「5人殺してください」 誰から聞いたの?

年末、年末と全然関係ないけど、「必殺シリーズ」で、以前から不思議に思っていたことのひとつ。
「必殺仕業人」の第12話「あんたこの役者をどう思う」。
依頼人のお染に、仕業人のことを教えたのは誰?と気になる話。


捨三は洗濯仕事をしていて、ふと気配に気づく。
すると、1人の若い女性が立っている。
営業用の笑みを浮かべた捨三に、その女性は「ここは洗濯屋さんでしょ?」と聞く。
女郎の腰巻から、野郎のふんどしまで、何でもござれ。

そう答えた捨三に女性はいきなり、「人を5人殺してください」と言う。
「あなた、殺しを請け負う仕業人の捨三さんでしょ?」
さすがに表情がこわばった捨三だが「あんたの寝言に付き合っている暇はねえんだよ」と叱り飛ばし、小屋の中に入る。
そっと表を見ると、女性の姿はどこにもなかった。

いつものように、売れない芸を披露している剣之助とお歌。
まるでやる気のない剣之助に、お歌が気分を害する。
今日はダメだ、近くで薬売りがこの道、40年の芸を見せている。

剣之助はそう言って、独楽などをまわしている。
だが1人だけ、剣之助とお歌の方を見ている女性がいた。
客と見たお歌が、にっこり笑って月琴を弾き始める。

女性は駆け寄ってくると、「仕業人の赤井剣之助さんでしょう?人を5人殺してください」と言った。
うろたえながらもお歌は否定し、さらに剣之助の刀を抜き、「これだって竹光なんですよ」と笑ってみせる。
だが女性の目をじっと見ていた剣之助は「今日は店じまいだ!」と言うなり、立ち去る。
お歌は女性をにらみ、「変なこと言いふらさないでよ!」と言って、剣之助の後を追いかける。

やいとや又右衛門が、女性の着物のすそをめくっていく。
手を押さえようとした女性に、「恥ずかしがらないで」と言う。
足三里のつぼを押さえて、ここに灸をすえると、旅の疲れが吹っ飛ぶと言った。

女性はあの女性だった。
「人を殺してほしいんです。5人殺してほしいんです。仕業人のやいとや又右衛門さんでしょ?」
一瞬、目つきが鋭くなった又右衛門だが「私も医者のはしくれ。人様の命を助けても命を頂戴するなんてこと」と否定した。

その夜、「こんな夜はうちへけえりたくねえなあ」と楊枝をくわえて歩く主水に「八丁堀の中村主水さんでしょ」と声がかかる。
主水の足が止まる。
「牢屋見回り同心の、中村主水さんでしょ」。

「はい、私が中村主水だったらどうだっていうんですか?」
「男を5人殺してください」。
「お前、変なこと言うとしょっぴくぞ」。
主水が近寄った時、女性の姿は闇の中に消えてしまった。

翌日、4人は集まり、昨日、妙な女性がそれぞれのところに現れたと話す。
「あの女は、俺たちの名前まで知ってるぜ」。
「一体、誰から俺たちのこと、聞きやがったのかな」。
「とにかく、中に入って相談しようぜ」。

自分たちのことを知っている者は早いところ見つけて、消さなければならない。
又右衛門が「女はあたしの専門だ。あたしが引導渡しますよ」と外に行こうとする。
捨三が戸を開けた時、表にあの女性が立っていた。

4人がギョッとしたのは、ほんの一瞬だった。
女性は中に引きずり込まれ、悲鳴を上げる。
又右衛門が女性の目の前に、針をかざす。
だが剣之助は殺す前に、この女性に自分たちの名前を教えた者の名を吐かせなければならないと言う。

すると女性はお染と名乗り、武州埼玉から来た庄屋の娘だと言った。
去年の秋、借り入れも終わり、年貢も整った時だった。
里に犬村猿十郎一座という、旅役者がやってきた。

白波五人男の演目が、評判になった。
その中の1人、弁天小僧役の菊三という男と恋仲となった。
よくある話だと、又右衛門が口を挟む。

女に子供ができる。
途端に、男が去っていく。
殺してください、そんなことだろうと又右衛門が半ばあきれた口調で言う。
だが、これはそんな話ではなかった。

ある夜、密かに菊三がやってきて、お染と逢引をしていた時だった。
突如、お染の家に賊が押入る。
家族を次々刃にかけ、お染と菊三がいる部屋にもやってきた。
怯えきったお染の前で、菊三は「どうかお助けを」と命乞いをした。

