こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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スケコマシという仕事を全うし得なかったために 「大都会 闘いの日々」

24話、「急行十和田2号」。

暴力団「針尾組」が摘発された。
家出少女を捕まえて、売春させていたのだ。
平均年齢は24歳、中には17歳の少女もいたらしい。

この記事を書いた九条は、うまく書けなかったことを滝川こと、バクに詫びる。
バクは九条に、家出少女を食い物にする様子をルポで記事にすれば良いと提案する。
少年課に走る九条を、バクは「わかってない」と言って、止めた。

「バカだなお前、そんなところに行って聞いたってルポにはならんでしょ!実態を知りたければな、その筋の専門家に当たるの」。
「つまり、スケコマシ!」
「スケコマシと呼ばれている奴ら。わかる?」
これはそろそろ、九条にも一人前の記事を書かせたやりたいバクの親心だった。

バクにスケコマシに取材しろと言われた九条は、東金商事に足を運んだ。
応対に出たのは、染谷という社長だった。
九条は何と、染谷にじかに当たったのだ。
染谷の背後、両側には2人の屈強な男がいる。

東金商事は表向き、商事会社を名乗っているが、実は時任組だ。
九条のスケコマシを紹介してほしいとの言葉に、染谷はそんな奴らは知らないと突っぱねた。
だが城西署の4課の丸山の紹介で来たなら、「見つけましょうか?」と言ってニヤリと笑った。
バクたち、記者の間では次に摘発されるのは、時任組ではないのかという予測が流れていた。

喫茶店で九条は、染谷の紹介でスケコマシの稲田という男に会えた。
「稲田っつうんだよね。稲田健一」。
稲田は小柄で、笑うとちょっと人懐こい笑顔になる男だった。
だが稲田は話しながらも町を行く女性を見て、コーヒーを運んできたウエイトレスにも目を配る。

名前と素性を公表しないことを条件に、稲田は九条の取材に応じた。
「じゃあ早速、稲田さん」。
はやる九条に稲田は「あのさ、新宿じゃあ、俺のことイナケン。イナケンって呼んでくれる?」と言った。

外に出た稲田は、映画館の前に立っている若い女性を見る。
「ああいうタイプは映画スターにしてやるって言うと、一発ですよね。でもまあ、無理ですよね」。
「この前、太った女性に『プロレスラーになりませんか?』って誘ったら、ぶっとばされました。

稲田は街で、靴を見ている2人連れの女性を見る。
「あの手は怖いですわ」。
また、人待ち顔で立っている女性を見て言う。
「ああいうのは簡単。お嬢さん、お茶飲みませんか?でもう、オッケーよ。でも資本を投資しても回収はできません。商売にはなりませんわ」。

九条は、スケコマシをやるコツは何か聞いた。
稲田は笑顔を見せる。
「相手に誠心誠意尽くすことよね、結局」。

お好み焼きを焼きながら、稲田は言う。
「優しく尽くしながらぁ、こっちはあくまでもクールでいることね。つまり、ビジネスに徹するわけ」。
「ビジネスに徹しきれない人は、失格ですよね。結局」。

九条がメモをしているのを見ると稲田は、「メモなんかしない!」と言う。
「帰って整理しながらやるから」と九条は言った。
「若い女性って言っても、そうそう簡単にいかないでしょ?」

「いやあ、簡単。声かける前にちゃんと狙いつけるの。女性ならどなたでもいいってわけじゃないもん、だって。これはいけそうっていうあれはね、直感、もう」。
九条は実際にイナケンが家出した女性に声をかけるところを見たい、と頼んだ。
「実働?」
「いいけど、上野よ。今日はもう、ダメ」。

「どうして。」
「夜行が上野に着く時間狙わなきゃ。朝早いよ」。
「いいです」。

翌朝、九条はイナケンと上野の駅前にいた。
「夜行は一杯あるけどさ。好みっていうか、相性あるんだよね。俺が狙うのはいつも、これこれ。青森発。急行十和田2号」。
青森発、急行十和田2号がホームに入ってきた。

