最終話。


目覚める、久太郎。
立ち上がり、戸を開ける
「おうい、朝だ」。

押入れに向かって、声をかけて、ハッとする。
(そっか、あいつはもういないのか)。
寂寥感が、久太郎を襲う。

(いかんいかん、猫一匹いなくなっただけで)。
(あいつのせいで、独り言が増えた)。
元気でやってるかなあと思いながら、素振りをする。
木刀が、久太郎の手からすり抜けている。

(はっ?)
(し、しまった)。
空から降ってくる木刀に、表にいた長屋の住人が驚く。

その頃、与左衛門は、帰ってきた玉之丞を溺愛していた。
「旦那様」と、声をかけて佐吉が入ってくる。
「極上の寿司でございます」と、寿司を持ってくる。

「こっちへ持っておいで」。
「はい」。
「よしよし、さあ、玉ちゃん、たーんとお食べ。ほら。、どうしたんだい?お前の大好物だろう」。

佐吉がひとつつまみ、口に入れ、「そうだよ!こんなにおいしいよ!」と言う。
「お前が食べてどうすんだい!こら!」
猫じゃらしで、与左衛門が佐吉を叩く。

「玉之丞」。
しかし、玉之丞は目を閉じているだけだった。
与左衛門が、ため息をつく。

久太郎は、いつか薪を届けに来た、あの猫茶屋の前にいた。
(別に玉之丞が恋しいわけじゃない)。
(そう、ようかんだ。ようかんを食いに来たんだ)。

猫茶屋に入った久太郎は「ご注文はお決まりでしょうか?」と聞かれた。
「ようかん」と、ムスッとした声で言う。
「ようにゃんですね♪」
店の女性が、陽気な声で言う。

「ようかん」。
「当店では猫をもじって、ようにゃんですが」。
「ようかん!」

(武士の道とは!決して引かぬこと!)
しかし、店員の女性は言った。
「きちんとご注文をいただきませんと、ご要望にはお答えできかねますが♪」
「よう、にゃん…」。

「かしこまりましたー♪」
女性の楽しそうな声に、肩を落とした久太郎。
(負けた…)。

「あと、好きな猫ちゃんをお選びいただけますが」。
(俺はようかんを食いに来たんだ!)
「いかがいたしましょう♪」
「白猫!」

久太郎は、即答していた。
「かしこまりました!」
(ああっ)。

「ようかんを前にした久太郎は、ようかんを切って食べる。
先ほどの店員がやってきた。
猫を差し出して、「はあい、かおりちゃんでーす、かわいがってあげてにゃーん」と言って久太郎に渡す。

猫をまじまじと、見て久太郎は思う。
(白猫とはいえん)。
おとなしい、その猫を玉之丞を抱いていたように抱く。

(うーむ。なーんか違うんだよなあ)。
その時だった。
店の中に、久太郎が視線を向けると、そこには…。

「かわいいな」と声を潜めて、子猫を抱きしめる男がいた。
それは、石渡だった。
石渡は小声で、言った。

小声になる、いや、声が出ないほど、石渡は猫をかわいがっているのだった。
「君のかわいさは、神のいたずら…、なんてかわいいんだ、きみは。ああっ!」
(みいちゃった…)。

猫見屋の裏手に来た久太郎を見て、お七が「あらあ、どしたの?」と声をかけた。
お七は、薪を割っていた。
「手伝ってくれるの?」

久太郎は、薪を割った。
「ううん、いつ見ても鮮やかよ世ねえ。巻き割りの仕事ならさ、いつでもあるからね」。
久太郎は、ぶっきらぼうに答えた。

「また士官の口を捜すつもりだ」。
「ええ。まだあきらめてなかったんだ?!」
(嫌な奴)。

「お国には帰らないの」。
「国にはまだ、帰れん」。
久太郎の言葉を聞いた、お七は言った。

「ねえ、小難しいこと考えないでさ。日が登れば汗して働いて、日が沈めばうちに帰って寝る。人生ってもんは、そういう毎日の繰り返しでいいと思う。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないかな」。
「仕事より、大事なものはたくさんあるわ」。
黙々久太郎は、薪を割る。

久太郎の試合の相手であったはずの内藤は、考えていた。
赤い月が昇っていた。
内藤は、長屋への道を歩く。

座敷で1人、正座して黙想している久太郎。
やがて立ち上がり、たんすの引き出しを開ける。
その中には、妻と子供から送られてきた、未開封のたくさんの手紙がある。
久太郎は、ひとつを手に取る。

