第7話、「無惨!乙女肌魔性剣 三島の巻」。

臥竜軒という、山に住み着いた流れ者が親の仇と斬りかかって来た武士を木刀でたたき殺した。
そこに子犬が迷い込んだが、居合わせた男も飼い主の少女を抑えるしかできない。
子犬はたたき殺される…。

そう思った時、狂四郎が子犬を拾い上げる。
子供が駆け寄ってくる。
狂四郎は子犬を渡してやりながら「さあ、早く行くがいい」と言った。

「ありがとうございました」と従者は頭を下げ、子供をつれて去っていく。
何事もなかったように狂四郎が去る。
後には、狂四郎をにらみつけている臥竜軒だけが残った。

にわか雨にあった狂四郎は、一軒の道場の戸をたたいた。
女性が応対に出てきて、ここは修行のための道場と言った。
狂四郎は雨宿りをさせてもらうことにした。

そこは白装束の巫女のような女性ばかりで、経を唱えている。
経がこだまする中、香が焚かれる。
女性たちはみな、口と鼻を紙で覆っていた。
狂四郎が寝込む。

その時、一人の女性が狂四郎を押さえつける。
経を唱えていた女性の一人が、「眠狂四郎、よく聞け!我らはそおぬしに討たれし、薩摩隠密党の所縁の者どもなる!その仇を討ちに国表から参った」と言う。
だが眠っていたはずの狂四郎は、女性の刃を持つ手を押さえた。

「あの眠り薬が効かぬとは!」
「こやつ、魔性のものか!」
「毒を制すには薬がある」。
狂四郎は道しるべに細工があるのを承知で、ここに来たのだった。

あきらめて国元へ帰れと言う狂四郎に、仇を討たなければ帰らないと女性たちは言う。
「仇呼ばわりは迷惑だ」。
「数知れぬものたちを殺めてきた私だ。おぬしたちの縁者を斬ったかもしれぬ。だがいずれも尋常の立合い、または卑劣な手だてをもって襲ってきた者たちだ」。
「問答無用。お前の首を手みやげに夫の元へ参るのだ!」

「おぬしたち、よほど性質の悪い死霊に取り憑かれているとみえるな」。
女性たちは、一斉に襲ってくる。
「いかづちに打たれて悪霊を払うがいい」。

そう言うと狂四郎は天井に向かって、女性から奪った刀を天井に投げて突き刺した。
すると刀めがけて、雷が落ちた。
女性たちは悲鳴をあげ、倒れる。
静かになった道場の中、狂四郎は立ち上がる。

山の中、須磨という女性が木に下げた棒を打ち、剣術の稽古をしている。
村の長のところに立ち寄った狂四郎は、先日助けた子供に付き添っていた男に会う。
男の名は作三といって、須磨の従者だった。
須磨は狂四郎に剣の教えを請い、立会いを望む。

しかし狂四郎は「断る」と言った。
「女の棒振りに付き合う酔狂は持ち合わせておらぬ」と言った。
須磨は「無礼な!」と怒った。

その頃、先ほどの狂四郎を襲った女性たちが互いに殺しあっていた。
「薩摩隼人の血を引くわれら。戦いに敗れたうえは、潔く自ら命を絶つべきなのだ。何で生き恥をさらしょうぞ」。
そう言う女性に、「何のために死なねばならぬのですか!」と片方の女性たちは言う。

「狂四郎という男。藩の方々が言うような卑劣なものとは思われませぬ!」
「私たちはだまされていたのです!」
「黙れ黙れ!」

「男たちは尋常な勝負を挑んで、敗れて死んだのです。恨みなどありません。これ以上、死んだ兄に縛られるのは嫌です!」
「言うな卑怯者!」
そう言った女性が二人、襲い掛かった女性たちを斬り、逃げた。
後から藩士たちが来て、逃げた女性を追う。

藩士2人は、山の中で臥竜軒と遭遇した。
臥竜軒の腕を見た2人は、女2人を追っているが、捕まえるのに協力したら、好きなようにしていいと言った。
だが臥竜軒は、腕を磨くこと以外、女には興味がないと言う。