稲田は若い女性に声をかけた。
「お疲れ様。疲れたでしょ。良く眠れました?」
だが女性には、迎えがやってきた。
イナケンは離れる。

次に声をかけた女性は、これから青森に行くのだと言って逃げていった。
その次に声をかけた女性の荷物を半ば無理やり持ってやろうとした時、警官が来た。
何かを察した警官が近づいてきたので、イナケンは逃げる。

成功しないのを見られたイナケンは九条に「最近では半月ぐらい前に1人だけ」と告白した。
「そいつも十和田2号の口。張り合いのないくらい乗ってきて、ひねてないっていうか、バカっていうか。あれなら素人でもだまされるわ」。
九条はイナケンに食事をおごっていて、イナケンの水を飲んでしまう。

それを見たイナケンは笑いながら九条に聞く。
「兄ちゃん、あんた、人間の種類にはあんまし、こだわらないたちなの?堅気じゃないもんに対してもさ」。
「わかんないです」。
イナケンは、その、十和田2号でひっかけた女性に九条を会わせることにした。

「頼むからさ、俺の素性はばらさないでよ。あ、来ました」。
一人の女性が入ってきた。
屋台で買ったのか、ビニールの袋に入った金魚を一匹持っていた。

ピンクのシャツタイプのロングのワンピースに、髪を後ろでひとつに結び、白のネックレスをしていた。
かわいらしい、清楚な女性だった。
「あのお。水沢初代です」と女性は名乗った。

「家出の理由っていっても、あたしの場合は、追い出された感じなので」。
初代はそう言うと、うつむいた。
「親に?」
「いえ。両親は小さい時に死んで、おじさんのうちに引き取られたので」。

初代は伏し目がちの、大人しそうな、寂しそうな女性だった。
「そのおじさんにですか?」
「…おじさんのところの長男に、一郎さんって人がいるんです。今、東京の大学の3年なんですけど」。
初代の声は、どんどん小さくなっていく。

「今年の2月…、春休みの時、帰ってきて…。一郎さん、あたしに変なことするようになって…。…いやらしいことするようになって」。
初代の言葉は、途切れ途切れだった。
「あたし、小さい時から好きだったけど、そんな、そんなことされるの…。嫌だったので、逃げてました…」。
初代の声が、だんだん震えてくる。

「ある日、一郎さんに呼び出されました。抱きつかれました。大声出したら、一郎さん、怒って、あたしのこと殴りました…」。
「おばさんに見つかりました。ワケを話したら、おばさん、怒って…。あたしに言いました。色情狂って」。
初代が涙を目にためた。

「しばらくして、出て行けって言われました」。
「それで東京に」。
「はい」。

初代は、グスグスと泣き始めた。
「ああいうことされても…、やっぱり一郎さんが好きだったのであたし、手紙書きました。東京に行くから、アパートをさがしてくださいって」。
「そうしたら探すから前もってお金をくれって返事が来たんです。8万円送りました。7時25分の十和田2号で行くから、迎えを頼みました」。
「だけど…」。

初代は、しゃくりあげた。
「だけど、来てなかったんです。2時間も待ったけど、来てくれなかったんです。一郎さんのアパートに電話したら、そうしたら昨日引っ越したって。行き先もわからないって。東京って、あたしわからないし、どうしようか迷ってるところに稲田さんに会ったんです」。

イナケンは、ニヤリと笑った。
「そう。そういうこと」。
「アパートを紹介してくれて、お金も貸してくれて」。

「だって困ってる時は、お互い様だから」とイナケンが言う。
「今は就職先も、探してもらってるんです」。
「もし、もし、稲田さんに会ってなかったら、あたしどうなってたか。だから、だから。すごく感謝してるんです」。

「そういう次第」と言って、イナケンは笑った。
そして、泣いている初代にハンカチを出す。
見ていた九条の顔が、険しくなっていく。

「これ、いつの新聞に出るの」。
「まだ決まってません!」
「そう」。

九条は、東洋新聞の社屋の屋上でバクに向かって憤っていた。
「売られていくんですよ!」
だがバクは冷静に「お前、あの女の子助けたいのか。4課の旦那方に通報したいのか」と聞いてきた。