なああおん。
その時、猫の声が響く。
「玉之丞!」

縁側から出る、裏庭に玉之丞が伏せをしている。
「玉之丞!」
久太郎が、全身を弾ませて駆け寄る。

「おい、どうした。ここに来てはだめだろう!」
そう言う久太郎の声は、ごまかしようがないほど、明るく弾んでいる。
久太郎は玉之丞を抱きしめ、頬を寄せる。
「玉之丞」。

その時、とんとんと戸が叩かれる。
「俺だ。入るぞ」。
内藤が入ってきた。

久太郎を前に、内藤が聞く。
「猫のために勝負を捨てたと言うか」。
「そうだ」。

それを聞いた内藤は「もう一度俺と勝負しろ!」と言う。
「いつかお前を倒す。そのことばかりを考えてきた」。
思い出の中。
道場で立ち会う2人。

木刀がぶつかり合う。
鈍い音が響く。
内藤の額にした鉢巻から、血がにじむ。
額を割られた、内藤。

「もしあの時、真剣で立ち会っていたら、俺は負けていたかも知れぬ」。
「このままでは、収まりがつかぬ!勝負する気がないなら…」。
内藤は、刀を抜いた。
「嫌でも刀を抜かせるまで!」

玉之丞が、内藤を見上げた。
にゃあおん。
玉之丞が、鳴く。

「抜けえ!」
身動きしない久太郎に、内藤が苛立つ。
にゃあおん。
また、玉之丞が鳴いた。

内藤は、刀を構えている。
玉之丞が鳴く。
「猫を黙らせろ!」

だが久太郎は言う。
「猫は鳴きたい時に鳴く」。
にゃあおん。

内藤が、刀を振り上げる。
見つめる玉之丞。
にゃあおん。

内藤が意を決したように、刀を振り上げる。
にゃあおん。
一瞬、ひるんだ刀を、再び振り上げる。
にゃあおん。

内藤は、刀を下ろせない。
久太郎は、玉之丞をなでながら、悠然としている。
「…ばかばかしい」。

内藤が刀を下ろした。
「やめだやめだ。まともに斬る気木もないものを斬っても、しかたがないからな」。
「まったくお前と言う奴は…」。

「変わったんだ。こいつのおかげで」。
久太郎の声と表情は、穏やかだった。
「猫なんぞに…、心奪われおって!」

土間に下り、出て行こうとする内藤。
ポツリ、と言う。
「…自由だな。猫もお前も」。

久太郎を、じっと見る。
「さらばだ。猫侍」。
そう言うと、戸を開け、出て行った。

猫侍…?
久太郎が、ふっと笑う。
(ねこざむらい)。

ちりんちりんと、玉之丞の鈴の音がする。
「ありがとうな」。
「少ししたら、加賀屋に帰れ。な?」
「ん?その前にちょっと、綺麗にしてやろう」。

久太郎は、玉之丞を抱っこして庭に行こうとする。
すると、また外から、「斑目様」と言う声がする。
「加賀屋の佐吉でございます」。

「開いている。入られよ」。
戸が開いた。
外には、佐吉が立っていた。
佐吉がお辞儀をすると、今度は加賀屋の主人・与左衛門が現れた。

与左衛門が一礼して、入ってくる。
「お邪魔しているんだろうと、思っておりました」。
「心配だったであろう。玉之丞、ほら、迎えが来たよ」。

だが与左衛門は、意外なことを言った。
「誰も、玉之丞は束縛できないんですよ。猫は自由に生き、また、そうであるべきです」。
与左衛門は、玉之丞を見る。

「うちに帰りたい時、こちらさんに帰りたい時。玉之丞の好きにさせてやろうと、思いましてね。その、あなた様さえ、かまわなければ」。
「玉之丞を、どうかよろしくお願いします」。
与左衛門は、頭を下げた。
久太郎は、感謝で一杯になった。

