傘張りを始めた久太郎。
心の声「バカにしていた傘張りだが、いざ始めてみるとなかなか侮れない仕事だ」。
「集中力が要るのは、まさに剣術の稽古にも通じるところあり」。
傘の骨に、緩まないよう、まっすぐに久太郎は糊をつけ、紙を張っていく。

「さらに問われるのは、美しさを追求する美的感覚」。
傘の骨に、丁寧に張った紙を点検する久太郎。
「意外にもこれは、武士にふさわしい儀とかもしれない」。

久太郎は、綺麗に傘を張っていく。
「何より俺は…」。
久太郎は、傘を開いて見る。
「筋がいい」。

久太郎は満足そうにうなづくと木刀を持ち、庭で稽古を始める。
それを玉之丞が、じっと見ている。
やがて玉之丞が、動き出す。
傘の下に入る。

久太郎が素振りをはじめた途端、すごい音がして部屋で傘が舞った。
息を切らせて久太郎が入ってくる。
ひとつひとつ、傘を点検する。
玉之丞が、傘を敷いて座っている。

しばらくして、久太郎の部屋では傘がつってあった。
そして久太郎は、再び素振りを始める。
玉之丞が部屋を歩く。

バタバタバタ!
音がして、つってある傘が落ちる。
久太郎はため息をつく。
玉之丞は、傘の上に座っている。

久太郎は玉之丞を連れて、猫見屋にいた。
「動物を飼うって、難しいものだな」。
久太郎の言葉にお七は「猫ちゃんは家族よ」と反論した。

その時、「ちと邪魔をするぞ。南町奉行所の石渡だ」と言って、同心の石渡と岡引が入ってきた。
「江戸の町にこんな店があったとはな、知らなかったな」。
久太郎がすっと、下を向く。

十手を振り回す石渡にお七は玉之丞を抱きながら、「小さな店ですから」と言った。
「猫のことなら何でもお任せかい?知ってるかい、加賀屋の玉之丞」と岡引が聞く。
「いえ、あいにく」。

「何だ、知らねえのか。猫見屋のくせに。玉之丞を斬った犯人を捜してるんだ」と岡引が言う。
「まあ、そんなことが」。
「心当たりはねえか。噂とか、似たような事件があったとかでもいい」。
「うちは猫好きな人しか集まりませんからね。猫を斬るだなんて、なんておそろしい」。

すると石渡は、十手を担ぎながら、「目星がつけば、こっちのもんだ。俺の水責めに耐えたもんは一人もいねえからな」と言った。
そして、十手の先で玉之丞を触りながら「その猫は」と聞いた。
お七はさりげなく、十手の先を押しのけながら、「この子はユキ。子猫のころからうちにいる大事な看板娘」と答えた。

石渡は今度は、座っている久太郎に目をつけた。
「お前は何だ」。
お七が代わって「猫好きのお侍さんです」と答える。
岡引が「猫好きか。猫のほうが怖がりそうな顔だけどな」と言う。

「どこかで会ったことがあったかな?」
石渡の言葉に久太郎が「いや」とだけ答える。
「記憶違いか」。

岡引が「こんな貧乏くさい浪人、江戸には五万といますよ」と言った。
「まあいいや。何かわかったら知らせるんだぜ。邪魔したな」。
石渡たちが出て行くと、お七が戸を閉める。

「どうして俺をかばった」。
久太郎の言葉に笑いながらお七は「あなたをかばったんじゃないわよ。この子のため!あんなやつになんて、渡せないわよ」と言った。
「それにあなた、一生懸命だったからさ」。
うつむく久太郎を見たお七は「何か事情がありそうね」と言う。

久太郎が猫見屋から、風呂敷包みを手に出て来た。
少し歩いた角から、石渡が出てきた。
「中を見せてもらう」。

石渡の言葉で、岡引が風呂敷を取り上げて開ける。
魚籠がある。
「空っぽです」。

「行け」と石渡が言う。
風呂敷を持ち、久太郎が去っていく。
胡散臭そうに石渡は、見送った。
誰もいなくなると猫見屋の戸が開き、お七が何かを抱えて小走りに去る。

お七はある寺に、久太郎を連れて行った。
ここの住職は、身寄りのない猫を引き取って面倒を見ていると言う。
お七は寺に着くと、籠から玉之丞を出す。

「おおっ」とやってきた住職が言う。
「えらい別嬪さんのおでましやなあ~」。
住職の言葉にお七が「ええ~っ?!」と、うれしそうに笑う。
お七の様子に住職が、きょとんとする。

久太郎も、びっくりしてお七を見る。
ハッとしたお七は「あ、は、猫ちゃんのことよね」と我に返った。
久太郎は心の中で思わず言った。
「恥ずかしいやつ」。

「あの、この子を預かっていただきたいんです」。
「そう簡単に持ってこられても、困るんやわ」。
しかしお七がそういうなら、事情があるんだろうと住職は言う。
「命を狙われているんです」。