その時、お染は気づいた。
刃物を持った男たちの指に、うっすらと残っている白い白粉の痕跡が残っていることに。
自分の肩にかかっている菊三の指に、同じような白粉の痕跡があることに。
かすかに漂う、賊と菊三の同じ香りに。

お染の父親と母親は、年貢だけは持っていかないでくれと懇願した。
だがそれは無駄だった。
5人は家のものを皆殺しにし、すべてを持ち去った。

「舞台の白波五人男は、本物の盗賊だったわけだ」。
ふざけた話だと、主水たちは言った。
田畑、屋敷を始末し、年貢に当てたお染は菊三の後を追った。
菊三と再会したお染は、仇を討とうとした。

だが猿十郎たちに押さえつけられたお染は、川に投げ込まれた。
川に投げ込まれたのは、刃物で刺したのがわかればそれがきっかけになって、自分たちに疑いがかかるかもしれないとの用心からだった。
「それにしても、よく助かったね」と又右衛門が言う。

気がついたら、お染は「ある方」に助けられ、介抱されていたのだ。
「そのある方という奴から、俺たちのことを聞いたのか」。
「そいつは一体、誰なんだ」。
主水の問いにお染は、「それは言えません。その人と約束しました」と言って、口をつぐむ。

「死んでもらう」と仕業人たちに言われたお染だが「お願いです。あの男たち5人を殺してください。父や母や姉や兄や、妹や弟の仇とってください」と言った。
「お願いします。それからでしたら、私は死んでもかまいません。そうしないと私、私、あの世に行ってから誰にも会えません」。

そう言うとお染は号泣した。
4人は、黙って聞いていた。
誰も何も言わない。
やがて剣之助が「俺は女に泣かれると弱いんだ。どうだ、この娘、信用できそうじゃねえか」と口を開く。

又右衛門が「殺されてもいいってのは、いんですけどね。この人、金持ってるのかね」と淡々とした口調で言う。
「はい。ここに12両あります。これを全部差し上げます」。
お染がすかさず、金を出す。

「俺、乗ったぜ!12両だよ。1人3両じゃねえかよ!」と捨三が叫ぶ。
「旅費に1両かかったとしても、2両は残るな。俺はやるぜ」と剣之助も言う。
話は決まった。

しかし、犬村一座は今どこにいるのか。
探し出すのは、おおごとだ。
すると剣之助は「蛇の道は蛇だ」と言った。

剣之助は大道芸の仲間から、犬村猿十郎一座のことを聞いた。
主水は奉行所で、出張の話をまとめてきた。
仕業人たちは猿之助一座を追って、安房への旅に出る。

うるさいせんとりつを前に、出張の準備に余念がない主水。
行き先の方角を気にして、暗剣殺!と拝む又右衛門。
翌日、剣之助が突然消えて、お歌は又右衛門の家に走る。
又右衛門の留守も、確認した。

さすがに主水の家には行けないのか。
「とうとう行っちまったんだな。こんな日がいつかは来ると思ってたけど」。
絶望したお歌だが、芸人仲間に剣之助が犬村一座のことを聞いていたのを思い出し、「きっとそうだ…」と微笑む。

主水、又右衛門、そして剣之助の3人は渡世人姿で旅をする。
ある親分から主水は紹介状も、もらってきていた。
途中、3人は渡世人から仁義を切られる。

すると剣之助が返事をする。
「俺っちは急ぎ旅だ!仁義は受けられねえ!失礼さんにござんす!」
感心する主水に剣之助は、「芸人のはしくれ」と言う。

道中、博打で負けてすっからかんになった渡世人が3人を見つけて「兄弟!兄弟!」と声をかけてくる。
「ワラジ銭の方…」。
この時も剣之助が、うまくやる。

「俺っち同じく、オケラにござんす!失礼さんにござんす!」
「あっそう…」。
がっくりした渡世人は、「あ~あ」と座り込む。

3人は猿十郎一座が興行する村にたどり着く。
5人はまた、お染の時と同じ手口で、庄屋の娘をたらしこみ、押し込みを計画していた。
急がなければならない。
そして、肝心の菊三に逃げられてはならない。

