こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
2017年07月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年09月
TOP生国・過去は不明 渡世人さんのドラマ ≫ 渡世人は、親兄弟は持たねえ! 「峠シリーズ4 鬼首峠に棄てた鈴」

渡世人は、親兄弟は持たねえ! 「峠シリーズ4 鬼首峠に棄てた鈴」

峠シリーズ最終回は、「鬼首峠に棄てた鈴」。


ある1人の若い渡世人が、仁義を切っている。
彼の生国は上州橋爪。
名は、鳴神の伊三郎という。

伊三郎は2ヶ月ほど前から、奥州路で長坂の文吉という男を捜している。
するとそこの親分は、「文吉は10日前、ここに4~5日、わらじを脱いでいた」と言う。
文吉を探してどうするのか。

伊三郎は言った。
「斬るつもりだ」と。
ことの起こりは、文吉が八坂の正造親分の人気をねたみ、凶状持ちをかくまっていると御上に密告したことから始まる。
正造の一家の主だった子分衆はお縄になり、一家は散り散りになった。

汚いやり方だ。
文吉はもともと、一家を持てる器じゃなかったので、構えた一家も畳むことになった。
その土産に、文吉は人気のある正造一家を潰してやったのだ。

伊三郎は3年前、正造の一家にわらじを脱いだ。
その時に、流行り病にかかった。
正造一家は、20日も手厚い看護をしてくれた。

それを聞いた親分は、「それだけの義理かい?」と尋ねた。
だとしたら、近頃見上げた心がけだが、考え直せという。
伊三郎を死なせたくないから、言うのだった。

文吉には桜井小平太という、めっぽう強い用心棒がついている。
その噂は伊三郎も知っていた。
だが親分は、小平太は強いだけじゃないと言う。

ニヤニヤしながら人を斬る男で、「渡世人がかなう相手じゃない」と言った。
「刀を抜いたら、おめえさんは必ず、斬られる」。
「覚悟はしておりやす」。

それを聞いた親分は、文吉は松井田の友助の家に長逗留していると教えてくれた。
安中の五郎七親分に、添え状を書いてくれるとも言ってくれた。
添え状を持って、伊三郎は安中に向かう。

伊三郎の腰についている、おかめの顔をした大きな鈴がチリンと鳴った。
「その鈴だが、おめえさん、めずらしいものを持っていなさるね」。
「あっしの姉のものです」。

伊三郎と姉は、15年前に別れたっきり。
姉が生きているかどうかも、わからない。
親分は、「お互い生きていれば会える日も来るだろう」と言って送り出した。

安中で、伊三郎は五郎七親分の一家を訪ねようとしていた時だった。
子分が1人、走ってきて、河原で桜井小平太が斬りあいを始めたと知らせに来た。
伊三郎も走って見に行く。
その後を、小さな少女がついていく。

桜井小平太が、3人の渡世人と向かい合っていた。
だが小平太はすばやい動きで、渡世人たち3人と位置を入れ替わる。
伊三郎が、思わず天を仰ぎ見る。
太陽が照っていた。

小平太をにらんでいた渡世人たちはまぶしさに、目を細めた。
野外で刀を抜きあう場合は、相手の目に日差しを入れるために必ず太陽を背負う。
それが兵法としての鉄則であり、桜井小平太の「旅のヤクザどもは、兵法のいろはのいの字も知らない」という嘲りなのだった。

案の定、渡世人たちはあっという間に斬られた。
伊三郎はそれを、じっと見つめる。
噂以上のすごい腕だと、見ていた五郎七の子分たちは噂した。
「そんじょそこらの用心棒とは、わけが違う」。

伊三郎の後をついてきた少女は伊三郎に、「あのご浪人は店に時々来る」と教えた。
鈴を見たその少女は、「それ何の音」と聞いたが、伊三郎は返事をしない。
なので少女は、首をかしげた

小平太は松井田に来て、もう7人も斬っているのだと、伊三郎は五郎七の子分たちに教えてもらった。
長坂の文吉が、百両の大金を出して雇っただけのことはある。
文吉は友助のところの客分の癖に、挨拶もなしに五郎七の縄張りに入り込んだ上に、その用心棒の小平太は好き勝手している。
あの浪人者の小平太さえいなければ、文吉なんぞにでかいツラはさせないのにと、五郎七たちも悔しそうだった。

桜井小平太がここの、紅屋という料理屋に通ってくるのは、おしなという酌女が目当てだった。
紅屋には、おしなという女性と、おでんという幼い娘と、板前がいた。
おでんはあの、斬りあいの時、伊三郎に声をかけてきた少女だった。