藩士たちは黒い着流しの浪人も見なかったか、と聞く。
臥竜軒はそいつは強いのか、と興味を示した。
眠狂四郎、円月殺法という言葉を臥竜軒は心に刻む。

やがて2人の女性は見つかってしまった。
命乞いもむなしく、2人は斬られてしまった。
1人は崖下に転落し、流れ着いたところを稽古を終えた須磨が見つけた。

宿場町で、臥竜軒の話をしていた藩士に、ふと、町の者がその名前に耳に留めてしまった。
藩士たちの反応に、あわてて父親が言う。
臥竜軒というのは3年前、ふらっとここに来た男だ。

神社の奉納試合に出場し、並み居る武士たちを叩きのめして、勝ってしまった。
以来、誰も臥竜軒を倒すことができないのだと言う。
藩士たちは臥竜軒に興味を持つ。

その頃、須磨は流れ着いた女性を看病していた。
うわごとのように、女性がつぶやく。
「勝手に死んでいった男たちのために、なぜ…。女が死なねばならぬのですか。なぜ…。なぜ…。死にたくない」。

女性の頬を、涙が伝う。
須磨も「ダメ!しんじゃダメ!」と叫ぶ。
「生きたい。生きたい…、生きたい…」。
つぶやきながら、女性は息を引き取った。

村長に狂四郎は須磨の父親の話を聞いた。
須磨の父親は、奉納試合で臥竜軒と対決した。
壮絶なる試合だったが、臥竜軒が力勝ちした。

この試合の後、須磨の父親は剣の指南役を辞め、道場もたたんだ。
そしてこの山奥に須磨を連れてこもり、ひたすら剣の修行に励んだ。
やがて無理がたたり、須磨の父親は床に伏した。

父親は死の床から、須磨を呼んで言った。
「臥竜軒を破るまでは、わしは死ねん。死んでも死にきれん」。
「須磨!わしに代わって、臥竜軒を。頼む。頼むぞ須磨。わしの、代わりに」。
そう言って、父親は息を引き取った。

それ以来、須磨は髪も着るものも男に変え、剣に打ち込んでいるのだ。
長は狂四郎に、須磨に力を貸してくれるよう頼んだ。
そこに作三が帰ってくる。
作三は、須磨が流れ着いてきた女性を看病したのだが、やっぱり死んでしまった。

そこで埋葬してきたと言う。
女性の姿を尋ねられた作三は、修行僧のようだが、武家ではないかと言った。
狂四郎には、あの女性たちだとわかった。

男の格好をしている須磨と、狂四郎がすれ違う。
「お待ちください」。
「眠さまとは存ぜず、昨日は失礼しました」。

須磨は父親から、狂四郎のことを聞いていたのだ。
改めて指南を願う須磨だが、狂四郎は昨日の素振りを見ていて、臥竜軒にはかなわないと言った。
「女には女の生き方があると思うが」。
「私は女を捨てたのです」。

父親は武芸者として恥辱を晴らすため、修行をして病に倒れた。
どんなにか無念だっただろう。
その無念を託された須磨は、武芸者の娘として、父親の無念を晴らせずして、女の幸せはありえない。

「そなたもここに眠る女と同じく、死霊の呪縛から逃れられぬと見えるな」。
狂四郎はあの女性の墓を前にして、言った。
だが須磨は、臥竜軒を倒す必殺の一撃を教えてほしいと願った。

「己より勝る相手を倒す必殺の一撃など、あろうはずがない。よしんばあったとしても、それを1日か2日で会得するのは到底無理なことだ」。
それでも須磨は食い下がった。
奉納試合まで、あと3日。
「断る。無駄な振る舞いが嫌いな男だ」。

狂四郎は一人、歩いていく。
するとその先に、臥竜軒が待ち受けていた。
会いたかったと言うと、臥竜軒は襲い掛かってきた。

狂四郎は臥竜軒の木刀を、真っ二つにした。
円月殺法を見せろと言った臥竜軒だが、そこに川に洗濯をしに女性たちがやってきた。
女性の声を聞いた臥竜軒は、太刀がふりおろせなくなった。
「くそう、女か!」

臥竜軒は3日後、奉納試合で決着をつけようと言った。
去り際に川のほうを振り向いた臥竜軒の目が、女の素足、腰に釘付けになった。
狂四郎はそれを見ていた。

雨に打たれながら、須磨は狂四郎の眠っている部屋の前で剣の教授を願っていた。
作三は、もう無理ですと言った。
だんな様もきっと、赦してくださるでしょう。
だが須磨は、臥竜軒に一太刀打ち込むことができて、初めて女性として生きていくことができると言った。