「いや、ですから…」。
「じゃ、なんだ。途中で根を上げるくらいならな、はじめっからやらなきゃいいんだよ。そうだろう。取材してる間は、いろんなことにぶつかるんだよ」。
「そのイナケンて男にな、新聞記者としての約束、それは通してやれ。悩むなとは言わん。怒るのも結構。だがな、ブンヤってのは、その怒りを記事に書くんだな。それが俺たちの正義感ってもんじゃないの」。

その頃、騙されて売られて船橋で働かされていたという、若い女性が城西署に送られてきた。
自分を売った男はわからないが、顔を見ればわかると女性は言った。
加賀見たちは取調室にいる、針尾組のスケコマシを見せた。

「もっと優しそうな男です」。
見せた写真の中にはいなかった。
時任組にイナケンというスケコマシがいる、と高木刑事たちが言った。

「イナケン?」
「イナケン!」
丸山はその名前に、密かに反応する。

針尾組と時任組の間には、いざこざが起きていた。
今度の針尾組の手入れのきっかけになった密告は、時任組がやったのかもしれない。
だとすると、今度は針尾組が時任組に報復する番だろう。
城西署ではそんな予測がされていた。

丸山は廊下で、九条を呼び止めた。
そして時任組に、名前はわかっているが姿を知らないスケコマシがいると伝えた。
「清水六郎、通称シミロク」。
「もう一人、イナケン」。

「ゲジという名前の奴」。
イナケンと聞いた時の九条の反応を、丸山は見た。
丸山は城西署に帰り、スケコマシを九条も取材していることを伝えた。

休日。
初代が洗濯をしながら、イナケンに今度からイナケンの洗濯は自分がやりますと言っていた。
「そんなこと、いいですよ」とイナケンは言って、テーブルの上のカップの水を飲もうとした。
カップの水の中に金魚がいるのを見たイナケンは、あわててカップを置く。

それを見た初代が笑って、水をコップに持ってくる。
初代は、小さな箱の中で、はつか大根を栽培していた。
持ってきた2つのカップのうち、イナケンに渡さなかった方の水をの土にかけた。
それを見たイナケンの顔色が、変わったように見えた。

初代は金魚が一人では寂しそうだといって、ボタンを持ってきた。
「お友達が来るまで、このボタンでがまんしててね」。
そう言って初代が、赤いボタンをカップに入れる。
初代の部屋のドアが、とんとん、とたたかれる。

「はあい」。
すると外から「稲田、来てますか」という声がした。
イナケンが出て行くとドアの外に男がいて、「すぐ事務所に来い。染谷の兄貴が呼んでるぜ」と言った。
「ちょっと行って来る」と部屋の中の初代に明るく答えて、イナケンは階段を下りていく。

東金商事でイナケンを待っていた染谷は、初代の行き先が決まったと言う。
群馬の伊香保温泉だ。
「じゃあ、北辰一家に」。
「ああ」。

「芸者っすか」。
「たぶんな」。
「明日そいつを連れて行け。感づかれて逃げられるなよ」。

その夜、初代の部屋でイナケンは初代と向き合って話した。
「もしもね、もしもの話だよ。あんたが芸者になる気があるなら、それ相応の支度金出しても良いってところがあんだよね」。
「芸者…」。

初代の顔が曇る。
「知り合いに聞いたんだけど。場所は伊香保温泉ってとこなんだよね」。
初代は、うつむいた。

「支度金に50万出すって言うんだよね。そうしたら俺の借金返しても、あんたに40万渡せる計算だよね。でも嫌だろう、芸者」。
「いいの、もしもの話なんだから」。
すると初代は意外にも、「行きます」と言った。

