「逃げるように辞めちゃいけねえよ!」 逃がれの街

水谷豊さんと言うのは、ものすご~く長い間、活躍している俳優さんなのだ。
2時間サスペンス中心の時代もあるけど、水谷さんといえば何?と聞くと年代ごとに違う答えが返ってきたりする。
すごい俳優さんなのだ。

頭が悪くて、不器用で、純粋で、恵まれないチンピラ青年。
ちょっとなまりがある、実直な熱血先生。
クールで、天才で、変人の特命係の刑事。

いや、これだけ年代によってイメージが変わって、それでいてそのすべてがしっくり来て、主演をやっているという珍しい俳優さんかもしれない。
今度は時代劇専門チャンネルで「影同心2」が始まるので、若き日の時代劇の水谷さんも見られる。
そしていつの時代でも、さりげなくやっているけど、その運動神経の良さにも驚かされる。

「逃れの街」は、水谷さん主演の1983年の作品。
水谷豊さんが演じるのは、電気店で、新しいテレビを届ける代わりに古いテレビを回収してくるのが仕事の水井幸二という青年。
一緒に仕事をしているのは、米倉という関西弁の青年。
これは、島田紳助氏が演じている。

米倉は幸二を兄貴ぃ、兄貴と呼んでくっついてくる。
「傷だらけの天使」で、ショーケンの修に「アニキアニキ、アニキィ」とつきまとうようにしてくっついてくる亨を知っている人が見たら、「亨も大人になったんだな」っておもってしまうかもしれない。
「傷だらけの天使」の亨は、寂しくて、不器用で、拠り所がなくて、唯一の拠り所である修にくっついて歩いていた。

修からバカにされても、理不尽な扱いを受けても、修が好きだった。
また修も、いじめながらも亨がかわいくて、2人はいつも一緒に傷ついていた。
修が一人で綾部の社長と一緒に日本を脱出しようとした時、亨はインフルエンザをこじらせて死んでしまった。
田舎で修と暮らす土地を買おうと、アトラクションボーイをして真冬に冷たい公園の噴水に飛び込んだのが原因だった。

とことん要領が悪かった亨は最後まで寂しがって、そして一人で逝ってしまった。
「逃れの街」の水井幸二は亨より大人で、分別がきくけれど、やっぱり不器用で、不運で、流れを自分の味方にすることができずに、不運の中で殺される。
この当時の水谷さんといえば、頭が悪くて不器用で、寂しくて不運なチンピラ青年というのがすご~く、はまっていたんだなと思ってしまう。

水井幸二には遠藤牧子という恋人がいるが、彼女とはいつも電話で連絡するだけ。
私は幸二と牧子は、客と体を売っている女性なのかと錯覚してしまいました。
牧子は、当時人気のあった甲斐智枝美さん。
水井は牧子に、ギリシャの大富豪オナシスが持っているようなすごいヨットを買いたいと話している。

その夜、アパートに帰宅して寝ていた幸二に、一緒に上京した沼田から泊めてくれと電話がかかる。
「人殺したんだ」と言って「冗談だよ」と沼田は笑う。
だが土砂降りの中、公衆電話から電話する沼田が必死に拭いているスニーカーには血がついていた。

この沼田、平田満さん。
いや~、今見ると、渋い魅力の俳優さんたちが若くて楽しい。
さて、この沼田、冗談じゃなくて本当に強盗をやっていた。
そして幸二が仕事に出た後、水井のアパートの前で捕まったらしい。

幸二のアパートが一間の、畳が磨り減って汚れているようなアパート。
窓枠が木でできていて、ガラスはすりガラス。
ドアも木でできていて、壁が土壁で、押入れのふすまがボロボロ。

今、こんなアパート見なくなりましたね。
地震や火災で危ないし、老朽化しているから建て替えられちゃったんでしょうか。
経営者が代替わりして、建て変わっちゃったよって言っていた人もいましたが、バブルで地上げが盛んになった頃から見なくなりました。

