すごく以前に見たドラマで、怖くて、多少トラウマっぽくなったドラマ。
そのドラマを改めて見る機会がありました。
ドラマのタイトルは「帝銀事件」。
1980年に初放送されたらしい。

実際に起きた「帝銀事件」を、松本清張氏が追った原作のドラマ化です。
何が怖かったかというと、最初のシーンからして怖かった。
アメリカ軍兵士と思われる男が2人、立ち入り禁止区域から堂々と出てきて、USAと書かれたジープに乗る。
ジープが走り去ると、一人の男が立っているのが見えた。

男は長靴に、コート姿だった。
カメラが、男の足元から上がっていく。
男が腕時計を見る。
カメラが男の胸元、そして首まであがる。

顔は…、と思った瞬間、首から上は黒い闇だった。
犯人の顔は、わからない。
その黒をバックに赤字で、「帝銀事件」。
続いて「大量殺人 獄中三十二年の死刑囚」。

ほら、もうこれだけでまだ大人じゃない年齢の子は、ビビっちゃうんですよ。
白黒の画面。
続いて現れるのは、まだアスファルト舗装なんかされていない、ぬかるんで泥がグッチャグチャになっている地面。

そこに立っている2本の足。
つるんとした感じの、長靴を履いている。
長靴の底面が、泥で汚れている。
足は動き出し、泥で長靴の底を汚しながら、「立ち入り禁止」の札が下がっているロープをあげ、中に入っていく。

日本の敗戦を語るナレーション。
原爆が落ちる様子を写したフィルム。
ナレーション「占領下の町には失業者と浮浪児があふれ、伝染病が流行し、餓死者が続出した」。

ここで、ベッドに横たわる人、すっぽりと毛布で覆われている。
もしかしたら死体?
伝染病という言葉が、現実的な怖さを持つような映像。
今日では考えられない、劣悪な環境。

ナレーション「家なき人々、飢えたる民衆」。
そのとおりの映像。
服さえまともに着ていない子供が、大量にどこかに運ばれていく。

焼け跡に寝転がる人。
ガラスのない列車の窓から、列車に乗り込む大量の人々。
これ、日本ですよ。
考えられない。

重苦しい音楽と、白黒のチカチカする衝撃的なフィルム。
ビビる、ビビる。
「これを救うべき政治経済はもちろん、警察力さえ壊滅状態にあった」。

この日、東京は朝、小雪が降ったが、昼ごろにやみ、道路はぬかるんでいた。
午後3時ごろ、質屋を改造した銀行は閉店直後であった。
水溜りが、あちこちにある土の道。

割烹着姿の主婦らしい女性2人と、男はすれ違う。
白黒がどんどん、色を持ってくる。
男の足元の、長靴が茶色い。
この茶色が不吉に映って、覚えていました。

男は銀行の勝手口、本当に普通の家の勝手口のようなところから入り、出てきた支店長代理にこの近所の家で、伝染病が発生したと言う。
伝染病の発生した家にいる人がこの銀行に来たので、後から消毒に来るが、一足早くGHQに言われて自分が来たと説明した。
男が、伝染病が出たと言っても、特別に誰も驚かない。
ここもまた、キョーフ。

男は案内され、銀行に入る。
銀行といっても、小さな事務所。
しかし、札束が積んであるのが見える。
奥には座敷があり、住み込みの人もいて、まるで奥で家族が暮らす商店のような、人が生活している場所であることがわかる。

進駐軍から出た、非常に良く効く予防薬を飲んでくれと男は言う。
台所から、茶碗を集めさせる。
「キッチン」「給湯室」ではない、「台所」。
庶務係の女性は、伝染病が出た家の人間が銀行に来たというのを小耳に挟み、伝票を見たが、その家の人物が書いた伝票はなかった。

男が、スポイトを手にする。
銀行のみんなが、男の慣れた手元を注視する。
茶碗が運ばれてくる。

男が茶碗に、瓶に入っていた液体をスポイトで吸って、分けて入れていく。
カチャカチャという音。
コッチ、コッチと時計の音が響く。

最近、住み込みでやってきた男。
その家族。
前日、厄落としにと川崎大師に行くために上京してきた、その家の娘。
そこにいた人が、居合わせた運命の人たち、みんなが集められた。