作三はそれを聞いて、もうお止めしませんと言った。
お嬢様とどこまでも一緒だと言って、自分も雨の中、座り込む。
戸が開いて、狂四郎が姿を見せた。
「須磨どの。一手、お教えしよう。ただし、尋常な手立てではないゆえ、それでもよろしいか」。

奉納試合の日が来た。
薩摩の藩士も、臥竜軒の腕を見るためにやってきた。
奉納試合は、臥竜軒が勝ち進んでいった。

誰も挑戦者がいないなら、臥竜軒の勝ちだ。
臥竜軒は狂四郎の名を呼び、円月殺法と決着をつけたいと叫んだ。
狂四郎が現れた。

薩摩藩士が飛び出そうとするが、一人が押さえる。
狂四郎は臥竜軒と立ち会う人間は、別にいると言った。
須磨が現れたが、臥竜軒は相手にしない。

だが敵に後ろを見せるのですかと言われ、「たたき殺してやるから覚悟しろ」と向き直った。
作三が、須磨の介添えについた。
臥竜軒が構える。
須磨の後ろには、狂四郎が見守っている。

臥竜軒が打ち込んできた。
その時、作三が須磨の胴着から出ている糸を引いた。
途端に須磨の裸の胸が、あらわになった。

胸だけではない。
足も、全身があらわになる。
臥竜軒が木刀を振り上げたまま、「はっ!」と息を呑んで固まった。
次の瞬間、須磨が打ち込む。

試合は須磨の勝ちに終わった。
拍手が沸き起こる。
「狂四郎の計略だ」と近づいてきた藩士が、臥竜軒に告げた。

その夜、長は狂四郎に礼を言っていた。
これで臥竜軒もこの土地にいられなくなるし、仇討ちもできた。
狂四郎は仇討ちなど意味がない。
だが約束どおり、須磨はが女として生きていくことだと言う。

須磨は髪を結い、かんざしや櫛を身につけていた。
その時、物音がする。
「作三かい?」

だが振り向いた須磨が見たのは、臥竜軒だった。
「無礼をすると許しませんぞ!」
しかし須磨の抵抗などものともせず、臥竜軒は近づいてきた。
須磨の帯を解き、着物をはぐと、近づいてくる。

作三がやってくると、殴り倒して気を失わせる。
須磨はすでに気を失っていた。
その口に臥竜軒は、何かの液体を注ぎ込む。
朝もやの街道を去っていく眠狂四郎に、作三が須磨を奪ったと知らせに来た。

もやに隠れた先に、狂四郎が何かの気配を感じる。
「作三」。
もやが晴れて現れたのは、須磨に抱きつかれた臥竜軒の異様な姿だった。
喜び薬を飲まされた須磨は、まるで臥竜軒を守るようにしがみついていたのだ。

臥竜軒を斬るには、須磨を斬らねばならない。
そして臥竜軒を斬れば、須磨の呪縛を解く解毒剤は手に入らなくなる。
須磨はうっとりとして、臥竜軒にしがみついている。

臥竜軒が笑う。
狂四郎がじっと、須磨を見詰める。
須磨は自分を失っていた。

狂四郎が正宗を抜いた。
ゆっくりと、円月殺法の構えに入る。
頭上で高く正宗をかざすと、下に向け、弧を描いていく。
臥竜軒がじっと見つめる。

弧を描き終わった時、臥竜軒が踏み込む。
瞬時に狂四郎が剣を払い、須磨が息を呑む。
臥竜軒の口からも、血が流れる。

「お嬢様!」
臥竜軒が伏せて倒れ、須磨が仰向けに倒れる。
「何でお嬢様まで斬ったんだ。これじゃお嬢様が、かわいそうだ」。

作三は須磨にかけよると、「お嬢様…、痛かったでしょう」と言った。
狂四郎は、須磨に着物をかけてやった。
「この姿で正気に戻った須磨どのが、生きていられると思うか」。