「無理しなくて良いよ」。
「芸者になります。それで…お金返せるんでしょう?」
初代の顔は、思いつめたように真剣だった。

「本気?」
「本気!」
初代は明るく言った。

「いいの?」
そう言われると、初代はうつむいた。
「それで…いつ行くんですか」。
「これもまた、急なんだけど明日」。

「じゃあ…、今夜でお別れ?」
「ああ」。
「一緒に…来てくれるんですか」。
「あ、いやあ。俺はほら、会社が東京だから」。

「でも、連れてってくれるんでしょ」。
「ああ、うん。連れてくだけは」。
「ああ、良かった」。

初代は笑顔になった。
「あ、ご飯は?」
「いや、まだ」。

「じゃあ一緒に食べてってください。私、焼きそば作るから」。
「悪いね」。
「ふふっ」と、初代は楽しそうに笑った。

「頼みたいことがあるんだけど」。
「何?」
「紅しょうがを買って来てくれる?」
初代はまた、「ふふ」と笑った。

「なんで?」
「焼きそばには、紅しょうがを入れるのが本式なの」。
「そうか」。
立ち上がったイナケンに初代は「すいませぇん」と言った。

しかし、できあがった焼きそばに、紅しょうがはなかった。
初代が「紅しょうががなくて、本式にはならなかったけど、どうぞ」と言って出した。
2人は、折りたたみ式の小さなテーブルを前に向かい合った。

イナケンは「昼間、新聞記者に変なこと言ったでしょ。すごく感謝してるみたいなことを」と言った。
「うん」。
「嘘がうまいよな」。
「あれは本当のことだから」。

床にこぼした焼きそばを、イナケンが拾いに身をかがめた。
テーブルの下、畳にこぼれた焼きそばを、イナケンは犬が拾うように畳に頬を押し付けてほおばる。
初代の膝小僧が見える。
それをイナケンはジッと見つめながら、焼きそばを拾って食べる。

テーブルに戻ったイナケンは「あの話はほんとなの?一郎とか言う大学生のこと」と聞いた。
「惚れてんのか今でも」。
「ううん。どうして?」

イナケンはあわてて、焼きそばを食べる。
「やっぱり…」。
初代の顔が、曇った。

「紅しょうがないと、つまんないね」。
「ほんとに紅しょうがなかったっすよ」と、イナケンがわざと買ってこなかったんじゃないことを強調する。
そして、ごくごく水を飲む。
初代は、まるで子供がすねたように焼きそばを口に運ぶ。

イナケンが突然、「初代さん!」と言って、初代を押し倒した。
軽い組立式のテーブルが、ひっくり返る。
「やだあ!」
初代が叫ぶ。

「やだあ、やだあ!」
初代がそう叫んで、泣き出す。
イナケンは、離れた。
「明日迎えに来るからな。荷物ちゃんとまとめとけ」。

それだけ乱暴に言うと、イナケンは出て行く。
初代は、顔を覆って泣いていた。
ひっくり返ったテーブルから、焼きそばと水がたたみにこぼれていた。
やがて初代は、泣きじゃくりながらも起き上がった。

翌日、駅でイナケンは「高崎大人二枚」とキップを買っていた。
隣には、黄色いワンピースを着た初代がいた。
九条が、あわててイナケンを追うために走っている。
その後を今度は、大内刑事たちが追っている。

駅のホーム、列車を待っていたイナケンが吸っていたタバコをぽいと捨てた。
初代がにっこり笑って拾い、吸殻入れに入れる。
再び、初代が笑う。

九条をつけていた大内刑事たちは城西署に、九条がイナケンに接触していないことを連絡している。
列車が発車する前、「ああ、ちょっと」と言って、イナケンが列車を降りる。
席では、初代がバッグを下ろし、中から何かを出す。

イナケンは、弁当を買ってきた。
「あのお、早くに、と思ったんですけど、私ってスローでしょう。編んでるうちに冬が終わって、夏が来ちゃったの。でも来年の冬には、役に立つと思うんです。もらってくれる?」
初代はそう言うと、さっきバッグから出した手袋をイナケンに渡す。