そしてお七は久太郎を「ほら、あなたからも何か」と突付いた。
「…それ相応の事情が」。
そう言った久太郎は、お七にぱちと肩を叩かれる。

「よろしく頼む」。
久太郎は頭を下げた。
お七も頭を下げる。
住職は、玉之丞を抱っこする。

その時、久太郎の前に石が投げ込まれる。
「やい!何で猫捨てんねん!」
子供がそう言って、立っていた。
住職が「やめなさい!」と言う。

「どアホ!」
子供が叫んで、逃げていく。
「失礼なことを言いまして、ほんますいません」。
「住職、あの子は?」とお七が聞く。

「照松言いまして、今、寺で預かってるんですが、いやあこれがもう、なかなかやんちゃな子で私も手を焼いているんどすわ」。
その時、また小石が久太郎の手に当たる。
久太郎が顔をしかめる。
「あほんだら!」と、照松が叫ぶ。

「こら、照松!待ちなさい。ちゃんと謝りなさい!」
住職が追いかけていく。
お七が言う。
「この寺はね、お情け寺って呼ばれてるの。猫ちゃんだけじゃなくて、赤ん坊を親が渡すこともあるんだって。あの子もきっとそうだと思う」。

帰り道、久太郎は暗かった。
若菜が、いつものように、どにゃつぼうを売っていた。
久太郎を見た若菜は「あ!お侍さん!いいとこに来た。今日はもう、全然売れなくて困ってんの。こんなにかわいいのに」と、どなつぼうを取り上げた。

若菜が取り上げたどなつぼうを、久太郎がじっと見る。
猫の顔の形の、どなつぼう。
「ねえねえ買って。お願いだにゃん」。

「いくら?」
「やったあ!一個4文になります」。
久太郎は、黙って金を渡す。

「どうした?なんかあった?」
久太郎はそれには答えず、どなつぼうをひとつ、ひったくるように取って去っていく。
若菜が、様子のおかしい久太郎を見送る。

部屋に戻った久太郎は、傘を片付ける。
どなつぼうを、懐から出す。
「こんなことをしている場合ではない。俺は剣の道でしか生きられない男だ」。

そうつぶやいて、素振りを始める。
再び、内藤の家に向かう。
戸を叩く。
「頼もう」。

出てきた門番は「内藤様は今日も留守です。明日もあさっても、しあさっても!」
「お目通り願うまで待たせてもらおう」。
「どうぞご勝手に!」
戸が閉まる。

久太郎が待つ。
セミの声がする。
やがて、セミの声の種類が変わる。

久太郎が立っている。
やがて、ヒグラシが鳴き始める。
すると戸が開いて、内藤が出てくる。

「いつまで待っても無駄だ」。
「上の者に話すと、おぬし言うたではないか」。
「追い返すための口実よ。今は太平のご時世。何を斬ると言う。いまどき、剣の腕だけで雇う藩などない」。

久太郎は内藤の顔を見ると「お前…、変わったな」と言った。
「時代が変わったんだ。ま、そういうことだ」。
目の前で、戸が閉まった。
久太郎の顔がゆがむ。

夜になった。
久太郎は長屋で、床についていた。
思い出がよみがえる。

妻が言った。
「今日、お城からお達しがありました。明日から登城ならぬとあります」。
書状によると、久太郎は罷免されていた。

「お城で何があったのですか」。
久太郎は、壁に向かった机の前で、黙っていた。
「どうして何も話してくれないのですか」。

「…」。
久太郎は、机に向かっている。
やがて、重い口を開いた。
「江戸へ…」。

そう言うと立ち上がり、妻の前に座った。
「江戸へ行こうと思っている」。
「江戸?私たちは連れて行ってもらえないのですね」。

「…」。
「しばらくは、狭い長屋暮らしだ」。
「無様な姿は、見せたくないとおっしゃるのですか。でも私たちは、家族ではないですか。一緒になった時から、わたくしの覚悟は決まっておりました。どんなことがあっても、あなたを信じてついていくと」。
「でも今、あなたを信じる心に自信が持てない」と妻は言った。

久太郎はただ、黙っていた。
「どんな時も、ともに乗り越えるのが、家族ではないですか」。
久太郎は頭を上げた。

玉之丞がいた押入れを見上げる。
押入れは戸が開いていた。
しかし、中はがらんどうだった。
久太郎は、思わず辺りを見回す。

朝が来た。
無人の江戸の町を、久太郎が一人歩く。
高札が立てられていた。
玉之丞殺しの高札だった。

久太郎は、すらりと剣を抜いた。
そのまま、久太郎の剣がなめらかに弧を描く。
久太郎が、刀を納める。
からんと音がして、高札が落ちる。

人々が、落ちた高札の周りに集まっている。
「どいたどいた!こりゃひでえ」と岡引が走って来る。
「ひでえことしやがる」。

それを見た石渡は「宣戦布告か」と言った。
石渡は、楽しそうだった。
岡引も笑みを浮かべた。

久太郎は、昨日の寺に来た。
玉之丞を抱いた照松ともう一人、女の子がいた。
久太郎を見た照松が「やっぱり来たか」と言った。

子供が玉之丞を持ち上げた。
「キッと来ると思ってた。こいつ、ずっと何も食べようとせえへん。お侍さんとこがええんやて」。
「人は見かけで判断でけへんなあ」。
住職の声がした。