文吉は常に、小平太の後をついてくる。
小平太がいないと、安心できないからだ。
五郎七だって、文吉には喧嘩状をつきつけてやりたいのだが、小平太がいるのでは手が出せない。

伊三郎は、「文吉とのことは自分の私怨だから、関わらなくていい」と言う。
しかし長坂の文吉を殺すには、まずはあの浪人者を殺さなければいけない。
どうしたらいいのか。

伊三郎は修羅場を越えているだろうし、腕も立つに違いない。
だが、ケンカ剣法は所詮、侍の本当の剣法には勝てない。
すすんで命を捨てることはないと、五郎七は忠告する。

だが伊三郎は言った。
「あっしには、生きていて他にすることはありません」。
五郎七は「まあ、ここにいるうちに気も変わるかもしれない」と言った。
「お言葉に甘えて、しばらくご厄介になります」と伊って、伊三郎は五郎七のところでわらじを脱ぐ。

翌朝、井戸端で顔を洗っている伊三郎に紅屋のおしなが近づく。
「おはようございます。五郎七親分のところの客分ですね」。
「伊三郎と申します」。

おしなは、そばに置かれていたおかめの顔をかたどった大きな鈴を拾った。
紅屋にいる娘の、腰飾りの鈴と同じだと言う。
伊三郎は、姉のものだと言って、さらに「15年前に別れた2つ違いの姉を探している」とも言った。
姉が伊三郎を、親代わりに育ててくれたのだ。

そんな思い出話をさせてしまったことにおしなは、「ごめんなさいね」と謝った。
だが伊三郎は、「昔のことは捨てた」と言った。
おしなに、おでんが近づいてきて、「お姉ちゃんも、あの鈴、持ってたでしょう」と言う。
伊三郎の鈴をおしなは、「あれはお姉さんの形見だ」と説明した。

「形見って何」と、おでんが無邪気に聞く。
「亡くなった人からもらった大切な鈴よ」。
「ふうーん」。

小平太は、紅屋にはおしな目当てで通ってくる。
おしなは3年前に後家になり、常連はみんなおしなを目当てに通ってくる。
だがおしなは、さすが元は商人の女房。

ああ見えても、身持ちが硬い。
小平太もおしなを手篭めにするわけにはいかず、じりじりしていた。
文吉を狙う伊三郎の噂は、安中の宿にも届いていた。

小平太相手に、尋常の勝負では勝ち目がない。
「飛び道具はどうだ?」と五郎七の子分は言う。
伊三郎は、突きの練習をしている。

武士の大刀には、弧形を描く、反りと言うものがある。
渡世人の持つ長ドスはその反りが浅く、ほとんど無反りのものが多かった。
武士の剣法は、斬ることが第一だった。
もっぱら、相手を突き刺すというのが、渡世人のケンカ剣法であった。

突き刺すだけなら、反りは必要なかったので、渡世人には無反りの長ドスが用いられたのであった。
そして長ドスより、太刀の方がはるかに長い。
桜井小平太を突き刺そうと思えば、踏み込んだ瞬間、死を覚悟しなければならなかった。

伊三郎は、想像する。
小平太に向かって、長ドスを突き刺そうと踏み込む。
刺される。
自分が、倒れる。

おしなが、練習をしている伊三郎を見つめている。
そして言う。
「やめてくださいまし」。

「あの浪人は人の命を、虫けらにしか思わない怖ろしい人なんです。伊三郎さんが殺されるかもしれないのに、黙って見ていられないんです」。
「おしなさんには、関わりのないことでしょう」。
「後生だから忘れてください。誰もが、係わり合いになるのを恐れているんです」。

「伊三郎さんが殺されるなんて、私…、渡世の義理だなんて。たった一度、流行り病を看病してもらっただけなんでしょう。それだけのことで、みすみす殺されることがわかっているのに」。
「あっしのような男には、生きるも死ぬも、たったひとつの道しかないんでござんすよ。堅気のおしなさんには通じねえことで、ござんしょうがね」。
たたずむ、おしな。

鈴の音が聞こえる。
紅屋のおでんが、立っていた。
伊三郎に「おしなちゃん、おじさんのこと好きだって言った?」と、ませたことを聞く。
しかし伊三郎は、首を振る。

おでんは、伊三郎と一緒に歩いていく。
「おじちゃんのこと、おしなさんは板前さんにからかわれて顔赤くしてたわ」。
そして、おでんは意外なことを教えた。
「松井田のご浪人、夕方になると家に来るわ。25日だもの。今度は25日に来ると言ってたわ。おしなさんに」。