イナケンが笑う。
手袋をしまおうとするが、イナケンはバッグを持っていないし、スーツの上着のポケットにも、どこにもしまえない。
2人は向かい合って、駅弁を食べる

「夕べの焼きそばが、うまかった」とイナケンが言った。
「うふふ」と、うれしそうに初代が笑う。
「ほんとっすよ。…それから変なことして、悪かったな」。

初代は「ううん」と首を振った。
「時々会いに来てくれる?あたし、一人ぼっちだったからお兄さんみたいな人ほしかったの」。
「どうせ俺は一郎とか言う人の代わりなんでしょ」。

初代は答えなかった。
イナケンは「行くよ、時々。伊香保」と返事した。
初代のバッグから、お守りが下がってる。

「悪いけどお願いがあるの」とまた、初代が言った。
「あの、はつか大根にお水あげてくれる?毎朝、コップにこれぐらい。半分ぐらい。それから…金魚の水も替えてくれる?」
「いいっすよ」。
イナケンが笑う。

初代が、下がっているお守りを取る。
「これ、魔よけなの」。
そう言って、イナケンの手に握らせる。

「持っててくれる?」
「いいよ、俺の方は。あんた、持ってなよ」。俺のことは心配するなよ」。
イナケンはポケットから財布を出し、一万円札を渡す。
「ああ、これ、餞別。少なくて悪いけどよ」。

「いらない!」
「いいから、いいから。それからやっぱりお守り、もらっとくわ」。
「はい!」と、笑顔で初代がお守りを渡す。
「どうも」。

ピーと、列車が警笛を鳴らして、走っていく。
外は田園風景だった。
やがて、列車は高崎駅に着いた。

駅の外、迎えが2人来ている。
イナケンの足が止まる。
駅を出る寸前だった。
外をのぞこうとした初代をイナケンは押さえ、奥に戻る。

「お前、東京帰れ」とイナケンは言った。
「今すぐ東京帰れ」。
「だってえ…、お金いるんでしょ?」

「いいんだよ」。
「でも」。
「いいから!」
「どうしてぇ?!」

「友達に金借りたなんて嘘だよ。お前、売られていくんだよ!」
「だましてたんだ計画的に」。
初代が「何言ってるの?」という顔で、イナケンを見ている。
まっすぐなまなざしで、イナケンを見ている。

そして、「ええっ…?」と言った。
「お前を芸者に売り飛ばして金にする、そういう仕事をしているんだ俺は」。
初代の顔が、ゆがむ。

「だから逃げろ。どっか好きなところに逃げろ」。
「だってえ…、お兄ちゃん困るでしょ」。
初代の顔が、泣き出しそうだ。

「いいんだよ。俺のことはほっとけ」。
「だって」。
「逃げられたと言ってごまかすから、安心しろ」。

初代が首を横に振る。
「あたし、一人じゃいや」。
「一緒に居ちゃまずいんだよ」。

「いや!」
「ばかやろう!」
「いやぁ!」

初代は、泣き崩れる。
「いやあ、いや、いや、いや」。
子供のように、初代が叫ぶ。

「東京で…、また会える?」
「今夜」。
初代が、泣いている。
唇をかみ締め、泣いている。

「ねえ。一緒にいて。ねえ、あたし一人ぼっちにしないでよ。ねえ、いっしょにいて!いて!お願いだから」。
男たちが、高崎駅の外で待っている。
駅のホームで初代は、泣いている。

そして、イナケンは東京に戻り、東金商事に入っていく。
「逃げられたって言うのか」。
染谷はジロリとイナケンを見た。

「すいません、ちょっとした隙に」。
イナケンが染谷に、殴り飛ばされる。
「ばれてんだよ、このやろう。てめえがスケ逃がしたってことはな」。
「ほんとなんですよ!」

イナケンは殴られる。
「ほんとなんすよ」。
殴られながら、イナケンは後ずさりしていく。
「ほんとなんですよ!」

北辰一家のもんがてめえら、駅で見たって言うんだよ。こっちは高けぇ手付金もらってんだよ」。
「どうしたんだよ、スケ!スケ、どこに待たしてあるんだよ」。
「よう、スケんとこ案内しろよ!」
そう言って、染谷はイナケンを殴り続けた。