「顔が鬼でも情け深い人がおる」。
久太郎の心の声「余計なお世話だ」。
「よう戻らはった」。

住職は玉之丞に向かって「お前さんは幸せもんやなあ」と言った。
にゃー、と玉之丞が答えた。
「お互いもう、離れられへんのや」。

「縁ちゅうもんは不思議なもんで、一度結びついたらもう、なかったことにはできへん。人も猫も同じ」。
にゃん、と再び、玉之丞が答えた。
「後は、とことんつきおうてみるこっちゃ」。
にゃーんと、玉之丞が鳴いた。

「ああ、でも、それは幸せなことやで」。
照松が「仲良う暮らしや」と言って、抱いていた玉之丞を久太郎に渡す。
久太郎が大事そうに、玉之丞を抱く。
そして、玉之丞の顔を見る。

いたらいた いなきゃいないで胸騒ぎ さらば孤独と静けさの日々



ああ~、じんと来ました。
前回の予告で「覚悟の一太刀」とありましたが、まさに覚悟の一太刀。
石渡もうすうす、久太郎だと気づいている。

そこであの行為。
危険だ。
石渡もまさに、「宣戦布告」と受け取っている。

「猫ちゃんは家族」に「めんどくせえええ」だった久太郎。
たかが猫だろ、と思っていた久太郎。
窮地に陥った時、「どんな時もともに乗り越えるのが、家族ではないですか」と泣かれた久太郎。

それでも家族には、うまく言葉が出なかった。
結果、家族が崩壊しそうになった。
だから久太郎は一人、孤独の道を選んだ。

玉之丞が好きなどなつぼうを思わず、買う。
でも玉之丞がいない。
寂しい。
その寂しさ振り切るようにして、仕官しに行った屋敷。

だがそうして信じてきた剣の道、ライバルが変わっていた。
むなしくなった。
自分が信じてきたものって、何だろう?

そう思った久太郎が、玉之丞のいない部屋で初めて、孤独を感じた。
喪失感を感じた。
自分の信じるものって、なんだろう。
大切なものって、なんだろう。

自分をかばったお七は、玉之丞のためだと言った。
寺に置き去りにされたであろう、子供。
猫を捨てるな!という怒り。

剣の道を究める。
これを理由に、家族とのコミュニケーションも、苦手なものからは逃げていた。
そうだ、自分も、家族を捨ててきたんだ…。

久太郎に玉之丞と離れるわけにいかないという気持ちが、わいてきた。
大切なもの。
玉之丞を取り戻し、ともにこの危ない道を乗り越えていこうと決意。

一方の玉之丞も、ご飯も喉に通らずに、久太郎を待っていた。
「やっぱり来た」。
「よう戻りはった」。
ここで戻らなかったら、ほんとに鬼だって。

「人は見かけで判断でけへんなあ。顔が鬼でも情け深い人がおる」。
住職の言葉が、深い。
久太郎の心の声「余計なお世話だ」も楽しい。
「お前さんは幸せもんやなあ」にお返事する玉之丞が、かわいい。

星の数ほどいる中で出会って出会って、家族にさえ、素直になれなかった久太郎が変わる。
上げ膳据え膳、乳母日傘の生活から、長屋暮らしになったのに戻ってくる玉之丞。
「お互いもう、離れられへんのや」の言葉に、ジンと来ました。
「縁ちゅうもんは不思議なもんで、一度結びついたらもう、なかったことにはできへん。人も猫も同じ」ってほんとだと思いました。

「後は、とことんつきおうてみるこっちゃ」。
久太郎のその覚悟が、あの高札斬り。
泣けちゃった。
かっこも良かった。

さて、楽しそうな石渡だけど、玉之丞を殺していない久太郎を知ったら変わるんじゃないか。
でも一応、石渡の水責めを久太郎だけがクリアしちゃう展開なんだろうな。
お七も、若菜も、みんなが玉之丞と久太郎のために動いて、久太郎も変わるんだろうな。
すでに大きく変わったけど。

石渡の横でえらそうな態度の岡引は、虎の威を借る狐といった風。
あれは嫌いな人多いだろうな~。
落ちた高札を見て楽しそうだから、石渡の力を借りてイジワル心を満足させてるといった感じがうまい。

「えらい別嬪さんのおでましやなあ~」。
うれしそうなお七の「ええ~っ?!」「あ、猫ちゃんのことよね」。
久太郎の「恥ずかしいやつ」が、すごいおかしかった。

バカにしていた傘張りだが、侮れなかった。
集中力=剣の道に通じる。
そうか、だから傘張りは浪人ができるのか!
しかも、久太郎は筋がいい、そうでありましょう。

しかし、久太郎が罷免された理由って何でしょう?
涼しい顔をして傘の中に座っている玉之丞が、かわいい。
次回、猫の足跡が傘についちゃっていましたが、あの傘、売れるぞ~。


スポンサーサイト
2013.11.06 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://kotatuneco.blog59.fc2.com/tb.php/2753-d2faf33f