その言葉を聞いた作三が、「お嬢様あ!」と号泣する。
狂四郎は振り返りもせず、歩いていった…。
地蔵だけが狂四郎を見送っていた。



片岡さんの「眠狂四郎 円月殺法」。
艶っぽいシーンは多いです。
ですが、狂四郎自身はストイックなのです。

だから、これならお茶の間が凍りつくことはないだろうな、と思ってました。
ところが、この第7話は凄かった。
でもおもしろいですよ。

臥竜軒という、山に住み着いた流れ者。
毛皮のベストを身につけ、荒縄で着物を縛っている野獣のような男。
粗暴で無学で無法で、人々をおびえさせる。
こんな男に負けた誇り高い武士は、すべてを捨てざるを得なかった。

しかし老いて病に倒れた武士は、娘の須磨にこの男を倒す願いを託し、死んでしまった。
託された娘の須磨は髪もかんざしひとつつけず、女性であることを捨てて、剣の修行に励む。
仇討ちなどやめて、女性としての幸せを求めろと狂四郎は指南を断る。
薩摩の刺客の身内の女性たちにも、狂四郎は仇討ちなどやめて幸せに生きろと言って、殺さずに去る。

臥竜軒は、小林稔持さん。
いや、いまや渋い俳優さんとして、活躍している小林さんが、いろんな役をやっていたのは知っています。
ついこの間見た「大都会Part2」で、最後には情けない声で命乞いをする爆弾魔をやってました。

でもこれはすごい。
目が点!
ふんどしひとつで現れた臥竜軒には、なんと、腰巻一枚になった須磨がしがみついて離れない。
臥竜軒が言うには、惚れ薬を飲ませて意思を奪ったそうで、須磨がうっとり頬を寄せながらしがみついている。

自分を斬るなら、須磨も斬らなければならない。
できるかな、眠狂四郎!ってわけで、その前にその不自然な状態で、刀が振るえるのか、臥竜軒!
女性を楯にしようという発想は、わかる。

だけど、何でそれなんだ。
女性との接触を絶っていたが、実は女性が嫌いなわけじゃないことを見抜かれ、その弱点を突かれ、おかしくなったっていうのもわかる。
でも、何でそれなんだ。

冷静に見るとですね、これ、しがみつかれている臥竜軒こと稔持さんの首も相当痛いと思う。
須磨の体を支えるだけで、大変だと思う。
それで、しがみついている須磨さんも、相当苦しいと思う。
さらにこれをまじめにやっている2人を見ると、俳優さんって、ほんと、すごいと思う。

薩摩の女性たちに対して、狂四郎がやる技も凄い。
正宗を天井に刺すと、そこめがけて落雷するんですよ。
眠り薬が効かなかった狂四郎を女性たちが、「魔性の者か!」と言うけど、こっちの方が妖術の世界。

しかし危ないっ。
落雷の半径500mでエアコンがやられた私は、同じ部屋なんかに落ちたら無事ではすまないことを知っている!
でもとにかく、数人の女性たちは薩摩の呪縛から解けた。
しかし解けない人もいたから悲劇は起こる。

全員自害するべきという女性と、死んだ者に縛られて死ぬのはたくさんと目が覚めた女性で、殺し合いになってしまう。
いい加減な私なんかから見ると、人は人でいいじゃないか、ほっといてやれと思ってしまう。
自分はこうだけど、相手がそうじゃないから何も強制することはない。
黙って、違う道を行けばいいだけじゃないか…、ってわけにいかないのが、この時代なのか。

このエピソード、実はとんでもないように見えて、須磨の悲劇の伏線になっているんですね。
死んだ者に縛られて、幸せを捨てることになる。
果ては、死ななくてはならなくなる、その伏線。

死霊の呪縛と、狂四郎は言う。
須磨の悲劇は、臥竜軒が自分との立合いを望んだからだと、狂四郎は自分のせいだと思ったかもしれない。
でもそうじゃない。

結局は、須磨も薩摩の女性と同じ、父親の執念。
死霊の呪縛から逃れられなかった。
そこから開放してやりたかったのに、女性たちも、須磨も誰も助からなかった。

女性として幸せになるために、狂四郎は協力したのに。
この救いのなさ。
一見、とんでもないように見えて、この回はとても哀しいラストなんですね。

非情に見える狂四郎の剣は、実は須磨に対しての慈悲なのだった。
またひとつ、斬りたくない人を斬ってしまった。
無想正宗が血を吸い、哀しみをまたひとつ、身にまとって狂四郎の姿は遠ざかっていくのでした。


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2013.11.23 / Top↑
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