まさに昭和って感じがします。
昭和というか、70年代なのか。
そういえばこの作品も、80年代前半にわずかに残っていた、70年代の香りがわずかに残った映画という感じがします。
ショーケンの「青春の蹉跌」などに見られる残酷な青春映画の香りが残った、最後の方の作品。

さて幸二は仕事が終わって帰ってきた時、先輩社員のおっさんこと中山から、警察が訪ねてきたと言われる。
この中山は、田中邦衛さん。
するとそこに矢部と牧村という刑事がやって来る。

矢部は小林稔侍さん。
牧村は、私の大好きな本田博太郎さん。
この頃の本田さんは、すごい好青年。
しかし今の方が、おもしろい俳優さんだと思います。

本田さん自ら、この好青年路線じゃ物足りなくて、悪役やら強烈な役にシフトして行った感じがするんですけどね。
今の水谷さんと反対で、これもおもしろい。
「相棒」で水谷さんに逮捕された本田さんを思い出すと、2人とも長く活躍していること、それがこの芸能界ではどれほどすごいことかわかりますね。
「夕べ、どこで何していた!」と怒鳴る牧田の声は、やっぱり本田さんです。

牧村に「お前」と呼ばれて幸二は、「お前?お前って俺のことかい?」と反発する。
沼田が幸二と一緒にやったと言ったこともあって、黒木という刑事はもう最初から共犯扱い。
ところがその時間、幸二は牧子と一緒にいた。
しかし牧子とは電話で連絡するだけ。

牧村によると、その電話番号に出たのは16歳の三谷悦子という高校生で、幸二の言った24歳ぐらいの自分と同じ年の女性なんかじゃなかった。
しかもその少女は、幸二のことなんか知らないと言ったらしい。
もう一人、担当の黒木刑事を演じるのは、夏木勲さんです。
まだ若くて、ハンサムで、それでいて渋みもあって、すごいかっこいい!

しかし母親の愛人のヤクザの渡辺が、素っ裸でいる=つまり浮気している?のを見てさりげなく、クローゼットにかばう女子高校生・悦子は、まさにあの牧子なのだった。
牧子はまだ16歳の高校生だった。
警察に留置された幸二は、お客さんのところに行く仕事からは外される。
さらに何度も刑事が来るので、主任の八田は嫌な顔をする。

主任の八田は阿藤海さんが演じていますが、主任に文句を言うと、この主任は元ボクサーだったので、ボッコボコにされてしまいます。
この頃の水谷さんの役は、ケンカは弱い役なのです。
幸二を助けたのは、中山。
中山も昔、ボクサーだった。

幸二の様子で彼が会社を辞めるとわかった中山は、「おめえ、仕事をなくすってことがどういうことか、まだようわかっとらんようだな」と言う。
中山には幸二の転落が、見えていたんでしょう。
「わかってるよ。でも飯ぐらい、食ってけらあ」と答える幸二。

「好きにしろ。おめえ、俺と違ってまだわけえんだ。仕事はいくらだってあんだろう」と言った中山だが、歩いていく幸二に向かって叫ぶ。
「幸二、社長に挨拶しとけ。世話になったんだ。おめえ、逃げるようにしちゃ、辞めちゃいけねえよ」。
「ここだけじゃねえぞ。辞める時はいつだってそうだ。こういうこたあ、きちんとしろ」。

こういうこと、言ってくれる大人がいるんだ。
中山の過去に、何があったのか。
もう少し中山と関われたら、幸二のその後も違ったかもしれない。

この言葉が、その後の「逃げる」幸二を暗示していた。
中山には、転落していく幸二が見えているのか。
逃げていく幸二が、その先は破滅が待っているのが、わかるのか。

その夜、幸二のアパートに、遠藤牧子がやってくる。
家出してきちゃったと言う。
「化粧、してねえのか」。

「もういらないもん。あんた、本当のこと知ってんだもん」。
「やっぱりお前、16なのか」。
「前はお前なんて言わなかったじゃん…」。

なぜ、自分のことを知らないと言ったのかと聞くと、ママにも学校にもばれちゃうからと牧子は言った。
「男なんか、嫌い。ひどい目にあえばいいのよ」。
「何?」
「誰だっていいんでしょ。あたしじゃなくたって…。いつまでもこんな話してんなら、あたし、もう帰る」。

