フルメタルジャケット

フルメタル・ジャケット。
完全被覆鋼弾。
鉛の部分を金属(メタル)ですべて(フル)覆い(ジャケット)、貫通する能力を与えた弾丸。
軍で使う弾丸のこと。

なぜそんなことをするかというと、鉛だと、人体に当たった時に弾体に変形し、衝撃を与えるため、苦痛も与えてしまう。
これがハーグ条約違反となるので、硬い金属で鉛の弾丸を覆い、人体に着弾したときに変形しないようにしたんだとか。
苦痛をなるべく与えず、殺すためというか。

思いやり深いんだか、残酷なんだか、わからない。
いや、やっぱりひどい話。
人を殺すのが前提なんだから、優しさとか人道とか、そんなことは初めから全然、ありえない。

「地獄の黙示録」だったと思いますが、こんなシーンがある。
誤って撃ってしまった少女を助けようと、若い兵士がおろおろする。
主人公はその騒ぎに腹を立て、少女にとどめをさす。
もう、こんな偽善はたくさんだと言って。

そんなベトナム戦争をキューブリックが描くと、「フルメタル・ジャケット」になった。
映画では、人の持つ優しさは思いやりを、まず非人道的扱いによってぶっ潰して、兵士に、殺人マシーンに作り変える軍隊訓練から始まります。
以前、特殊部隊だか、海兵隊だか忘れましたが、入隊した兵隊にはこういうことをするというドキュメントを見たことがあります。

ぶん殴り、血だらけにし、泥水に叩き込み、とにかく彼らが嫌だな、こうなってほしくないということをやる。
自分の持っている名前も、今までの経歴も、すべて忘れさせる。
今までの価値が通じない、関係ない世界に叩き込む。
これまでの人生をそうやって捨てさせ、人格を捨てさせ、上官の命令を遂行する殺人マシーンに作り変える。

人の人生、めちゃくちゃにする。
ドキュメントでは実際、こうやって殺人マシーンに作り変えられた青年たちが、ベトナムの戦場から帰って社会不適応者になっていた。
そりゃそうだ。

普通の生活が、送れるわけがない。
故郷に、家に帰れるわけがない。
人生、めちゃくちゃよ。

フルメタル・ジャケットとは、つまりこういうこと。
優しい心を持った普通の青年たちの心を、硬いメタルで覆って、人を殺す弾丸に作り変える。
前半のこの、海兵隊の訓練を描いた部分がすごい。

殺人マシーン製造機は、ハートマン軍曹。
「微笑みデブ」と呼ばれる、ちょっと太目の青年レナード。
彼は足も遅く、運動神経が鈍く、過酷な訓練についていけない。

鬼軍曹は、まあ、字幕を最初に担当した人が「こんなひどい言葉は翻訳できない!」と言ったとか言わないとか、話が出たぐらいひどい言葉を吐き続ける。
普通の言葉遣いはできないの!と言いたくなるほど。
この軍曹は当然のごとく、靴紐を結ぶのにも手間取るレナードに目をつける。

訓練じゃなくて、ひどいいじめが目的なんじゃないか、というか実際そうやって人格を崩壊させる。
レナードへの軍曹の仕打ちは、彼に直接は体罰を加えないこと。
その代わり、連帯責任だ。
レナードがへまをすると、彼を除く全員に体罰や、さらに肉体的に過酷な訓練を受けさせる。

グラウンドを延々と疾走させられるみんなの前で、レナードだけは座らせて、走らせない。
この辺りから、じわじわ、じわじわ、怖ろしい雰囲気が漂ってくる。
まずい、まずいと思う。

そして事件は起きた。
夜中、レナードを除く全員がむっくり起き上がる。
タオルの中に、石鹸を包み、それを振り回して眠っているレナードに一斉に振り下ろす。
全員がやる。

主人公・ジョーカーことジェイムズも「やれ」と言われる。
本当は嫌だが、ジョーカーもしかたなく、やけになって振り下ろす。
衝撃を受けるレナードの耳元に、「いいか、これは夢だ」と囁いて、全員がベッドに戻る。
静まり返った部屋の中、レナードが泣いている。

レナードはその翌日から、精神に変調をきたした。
そりゃそうだ。
自分以外の全員が、自分に対して抱いている敵意、いや、憎悪に気づいたら、おかしくなって当たり前。

しかし、レナードは射撃に対しての才能を見せる。
「これはこれはデブ。やっとお前の適性を見つけたぞ」と、ハートマンは言う。
レナードは、「フル…、メタル…、ジャケット…」とつぶやきながら、銃を装てんする。
思わず隣の人間が見てしまうような異様さを見せ始める。

