグレースに再び、ミュージカルの話が舞い込む。
復帰に意欲を燃やすグレースだが、最愛の夫のヘンリーは大反対した。
どうしても承知しない夫に対して、グレースは殺意を抱く。

グレースはサロンで自分の昔の映画を上映している最中に抜け出し、2階の夫の寝室に忍び込み、拳銃で撃つ。
ヘンリーを病気を苦にした自殺にみせかけ、自分は窓から木をつたわって下りた。
グレースが上映中に席を外したのは、切れたフィルムをつなぐ時間だけということで、アリバイは成立した。

屋敷には他に執事のレイモンドとその妻のアルマがいたが、善良な人々でヘンリーやグレースを心から慕っていた。
あとは振付師で男優のネッドだが、こちらも夫妻とは親友の関係で何もトラブルはない。
ヘンリーは自殺と思われた。
誰もグレースが上映中に2階に行き、夫を殺してきたとは思わなかった。

「ファンは、私を忘れていない」。
レッスンに励むグレースのところにやってきては、調査するコロンボをネッドは邪魔に思う。
コロンボは1時間45分の上映時間の映画が、2時間かかったことにひっかかっていた。
ヘンリーが殺された時、グレースが上映していた映画は、フィルムが古いため、途中で切れていた。

そのフィルムを直すのに、グレースは席を10分ほどはずしていた。
だが直すのに手馴れたグレースなら、3分ほどで済むはずだった。
コロンボは実際にグレースがやったように、自分が2階から木をつたって下りてこられることを証明した。

そして、グレースが犯人だと、確信した。
コロンボは、夫の病歴を調べるうち、ヘンリーには病歴がないことに気づく。
自殺する理由がない。

しかし、同時にヘンリーがかたくなにグレースの復帰に反対した理由にも気づいてしまった…。
ネッドはコロンボの執拗な捜査に苛立ちながらも、コロンボの人柄には好意を抱いていく。
でもグレースを犯人と位置づけていることは、許せない。

やがて、グレースのカルテが見つかる。
そのカルテは、グレースの名前ではなく、ロージーという、彼女が演じたヒロインの名前で書かれていたからわからなかったのだ。
ロージーのカルテには、動脈瘤が破裂する危険が書かれていた。
しかもそれは血管の一番もろい部分にあり、手術はできなかった。

破裂は、今日かもしれない。
一週間後かも知れない。
だがいずれにせよ、グレースは2ヶ月ぐらいしか持たなかった。

さらに激しい運動は、その破裂を早める危険があった。
ミュージカルのレッスンなど、とんでもないことだった。
ヘンリーが反対したのは、グレースに少しでも生きていてほしかったからだった。
その理由を言わなかったのも、グレースを幸せなまま、死なせたかったのだ。

コロンボはグレースの上映会に呼ばれた夜、ネッドにそれを打ち明ける。
そのうえ、その病気で彼女は記憶を少しずつ失っていくのだった。
ネッドはその事実に、ハッとする。

グレースはしょっちゅう、物を忘れて探していた。
少し前に起きたことも、覚えていないことも多かった。
もはや、最愛の夫を自分が殺したことも覚えていないかもしれない。

2人が話しているのを見たグレースは、コロンボがまだ、夫が殺されたと疑っていると怒り始めた。
サロンのスクリーンでは、グレースが主演し、大ヒットした映画が流れていた。
歌声が流れる。

「ウォーキング・マイ・ベイビー」。
ヒロインは、ロージーだ。
グレースが繰り返し、繰り返し見ている、スターだった時の映画。

「この家の者が主人を殺すなど、ありえないわ!主人は自殺したのよ!」
そのことにコロンボが言及し始めたとき、ネッドが叫ぶ。
「もう茶番劇は幕にしよう!私が殺したんだ」。

グレースが目を見開いて、ネッドを見つめる。
口を多い、「嘘よ!ネッド、嘘よ!」
コロンボがうつむいている。

「ほんとなんだ、グレース」。
「嘘、そんなこと嘘よ!」
グレースが叫ぶ。

「ねえ、どうしてそんなことしたの。どうして!」
グレースがネッドに抱きつく。
「君のためさ。君のためだ。…君のね」。
「あたしの?」

「そうだよ、ヘンリーは君が再びスターの座に着くことに、反対していたから」。
目に涙をためて、グレースはネッドを見つめる。
「私はどうなるの?」
「君は大丈夫さ。グレース・ウィラーはスターだ!」

「ダメ、あなたなしでは私、何もできない」。
そう言うとグレースは、微笑み、「私待ってる」と言う。
「そう、待ってるわ。私、休暇をとるわ。休むの。しばらく休むの!そのほうがいいわね?」
「そうだ。それが一番いい」。