伊三郎が足を止める。
「おでんちゃん、この鈴はあっしがが死んだら、もらってやってください」。
おでんは伊三郎を見送る。
去っていく伊三郎をおしなも、じっと見ていた。

その日、桜井小平太は確かに紅屋に入っていったと、五郎七のところに知らせが入る。
つまり、文吉は松井田に残っているのだ。
文吉と若い衆だけなら、苦もなく討ち取れる。

松井田には1のつく日には賭場が開かれるので、大勢の中にいれば大丈夫だと文吉は見ているのだろう。
そう思って、小平太だけを紅屋に行かせているのだろう。
「今夜、浪人者の隙を狙うことにしやす」と伊三郎は言った。

その夜、納屋でおしなが小平太に手篭めにされかかっていた。
伊三郎は、そっと納屋に近づく。
その時、板前がこん棒を持って小平太に襲い掛かる。
しかし、板前はいち早く斬られた。

おしなが「どうしたの?」と、小平太に聞く。
「なんでもない。何者かが近づいてきただけだ。心配ない。峰打ちだ」。
そう答える小平太の声がして、それきり、静かになった。
伊三郎はそれを、納屋の外でじっと聞いていた。

翌日、おでんが外で、毬で遊んでいた。
転がってきた毬を拾って、伊三郎はおでんに渡す。
「おじちゃんは死んだりしないよね」。

「板前の勘吉が、転んでけがをしたようですね」と伊三郎がおしなに聞く。
するとおしなは、「そうです」と答えた。
村はずれでおでんが、男の子2人と取っ組み合いのケンカをしている。
気の強いおでんが勝って、男の子を追い払い、さらに後を追っていく。

伊三郎は空を見る。
そこに、板前の勘吉がやってくる。
痛みが取れたので来たと板前は言った。

これが桜井小平太の峰打ちだということは、板前も知っている。
勘吉は、おしなが手篭めにされると思って助けに入ったのだが、おしなは嫌がってはいなかった。
てっきり、おしなは伊三郎が好きなのだと思っていたが…、「女心はわからねえ」と勘吉は言った。

「あっしのようなものは、堅気の娘さんを好きになっても、しようがありやせん」。
「おめえさんって人は、根っからの渡世人なんだねえ」。
そこに、長坂の文吉が伊三郎に果たし状を持ってきた知らせが入る。

文吉は2人の子分と浪人が身内と言うことで、結局4対1で伊三郎と勝負をしようという汚い魂胆だ。
だが、喧嘩状を突き返すわけにはいかない。
伊三郎は、カタをつけるつもりでいた。
「生きていても当たりめえ、死んでも当たりめえ。自分のようなものは、そういうものだと思っていやす」。

果し合いの場所、鬼首峠は、妙義山の南にある峠であった。
峠の中腹に白壁の土蔵が残っている、白い屋敷跡がある。
さる御大尽が作ったのだが、原因不明の火事で消失した。
ここは、御大尽屋敷跡と言われている。

おでんがその壁に、石を投げて遊んでいる。
その様子を、伊三郎が見る。
桜井の太刀筋が思い出される。

3人の渡世人が、あっという間に斬られた時のこと。
おでんの投げた石が、壁に当たって跳ね返る。
桜井小平太の太刀が入る範囲には、伊三郎は絶対に入りこめない。
攻撃は背中をのぞいてはないが、小平太が背中を見せるはずがないし、こちらが背後に回る余裕など考えられなかった。

外に出た伊三郎を見て、おでんが「おじちゃん!」と言って走ってくる。
白壁のある屋敷跡。
翌朝、伊三郎は旅姿で発った。

いなくなった伊三郎に、五郎七の子分は「逃げたのじゃないだろうか」と言うが、親分は「客人は逃げたんじゃねえ」と言った。
五郎七は、伊三郎は「鬼首峠の大臣屋敷だ」と言う。
そして「誰にもこのことは言うな」と子分たちに念を押す。

伊三郎に、おでんがついていく。
それから4日。
伊三郎は毎日、白壁のある屋敷跡に通った。
そして、刀を抜いていた。

「どうしておでんちゃんは、毎日ここに来るのかい」と伊三郎が聞くと、おでんは「おじちゃんが来るから」と答えた。
おでんには友達がいないのかと言うと、おでんは「あたしね、この宿場にもらわれてきた子なの、だからこの宿場の子はみんな嫌い」と言った。
「おじちゃん、ずっとここにいるの?」