「かたじけない」。
久太郎が頭を下げた。
にゃあん。
玉之丞が鳴いた。

久太郎は翌朝、玉之丞を抱きながら歩いていた。
若菜が、どなつぼうを売っている。
久太郎と玉之丞を見て、「玉ちゃん!」と声を弾ませる。

「また、にぎやかになる。2本くれ!」
「ようし、今日はお祝い。これ、全部おまけしちゃう」と若菜が言った。
「おいおい」。

「一杯食べて、しっかり仕事して稼がないとね。あ、玉ちゃんにひもじい思いさせちゃダメだよ」。
久太郎が、玉之丞に話しかけた。
「そうだにゃーん」。

若菜が、ギョッとする。
久太郎がハッとして、若菜に背を向ける。
若菜が笑う。

猫見屋の前で、お七が水をまいている。
玉之丞を連れてきた久太郎を見て、「ああらあ。玉ちゃん」と言った。
「頼むぞ」と、久太郎が言うと「いつでも来てよ。お代はしっかり、いただくけどね」と返した。

久太郎はお七に玉之丞を渡してから、「それと」と、どなつぼうを出した。
「ええ?ありがと」。
お七は、どなつぼうを食べた。
「うん、おいしい」。

久太郎が手を出すと、「え?お金取るの?」と驚く。
「冗談」。
「冗談言うんだ?!その顔で」。
にゃおう。

玉之丞が鳴く。
「良かったわね、また、一緒に暮らせるようになって」。
「まあな」。
「家族は一緒に、いないとね」。

久太郎が、猫を片手に長屋に戻ってくる。
気がついた住民の一人、おかみさんが、「あら?猫かい?」と言った。
「ちょっとあんた、猫猫」と、旦那に声をかける。

「名前は何て」。
「玉之丞」。
「へえ?」
長屋の者が集まって来る。

縁側で、久太郎は今までの手紙を読んでいた。
膝には、玉之丞がいる。
妻からの手紙には、お春が熊のような男の子をやりこめたことが書かれていた。

「さすが、斑目久太郎の娘と誉めてやりました」。
一緒に、「ちちうえ」と書かれたつたない絵が入っていた。
お春が書いた、久太郎だった。
久太郎は、微笑んだ。

「お静、春。元気そうで何よりだ。仕事探しは予定より長引いているが、決してあきらめていない。近いうちに必ず、吉報を届けられると思う」。
その手紙を、吾郎が妻と子供に届けていた。
「お春ちゃんにもお手紙あるんだよ」。

「1人暮らしに慣れるのは時間がかかったが、実は今、ひょんなことから玉之丞という猫と暮らしている。これがなかなか悪くない。家は手狭だが、会えばお春の良い遊び相手になるだろう」。
久太郎は、懐に玉之丞を入れ、あの老人に絵を描いてもらっていた。
「動かない!」と、老人が言う。

「どうだ?一度江戸に来てみないか」。
久太郎と、玉之丞の絵を見たお春が言った。
「母上、猫です」。

ちりんと風鈴の音がする。
長屋で、寝転がっている久太郎。
その横で、寝ている玉之丞。

(拙者、元加賀藩、剣術指南役。名を斑目久太郎。わが手前、無双一刀流免許皆伝なれば、誰が言うたか、ついた呼び名は…、猫侍)。
いびきが聞こえる。
横には玉之丞が寝ている。

江戸暮らし 金も仕事もないけれど 陽だまりうたた寝 ああ猫日和



一匹の猫をめぐって、人間たちが関わる。
一人の偏屈で、不器用で、それを言い訳にして、家族との関わりも逃げている。
そんな侍が、猫から発生した人との関わりを経て、変わっていく。

猫愛でるドラマ、ということは、ある程度はとんでも時代劇であり、それを楽しむ時代劇。
ファンタジーの部分に、ツッコミを入れるのは野暮というもの。
そんなドラマかと思ったら、本当にしんみりしました。
人間と猫のふれあいが、それによって変わる男がしっかり描けている。

最終回。
玉之丞がいない毎日に、久太郎は慣れない。
面影を求めて、猫茶屋に行ってしまう!

そこであくまでも、自分を崩さずにいようと思った久太郎だが、もろくも崩れ去る。
ようにゃん。
すかさず、「白猫」と口走ってしまう。
禁断症状ですわ。

来た猫だって、かなりかわいい。
でも、白猫ではなかった。
確かに。

抱っこしてみて、なんか違う…と思う。
そりゃ、一人にひとつずつ、みんな違うんですから、しょうがない。
すると…。

いや~、そうだと思ってたんですよね~。
玉之丞が殺されたと聞いて、「地獄をたっぷり味あわせてやる」と言った時から、石渡は猫好きだと思ってた!
いつ、石渡のこわもてが崩れるか、楽しみにしてました。

ああっ、君のかわいさは神の奇跡!
なんてセリフが、聞けました。
猫にほおずり。

あれは、企業秘密なんでしょうね。
だって、猫に弱いとわかったら、石渡の責めどころがわかってしまうから。
あれ、八五郎も知らないんじゃないかな?

