巨匠・手塚治虫氏のライフワークだった「火の鳥」。
壮大な「命」というテーマにそって繰り広げられる物語がおもしろいのはもちろんですが、細かなエピソードにも感動があります。
たとえば、もう最初の頃の「未来編」。

西暦3千年の未来。
人類は後退を始めており、地球もすでに地上は住めない環境になっていた。
政治家は政治をあきらめ、スーパーコンピューターにゆだね、人類はその判断に従って生きていた。

不定形生物のムーピーが化けた女性・タマミに恋した主人公・マサト。
テレパシーを持つムーピーが行う、ムーピーゲームで2人は20世紀のハワイでデートをしている。
だがムーピーゲームは人類を堕落させるとして、それを行うムーピーにも抹殺命令が出ていた。

タマミの存在を知られたマサトは、タマミとともに地上に逃れる。
地上には、猿田博士という男が残り、地球を滅亡から救うため、人工生命を作り出そうとしていた。
マサトとタマミに追っ手がかかる。
猿田博士はドームに近づく敵を撃退するため、保管していたアンドロイドたちに呼びかける。

…このシーンが、印象に残っているんです。
猿田博士がアンドロイドたちに、呼びかける。
「娘たちよ!」

アンドロイドたちの瞳が開く。
「このドームに、敵が近づいておる。出て行って戦え!全員、行くのだ!」
娘たちは隊列を作り、ザッザ、ザッザと行進していく。

その様子を見ていたマサトは、猿田博士の助手のロボット・ロビタに尋ねる。
なぜ、あのアンドロイドは全員、女性なのか?と。
するとロビタは逆に聞いてくる。

「博士の顔をどう思いますか?」
「え?」
「あんな醜い顔の人間がいるとは、不思議です。何度、整形しても良くならないのです」。

博士はその顔のせいで、女性に縁がなかった。
だから博士は、その頭脳を駆使して、アンドロイドを作った。
恋人を、妻を、娘を。
何体も、何体も作った。

「好き好き」。
「愛してる」。
「お父様」。

しかし博士は次第に、アンドロイドがうとましくなってくる。
口だけの愛情など、博士にはむなしいものだった。
壊しても、アンドロイドは自動的に「すきすきすき」と繰り返す。

ついに博士は「見せ掛けだけの愛情などいらぬわ!」と言って、アンドロイドたちから声帯を取り上げた。
そして、彼女たちは外見を作り変えられ、ひっそりと保管されていた。
このアンドロイドたちが、あの女性たちだったのだ。
やがて、砂漠に閃光が閃く。

ロビタが説明する。
「彼女たちが敵と戦って、自爆したのです」。
ピカッ。
ピカッ。

砂漠に次々、閃光が走る。
マサトは聞く。
「彼女たちは、博士を恨んでいないのか?」
「恨む?なぜ?みんな、博士を慕っています」。

閃光が収まった時、辺りは静かになった。
探索機が無機質に知らせる。
周囲に動くものはなく、生存者はいない模様、と。

猿田博士がうつむいている。
ロビタが言う。
「彼女たちは、本当に博士を慕っていました」。
「…わかっておる」。

愛を語らせるために作ったアンドロイドが、プログラムどおりに語る愛にむなしくなり、封印した博士。
アンドロイドで愛情を満たそうとした自分を嫌悪し、彼女たちを見るたびその思いに苦しんだんでしょう。
だが、アンドロイドにも自分を創った博士への愛情は存在した。

機械にも愛情があった。
それが本当に発揮されたのが、最大の危機の時。
敵が迫った時だった。

彼女たちはアンドロイドだから、死を怖れないのは当たり前かもしれない。
しかし博士の問いかけに瞳を開き、声帯をとられているとはいえ、無言で次々外に出て行く。
そして敵を巻き込み、自爆していく。

これ以上の献身はないことは、博士にもわかる。
最後まで、自分のエゴに巻き込んだことも。
罪深さにうつむく博士。

アンドロイドの、そしてタマミのマサトへの最後までの献身。
母性。
「火の鳥」とは、こんな小さな場面も好きなマンガです。


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2013.12.16 / Top↑
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