だから殺る時は、5人まとめてだ。
だがその夜、猿十郎一味は庄屋の家に押し込んで、皆殺しにしてしまった。
菊三は、今度は庄屋の娘も殺した。

間に合わなかった。
奴らは、どこかで黒装束から旅役者姿に着替える。
そう思った3人は、後をつける。

水車小屋に入った一味を仕留めようとした3人だが、旅の男たちが夜露がしのげると言って、入っていってしまった。
するとたちまち、男たちは殺されてしまった。
中に入るが、もう猿十郎たちの姿はなかった。

その頃、人質として捨三の元にいるお染は、捨三の手伝いをしていた。
お染の姿が見えないと、捨三はあわてて探した。
だがお染はかいがいしく働き、捨三は良かったら、このままここにいないかとまで言うようになっていた。

翌日、猿十郎一座は白波五人男の興行中だった。
背後に臨時の素人の出演者として、主水、又右衛門、剣之助の姿があった。
拍手喝さいの中、捕り方に扮した剣之助が密かに指を動かす。

パラリ、と、ほんの一筋、菊三の髪がきちんと結われた髷から落ちる。
菊三は少しだけ、奇妙に思った。
だがすぐに、気を取り直して芝居に戻る。

舞台に背を向けた又右衛門が、やいとを吹く。
やいとの針が、紅く染まる。
男が又右衛門が傘を渡さないので、「傘!傘、傘!」と小声で又右衛門をうながす。
傘を渡した又右衛門が、男に針を刺す。

舞台袖から、主水が別の1人に刀を突き刺す。
捕り方役の又右衛門が、今度は座長に向き合った瞬間、針を打ち込む。
座長は目を見開いたまま、正面を向く。

額には細い、小さな針が刺さっている。
男は見得を切ろうとして、本当に痙攣を起こす。
その見事な見得に、拍手が起こる。

もう1人に、主水が舞台袖から刺す。
菊三と立ち回った剣之助が、ほんの一筋、落ちている髪をするりと菊三を振り向かせ、髪を首にかける。
くるりと菊三をまわして、舞台の方に向かせると、髪が首に一回転して巻きつく。
剣之助はそれを、キュッと締めていく。

菊三の目が、恐怖と苦痛に見開かれる。
だが誰も気づかない。
舞台が終わり、幕が閉じた。
幕に主水が突き刺した刀が破った、細い穴が開いている。

5人が倒れている。
仕業人たちは、どこにもいない。
黒子たちが、呆然としている。

渡世人の姿に戻った3人が、言う。
思わぬ大仕事になった。
しかも、自分たちのことを知っている人間がいる。
覚悟はできているが、何と言っても今は無事に江戸に帰れる。

だが江戸に帰った仕業人を、お染は待ってはいなかった。
お染からの手紙が、置いてあった。
「仕業人のみなさん、ありがとうございます。
染は何とか、自分の力で生きていけそうです」。

そこには、捨三への言葉も書いてあった。
「捨三さん。短い間ですが、本当に親切にしていただいて、御礼の言葉もありません」。
そして、お染が消えた理由もわかった。

「お渡しした12両は私の体を売ったお金ですから、いつまでもここにいるわけにはまいりません。
「あなた方のことは、決して忘れません」。
「でもあなた方のことを教えてくれた人の名を言わなかったように、あなた方のことも決して他人様にはしゃべりません。ご安心ください。染」

手紙はそこで、終わっていた。
全員、黙っていた。
捨三は、目を閉じ、脱力していた。

仕事が終わった捨三は、洗濯の仕事に戻った。
又右衛門は、せっせと本業のやいとに励んでいた。
白波五人男の口上を覚えた剣之助は、お歌の元にやってきて、さっそくそれを披露した。

だがお歌は、あきれているだけだった。
「ダメか」と剣之助が言う。
主水は、再び牢屋見回りの仕事に戻った。
いつものように、牢屋に舞い戻ってきた銀次をたたきにかけながら、それぞれにいつもの日常が帰ってきていた。