心に穴が開いている久太郎。
何と、玉之丞も同じだった。
この2人、恋に落ちた2人だなあ。

玉之丞、加賀屋のご主人はお嫁入りさせるしかない。
もしくは、久太郎、加賀屋に婿入りだと。
以前も寺に預けられた玉之丞が、ご飯を食べなくなってしまったから、今回もあるんじゃないかと思ったら、やっぱり。
いつも、玉之丞には極上寿司食べさせてたんでしょうね。

それが、斑目特製・にゃーはんが食べたい玉之丞なのだ。
与左衛門さんが悪いんじゃない。
これは、恋なんです。
…って、でも玉之丞は、お静と張り合ったりしないと思うけど。

笑っちゃったのは、職場復帰している佐吉が、寿司をつまんでるところ。
ご主人が、猫じゃらしで叩くところ。
この2人のシーン、好きです。
心が通い合っている主従で、ほほえましい。

しかし、与左衛門さんは、やっぱりできたお人でした。
寂しいけど、考えるのは玉之丞の幸せ。
度量が大きい。

玉之丞が行きたいところに行かせる、生きたいように生きる。
そうではなくては、ならない。
ああ、無理やり寝床に引きずり込む私、ごめんなさい。

内藤の戦意もあっさり、そいでしまう玉之丞。
無敵は玉之丞だわ。
猫侍の名付け親が、内藤とは思わなかった。

「猫なんぞに、心奪われおって」には、嘲笑の響きはなかった。
「鬼になりきれぬ男よ」には、あったけど。
何度も「ここに居場所はない」って内藤は久太郎に言っていたけど、もしかしたら、武士としてどうか?ってこともやらされていたのかもしれない。
だから、そういうことができない久太郎に、居場所はないと言っていたのかもしれない。

去っていく時の内藤の寂しそうな、うらやましそうな「自由だな」。
これに内藤の今の状況についての思いが、こめられていた気がします。
内藤もまた、久太郎に持っていた妙なこだわりを、玉之丞によって捨てられたのかも。
あの内藤なら、切腹かなあと言っていたあの2人を寛大に許した気がします。

たぶん、よくわからない怖いお侍さんだった久太郎が、長屋の住人とお話するようになった。
にゃーはん作ってた時、後ろでおかみさんたちがめずらしそうに見てましたもんね。
きっと、久太郎は近寄りがたい存在だったんでしょう。
あの住人がいれば、ねずみ年の大家さんも大丈夫な気がする。

マイペースで、昼寝をして。
玉之丞を膝に乗せて、手紙を無理なく見られて。
それは久太郎が、玉之丞のおかげで、今の境遇に引け目がなくなったということでは。

ごいな。
猫による悟りだ~。
私も猫と毎日、べったりして暮らせたらどんなに良いだろうと思う…。

若菜や、お七と久太郎が恋愛モードにならないのも良かった。
あくまで、猫を真ん中に置いた人間関係。
いや、久太郎の恋人は玉之丞で十分だからかも…。

あの老人が玉之丞を見たら、さぞかし誉めるだろうと思ってました。
ラスト近くで、やっと遭遇しました。
絵を描いているだけでしたけど、あの絵、とっても良い。
あのおじいさんはやっぱり、ものすごい猫好きなんでしょうね。

さて、3ヶ月、ものすごく癒してもらったこのドラマ。
私生活の方ともリンクして、忘れられないものになりました。
シーズン2、できたら作ってほしい。

若菜が幸せになって、久太郎の生活も大丈夫と確信持ちたいです。
多分、大丈夫なんでしょうが。
映画もあるけど、映画はまた別物っぽいです。

もう、猫のかわいらしさ、神秘性がすごくよく出ていて、スタッフさん、監督さん、すばらしい。
猫に合わせたであろう出演者のみなさんも、全員本当に良かった。
このドラマに癒されていた私としては、本当にありがとうございましたとお礼を言いたいです。


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2014.01.07 / Top↑
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