幸二に「来ないで!」と逃げた牧子だったが、自分で服を脱ぎ、「優しくしてくんなきゃ、嫌」と言う。
牧子にも、なんかいろいろありそうだなあと思ったら、牧子は母親の愛人のヤクザ・渡辺とも関係していた。
万引きをして暮らしていた幸二と牧子の2人だが、ある日、幸二はもう辞めろ、自分が食わせると言う。
その時、幸二のアパートに牧子のママから頼まれた渡辺が連れ戻しに来る。

渡辺は、さすがヤクザ。
嫌がらせの仕方がプロ。
廊下で「素人の娘さんにわ~るいこと、しちゃって」とわめかれ、牧子、いや悦子はしかたなく帰る。
渡辺は財津一郎さん。

ユーモラスで、あの♪ピアノ売ってちょうだい♪の声で、わめいちゃう。
でも怖い。
お笑いの人が怖い演技すると、本当に怖い。

運送会社に採用された幸二は牧子に電話するが、無言で切られる。
しかたなく牧子の家に行くと、出て来たのはシャツの前をはだけた渡辺だった。
部屋の中から牧子の声だけが、「2人で話し合ってよね!私はどっちでも良いんだから」と聞こえてくる。
渡辺と共に表に出た幸二は、やっぱりボッコボコに殴られる。

翌日の夜、雨の降る公園に渡辺を呼出した幸二は、牧子と別れてくれと懇願する。
俺が飽きたら、別れてやるよと言った渡辺と殴り合いになるが、幸二は公園のベンチを持ち上げ、渡辺に叩きつけた。
すると渡辺の、シルエットになって映った指がぶらぶらになっているのが見える。
渡辺が、悲鳴を上げる。

それでも殴りかかられて、幸二は夢中で渡辺をそばにあった石で殴ってしまう。
噴水に頭を突っ込み、動かなくなった渡辺。
頭から血がにじみ、流れ、噴水が真っ赤に染まる。

幸二はおののきながら、逃げていく。
いや~、このやり過ぎ感が初めて見た当時は怖かったけど、今見ると楽しい。
私もスレたなあ。

アパートに戻り、泥のように眠った幸二を翌朝、牧村刑事が訪ねてくる。
幸二はとっさに血のついた服を冷蔵庫に押し込める。
強盗の疑いは晴れたのだ。
本当の沼田の共犯者が捕まり、金も出てきた。

では沼田はなぜ、無関係の幸二を仲間だと言ったのだろう?
すると牧村は、何か恨んでいたんだろうと言った。
自分たちが疑ったために会社を辞めた幸二に、牧村は「すまない」と詫びを入れる。

「毎日何やってるんだ。俺にできることがあったら電話でも何でも良いよ」。
何かあったら力になると言って、本当にすまなさそうにうなだれた牧村は出て行く。
1人になって幸二は笑い出す。
パンツ一丁で逆立ちし、笑う。

さて、牧子、いや、ほんとの名前・悦子の家では悦子のママが売上金数えてる。
ママは、草笛光子さん。
艶っぽい。
ママから店の売り上げの小切手を取り上げ、悦子は幸二のアパートに走る。

ドアを開けた途端、抱きついてきた悦子に幸二は冷たかった。
「これだけあれば、どこにでも逃げられるじゃん。一緒に逃げよう」。
「何で俺がお前と逃げなきゃいけねえんだよ。お前、渡辺の女だろ」。

「あたしは、あんたの女よ」。
「勝手な理屈を言うな。どっちでもいいから決めろって言ったのは、お前だ。そして渡辺の女に決まったんだよぅ~」。
「あんた、渡辺を殺したわ。あたしのために殺したわ。一人で逃げる気ね。警察に言うわよ。あんたが夕べ、渡辺呼び出したの知ってるの、あたしだけよ。ねえ、一人で逃げないで。あたしも一緒に殺したのよ」。

「いつまでも遊んでろよ。俺はお前の道具じゃねえんだよ」。
「ほんとに好きなのよ」。
「もういいよ。帰れ!」
泣き叫ぶ悦子を部屋から追い出した幸二は、街に出る。

公園の階段で寝転がり、ケンタッキーのポテトを食べていた幸二。
子供たちが迎えに来た親と一緒に、次々帰っていく。
一人、こっそり幸二に近づいてきた子供が幸二のポテトに手を出す。
目を開けた幸二に気づいた子供は逃げるが、幸二は怒らない。

坊や。
昼飯食いに帰らないのか。
家はどこだ。

誰か迎えに来るのか。
迷子になったのか。
違うのか。

親はどうした。
お袋とオヤジは、え?
どうしたんだ。

子供は、幸二と同じポーズをして座る。
隣に座り、幸二にくっつく。
食べな、やるよ。

おいしいか?
さようなら。
立ち上がり、歩いていく幸二。
しかし、子供は後をついてくる。

その頃、悦子は渡辺の舎弟に捕まり、詰問される。
渡辺の兄貴を殺したのは、誰だ。
落とし前つけないと、顔が立たない。
知らないと言う悦子だが、顔に傷つけたろか?シャブ漬けにしたろか?殺す前にやりたい奴はやれと言われ、顔にライターの火を近づけられる。

やがて、駅の構内に呼出された幸二は、自分についてきた子供・宏がやくざたちに捕まっているのを知る。
女ってのは、おしゃべりだなあと、あざ笑うやくざたち。
子供は関係ないと、宏を取り戻した幸二はやくざたちに追われる。
だがもうすでに人を一人殺している幸二には、ヤケになった狂気があった。

渡辺の時もそうだけど、決して幸二はケンカが強いわけじゃない。
しかし、ケンカのルールではありえないやり方をする怖さがある。
捨て鉢の怖さとでも言うのか。
1人がドスを振り回した幸二に刺されると、やくざたちも恐怖に駆られる。

「お前!人殺したことあんのか!人間ぶっ殺したことあんのか!」
「やかましい!」と叫んでも、幸二の狂気の前にやくざたちは散っていく。
「俺はあるぜ、渡辺をよ!お前の兄貴分をぼろっきれみてえにして、ぶっころしてやったよ!」

彼らだって、人と切りあい、殺しあったことはないんだもんねえ…。
こういうのは、怖がった方が負けなのか、怖い方が強いのか。
主犯格の男を何度も何度も刺した幸二は、宏を連れて逃げ出す。

ここから、宏を連れて、幸二の逃避行が始まるわけです。
中山に宏を一晩預かってくれと言って、幸二はアパートに戻る。
小銭を貯めた瓶を割り、お金を手にすると、幸二はスーツを着る。
コートを着た幸二は、自分の手に、手錠がついている幻を見る。

流れるのは、柳ジョージさんの歌声。
ものすごい切ない。
この方の歌声聞くと、すごく70年代の破滅の青春ドラマって感じがするんですよ。
終わりが必ず、哀しい、だからどこか怖いような気持ちで見ているドラマ。

こういう切なさは、もう、日本映画からはなくなりましたね。
なくなったのなら、それは必要じゃなくなったということで良いんでしょう。
わざわざ、必要もないのに主人公を何もかもが解決したところで意味なく死なせたりすれば、それは切なくなるでしょう。
そんなことして、無理に切なく作るものじゃないですしね。

切ないのが、やりきれないのが、この時代の空気だったわけで、それはこの時代にしか作れないものだった。
それで良いのではないでしょうか、ということで、逃れの街。
後半は、また書きます。
う~、すみません。


スポンサーサイト

コメントの投稿

Secret

プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧

本も映画も文具も、いいものはいい!

LEVEL1 FX-BLOG
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード