こたつねこカフェ

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右腕一本切り落とせば済むことで 「峠シリーズ2 狂女が唄う信州路」

峠シリーズの第2回は、「狂女が唄う信州路」。

信州無宿丈八は、賭場で20両稼いだ。
街道を行く丈八は、賭場の稼ぎを取り返そうとしたヤクザ者たちに襲われ、斬り合いになった。
その時、そばを通りかかった女性の気配を敵と間違えた丈八は、思わず刀を振った。
悲鳴が響き、女性が倒れた。

丈八は誤って、何の関わりもない女性の右腕を斬ってしまったのだった。
土地の親分に間に入ってもらい、丈八吉は詫びを入れた。
稼いだ20両を見舞金として家族に置いて、そして丈八は誓約書を書いた。

今後一切、長ドスは抜かない。
もし抜いた場合は、自分の右腕を切り落とす。
それで家族にも納得してもらった。
丈八はやがて、「抜かずの丈八」と呼ばれるようになった。

ある日、丈八は賭場が手入れにあったため、牢に入れられる。
牢は、仙太郎という一番役から数えた上下関係が支配する世界だった。
そこで丈八は全くの無抵抗で、痛めつけられながらも耐え続ける。
丈八と同じ、信州無宿だというだけで、佐助という男は狂い死にさせられる。

そんな中、「作造り」が行われる。
「作造り」とは牢内の人数が多くなって、許容範囲を超えるとなる時にやる、人減らし。
それは標的になる男の顔に濡れ雑巾をかぶせて、押さえつけ、窒息死させることだった。

当然、仙太郎は丈八を選ぶはずだったが、作造りされたのは仙太郎であった。
仙太郎の遺体が運ばれていく。
やがて丈八は、90日して牢を出た。
そして牢で知り合った渡世人だった老人・吉兵衛とともに、娘を探して旅をする。


ここから先は、ネタバレです。



しかし、かたぎである扇屋に嫁いだ娘・お京はヤクザ者の友蔵と手下2人に手篭めにされ、狂ってしまっていた。
手篭めにされた翌日、お京は狂っていた。
吉兵衛は弱った体を押して、落とし前をつけようとする。

渡世の義理で、友蔵がわらじを脱いだ先の牧野一家の3人は、友蔵に助っ人することになる。
丈八は助っ人を買って出るが、吉兵衛は抜かずの丈八にドスを抜かすことはできないと言う。
街道で待ち伏せする吉兵衛の前に現れたのは、仙太郎と以下、4番手までの忠次だった。

島流しになるはずの仙太郎は牢役人たちに賄賂を贈り、死んだことにして牢を出してもらったのだ。
上級役人には30両、下級役人には10両。
そして牢内の連中には、豪勢な差し入れをすることで話をつけた。
仙太郎の遺体の引き取り人は、先に出ていた忠次だった。

かたぎの娘に手を出すとは、許せねえと言う吉兵衛だが、仙太郎たちにはなぜ吉兵衛が出てくるのかわからない。
だが、扇屋のお京の親と聞いて、納得した。
「お京の仇だ!」
ドスを抜いてかかった吉兵衛だが、衰えた体ではかなうはずもなく、斬られてしまった。

「とっつあん、とっつあん!」と駆け寄った丈八が、横たわった吉兵衛の手からドスをとろうとする。
「いけねえ、いけねえよ。どんなことがあっても、抜き身を持たねえと誓った誓いは、どうするんでえ」。
「あっしが右腕一本、切り落とせば済むことでござんす」。

「ばかなこと言っちゃいけねえ!」
「あっしの血が熱くなったのは、これが最初で最後なんでござんす」。
そう言うと、丈八は長ドスを手にした。
「抜かずの丈八が、抜きやがったな!」

仙太郎たちがひるむ。
丈八は「牧野のお身内に申し上げます。この揉め事に限り、抜かずの丈八の名を返上いたして、ご覧の通り抜き身の長ドスでお相手いたしやす。お命を粗末になさらねえよう、無用な助っ人とはどうか手控えておくんなまし」と言った。
そして忠次に、「おめえにはずいぶん痛てえ目にあわされたっけなあ、4番役」と向き直った。

丈八が振り下ろした刀で、一刀の元に忠次が斬られる。
続いて倒れこんだ忠次の背中を、ぐさりと刺す。
丈八は追ってくるもう1人も、斬り捨てる。

仙太郎に向き直ると、「一番役。佐助って男を忘れちゃいねえだろうな。この丈八と同じ、信州無宿と言うだけで狂い死にさせた佐助だよ。その佐助と、とっつあんの仇を討たせてもらうぜ」と言った。
恐怖した仙太郎は、刀を振り回した。
だが丈八はその刃を飛び上がって避けると、ひらりと上に逃れた。

