もう二度と探せない 「火の鳥 宇宙編」

手塚治虫先生のライフワーク、「火の鳥」。
初期の頃に作品に、「宇宙編」というのがあります。
これが子供の頃、結構怖かったんですね。

惑星と地球を往復する任務で、宇宙船に乗っているメンバー5人。
隊長、猿田、木月…って言ったかな、男性と紅一点の女性・ナナ、そして牧村。
木月とナナは何となく付き合っていた感じですが、そこに牧村が現れ、ナナは牧村に心惹かれてしまう。

余計な年を取らないよう、宇宙船の人間は任務期間以外は任務をしている1人を除き、冬眠状態になっている。
だがある日、宇宙船は隕石に衝突してしまう。
なぜ、隕石を避けられなかったのか?
その原因は任務についているはずの牧村が、座ったまま死んでいたからだった。

船には穴が開き、燃料も流出していた。
残った4人は、船から脱出しなければならないことになる。
だが、救命ボートは人数分あっても、それは1人ずつしか乗れないカプセル状のもの。
つまり、カプセルホテルで寝ているような状態なんですね。

しかもカプセルには、脱出の時に使う燃料しか詰めない。
あとは宇宙を漂いながら、救助を待つ。
狭い空間に、孤独に閉じ込められる。

いつ来るか、わからない救助をひたすら待つだけ。
水と食料、空気が尽きたら終わり。
おお、閉所恐怖症じゃなくても、これは怖い。

点呼を取った隊長は、牧村が最後に「僕は殺される」と椅子に書き残していたことを話す。
一体、誰が…。
猿田がどうしてそんなことを言うのか、と隊長を責める。
おかげで我々は、お互いを疑って、もう、取り返しがつかなくなってしまったと言う。

木月は、みんなが自分を疑っているのを察する。
ナナをめぐって、木月は牧村を恨んでいた。
だがその時、4人が脱出した後、何かが救助ボートの後をついてくる。
それは5つ目、牧村の分の救助ボートだった。

暗い宇宙空間に、ぽかんと浮いている救助カプセル。
無線の呼びかけにも、誰も答えない。
誰も残っていないはずの船から、誰が救助ボートを発射したのか?
一体、誰が乗っているというのだ?

ナナじゃなくても、「怖い!」。
さらにこの救助ボート、ただ浮いているだけ。
だから、はぐれてしまったらそれまで。
おお、これも怖い。

案の定、最悪の事態が起きる。
ヒロインのナナに思いを寄せていた木月のボートが離れ始める。
今は無線が届くが、それが届かなくなればもう、話すこともできない。

「正直言って、怖いです」と木月は言う。
当たり前。
考えただけで、怖い。

そんな中、木月は最後に、ナナと2人で会話をさせてくれと望む。
みんなが無線を切り、木月とナナだけになる。
ナナは知っていた。

木月が、牧村の眠っているカプセルの空気を止めたことがあることを。
気づいたナナが阻止し、黙っていたが、木月は牧村を殺そうとしたのだ。
あれは魔が差したんだ!と言う木月。

自分は絶対に、牧村を殺してはいない。
信じてくれ。
そして最後にナナに、好きだったと言ってくれと頼む。

ナナの一言を頼りに、彼は宇宙を漂うつもりなんでしょう。
しかしナナは「あなたはいい人だったのに…、さようなら、木月さん」と言う。
やがて、木月は呼びかけにも応じなくなる。

彼はこのまま、宇宙を漂い続ける。
救助されるまで。
どう考えたって絶望的…。

やがて救命ボートは、引力を持つ小惑星に接近してしまう。
燃料はないから、引力を利用し、曲がる。
曲がりきったところでボートを傾けて、微妙なところで惑星から離れる。
そうしないと、惑星の引力に捕らえられたまま、永遠に惑星の周りを回り続けることになるのだ。

だがその時、後からついてきた牧村のボートから、何か声が聞こえる。
誰かいるのか?
隊長は、牧村のボートに呼びかける。

その声に気を取られた時、隊長の救命ボートに小さな、惑星の周りを回っている石が衝突してしまう。
もうダメだ、コンピューターが死んだ。
幸運を祈る。
猿田とナナのボートは、無事、惑星から離れたが、隊長は未来永劫、惑星の周りを回り続けるのだろう。