ネッドはグレースを椅子に誘導すると、「さあ、いい子だ。あそこに座って、ロージーを見てなさい。君の大好きなロージーをね」と子供に言い聞かせるように言った。
グレースはネッドを見て、うなづく。
まるで子供のように、何度もうなづく。

音楽が流れる。
ネッドはグレースの頬に、キスをして離れた。
グレースは画面を凝視していた。

身動きもしない。
周りの誰も、何も見ない。
ネッドが「さあ、行きましょう警部」とコロンボを促す。

「あんたの自白なんか、すぐひっくり返されますよ」。
その言葉にネッドは「がんばってみせる!」と言った。
「ふた月間は」。

コロンボが、呆然と言った表情でネッドを見る。
「…そうお」。
やがて、うなづきながら「それがいいね」と言った。

帽子をかぶったネッドが、エントランスのドアを開けて表に出て行く。
コロンボが、館の中を見る。
グレースは自分と映画のほかには誰も存在していないかのように、ただ、スクリーンを見ていた。
うっとりしていた。

彼女の顔に、微笑が浮かぶ。
スクリーンの中のロージーコと、グレースは美しい歌声で歌っていた。
見事なプロポーションで、踊っていた。

グレースの瞳から、涙がこぼれている。
美しい緑の瞳から。
だが、グレースは微笑んでいた。
コロンボは彼女を見て、何も言わずにエントランスのドアを閉めた。



刑事コロンボは、よれよれの風貌。
風采の上がらないように見えて、飄々としながらも犯人を追い詰めていくんですね。
それで犯人は大概、ちょっと嫌な奴だったりする。
しかし、この話は違った。

夫を殺したグレースは確かに、悪人かもしれません。
しかし、グレースは最後、まるで子供のように無邪気にあどけなくなってしまっている。
この話には逮捕されて胸がすくような、悪人がいないんです。

ヘンリーもネッドも、今回はコロンボも優しい。
夫のヘンリーは、復帰なんかやめて、世界一周に行こうと言う。
グレースと思い出を作りたかった。

そしてネッド。
おそらく、ずっとずっと、グレースを愛して支えていたんでしょう。
グレースは復帰に燃えていたけど、ネッドは彼女の復帰を支えると言うより、彼女が傷つかないように見守っていたんですね。

lここには忘れられたスターに、優しい人間ばっかり出てくるんです。
それがホッとするし、哀しくもある。
殺人犯になってしまったけど、グレースも年はとっても美しく、スターの輝きがある。
演じるのは、ジャネット・リーさん。

…今なら、これ、手術できるのかもしれません。
でも、30年前だと無理だったんでしょう。
伏線は、張られていました。
やたらに物忘れをする、グレース。

ずいぶん前なのにこの話は、覚えていました。
ラスト、何もかも忘れてしまった女優さんの代わりに逮捕されていく男性と、ただひたすら映画を見ている女性。
とても印象的なラストシーンだったんですね。

グレースのモデルは、ああ、あのスターだなと思い当たる人はいます。
演じたジャネット・リーさんって、「サイコ」でシャワー室で絶叫するあの女優さんですよね。
緑の目がとても美しく、年齢が行ってもあの銀髪が美しい。
品格があって、あんな風な歳の取り方って難しいんだろうなと思います。

それに、周りの人がみんな彼女に優しい。
だから、彼女はきっと、子供のような純真さを失わない人だったんだろうなと思います。
ヘンリーもネッドも、執事もその妻も、みんな彼女に優しい。

それだけにラスト、彼女を愛してかばった男のことさえも忘れているであろう表情が哀しい。
ひたすらスクリーンの中の自分を見つめるグレースに、スターであることの麻薬。
スターであっただけ、ものすごいことだと思うのですが、それは第三者が思うことなんでしょう。

その座から降りてしまうことの哀しさ、つらさ。
「忘れられたスター」への第三者の目は、「知らない女優」への目より辛らつで蔑みに満ちたものなのでしょう。
頂点を極めただけに、想像もできないつらさなのだろうと思えました。

しかし、やっぱりスクリーンに刻まれたその姿は永遠の輝きを放っていることも事実。
だからこそ、スターはその時の最高の姿を焼き付けるのだと、改めて思いました。
彼女はあと、どのぐらい生きるのだろう。
ネッドは、どのぐらいがんばれるのだろう。

きっと、コロンボも、執事たちもベストのことをしてくれるに違いないだろうけど。
ネッドの「君は大丈夫さ。(なぜなら)グレース・ウィラーはスターだ!」の声に尊敬と誇りと、愛情がこもってました。
刑事コロンボでは異色の話。
とても哀れで、美しい物語です。


スポンサーサイト
2013.07.01 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://kotatuneco.blog59.fc2.com/tb.php/2644-41009c0d