最初に登場するお染が、ミステリアスで不気味。
それぞれに接触し、5人殺してほしいんですと衝撃的な言葉でコンタクトを取ってくる。
とぼけ、そして怒る捨三。

うろたえながらも否定し、笑ってごまかそうとするお歌。
だがこの時の剣之助は、じっとお染に目を据え、動かない。
何も答えず、「今日は仕舞だ」とだけ言って立ち去る。
お染に殺気を感じたというか、危険を感じたという雰囲気がうまい。

この女、本気だ。
だからこそ、危ない。
殺しの依頼をされた又右衛門の、一瞬の殺気。
すぐにそれをかき消し、やいとに戻る表情も見事。

ご機嫌なのか、ヤケなのか、歌いながら帰りたくもない家に帰る途中の主水の前にも、お染は現れる。
お染は完璧に、4人の名前も職業も知っている。
一体、誰に聞いたのか。

自分たちのことを知っている者を消すのに、女は自分の専門だと言う又右衛門。
たらしこむのも、遊ぶのも、殺すのも専門ということか。
深い一言だ。
お染の話をバカにしたようだった又右衛門だけど、それは悲惨なものだった。

シーンとしてしまう仕業人たち。
泣き出したお染を前に、「女が泣くのは嫌だ」とこの場を早く終わらせたくなる剣之助がかわいい。
剣之助のかつての許婚はお未央の方という、美しくもすさまじい悪女だった。
あんな女性見ているというのに、剣之助は女性に優しいんだな。

さて、旅役者を追っていく仕事は当然、仕業人たちも旅に出る。
それが渡世人姿というのは、紋次郎の中村敦夫さんを渡世人姿にするためのサービスか、遊びか。
ちゃんとどこかの親分から、主水が添え状もらってるところもえらい。

主水が仲間にいるって、ほんと~に強い。
昼行灯で通っている牢屋見回りの主水だけど、その切れ者ぶりはわかる人にはわかると思う。
親分たちは案外、主水のこういうところをわかっている気がする。

途中、仁義を切られた時の剣之助の対応。
何者も寄せ付けない、しかしどこか人に頼られ、放置できない紋次郎の口調とは違うけど、そこが剣之助の個性。
対応に困る様子の又右衛門をよそに、うまくやり過ごすのが楽しい。
「仁義は受けられねえ!」ってあるんだ。

2度目に、賭場ですっからかんになった渡世人に声をかけられた時は、もっと楽しい。
「俺っち、同じくオケラにござんす!」
「あっ、そう…」と、座り込んでしまう相手もおかしい。

そしてやっと見つけた標的。
しかし残念なことに、間に合わなかった。
今度は娘も殺しているのは、お染の時の教訓からか。
それとも、菊三でもお染にはためらう何かがあったのか。

この怒りは、舞台での仕置きになる。
誰にも気づかれず、大勢の人が注目する中、仕置きを遂行する仕業人たち。
鮮やかで、プロフェッショナルとしか言いようがない。

剣之助が最初の頃、ジタバタして失敗しそうになったなんて嘘のよう。
ハラリ、と、ほんとに一筋。
一筋だけの髪で、絞め殺す見事な技を見せる。
又右衛門の針に刺された座長が、針のせいでぶるぶる震えて、それが見得になっているのもうまい。

お染に仕業人のことを教えた人物は、誰だかわからない。
しかし、かなりポイントを抑えて教えている。
こんなこと教えられる人間は、彼らに助けられた人間か、同業者か。

川で死に掛けて、流れてきたお染を助けられるような人物って誰だろう。
やっぱり、旅の途中なのか。
これまで描かれた来た被害者で、彼ら全員の素性を知っていて生き残った人って誰だろう。

1話で剣之助が主水を訪ねてきたのは、市松から聞いたとはっきり言っていた。
それは市松の、最大の信頼だと思ったんですが。
お染を助けて、仕業人のことを話すって言うと、市松が一番「それらしい」。

それとも描かれていない被害者や依頼人で、誰かいるのか。
最後まで教えてくれた人のことを言わないお染は、仕業人たちのことも決して言わないだろう。
何も言わないところが、切なくもすがすがしいから、これはこれでいいんですね。
追求するのは、余計なお世話というものなんですね。

お染に惚れかかっていた捨三は、ガックリ。
最初から最後まで、登場人物のキャラクターが最大限にいきている。
すがすがしく暗くないラストでも、どこか切なく、仕業人らしさが失われていないのもいいと思います。


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ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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