「そいつはあっしにも、わかりません」。
「どうして?」
伊三郎の鈴が鳴る。

喧嘩状に書かれた日が、やってきた。
旅支度をする伊三郎は、いつもと同じ、顔色ひとつ変えていない。
五郎七は、「死ぬ覚悟ができているんだよ。誰にもできるこっちゃねえ。ケンカ仕度がそのまま死での旅支度だ」と言う。

伊三郎が五郎七に、挨拶に来る。
「長げえあいだ、お世話になりました。親分はじめ、御身内衆の心遣い、鳴神の伊三郎、終生忘れやいたしやせん」。
子分が、伊三郎のわらじを揃えた。
伊三郎がわらじをはく。

おしなが、五郎七のところにやってくる。
「長いことお世話になりました。事情があって、松井田の母親のところに戻ることになりました」。
そう言って、おしなは頭を下げる。

取り込み中で、何もしてやれないと五郎七は言うが、おしなはただ、頭を下げた。
伊三郎を見て、おしなは出て行く。
子分が、「おしなは松井田で、桜井小平太の女房になるらしい」と教えた。

やってきた小平太は、おしなに「女房にすると言った覚えはない」と言う。
だがおしなは、もう、紅屋にいられないと言って、伊三郎のことを「今度だけは、見逃してやって」と頼んだ。
「それを言うために、呼び出したのか」。
「私はただ、あの渡世人がかわいそうになって…」。

「おめえ、伊三郎とやらに惚れたな」。
「いえ、私はもうあなたもの」。
だが小平太は、「俺はあの野良犬を叩き斬ってやる」と言って出て行った。

伊三郎も小平太も、白壁の屋敷跡にやってくる。
「場所はここでいいのか」。
風が吹く。

文吉と2人の身内もいた。
五郎七たちも、来ている。
板前の勘吉が、おでんの手を引いて見ている。

おしなも来る。
伊三郎と小平太が、向かいあう。
すばやく、白壁を背にする小平太。

日差しが、伊三郎の目に入る。
小平太が笑う。
「愚かな野良犬め。(これが)兵法の『いろは』よ」。
ゆっくりと、伊三郎が長ドスを抜いた。

伊三郎がこの4日間、何千回と繰り返した修練と計算を誰も知らなかった。
桜井小平太は、兵法の鉄則に従って当然、西日に背を向け、土蔵の壁を背にして立つ。
動きのために、壁との感覚を一間、約1メートル80センチぐらいに置くはずだ。

あと半歩。
小平太が、半歩下がった。
風が吹く。

伊三郎が、じっと見ている
小平太は、薄笑いを浮かべている。
足元を見る伊三郎。

小平太が、太刀を抜く。
刀を背に構える。
その時だった。

伊三郎が突然、小平太の背後の白壁に刀を投げた。
刀が、跳ね返った。
跳ね返った刀は、小平太の背に刺さる。

ぎょっとした小平太は後ろを振り向き、背中に刺さった刀を抜いた。
伊三郎は長い竹槍を構え、丸開きに開いた小平太の体に向かって、突進した。
竹槍は、小平太の体に刺さった。

悲鳴を上げた小平太が、竹槍を絶ち斬る。
だが、そこまでだった。
小平太は、倒れた。

伊三郎が刀を持って、近づいてくる。
文太が驚愕に目を見開き、恐怖の表情で後ずさりをする。
残った2人の子分は、伊三郎の敵じゃなかった。

文吉は、伊三郎に向かって土下座をした。
「斬らねえでくれ、助けてくれ。どうか、見逃してやってくれ」。
だが、伊三郎は首を縦に振らない。

「伊三郎さん。おめえさんには、おさとさんって姉さんがいるだろう!」と文吉が口走る。
「斬っちゃいけねえ。俺はおめえさんの、義理の兄貴みてえなもんだ!」
おさとは、茶屋に奉公していた。
そこを文吉が年期奉公の金を払い、囲ったらしい。

おさとは伊三郎の鈴と自分は、同じものを持っていると言っていた。
「おめえ、おさとの居場所を知りたくねえか!おさとはな、俺がある場所にかくまっているんだ!」
だが伊三郎は叫んだ。
「渡世人は、親兄弟は持たねえ!」

文吉は必死に頼んだ。
「俺を殺したらおめえは生涯、姉と会えねえかもしれねえんだぜ!」
だが伊三郎は頭の上に刀を振りかざして、文吉に向かって振り下ろす。
横たわる文吉。

