もう、ずっとずっと前に読んだマンガで、作者が誰か、載っていた本は何か。
そんなこともわからないんですが、ストーリーだけは覚えているマンガがあります。
時代劇、それも戦国ものだったからかもしれません。
登場人物の名前もわからない。


戦国の世の、ある国で謀反が起きる。
峠を越す、ナツツバキの大きな樹がある道。
城から落ちのび、逃げる者は必ずこの道を通らねば城下へは降りられない。
追っ手がかかり、当主や側近たちはこのナツツバキの樹の下で討たれる。

だが、奥方と幼い男の子は命だけは助けられた。
男の子は村で、農民の子として暮らす。
青年となった彼は、峠の道で恋人となった村の少女にいつか父親の仇を討ち、あの城に帰ると語る。
幾多の者の血を吸った、ナツツバキの樹。

着々と腕を磨いた青年は、かつての家来たちとともに兵を挙げた。
そして無事、親の仇を討ち、城を奪還した。
だが彼は当主の奥方や幼い子供までも、許しはしなかった。

生きていれば、自分のように親の仇をとろうとするはずだ。
女子供まで処刑した今度のお館さまは、ずいぶんと残酷だ。
庶民はそう、噂した。

お館さまとなった青年は、城にあの娘を呼び寄せ、奥方にする。
冷たい権力者となったお館さまに、かつての側近の1人・十兵衛(とでもしておこう)が忠告をする。
聞き入れないお館さまに、十兵衛は言う。

前の当主をずいぶんと恨んでいるが、あなたのお父上だって、あの方と同じように謀反を起こしてこの城を手に入れたのです、と。
あなたが民百姓に慕われる当主にならない限り、謀反は続きます。
これが、戦国の世の習いです。
そしてみんな、あのナツツバキの樹の下で追いつかれ、斬られるのです。

怒り狂ったお館さまは、十兵衛を命だけは助けるが追い出す。
奥方はそんなお館さまを嘆いた。
十兵衛は武士を捨て、村で百姓として暮らす。

やがて奥方は、男の子を産んだ。
太郎丸と名付けられたその子供を、奥方は「太郎」と呼び、野山で遊ばせ、のびのびと育てた。
そんな奥方の教育を、お館さまは苦々しく思う。

なぜ、武家の子供らしく育てない。
なぜ、百姓の真似ごとなど覚えさせるのだ。
しかし、奥方は語らず、だが、頑として自分の方針を曲げなかった。

彼女の真意は、ある夜、明らかになった。
謀反が起きたのだ。
本丸に火の手が迫る。

お館さまに、十兵衛の言葉が蘇る。
これが戦国の世の習いです。
奥方は、落ちのびようと言う。

百姓として、平和に暮らしましょう。
私はその為に、太郎丸を今日まで武士の子らしく育てなかったのです。
何もかも、自分の愚かさも悟ったお館さまは、奥方に太郎を頼むと言って天守閣に赴く。
その笑顔は、彼女が愛した青年のものだった。

太郎丸を連れて、奥方は逃げる。
城から落ちのびる者は、必ず、ナツツバキの大きな樹のある道を通る。
追っ手は、馬で追ってくるだろう。

つかまるのは、時間の問題だ。
以前の当主の女子供まで殺したやり方から、自分たち親子も助からないだろう。
奥方は、太郎に言った。

この道を下っていって、ふもとの村に行きなさい。
そこで十兵衛という人を訪ねるのです。
十兵衛さんと一緒に田畑を耕し、みんなと仲良く、笑って暮らしなさい。
そう言って、奥方は太郎を行かせた。

太郎が見えなくなると、奥方はナツツバキの樹に向かって言う。
幾多の者の血を吸ってきた、ナツツバキの花よ。
お前に最後の、私の血を差し上げます。
だからどうか、太郎丸を無事に村まで行かせてください。

奥方はそう言うと、ナツツバキの樹の下で自害した。
薄れ行く脳裏に、お館さまと幸せに野山を駆け巡った思い出が蘇る。
やがて、追っ手がやってきた。
この道を下って、子供をとらえろ!

その時、一陣の風が吹いた。
ナツツバキの樹は、一斉にその花を散らせた。
花の嵐となった中で、追っ手は視界を失い、崖から次々と転落していった。
後から来た追っ手も、花嵐の勢いに追撃を諦めるしかなかった。

…囲炉裏端で、子供が父親の膝に頭を乗せ、眠り込んでいる。
太郎、太郎。
父親が子供の名前を呼ぶ。

呼ばれた太郎は、目をこすりながら「うーん」と言って目を開けた。
「お父。お父の話は長くて、眠くなっちまっただ。続きは明日にしてくれろ」。
そう言って、太郎は眠り始めた。

父親は眠る太郎を見て言う。
「続きか。続きはもう、ない…」。
その顔には年齢を重ねていたが、十兵衛の面影があった。



子供の頃読んだのですが、戦国もの、伝奇ものとしてうまくできていたと思います。
ナツツバキの樹に託して、自分は自害してしまうというのはあまりに危険な気がしないでもないです。
本来なら、当主とともに自害するからなのか。
いや、みんな逃げて、あの場所で斬られる。
だからたぶん、助からないと思っていたのでしょう。

それだけ、あのナツツバキの樹の下でみんな、斬られてしまっていた。
ナツツバキの樹は人の血を吸って、大きくなったかのように見事な花をつける。
そんな描写もあったかもしれません。

でも別にナツツバキの樹が、人の血をのぞんでるわけじゃない。
実際は、あの峠の道がきつかったんでしょうかね。
その辺りが、力尽きる距離なんでしょうか。
哀しい話です。

奥方の真意は、読んでるこちらにはだいたいわかる。
お館さまだけが、わかんないんですね。
ある夜、やっぱり謀反が起きる。

そしてナツツバキの樹が、まるで奥方の血を吸って願いを聞き入れたかのように花嵐を降らせる。
追っ手の追撃を諦めさせる。
ドラマチックな展開。

最後に全ては語られた昔話だった…とわかる。
だが呼ばれた子供の名前が、太郎。
そして父親の顔は、あの家来。

ああ、太郎は無事、十兵衛の家にたどりついたのだ。
十兵衛を父親と認識して、大きくなったんだ。
小さかったから母親のことも、本当の父親のことも覚えていないのか。
追っ手は太郎を、どうせ生き延びられないと思って、その後も追わなかったのか。

それならそれでいい。
戦国の世は、終わったのか。
太郎は百姓の子供として、母親の言うとおり、平和に笑って暮らしているらしい。
それでいい。


今となっては、タイトルも作者も調べようがありません。
覚えているのが、ナツツバキの樹とセリフだけでは…。
なぜ、他のところを覚えておかないのか!
ほんとに、私の記憶力はくだらない記憶力なのだった。


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2013.09.18 / Top↑
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