このレナード役のヴィンセント・ドノフリオ氏の演技のすごさ!
前日と翌日で明らかに目つきが、違っている。
そして、訓練が終わり、卒業する前日。
銃を持ち出し、トイレで銃弾を装填し始めるレナード。

主人公が見つけて、おののく。
レナードを落ち着かせて、何とかしようとするが、ハートマンはレナードを罵倒する。
いつもの罵倒が口から飛び出したとき、レナードはあっさりと引き金を引く。

軍曹は沈黙した。
いや、もう二度と口を聞けなくなった。
仰天する主人公の前で、レナードは自らを撃ち、死んだ。


そして、後半がスタート。
あんなシーンの後で、あまりにも不謹慎な明るい空。
ベトナムの町。

微笑みかけてくる、娼婦。
命をかけて稼いだ金で、女を買ってみようか?と同僚が言う。
なんという、命の軽さ。

そして、やってくる戦闘。
ものすごい腕の狙撃手・スナイパーが彼らを襲う。
撃たれた仲間を助けに行った兵士は、自らも撃たれた。
「あんなところを潜り抜けて、命中させやがった!」

次々、3人が犠牲になる。
敵が何人もいるのではないか。
パニックを起こした兵士は、戦車の出動を要請する。
あれだけの訓練を受けても、実戦には対応できていない。

やがて、わかる衝撃の事実。
スナイパーをやっとのことで、仕留めた兵士たちが見たのは、ベトナムの少女たった1人だった。
苦しい息の下、少女は懇願する。
早く殺してくれ、楽にしてくれ。

どうする?
その時、ジョーカー、最後の切り札の主人公が彼女を撃ち殺す。
最後の切り札の意味は、もうひとつ。

それは彼が最後に残った良心的な兵隊だった、ということかもしれない。
つまり、それはもう、存在しない…。
軍曹は殺せ、殺せ、殺せ!と言った。

自分が戦場で生き残りたかったら、殺せと。
殺戮本能を呼び覚ませと。
相手も殺しに来ているんだから、奇麗事は通じないと。

燃える市外を行進する兵士たちが歌っているのは、ミッキマウス、ミッキマウス、ミッキミッキマウス…。
ミッキーマウスマーチ。
これは、何のおふざけ?

つまり、全部、悪い夢だってこと?
命が軽い、ということ?
ミッキーマウスマーチを歌うような青年が、あっさりと人を殺すようになってしまっているってこと?

何が言いたいんだろう。
どうして、あそこでミッキーマウスなんだろう?
わからなかった。
でも、みんな、狂っちゃってるということはわかった。

この姿に衝撃を受け、映画は終わる。
真っ黒な画面。
流れるのはローリング・ストーンズの、「Paint it Black」。
黒く塗れ。

黒く塗れ
俺の心も黒いから
全部黒く塗りつぶせ
そうすれば、俺の姿も見えなくなるだろう

自分の非道さも、残酷さも、みんな全部同じ血の色に染めてしまえ。
そうしたらもう、自分に血がついてることなどわからない。
全部何もかも塗りつぶしてしまいたい、なくしてしまいたい。

すごい空しかった。
すごい、虚無感だった。
戦争って空しい。

人の命が軽い。
残酷。
狂う。

それが戦争。
これがメッセージなら、キューブリック監督、それは伝わりました。

スピルバーグ監督の「E.T」なんかそうなんですが、優れた監督が夢物語を作ると、本当にうっとりするんですよ。
逆に優れた監督が、嫌だなと思うものを手がけると、本当にその描写力を駆使して、いや~な気分にしてくれる。
キューブリック監督はしばしば、そう思わせるものを作る。

「時計じかけのオレンジ」の暴力シーンとか、嫌悪感抱く。
北野武監督も、自分の暴力シーン見て、痛いとか嫌だとかそういう感情を持つでしょ?真似したいと思わないでしょ?と言ってましたが、そんな感じ。
戦争の悲惨さを訴えたかったら、嫌悪感を抱かせたらいい。

いつか見た、ドキュメントを思い出しました。
決して愉快になる映画じゃない。
生理的嫌悪感で、一杯になるかもしれない。

だから私も今、また見直す気にならなくて、記憶だけで描いている。
それでもやっぱり、レナードの表情とか演技、全体の狂った感じがすごかったと思う。
戦争から帰ったって、彼らのこれからの人生、めちゃくちゃよ…。
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