孤独で、水も食料も、空気もいずれなくなる。
ひえええ、恐怖。
そしてナナと主人公・猿田の後を、牧村の、何がのっているかわからないボートがついてくる…。
おおおお、恐怖。

やがて宇宙のかなたから、光り輝く何かがやってくる。
鳥だ、火に包まれた鳥のようだった。
それはまるで、牧村のカプセルを覗き込むようにして去っていった。


ここからは、ネタバレ。
猿田とナナは、定期的に嵐が起きる星にたどり着く。
その島は奇妙なことに、崩れた石がまたもとの位置に戻っている島だった。
猿田はそこで、1人の宇宙人にである。

その宇宙人から話を聞くと、実は牧村はかつて、、宇宙の生命をないがしろにした男だった。
牧村を流刑地に送るために、牧村に全滅させられた星の住人が牧村を救命ボートに乗せたのだった。
救命ボートは、宇宙の果てにある流刑星に送られる。

宇宙人は、猿田とナナは関係ないから地球に送り返してやると言った。
さらに、猿田たちは気づいていなかったが、自分はずっとあの船にいたと言う。
十何年も、船にいた?
誰も気づかなかった?

お前は一体、何ものだ!
猿田が叫ぶと、宇宙人は火の鳥に姿を変えた。
お前は、宇宙で見た鳥!と、猿田は言う。

ナナと再会した猿田。
そしてナナもまた、火の鳥から牧村についての話を聞いたと言う。
この流刑地の木は、みんな元は生きて動いている生物だった。
それが動けない木に変えられている。

星には嵐が起き、木になった流人はその嵐に耐える。
やがて嵐は収まり、壊れたものは星を壊さないために元にもどる。
再び嵐が起き、流人はまたそれに耐える。

牧村だが、彼はある程度、大人になるとまた子供に戻る。
そして、何度でも何度でも大人と子供の間を繰り返し、ずっとずっとこの星で嵐と孤独に耐えなくてはいけない。
宇宙船の中でどんどん、体が縮まり、子供に帰っていく牧村はやっと、これが宇宙人の復讐であることに気づいた。
薄れ行く意識の中で、「ぼくはころされる」と書いたのは、そういう意味だったのだ。

猿田はナナに地球に一緒に帰り、結婚してくれと言う。
だがナナは、牧村を愛していると言った。
この流刑星でずっと、牧村を見守りたいと言う。

しかしそんなことは、ナナの犠牲だ。
猿田は承知できない。
牧村を殺そうとした猿田だが、赤ん坊になった牧村を何度刺しても、牧村は死なない。
崖から牧村を落とした猿田は、火の鳥にそのことをとがめられる。

火の鳥は、あなたが会いたいと思ったナナは、もういないと言う。
猿田の目の前には、木に変わったナナがいた。
ナナは木に変わり、牧村とともにこの星に残ることを選んだのだった。
俺を見つめていた、あのナナの瞳はどこに行ったんだ!

嘆く猿田は、火の鳥を殺してやると叫ぶが、火の鳥は牧村をころそうとした猿田も罰を受けなければならないと言う。
次の瞬間、猿田は宇宙に放り出され、醜い顔に変わっていた。
気がついた猿田は、地球に救助されていた。
猿田は思う。

この宇宙の片隅、もう二度と探せない流刑の星があって。
そこでナナが、今日も嵐に吹かれているのだろう。
我々の罪を一身に背負って…。

…という話です。
も~、哀しいやら、怖いやら。
生命というものをテーマにした火の鳥は、忘れられない傑作なんですが、この宇宙編。
怖い、という意味でも忘れられないのでした。

猿田は未来編や黎明編などを見ると、「あっ、あの人物だ!この時代にも存在しているんだな」ってわかる人物。
火の鳥は罪を犯した猿田に彼の子孫の様子を冷たく予言して流刑星から追放しますが、未来の猿田博士には冷たくない。
猿田は猿田で火の鳥のことを、「相手に自分を、どんな姿で見せることもできる。そうなるともはや生命体とは言えず、エネルギー体である。宇宙にはそうしたものが存在するということを、講義で聞いた」と言っています。


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