名を上げ、家を興すにはこの一戦! 「桶狭間」 「徳川家康」

かつて、波太郎は広忠が今川を頼った時、於大に言った。
今川は陰険だろう。
上洛する頃、竹千代が成人する頃、松平には柱ひとつ残ってはいまい。
必ず、何かしらの理由をつけて、潰すであろう。

今川の京への上洛。
駿府を発つ上洛軍は、2万5千にものぼる。
そのうちの本隊である今川勢、5千。
応仁の乱以降の、大軍勢。

阻止するのは、織田信長。
それに向かって、織田が突進すると言うのか。
織田が上洛を阻止すると言うのなら、松平勢で織田を打ち破れと今川義元は成人した竹千代・元信にく命ずる。

その頃、清洲では信長が籐吉郎に言っていた。
毒見、大義であった。
籐吉郎は、自分は育ちが卑しいゆえ、と言う。

卑しい育ちの籐吉郎は、毎日、あわびなどの馳走を毒見してうまかったと言った。
「たわけ者!」と、信長は叱り飛ばす。
「明日からは、毒見は飯、一杯にせよ!」

そう言った信長はニヤリと笑うと、「味噌が足らぬ」と言った。
「味噌は命の元だ」。
味噌が、足らない?
「わしは寝ておる、味噌を買ったら起こしに参れ」。

信長の言葉に首をかしげていた籐吉郎だが、廊下を歩いていて、はたと手を打った。
籐吉郎は早速、味噌を買うので人を貸してほしいという。
味噌を買う。
すなわち、押し寄せる今川勢に対して籠城するということだ。

そう言って歩く。
味噌買いの5人は、そんな大切なことをもらしていいのですかと聞く。
ここまではもらしても良かろう…、と籐吉郎は言う。

その朝、義元は大阪城を目指し、出発した。
朝から暑い日だった。
元信改め元康は、佐久間の軍勢相手に苦戦する。
一歩も引くなと、輿の中から暑さに仰ぎながら、義元は命ずる。

その頃、元康は戦を抜け出し、馬をかけていた。
たった数人の家臣とともに、3つのとき、別れた母親・於大の元へ走るのだ。
ついに於大と再会する元康。

今度の戦で、自分は死ぬかもしれない。
だから、元康は抜け出し、駆けてきたのだ。
涙で再会する母と子。

「立派になって」。
竹千代はいまや、よろいを着た若武者だった。
於大が「竹千代」と声をかける。

「竹千代ではございません。元康でござる」。
「いいえ、竹千代様です」。
「必ず街道一の弓取りになられるお方。功を焦ってはなりませぬ」。

そして、「起こしに来い」と言っていた信長を、籐吉郎が起こしに来た。
「来たか、猿!」
起き上がった信長に、脇に控えていた濃姫が具足を用意するように命ずる。
籠城は、しない。

たとえかなわなくても、一矢報いなければ気がすまない。
踏みにじられるより、頭を下げるより、ぶつかって死んだほうが良い。
籐吉郎は信長の思いに涙が出る思いで、じっと信長を見つめる。

「ご領刀は?」と濃姫が聞く。
「光貞!」
濃姫が渡す。

「国重は?」
「たぶんそれと存知、国重もこれに」。
笑う信長。

「猿!勝ったぞ!」
「お濃め、わしの心を読みおったわ!」
「御意の通り!」と、籐吉郎が叫ぶ。

「今、御杯を」と、濃姫が言う。
御酒を飲み干し、信長は杯を割る。
カシャン!と音がする。

「来い!」
信長の声に、籐吉郎が「はいっ!」と言ってついていく。
濃姫が息を詰めて、見送る。

元康が佐久間を追い返したと聞いて、義元は満足げだった。
しかし元康は出陣の時から、もう、駿府に戻るまいと思っていた。
元康の勝利を聞いた義元は、「幸先がよいのう」と笑う。

その時、土民が戦勝の祝いにやってきた。
「この分では、信長も明日には下るであろう」と義元は言った。
暑さに扇で仰ぎながら、水野しもつけの領民と称して、やってきたのは波太郎とその手の者だった。

「安堵いたせ。余の家来どもは、乱暴は働かん」。
波太郎は「駿府の殿様は、お徳お高き方との噂をうけたまわり、いささかなりともお役に立ちたいと思い」と深々と頭を下げた。
「時分も、どうやら昼。ご笑納くださればありがたく存じます」。

「神妙なこと」と、義元は言う。
「もはや正午に近い。ありがたく納めよ」。
「ありがたく存じます」。

義元が、暑さにますます扇を仰ぐ。
日差しは、ますます強くなった。
「この窪で中食せよ。この暑さでは保存は、かなうまい」。

その頃、信長は桶狭間を見下ろす善照寺付近に到着していた。
信長は、2千の兵とともに運命を決しようとしていた。
「者ども!」

「馬上にある信長は、すでに生死を離れた。みなの命、俺にくれい!くれるものだけ俺に続け!」
「おおーっ」と、みなが声を上げる。
籐吉郎が駆け込んでくる。

「殿、敵将・今川義元、桶狭間にて休息中!」
「なにいっ?!」
信長が、目をむく。

「本隊の5千は!」
「同じく、窪みにて昼食中!」
なんという…。

思いもかけない、義元の隙。
信長は天を仰ぎ、目を閉じる。
「大義!」
「はっ!」と、籐吉郎が頭を下げて、引っ込む。

信長が兵たちに叫ぶ。
「まっすぐ、義元の本陣まで斬り込む!」
「名を上げ、家を興すはこの一戦ぞ!」

雷鳴が聞こえている。
暑さに酒を飲み、喉を潤し、5千の今川勢は、たるみきっていた。
桶狭間を見下ろす信長。

晴れているのに、雷鳴がする。
「良いか。まっすぐ義元の本陣に斬り込む!」
「ただし!個人の功を急いで、全軍の勝利を逃すな。敵はみなで踏みにじれ!」

雷鳴がとどろく。
信長も、息が荒い。
おもむろに、刀を抜く。

「いけええ!」
その声で、一気に軍勢が、馬を駆って急坂を下りてくる。
馬のひづめの音。

飯をほおばっていた兵が、振り向いた。
まさか。
怯えきった、その目。
恐怖が走る。

その目に入ってきたのは、信長の軍勢だった。
織田の軍勢は、今川勢を蹴散らし、一気に本陣へと流れ込む。
下郎!という声が響く。

義元がいた。
「無礼者!」
叫ぶ義元。
それが最後だった。

元康が、於大の元を去ろうとしていた時だった。
「今川義元が信長に討たれた!」と叫び、兵が走ってくる。
信長は義元の首をかかえ、清洲城に引き上げていくと言う。

まさか。
「母上!さらば!」
元康が急ぎ、帰っていく。



私は、織田信長のベストがいまだに役所広司なんですね。
人によっては、高橋幸治さんだって言う。
ああ、高橋さんは良いだろうな。
冷徹、頭脳明晰さと、狂気が混在している目ですもん。

高橋さんの信長を、リアルタイムで見た人はそうとしか思えないでしょう。
それでいいと思うんです。
誰にもその時、心に残るハマリ役がいる。

私は秀吉はこの、武田鉄矢さんもかなり、はまっていると思う。
ぺらぺらと良く喋り、人懐こい、調子が良い、育ちがあんまり良くない、でも憎めない。
この辺りがすごく良く出ている。
しかし、緒形拳さんの秀吉は、これしかないって感じが今もしている。

だから「黄金の日々」なんて大河ドラマは、私にはすごい良かった。
家康はですね、中村梅之助さんが良かった。
タヌキ!って感じがして。

於大と元信改め元康の、涙の再会も泣ける。
そして、何と言っても、もう、この、役所・信長。
鬼神が乗り移ったかのようです。

桶狭間を見ながら、思ってしまった。
信長もすごいけど、この事実もすごい。
これ、本当に起きたことなんだって。
いや~、歴史ってすごいですね。

この時の信長って、どんなだったんだろう。
桶狭間を見下ろした信長の目って、こんな目だったんじゃないだろうか。
名を上げ、家を興すのはこの一戦。

その一戦を、運命の一戦を、まさに天に駆け上がる一戦を前にした目、顔ってこんなだったんじゃないか。
この信長を前にした家臣たちは、どんな気持ちだったんだろう。
もしかしたら、こんな気持ちだったんじゃないだろうか。
見ているこちらにも、この瞬間を体感させる。

世の中が変わるんだ。
戦乱の世が変わる、と思わせる。
こちらもそう思ってしまう、役所・信長。

雷鳴が、とどろく。
近くまで、雷雲が来ている。
こんなにも、青空なのに。

天も、下界で、力が大逆転をするのを見ている。
長き戦乱の世が変わるのを、天もが見つめている。
天も、雷神も、高揚しているんだ…。

そう思わせるのが、俳優。
まるで体験させる、それがドラマ、映画というもの。
改めて、そんなことを感じてしまった。

今回見ていて、なぜこの信長が、心に残るのかわかった。
この一戦で名を上げ、家を興した信長。
この1作で世に出たと言っていい、役所さん。
あの桶狭間を前にした信長は、これで世に出ると確信した、決意した役所広司という俳優さんの気持ちと重なっているのではないか。

自分というものをあまりに役に入り込ませすぎても、それは自己満足、自己陶酔になる。
あまりに入り込むと、見ているこちらが入り込めなくなる。
これまでの人生をちゃんと役に反映させ、こちらに共感させる。
それをするのが俳優なんだと、改めて思った。

これをしてくれると、歴史上の人物にも血が通う。
生きていた彼らの人生を、見守ってしまう。
どうなるか、すべての結果を知っているこちらが、知っていてそれでも精一杯生きていた彼らに思いをはせる。

しかし、この時期に徳川家康を放送するとは…。
時代劇専門チャンネルさん。
なかなか、挑戦的だと思ってしまう。
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癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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