伊三郎は合羽を羽織り、笠をかぶる。
「伊三郎さん、後の始末は引き受けたぜ」と五郎七が言う。
「なにぶん、よろしくお願いします。いろいろと、ありがとうごぜえやす」。

伊三郎は、おでんと板前の前に行く。
板前が頭を下げる。
おでんに近づくと、伊三郎は自分の鈴を渡す。

それを見たおでんが、にっこりと笑う。
「ごめんなすって」。
おしなが、自分の横を歩いて去る伊三郎を見ている。
立ち上がる。

「おじちゃん」と言って、おでんがかけてくる。
鈴を振り回し、追いかけてくる
おでんが、手を降る。

無心に追う少女、渡世人の悲しみはわからない。
ちなみにこの美少女は、明治の世になって名を知られる「高橋お伝」の幼き頃である。
「たった一人、剣客を倒した年若い渡世人の噂は、遠く、奥州にまで広がっていた」。
「だがその人物の、その後の消息については誰も知らない」。



伊三郎は、松橋登さん。
昔、この方が「笑っていいとも」に呼ばれた時、お客さん全員にいきわたるよう、ペコちゃんが書いてある箱入りミルキーを持ってきたのを覚えています。
家には離れがあり、そこのこたつは野良猫さんたちに解放しているのだとか。
野良猫さんたちを入れたら、集まってしまったので自分は出て行ったと話していたと思います。

「必殺仕事人」では、助成の姿をして人を殺す妖艶な殺し屋なんかも演じました。
テレビ版の「犬神家の一族」にも、ご出演。
佳那晃子さん主演の「妖蝶の棲む館」では、旦那さん役。
改めてみて、美青年だと思いました。

人生、すっかり投げてしまったような渡世人で、恩義のある親分のため、文吉を殺そうとする。
文吉は、田口計さん。
最後にだけ出てきますが、見苦しく命乞いをしてくれて、さすがの存在感。

文吉はおそらく、姉の居場所を最後の切り札にと思っていた。
しかし渡世人は親兄弟を持たねえ!の一言で、バッサリ。
姉を探していると言いつつ、伊三郎は渡世人となった時から、親兄弟との縁は諦めているんですね。
第一、姉の居場所を知る手がかりを自ら斬った伊三郎には、もう姉に会わせる顔はない。

会えるなら会いたいけど、文吉に囲われてしまっているのが本当なら、会えない。
渡世の義理を優先しなければいけない自分にとって、そんな風にしか会えないとするなら、死んだということ。
自分にはもう、そんな資格もない。
勘吉が言うとおり、伊三郎は根っからの渡世人なのでしょう。

だから彼はおでんに、鈴を渡して去っていく。
もう姉には会えない。
自分ももう、生きている意味がない。
彼はもう、何者も顧みない。

五郎七は、織本順吉さん。
最後に裏切ってくれるのかとドキドキしながら見ていましたが、今回はどんでん返しはなく、終わりました。
…と思ったら、最後に鳥肌がたちました。
あの、小さな、かわいらしい少女が…。

後の高橋お伝だったなんて。
おでん、なんて高橋お伝みたいだな、と思ったら…、本当にお伝だった!
高橋お伝に関しては、日本悪女列伝には必ず名前が出ますね。
私が読んだ本では雷お新、高橋お伝、夜嵐お絹と一緒に名前が出てました。

もっとも毒婦ではなく、献身的なかわいそうな女性だったとする説も近年には有力だとか。
毒婦というのは当時、女性に貞節を教えるために明治政府が利用した作り話という説もあるようですね。
いずれにせよ、あの少女が後のお伝であるならば、あのかわいらしい少女はやがて、極刑に処されて人生を終えるのです。
これを見た後では、おでんの心にはずっと、あの伊三郎がずっといたような気がします。

これで「峠シリーズ」は、終わりです。
渡世人として生きることをを選んだ、寄る辺のない男たち。
腕一本、自分を頼りにし、自分の信念をよりどころにして生きていく男たち。
その男気と悲しみが漂う、いい男たちが見られる良いドラマでした。

初めは確かにこの峠シリーズで、渡世人たちの中に紋次郎の姿を探してしまうことがありました。
しかしそれも最初だけで、あとはこのすばらしいドラマに、見入ってしまいました。
シリーズを通して最後に語られるナレーションが「この人物のその後は、誰も知らない」でした。
これが最終回にはいっそう、切ない余韻を残して「峠シリーズ」は、終わりです。


スポンサーサイト

Comment













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL