その後の幸二は、酔った女を車の外で介抱している男の車に乗り込み、そのまま走り去って車を手に入れる。
朝になり、中山の家に行き、宏を乗せて逃げる。
中山は朝までずっと起きて、幸二を待っていたようだった。
「寝なかったのか」。

幸二が出て行くのを見て、中山の家で体を壊して寝ていた米倉が気づく。
米倉に体を大切にするように言うと、幸二は出て行く。
俺も連れて行ってくれと叫ぶ米倉。
じっとしていないと死ぬと中山は米倉を抑えようとするが、米倉はバイクで後を追ってきた。

兄貴、兄貴、置いていかないでくれよ、俺を一人にしないでくれ。
どこかで、見た光景と思う。
あの時、ふらふらになりながら叫んでいたのは、亨だった。
水谷さんだったけど。

海の近く、ヨットハーバーに着いた幸二は宏に語る。
「小さい頃から海の傍に住んでみたいと思ってたんだ。働いた金で、小さなヨットでいい。買いたかった。ヨットは俺のようなものには、手の届かない代物。すげー高いんだ。へへへへ。カタログだけが貯まるだけさ。しょうがないよなあ。金がないんだから」。
宏を相手に、幸二は話す。

やがてひと暴れするかと言って、起動戦士ガンダムだとヨットを銃撃する振りをして遊ぶ。
宏といる時だけが、子供の自分に戻れる、と言った感じの幸二。
すると、宏が山が見たい、と言った。
信州、白馬。

そこに宏の叔父がいると知った幸二は、信州に宏を連れて行くことに決めた。
途中、バイクの脇でぶっ倒れていた米倉に医者に行けと声をかけ、幸二は信州を目指す。
「兄貴、俺さみしいねん。俺を一人にせんといてくれぇ」。
後を追おうとした米倉だが、咳き込み、倒れてしまう。

そのまま、道路脇の、ひび割れた地面の野原に転落した米倉は、みんなが俺をバカにすると言った。
米倉が気になった幸二は道路を引き返すと、米倉のバイクが放置されている。
野原で米倉を見つけた幸二は助けおこすが、米倉はもう死んでいた。

「傷だらけの天使」の亨が死んじゃうシーンみたいだけど、こういうのって、トラウマになりそう。
ただ、修と違って、幸二は米倉に涙しない。
幸二もすぐに後を追うから。

その夜、野原で幸二は米倉を荼毘にふす。
燃え上がる炎を背に、幸二は宏の手を引き、走る。
当たり前ですが、現実にはこれは非常にまずい行為です。
だから、普通はやりませんできません。

その頃、幸二のアパートを訪ねた黒木はガスの臭いをかぎつける。
ドアを蹴破り、窓を開けると表にいる牧村刑事を呼ぶ。
置き去りにされた悦子が、幸二のアパートでガス自殺を図ったのだった。

悦子、冷静に考えるとすごい、人に迷惑かけちゃう娘だ。
幸二の運命は悦子で狂ったんだし。
だけど悦子だって、傷ついてんだと思う。

男はみんな、ひどい目にあえばいい。
この言葉は渡辺にだけじゃない。
悦子の父親、母親にくっつく今までの全部の男に向けられている。

それだけじゃない。
母親にも、いや、自分が知っているすべての大人に向けられた言葉に聞こえる。
悦子と母親と、母親を取り巻く男との生活が、今までの悦子の生活が透けて見える。

自分のために人を殺した幸二。
幸二は今や、悦子のすべてになった。
しかし悦子は幸二のことを、やくざたちにしゃべった。
普通なら、その罪の意識で自分を責める。

だとしてもそれはしかたがない、誰だってしゃべる。
人を刺した幸二にはびびっても、弱い悦子には何だってやるような男たちだ。
でも悦子が自殺を図ったのは、そんな罪の意識ではなかった。

幸二が自分を、連れていかなかったからだと思う。
もう、幸二は悦子のことも考えてないように見える。
悦子のために、悦子を置いて一人で逃げたのでもないように見える。
宏のことしか、頭にないように見える。

幸二はただ、誰かを愛したくて、誰かに愛してもらいたかったんじゃないか。
だから幸二がもう少し早く、宏と知り合っていたらこんなことにはならなかった気がしてしまう。
そういうのが全部、幸二という青年の不運で、それを描いている映画なんだけど。

白馬。
人々がスキーにやってきている。
映画はここからは、幸二と宏の世界が繰り広げられてる気がします。

宏の道案内で、幸二は宏の叔父の家に近づく。
そこは鈴木建設という建設会社で、大畑健三という議員の後援会の看板がかかっていた。
幸二は宏の叔父の鈴木に会うが、鈴木は選挙になると変なタカリがやってくると迷惑そうだった。

鈴木は、小池朝雄さん。
選挙で盛り上がる鈴木の周りから、幸二と宏は浮いてしまう。
たまらなくなった幸二は言う。
「あんたの身内の4つの子が、東京から来てるんですよ」。

幸二の言葉に鈴木は妻を呼び、幸二に妻と話をするように言って、選挙運動に戻る。
妻がやってきて、宏を見る。
幸二に話すところによると、宏は夫の兄弟の子供だということだった。

この妻は、絵沢萌子さん。
叔母は宏に優しく声をかけるが、宏は叔母の顔を見ない。
ぷい、とそっぽを向く。

叔母さんは優しそうだし、宏のことを心配はしている風だけど、宏はちっともうれしそうじゃない。
叔父が冷たかったのかもしれない。
鈴木の妻が言うには、宏の父親は去年の今頃、この家に宏を連れて来たが、借金の相談だった。

そしてその後に宏の一家はサラ金に追いかけられ、一家心中した。
宏だけ生き残り、養護施設に預けられていたのだ。
幸二が宏に感じた孤独は、これだった。
宏はきっと、父親に冷たかった叔父を見ていたんだろう。

「引き取ってくれますね」と幸二は言うが、妻は「それだけは勘弁してください」と言った。
今は選挙戦の真っ最中で、今身内で変な噂が立つようなことは避けたい。
宏を連れて、施設に帰ってくださいと妻は去っていく。

事務所に怒鳴り込んだ幸二は、鈴木に百万円の束を渡され、つまみ出される。
今引き取れないものが、この先引き取れるはずがない。
宏を引き取る気は、鈴木の家にはないのだった。

こんな家に、宏はなぜ行きたがったんだろう。
宏が行きたかったのは鈴木の家だろうか。
父親との、最後の、おそらく楽しい思い出がここにあったんじゃないだろうか…。

表で宏が目に涙をためて、幸二を待っていた。
「泣くな!」
「泣くなあっ!」
幸二は雪をつかむと、宏の顔を乱暴に洗う。

「なあ、宏ぃ。今夜の宿はどこにしようか、なあ…」。
幸二は人のいない別荘の窓を破り、鍵を開けると真っ暗な中に入る。
手探りで灯りをつけると、そこは瀟洒な別荘だった。

幸二には、宏を幸せにする力はない。
明日さえ、わからない幸二に、そんな力はない。
だから、何とかしてやらなければ。

夜。
雪が降る。
幸二は別荘を抜け出すと、鈴木の家に向かう。

鈴木の家に土足で侵入すると、鈴木の妻が気づいて悲鳴を上げる。
「誰だあ、おめえは!」
幸二はドスを手にしていた。
「おめえは、昼間の!」

「てめえら、ほんとに宏を預かる気がねえのかよ!」
「てめえ、やっぱりタカリだな、おい!やっぱり銭がほしいんだろ!俺を何だと思ってんだ、おい!俺は県会議員までやった男だぞ!おい!なめた真似すると承知しねえぞ。おい!」
「ばかやろう!宏の身にもなってみろよ。宏はお前らだけが頼りだぞ、宏預かれ、な、預かれ!」

「金なら出す。養育費なら」。
「ダメだ!お前が育てるんだ!」
「わかったよ。わかった」。

宏を何とか、まともな暮らしにもどしてやりたい。
冷たい家だとわかっていても、それでもさまようよりはマシだ。
世間体もあるから、学校はちゃんと行かせるだろう。
幸二はきっとそう思ってた。

鈴木が、床の間の下の小さな戸を開けた。
お金でも出すのかと思ったが次の瞬間、鈴木はピストルを構え、発砲した。
「こぞおおお。出てけえ!」

だが幸二は鈴木からピストルを取り上げると、鈴木を叩きのめす。
警察を呼べ、と鈴木は妻に叫び、幸二は逃げていく。
翌朝、警察が来て、包帯だらけの鈴木が事務所に入ると、事務所はめちゃくちゃに荒らされていた。
鈴木の発砲は、警察はどう扱うんでしょうね。

幸二は、事務所から当選ダルマを持ってきていた。
雪の中、ダルマを転がし、宏と遊ぶ。
東京から黒木と牧村刑事が来て、説明を聞く。
警察は山狩りを検討していた。

黒木と牧村が降りた車の中、悦子もいた。
悦子は隙を見て、車から出る。
雪の中、必死に走り、山へ向かう。

山狩りが始まった。
雪の中、斜面をダルマを転がし、幸二は遊んでいる。
それを遠くから見た刑事たちが、「子供を楯にされたら、逮捕は難しい」と相談している。

幸二いー!と、山に悦子の声がこだまする。
悦子は斜面を滑り落ちながら、少しでも山頂に近づこうとする。
何度も何度も、転びながらも走る。
木の枝に捕まりながら、斜面を登る。

