誰にも渡さない 森瑤子さんの「渚のパーティー」

森瑤子さんという、作家さんがいました。
男女が出会って、やがて別れていく。
その過程に興味があり、自分はそれを描く作家だとおっしゃっていた気がします。
森さんはパーティーをテーマにした短編集を描いていましたが、その中では、サスペンス好きの私は「渚のパーティー」という短編が好きです。


ダイビングのグループのリーダーの男性の恋人と、ペアで潜っていた女性主人公。
リーダーの恋人のタンクが、岩につかえてしまった。
冷静にタンクをはずし、2人で酸素を分け合いながら浮上すれば、助かったかもしれない。
だが、彼女はパニックを起こした。

死に物狂いの力で腕をつかまれた主人公は、彼女のタンクをはずそうとした。
だが、タンクは、はずれなかった。
地上に浮上して、助けを呼びに行くにはもう、酸素が足りなくなっていた。

残された道は、2人で酸素を分け合いながら、救助を待つことだった。
しかしパニックを起こした彼女の酸素は、すでに尽きてしまった。
発見された時、主人公はもう溺死している彼女に一生懸命、酸素を吸わせようとしていた。

恋人を失ったリーダーは、海に潜れなくなった。
リーダーが戻るまで、全員がダイビングをやめていた。
恋人の死に責任があると、主人公は懸命にリーダーを立ち直らせようとした。

彼が海に戻ってこないのは、死んだ恋人のせい。
ならば、自分のせい。
そう言う主人公に、リーダーの心も動いた。

去年の夏は楽しかった。
名実ともに、彼の恋人だった私。
今年の夏は、つまらない…。
なぜなら、彼のそばには新人の真由美がいるから。

ダイビング合宿に行ったけれど、リーダーは真由美のそばにばかりいる。
仲間の1人が言う。
真由美が来て、初めて、かつての恋人が彼の中から消えたんだ。

彼はキミを好きだけど、キミを愛してはいない。
確かにリーダーを立ち直らせたのは、キミだ。
でもそれは、自分たち男と、女性であるキミが、立ち直らせ方が違ったということだ。

だけど、キミがここで真由美と自分とどっちを取るか、リーダーに迫るような修羅場を演じたら、どうなる?
俺たちは仲間としてのキミも失ってしまう。
耐えてくれ。
俺たちは、仲間を失いたくない。

彼女は言う。
大丈夫よ。
彼が愛した人なら、いい人なのよ。
私も愛せると思うわ。

翌朝、彼女はみんなの前で、劇的に交代を発表する。
自分は彼を海に戻すことが、使命だった。
彼は戻ってきてくれた。

「でも正確には、自分が完全にできなかったことを真由美が一ヶ月でやってしまったんです。完全に脱帽。私は喜んで、自分の役目を真由美にバトンタッチします」。
リーダーはそれを聞いて、「俺、彼女が女を上げた分、男を下げてしまったみたいだな」と笑う。
とにかく、自分たちはみんなを失望させないから、見守っていてくれと言った。

主人公は真由美に、そのうち、一緒に潜ろうと誘う。
リーダーは、彼女なら安心だよと言う。
そして、合宿の最終日。

主人公は真由美を、初心者でも大丈夫な易しいスポットがあるから、潜ってみない?と誘う。
真由美はためらいながらも、主人公に押し切られる形で、潜りに行く。
そこは美しく、真由美は来てよかったと微笑む。

主人公も笑う。
透明度が高いから、いつもより深く潜っていても気にならない。
主人公は、岩にしがみつく。

その先には、海流がある。
海流は、岩と岩の隙間に向かって流れている。
真由美は運ばれていく。
主人公は、無表情にそれを見送る。

真由美は流れていく。
岩場の隙間の、細くなっている場所に向かって。
そこからは、抜けられない。
タンクがつかえてしまうのだ。

落ち着いて、タンクをはずし、かかえて泳ぐなら出てこられるだろう。
海流に逆らって、泳ぐ力があれば。
主人公は、10分、待った。
そして地上に浮上し、助けを呼ぶ。

テントを片付けていた男たちが気づいて、タンクを装着しながら走ってくる。
主人公に連れられて、真由美が岩の先にいると知り、驚愕の表情を浮かべる。
1人の男がロープで体を縛り、真由美が流れた先に泳いでいく。

1人が持って待つ。
合図が来て、ロープを引く。
足の先、ふくらはぎ、太もも。
徐々に引っ張られ、体が見えてくる。

そして、腕。
手の先には真由美の足首が、握られている。
真由美が現れる。
すでに溺死している、真由美が。

「事故だった」。
渚で、真由美の遺体を前に、仲間が言う。
あの海流では、初心者は絶対に流される。
彼女が助かったのは、奇跡だ。

リーダーは、声もなく、泣いている。
傷ついた獣のような姿に、耐え切れなくなった仲間が、リーダーを真由美から引き離す。
その途端、彼の視線が主人公を捕らえる。

リーダーの目が、憎悪と疑惑と、確信に満ちている。
彼は気づいた。
主人公の殺人に。

バネのように、リーダーが主人公のところに飛んでいて、首を絞める。
「何をするんだ」。
「狂ったのか」。

仲間がリーダーを抑える。
リーダーは、力なく、仲間に引き立てられていく。
それを見ながら、主人公は思う。

彼を、誰にも渡さないわ。
この1年、一度だって、彼は本当には自分のものではなかった。
彼の心にはいつも、死んだ恋人がいた。

そこから恋人を消すには、新しい恋人が必要だった。
真由美をグループに誘ったのは、彼女だった。
思うとおりに、彼は真由美に心を奪われた。

彼の心から、恋人が消えた。
だから今度は、真由美を取り上げなければ。
彼が自分のものにならないのなら、彼の望む女性だって彼に与えない。

「大丈夫か」。
仲間が声をかけてくる。
「ええ。でも彼が心配。気が狂うかもしれない」。
そう言って、彼に締められた首にそっと、手をやる。


いくつかの短編の中で、これは印象が強かった。
読んでいて、このリーダーは、女性の怖さを知らないなと思いました。
軽やかに交代を宣言する主人公を信じて、彼女が女を上げた分、男を下げちゃったかもしれないなと言う彼が、能天気に思える。
彼を誰にも渡さない、と決心する主人公に対して、いや~、のんきなこと。

みんなを失望させない、って、彼女に対して、そんなこと、どうやって?と思う。
どうしたって、無理なんですよ。
それを、彼女なら、安心だよ、って。
鈍いんじゃないか?って思いましたよ。

しかし、人2人をあっさり死なせる主人公の怖いこと。
死なされた彼女たちにも、人生があって、いろんな人が関わってきていた。
そう思うと、自分の心で人を死なせていいわけがないと思う。

この報いとして、主人公には望む愛は、永遠に手に入らないんでしょうが。
いや~、リーダーも、とんだ女性に惚れられたもんです。
2人の女性は、ほんとに災難。

女性の怖さ。
男性の能天気さ。
森さんは、男女のすれ違いを描くのが、ほんとにうまかったと思います。


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俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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