竹をつかむと、竹が仙太郎に向かってしなる。
丈八は竹の上から飛び降り様、仙太郎を斬った。
仙太郎が息絶える。

丈八は、吉兵衛に近づくと、その目を閉じてやる。
そして童女のように唄っているお京に、とっつあんがかつて牢で丈八に診せたお守り袋を渡してやる。
丈八を見て、きょとんとしていたお京が、にこりと笑う。
それを見て、丈八もかすかに微笑む。

扇屋の主人がやってきて、「お京のために見ず知らずのあなたさまが、ありがとうございました」と頭を下げた。
「あっしはただ…」。
「存じております」。

扇屋は吉兵衛が、お京の父親だと言うことも気づいていた。
なんて、うかつだったのだろう。
息を引き取る前にせめて一言…、と扇屋は涙した。

「とっつあんの弔いを、どうぞよろしくお願いします」。
丈蜂が言うと、扇屋も「及ばずながら、何とか手を尽くして、お京を元の体に」と言った。
少し離れた野原で、お京は子供のように歌いながらはねていた。

丈八が旅立とうとするのを見て、扇屋が「あの、これからどちらへ」と声をかける。
「塩尻から松本道を。岡田宿まで参ります」。
「この右腕を切り落とさなければ、ならねえんで」。

呆然としている扇屋を置いて、丈八は街道を行く。
「天保10年の晩秋。まだ年若い渡世人が、1人の百姓女のために信州、岡田宿のの農家の庭先で自らに右腕を切り落とした話は、長く里人の間に語り伝えられた」。
「だがその人物の、その後の消息については誰も知らない」。



丈八は、川津祐介さんです。
牢の中で強いはずの丈八は、下種な奴らの暴力に耐えます。
この辺りは昔ながらの我慢して我慢して、ついに殴りこむの展開ですが、それにしてもひどい。
「地獄は牢屋に限るめえ」って言ったって、ここの牢屋は無法地帯です。

だから牢に入りたくない、悪いことはしない、という効果があるにしても、お役人もこれを放置ではダメダメすぎです。
そんな丈八が決して自分のためには抜かず、人のためにドスを抜くというところが泣けます。
前半の牢での、ひどい無法ぶり。
ひどいシーンですが、だからこそ、これでも自分のためには抜かなかった丈八が、吉五郎とお京のためにはドスを抜くことで熱い思いが伝わってきます。

「男は強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている価値がない」という言葉がありますが、それを地で行ってます。
無法を打ち破る強い力を持っていながら、それは優しさから来る怒りでしか振るわない。
これが「峠シリーズ」で描かれる渡世人というもの。
しかしさすが笹沢氏はそれだけではなく、最後に仙太郎が生きていたというどんでん返しを用意してました。

時代劇は全体的にそうなのですが、渡世人もの、ヤクザ映画っていうのは、特にこういう面が強いですね。
ヤクザ映画が嫌いという人が、「ヤクザなんて男が徒党を組んでる映画なんて嫌い」って言いました。
でもこういうのを見ると、この手の映画が好きな人がいるのも、わかるんです。

「木枯し紋次郎」も「峠シリーズ」も、残酷な話があります。
それを言うなら、「子連れ狼」も残酷な展開があります。
しかし無意味に残酷にして人の心に残そうとするのではなく、その残酷な運命の中で必死に生きる人、助ける人を描くからこそ心に残るのでしょう。

こんな時代劇が今はもう作れない、放送できないとしたら、残念です。
無法を演じる悪役さんたちは、本当に偉い。
垂水悟郎さん、小林勝彦さん、市村昌治さん、鶴田忍さんもご出演。

虎の威を借るキツネ状態の四番役の表情なんか、見事に卑劣さを出してくれてます。
これを見て、やっぱり悪役さんがいかに嫌な奴をうまく演じるかが、主人公をかっこよく見せる要になると思いました。
吉兵衛は、花沢徳衛さん。

最後に丈八が右腕を切り落としたことが伝えられ、その後は誰も知らないと語られます。
第1回の長次郎と同じです。
「文書にある人物の、その後の消息については誰も知らない」。
これが突き放したような無情さと、見ているこちらに想像の余地を与えて、この話も終わりです。


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