男はまず、自分が手本を見せるという。
この薬は大変強いので、歯に触れるとホウロウ質を損傷するので、自分がやるようにして飲んでくれという。
最初に薬を飲んでから、1分して次の薬を飲む。

舌を歯の前に出して、薬を包み、一気にのどの奥に流し込む。
そして次に中和剤を飲むが、これは普通の水のようにして飲んでください。
男がやってみせる。
見ていた子供が、同じように舌を出す。

みんな、茶碗を手にする。
説明していた男の首に近い場所に、えぐられたような小さな傷があるのが見える。
どうぞ。
男に言われて、薬を飲んだ人々が苦しそうに咳を始める。

だが男は、じっと腕時計を見ている。
先を争って人々は茶碗を出し、瓶から液体の中和剤を入れてもらい、次々飲み干す。
うがいしてもいいですね?
水を飲んでもいいですか?

そう言うとみんな、走って、水道のある場所に急ぐ。
のどを押さえている。
しかし次々と苦しそうに胸を押さえ、うがいをしながらも倒れだす。

口を抑える人。
あちこちで、いや、全員がうめいている。
壁に向かって、両手を伸ばし、倒れる人。
ぐったりと顔を横に向け、液体を吐き出す。

座敷に上がる人々。
目的があるのではない。
苦しくて、苦しくて、もがいているから、先に進んでいる。

子供の肩を抱いていた女性が子供から手を離して、のどを押さえ、倒れる。
その前に、子供が倒れて転がる。
子供につまづきながら、男性が前のめりになり、倒れる。
誰もが人のことを構えない。

みんなが、苦しくて、のたうっている。
もがきながら、コタツにむかって倒れる女性。
たたみの上に子供の本があるが、もがきながらその本に触れる。
そして倒れ、口をあけると緑色の液体がこぼれ、女性は動かなくなる。

苦しみながら、畳をはいずる人。
床に倒れる人。
コタツの周りの人は、もう動かない。
座敷にいる人は体をくの字に曲げ、悶絶している。

廊下にも、何人もが倒れている。
事務所にまで歩いていき、倒れる人もいる。
女性がはいずり、つかまって立ち上がったと思うと、液体を口から流しながら後ろに倒れる。

それらを男はじっと、座ってみている。
誰も動かなくなると、男は立ち上がり、札束を雑のうに入れて、立ち去る。
茶碗が残されている。
動くものがなくなった事務所に、時計の音が響いている。

やがて、一人の女性がはいずりながら、廊下に出る。
事務所から六畳間まで張って、失神したらしい。
気がついたのは、40分ほど経ってからだった。

歯を食いしばり、手を前に伸ばし、助けを求める。
家からはいずり出ると、通りかかった2人の女性が見つけ、「どうしたの」と言う。
女性たちは派出所と、商店主を呼びに走る。

駆けつけた警官と商店主にうめきながら女性は、中にまだ、と言う。
警官と商店主は中に入り、廊下や座敷に転がっている人、人、人を見て、呆然とする。
救急車が故障していて、よその地域から呼んだので、到着するのが遅れた。

6人は病院に運ばれたが、10人はすでに死亡していた。
駆けつけた家族、無秩序な報道陣、野次馬で現場はめちゃくちゃになる。
信じられないことが、普通の時代だった。

6人のうち、2人が病院で死亡し、生存者は4名となる。
刑事が到着したのは、6時過ぎだった。
苦しむ生存者を押さえつけ、医師は中和剤をチューブで流し込む。

現場検証は7時半に始まり、9時20分に終わった。
監察した医師には青酸中毒死だとわかったが、発見当初は殺人ではなく、何かの中毒と思った。
いろんな人が3つの出入り口で多く、出入りし、たたみも床も泥だらけにしてしまった。

指紋採取、および盗られた金額の確定は翌日になった。
それが重大なミスとなった。
犯人が持ってきた名刺は、なかった。
湯飲みも犯人が使ったものは、なかった。

翌日、現場検証が終わった頃だった。
別の銀行の表に、犯人は立っていた。
奪われた小切手を現金化したのだ。
当日にこの小切手のことがわかって手配されていたなら、犯人は捕まったのだった…。