九条が鳴った電話を取る。
「はい、東洋。はい、そうです。はあ?あっ、あなた!」
電話は、初代からだった。

初代は、公衆電話から九条にかけてきていた。
「はい、そういう約束して。私、ずっと待ってるんです。2時間も」。
「1時間して来なかったら、九条さんのところに電話して助けてもらえって。はい。今、赤坂と言うところにいるんです。はい。すぐ城西署にタクシーで行きます」。

染谷たちは、初代のアパートに向かっていた。
戻ってきた舎弟が染谷に「兄貴、いませんぜ」と報告した。
「ええ?」

「こんのやろう、かましやがって」と染谷が車の中のイナケンを、殴る。
「待ってください」。
イナケンが車から転がり落ちる。
「待てこのやろう」。

工事現場に、イナケンは逃げていく。
だがすぐに、染谷の舎弟につかまる。
イナケンも、抵抗する。
しかし、染谷の舎弟たちに殴り飛ばされる。

イナケンが染谷に向かっていく。
染谷がドスを抜き、イナケンをつらぬく。
イナケンが、みぞおちの辺りを押さえて倒れる。

染谷はすぐ脇にいた舎弟に「てめえ、サツ行け」と言った。
あっさり言われた舎弟は、仰天して返事ができない。
すると染谷は「ほらあ!」と血の付いたドスを突き出す。
「は、はい」と気弱に返事して、舎弟がそれを受け取る。

染谷と3人が、逃げていく。
イナケンが、地面を這って行く。
白いスーツが、泥水にまみれていく。

初代の顔が思い浮かぶ。
金魚に水を注いでいる初代。
イナケンは、なおも肩で這って進む。
息が荒い。

イナケンは、仰向けになる。
口をパクパクする。
なおも、背中で這おうとする。
だが、がくりと顔が横に向き、イナケンは動かなくなった。

取調室で、黒岩を前に初代が語っている。
「6時に赤坂の比叡神社で待ち合わせる約束をして、高崎で別々の電車に乗りました」。
黒岩が長所を取っていた。
「東京にいると見つかる心配があるので、どっか安全な場所に逃がしてくれるって言ってました」。

丸山が入ってきた。
「イナケンが死んだよ」。
「丸さん?」

「仲間に刺されてね。たった今、病院に運ぶ途中」。
「うそ…」。
初代が、呆然とする。
「いやだぁ」と言う。

「いやだ、いやだ!いやだあああ、いやだ!」
初代が、子供のように泣きじゃくる。
いやだ、やだあああああーっ!
廊下に初代の声が、こだまする。

遺体安置室で、初代がイナケンの遺体に手を合わせる。
九条が入ってくる。
初代が、イナケンの顔の布をそっとはがす。
だがすぐに、覆ってしまう。

お守りとイナケンのライター。
時計がイナケンの枕元に、置いてあった。
初代があげた、お守りだった。

刑事室に、黒岩が座っている。
バクが入って来る。
「いいかい?」

「どうぞ?お茶いれます」。
「ああ、いい、あの子、どうした?」
「宿直室です」。

「知ってますか、あの子の身の上」。
「九条に聞いたよ」。
「どこにも帰るとこ、ないわけですよ」。

黒岩の言葉にバクが、「さっき丸さんが言ってたけど、知り合いの町工場に勤めさせるって」と言った。
「そりゃあ、いい」。
「イナケンか、憎めん名前だよな。おう、帰るのか」。
立ち上がった黒岩に、バクが声をかける。

黒岩は「ちっと電話を」と言って、電話に手を伸ばした。
「恵子か。何べんかけさせんだよ、9時半じゃないか。映画?」と言った。
電話の相手は妹の恵子らしい。

「まあいいや。今夜こっちに泊まるから。宿直買ったんだ。がたがた言うなよ」。
「それでな、女の子一人、今晩そっちに泊めさせてくれ。嫌か?お前、俺の布団に寝ろよ。パトカーに頼んで送らせるから。近所は気にすんなよ。サイレンなんか鳴らすかよ。頼む」。
そう言うと、ガチャリと電話を切った。