警察の拡声器が、幸二に呼びかけているのが聞こえる。
渡辺とその舎弟の柴崎を殺した罪で、逮捕すると言っているのが聞こえる。
幸二は宏の頬を両手で包むと、「寒いだろ」と言った。

「寒いだろ」。
「寒いだろ」。
幸二は宏を抱きしめる。

宏に話しかける幸二の声は、限りなく優しい。
最初に公園で話しかけた時の声も優しかったが、本当に優しさに満ちている。
水谷さんの声の演技が、すばらしい。

「泣くなあっ!」と「寒いだろ」。
この2つに、ものすごい暖かさ優しさ、慈愛がある。
そしてこの辺りからはもう、破滅しか見えなくて、幸二の不器用さ、優しさ、宏への愛しさが哀しい。
もう、宏に自分は何もしてやれない…。

「行くぞお~!遊ぼう!」
宏が声を上げる。
幸二が、ダルマに抱きついた宏を抱えて走る。

柳ジョージの歌声が、かぶさる。
ああ、もう最期なんだとわかる。
幸二の最期の予感が、哀しい。

「あのな、宏。お兄ちゃんのな。田舎な。すごくな。綺麗なんだ」。
「そしてな、春になるとな、花が一杯咲くんだ。雪が解けるとな、小川にはな、おたまじゃくしがな、一杯泳いでるんだ」。
「宏、今度連れてってやる。ツクシとれんげ草でな、土のにおいがあったかくてな」。

「宏、かくれんぼやるか!」
「やる」。
「ようし」。
幸二は宏をかついで、走る。

警察が身を低くし、幸二たちに近づいていく。
「ようし。じゃんけんだ。じゃんけん、ぽい。宏が鬼だ。いいか、お兄ちゃんが20数えるからな。それまで目を開けたらダメだぞ。いくぞ」
「いーち、にーい」。

宏も数える。
さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、くうう、じゅううう。
幸二の声が遠くなっていく。

じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうし、じゅうごー!
幸二がピストルを、警察に向ける。
じゅうろく、じゅうしちー、じゅうはちー、じゅうくー。

幸二がダルマを投げる。
バウン!
銃声が響く。

宏が立ち上がり、振り向く。
にーじゅう。
銃声が響く。

幸二がもんどりうって、倒れる。
そして、もう一度起き上がる。
うっすらと、幸二が笑う。

再び立ち上がると銃声が響き、幸二の周りの着弾した雪が跳ね上がる。
幸二は倒れた。
だが、まだ動いている。

きっと、宏は二度と白馬には行かない。
ここで楽しい思いをして、ここでその思い出をくれた人が去っていく。
きっときっと、大人になっても宏の心が痛むことだろう。
幸二は嘘ついたんじゃないんだよ、ほんとにそうしてやりたかったんだよ、宏ちゃん。

銃声を聞いた、悦子が走る。
幸二が雪を淡く染めて、両足を開き、斜面をずり落ちていく。
悦子の前には広い、雪山の斜面があった。

力尽きたように、悦子は座り込む。
遠い。
幸二のところまでは、遠い。
悦子の目の前の真っ白な斜面を、黒い点々が動いていく。

点々は、雪の斜面を登って行く。
右からも左からも黒い点となっている刑事たちが、登っていく。
その真ん中に、幸二がいるのだろう。
幸二は頭の下の雪を真っ赤に染め、目を見開いて絶命していた。


この、血のどぎつさ。
子供の頃見ると、この残酷さって心に残っちゃうんですよね。
哀しい破滅の青春映画。

70年代の残り香があるなあ、と思いました。
ショーケンの「青春の蹉跌」なんて本当に、70年代にしか作れない映画だった。
これも今作ったら、嘘っぽくなるだけかもしれない。

軽く、楽しく、が主流になろうとしている直前かもしれない。
もう少し経ったら、この手のドラマってやたら暗くて悲惨なのよね~、って言われた。
後味悪くって、とか。

でも水谷さんは、輝いていた。
あの頃にしかできない、水谷さんの無鉄砲さ無防備さ。
愚かしいほどの優しさがありました。


スポンサーサイト
2014.04.23 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://kotatuneco.blog59.fc2.com/tb.php/2864-034819b8