も~お、怖い。
怖い怖い。
人々が倒れていく様子が、あまりにも日常の風景の中にあって怖い。

誰もが苦しくて、ただ苦しくて、前に進んでいるだけ。
人のことが構えず、さっきまで過ごしていた日常生活の風景の中に倒れていく。
この様子がひたすら、怖い。
でも刑事さんたちが浜田寅彦さんとか、稲葉義男さんとか悪役さんたちなのがちょっと楽しい。


さて、事件の一週間前、別の銀行に50歳ほどの紳士が現れ、医学博士であり東京都の衛星係と書かれた名刺を出していた。
帝銀と同じ、近所に伝染病が出たと言った。
男は、今日は現送がありましたかと専門用語を使った。
現金輸送のことだが、支店長はやや、不審を抱いた。

男の顔は、やはり柱にさえぎられてこちらには見えない。
当日、外部から小為替預金があったことがわかり、男は消毒をすると言うが、支店長は小為替1枚で店全体の消毒などされたらたまらないと抗議した。
そのため、男は小為替1枚に、雑のうから出した瓶の液体をふりかけ、これでいいでしょうと言って出て行く。

MPがやかましく言ったら、また来る。
言わなかったら、これで済んだものと思って結構です。
男はそう言った。

黒味がかった、ねずみ色のオーヴァー。
三つ揃えのスーツ。
ソフト帽子をかぶっていて、頭は五分刈りで白髪が混じっていた。

警察が調べていくと、4ヶ月前、別の銀行でも同じことがあった。
このときの男は、厚生省の名刺を持っていた。
水害地で伝染病が出て、そこから来た親子連れからまた伝染病が発生した。
そしてこの親子は、この地域から来て、この銀行に来ていた。

男は、GHQの少尉の名前を言った。
オールメンバー、オールルーム、オールマネー、オールキャッシュを消毒しなければならない。
だが支店長は慎重だった。
こっそり一人を交番に行かせた。

交番の巡査がやってきて、男にこの界隈で伝染病は発生していないと言うが、男はそんなはずはないと言った。
3丁目のマーケットに進駐軍の消毒車が来ているとしっかりした口調で言うので、巡査は再び調べに行く。
男は予防薬を飲まなければならないと言って、茶碗を集めさせた。
やはり、男の顔は柱などにさえぎられてこちらからは見えない。

そして、同じようにスポイトで、液体の薬を分け入れた。
行員の全員が飲む。
同じやり方だった。
違いは、ここでは誰も倒れなかったことだ。

巡査が戻ってくると思い、毒物の量を加減したのだろうか。
もうそろそろ、消毒班が来るのだが、遅いから見てきましょう。
男はそう言って出て行くが、戻ってこなかった。
もちろん、伝染病はどこにも発生していなかった…。


あとのストーリーは詳しくはまたの機会にしますが、これ、なんで、怖いのに見たんだろう?
それは多分、横溝正史の「悪魔が来たりて笛を吹く」に「天銀堂事件」という、明らかにこの事件をモデルにした事件が出てきたからでしょう。
逮捕された人に対しての警察の取り調べも、今からでは考えられない強引な方法でやったと描写しています。
裁判になり、逮捕された人が最後に死刑を宣告されるところまで、ずーっと怖い。

判決の後、暗い中から、逮捕された人が描いた自画像が近づいてくるのも怖い。
判決が出てこの人は、絞首台がある刑務所に移されたが、歴代の法務大臣が25年間、獄中生活32年の間、誰も刑を執行しなかったとナレーションが流れる。
自画像の目がクローズアップされ、おどろおどろしい音楽が流れ、キャストが流れていく。
最初から最後まで、恐怖の中、ドラマは終わったのでした。

今見ると、興味深い内容なんですね…。
ビビってたからわからなかったです。
しかしこの、終戦直後、昭和の描写は今やろうとしてもできない迫力とリアルさです。

3連休に、自分としては怖い、こんな怖い記事を書いてしまいました~。
今書いてても、ちょっとビビってます。
へたれ。


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2013.09.16 / Top↑
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