今度はバクが、電話をかけ始める。
「ああ、俺だ」。
バクの電話は、家にかけたらしい。

「今晩女の子が一人泊まるって言ったろ。あれ、やめだ。うん。そういうこと。帰りますよ。じゃあね。はい」。
黒岩とバクが顔を見合わせる。
「ま。あの」と黒岩が頭をかきながら言う。

「その辺の旅館でも良かったんですけど」。
「クロさんよ。お互い、人が良いのかな。行こう」。
黒岩とバクが、外に出て行く。
初代は、宿直室で焼きそばを前に座っている。

九条は、記事を書いている。
「新宿に一人の若いヤクザがいた。主に、家出した若い女性を騙すのが専門の、俗に言う、スケコマシであった」。
「稲田鍵一。通称をイナケンと言った」。

「イナケンがどこで生まれ、どういう生き方をしてきたのかは、わからない」。
「彼はなぜか青森発、急行十和田2号が好きだと言った。しかしそれが、彼とどういうかかわりがあるのかは、ついに聞き出すことはできなかった」。
「イナケンは、もう、この世にいない」。
「スケコマシという、自分の仕事を全うし得なかったために、彼は同じ組の男に殺されたのである」。

「6月15日、午後8時31分」。
「享年23歳」。
「死ぬには、あまりにも若すぎた」。

記事を書き終わった九条が、外に出る。
一人、すっかり朝になった街を、九条が歩いていく。
いつもと何一つ、変わらない街だった。



川谷さんってやっぱり、すごいうまい俳優さんだったわ…。
前回も主人公は志賀勝さんだった。
今回は川谷さんが主人公。

主人公がかっこよくなるだけのために脇役を使い、話を組み立てるんじゃない。
前回、今回と、主人公以外にドラマをまかせて、ストーリーを作ってる。
そんなドラマってすばらしいと思ってしまった。

主人公を志賀さん、川谷さんにまかせちゃうっていうところがまた、良い。
しかもそれは悪役ともいえるような役柄。
人から忌み嫌われる類いの男の真実、誠実さが胸を打つ。

川谷さん演じるのは、イナケン。
驚いたのは、イナケンが23歳ということ。
いやいや、今の感覚で言うと、33歳くらいにしか思えないですよ。

ふけてるって意味じゃなくて、成熟しているという意味。
この頃の20代30代40代は、俳優さんも一般の人も経験が違うから、成熟してるんでしょうね。
今とは時代が違うから、無理もないんでしょう。

イナケンは悪い男なのか、それとも意外に良い奴なのか、判断が付かない。
確かに悪い奴なんだろうけど、あの妙に人懐こい笑顔が、どっちともわからない雰囲気をかもしだす。
ここが、スケコマシができる理由なのかもしれない。
川谷さんのイナケンは、適役!

「兄ちゃん、あんた、人間の種類にはあんまし、こだわらないたちなの?堅気じゃないもんに対してもさ」。
「わかんないです」。
この辺のやり取り、すごくおかしい。
川谷さんの演技にひきずられて?まだ新人の神田さんも、すごく良い感じに演技している。

しかし肝心の仕事は、どうもうまくいかない。
ほんとにこの人、スケコマシなんだろうか…と思ったら、見事にひっかかった女性に会わせると言う。
その女性が、坂口良子さん。

登場シーンからして、あどけない、いたいけな雰囲気が全開。
その坂口さんが、自分の身の上を語るとき、どんどん声が小さくなる。
声が震え、涙声になる。
彼女、一郎って人も好きだったというより、人の家で暮らしていて、誰か頼れる人がほしかったんじゃないかな。

もう、こういう、雨にぬれた子犬みたいな雰囲気出すのは、当時の坂口さん最強だと思う。
それでいて、少しも嫌味なところがない。
計算が見えず、本当に素のままに見えるから憎めない。

少しとがらせた口。
ちょっと八の字になった眉毛。
涙をためた目。
それに加えて、子供のような純真さ。

これは、どうにかしなきゃ!と思ってしまうに違いない。
初代は「悪いけど、お願いしていい?」って聞くけど、これは「いいよぉ~」って言っちゃうだろう。
坂口さんも川谷さんも、自分の持ち味を最大限に生かしてる。
こういうキャスティングするスタッフさんも、すごい。

初代を見ていた九条の顔が、どんどん険しくなるのも納得。
むかついてくるのも、わかる。
こんな、初代みたいな人を売ろうとしているイナケンに怒りを感じてくるのがわかる。
九条じゃなくて、普通の感覚の人間なら、赤いボタンを金魚に落としてやってる初代見たら、こんな娘騙したくないと思う。

案の定、怒ってしまった九条にバクが、ブンヤの正義を教える。
このブンヤの正義って、今も持って書いてるんでしょうか?
持っていてほしい。
そう思わずにいられない、バクの言葉。

イナケンが、畳の上にこぼした焼きそばを食べる時の、野良犬みたいな仕草がうまい。
へらへらしているイナケンの、凶暴性とか、危険性がちらりと見える。
野良犬みたいに食べることで、イナケンがどういう人生を送ってきたのかも、ちらりと見える。
川谷さん、うまい…。

なぜ、イナケンは初代を助けたのか。
初代に惚れてしまって、スケコマシができなくて殺された。
普通はそう考える。

川谷さんが初代を助けてしまう理由はかわいそうな身の上と、騙されやすい性格。
それに対して、優しい性格。
これに、ほだされてしまった。

初代の優しさが出てるエピソードは、金魚やらいろいろあるけど、一番はなぜか、私はあの、はつか大根だったように思える。
あの、はつか大根に水をやる初代を見た時、あきらかにイナケンの表情が変わった。
ものすごい、罪悪感を感じていたように見えた。
それは初代の優しさを感じて、こんな娘を売ろうとしているんだからそうなるんだろうけど、それだけじゃない気がする。

はつか大根に、イナケンは何か思い出でもあったんだろうか。
それとも、はつか大根に水をやる人に、何かあったんだろうか。
九条も感じてたみたいだけど、急行十和田2号が好きだというのにも何があったんだろうか。
十和田2号引っ掛けやすい女性が来るからだけじゃないと思わせるのは、川谷さんの演技がすごいんだろうな。

刺されてからの演技は、さすが斬られ役をやってきた川谷さんの見せ場。
これを見て、今、川谷さんがいたら、と思いました。
あの人やあの人に行っている役の半分は、川谷さんが演じていたんだろうな。

黒岩とバク両方が、初代の今夜の宿を用意していたところが良い。
九条の記事は、バクが期待した一人前のものだと思う。
バクの言ったように、イナケンで九条は成長した。
こうして記事を書いていって、いろんなことを背負っていくんだろう。

「イナケンがどこで生まれ、どういう生き方をしてきたのかは、わからない」。
「彼はなぜか青森発、急行十和田2号が好きだと言った。しかしそれが、彼とどういうかかわりがあるのかは、ついに聞き出すことはできなかった」。
九条のイナケンの人生に思いをはせた文章。

「相手に誠心誠意尽くすことよね、結局」。
「優しく尽くしながらぁ、こっちはあくまでもクールでいることね。つまり、ビジネスに徹するわけ」。
「ビジネスに徹しきれない人は、失格ですよね。結局」。

まさに最初に九条に言った言葉が、自分自身のことになって返ってしまった。
「イナケンは、もう、この世にいない」。
「スケコマシという、自分の仕事を全うし得なかったために、彼は同じ組の男に殺されたのである」。

「6月15日、午後8時31分」。
「享年23歳」。
「死ぬには、あまりにも若すぎた」。

イナケンを殺した男が、ちゃんと逮捕されたかどうか、わからない。
そして、記事を書き終えた九条が歩いていく街が、いつもと何一つ、変わらない。
大都会。
そこに生きる人たちを飲み込んで今日も大都会は始まり、そして終わる。


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