こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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終戦のエンペラー

エノラゲイだ…。
エノラゲイ…。
冒頭、画面に登場するのはエノラゲイ。
続いてキノコ雲が現れ、焼け野原の日本が映る。

日本の上空を飛行する、マッカーサーを乗せたアメリカ軍の飛行機。
その中でじっと、一人の美しい日本娘の写真を見つめるのはボナー・フェローズ准将。
マッカーサーが彼を呼ぶ。

もうすぐ、厚木基地に到着する。
そこには、2千人の日本兵が待っている。
暗殺の危険は、どのぐらい高いだろう?
日本通の彼の意見を聞かれる。

フェローズは言う。
日本の兵士からの攻撃はないだろう。
なぜなら、日本は降伏したのだ。
彼らはそういう国民なのだ。

マッカーサーは決意する。
丸腰で行こう。
口には、愛用のコーンパイプをくわえる。
サングラスをかける。

度胸を見せる。
怖がっていないことを、相手に知らせる。
そして相手を畏怖させる。
尊敬させるのだ。

GHQの本部は、皇居の真ん前の第一生命ビル。
占領を見越して、空襲しなかったビルだ。
彼らはすぐに、戦犯の逮捕に向かう。
「自決は日本人の伝統だ」。

「野蛮だな」。
逮捕に向かい、門前に立ったGHQの耳に、銃声が響く。
東条英機元首相が、ピストルで頭を撃ち抜いた。

医者だ、医者を呼べ。
絶対に死なせてはいけない。
裁判にかけるのだ!
アメリカ兵たちが叫ぶ。

マッカーサーは、フェローズに密命を与える。
「昭和天皇に、戦争責任があるのか。ないのか」。
「10日間で調査し、結論を出せ」。
アメリカ本国では、天皇は処刑するべきとの声が大きい。

フェローズは、昭和天皇に近い人物を挙げて、アポイントを取って行く。
通訳兼運転手についたのは、高橋という日本人。
高橋にフェローズは、機内で見ていた日本人女性の写真を渡す。

彼女の行方を捜すように。
これは個人的な依頼だ。
極秘に、彼女を探してくれ。

フェローズは回想する。
大学時代、アヤという日本人女性がフェローズの通う留学に来ていた。
フェローズはアヤをダンスに誘う。

日本人女性らしくない積極性があり、それでいて優しくたおやかなアヤに、フェローズは惹かれていく。
だがある夜、アヤを迎えに行ったフェローズは、アヤが突然、帰国したことを知らされる。
静岡で小学校の教師をしていたアヤを、フェローズは訪ねていく。
フェローズの訪問を驚き、拒否したアヤだが、フェローズはアヤが授業をしている小学校の前で待つ。

年上の女教師が気づき、眉をひそめてアヤに「警察を呼びますよ」と言う。
あわててアヤはフェローズを連れ出す。
アヤは叔父の鹿島陸軍大将の家に滞在しており、フェローズは鹿島に会う。
日本について学ぼうとするフェローズに、鹿島はたくさんの英語で書かれた本を提供した。

だがアメリカと日本の関係は、日に日に緊張度を増していく。
町でフェローズは石を投げられ、額を負傷した。
アヤは自分のアパートにフェローズを連れて行き、怪我の手当てをした。
2人のお互いを思う気持ちは、同じだった。

しかし、鹿島はフェローズに帰国の準備をする。
外国人に退去命令が出ている。
用意した車に乗り込み、去っていくしかないフェローズ。

心配する鹿島夫人を振り切り、アヤは車の後を追う。
「私も、私も連れて行って!」
だがその願いは、かなうことはなかった。

戦争中、フェローズはアヤのいる地域を空襲のターゲットから外し続けた。
それに気づき、あいつは日本びいきだとマッカーサーに告げ口する者もいた。
あいつは信用ならない…。
マッカーサーはその注進に感謝し、考慮すると言った。

高橋が調べると、アヤのいた学校も、アパートも空襲で燃えていた。
なぜ!
昭和天皇の調査をしながら、フェローズの苦しみも増していく。

東条英機、近衛文麿、関谷貞三郎、行方のわからない木戸幸一らとの面会と、アヤの思い出が交錯する。
焼け跡もなまなましい東京の風景と、美しい竹やぶを走るアヤとの思い出の日本の風景も交錯する。
あなたには、日本は、日本人はわからないでしょう…。
天皇陛下という存在も、決して理解できないでしょう…。



エノラゲイ。
冒頭、画面に登場するのはエノラゲイ。
続いてキノコ雲が現れるが、それは広島ではなく、長崎だった。
つまり、どこも焼け野原の日本。

天皇陛下が乗った車を見てはいけない。
マッカーサーとの会見に向かう陛下を乗せた車を、直立不動で少しうつむき、背中を見せて迎え、送る日本人たち。
焼け跡でボロボロになった街を、陛下の車が走っていく。
車の通る道には、背を向けた人々が、立っている。

開戦の責任は、誰にあるのか?
そして、誰が戦争を終わらせたのか?
「日本の一番長い日」終戦の日に、一体何が起きていたのか。

「硫黄島からの手紙」もだけど、これもまた、エンディングで英語が出てきて「これはハリウッドで作った映画だった」と思うほどの「日本映画」だった。
原作、プロデューサーが日本人とはいえ、イマドキの日本人は知らないぞ!ということまで表現している。
今はこんなところまで教科書でも、学校でも教えないでしょう。

日本人の俳優さんたちの演技も熱演で、すばらしい。
時にすばらしかったのが、故・夏八木勲さん。
関谷貞三郎を演じています。

陛下は政治には口を出されないと、関谷は言う。
会議で陛下がただひとつ、詠んだのは、明治天皇の歌である。
そう言って立ち上がり、頭を垂れて、歌を詠みあげる。

「四方の海 みなはらからと思う世に など波風の立ち騒ぐらむ」
これを詠む関谷は頭を垂れ、聞く日本人もまた、みんな、頭を垂れている。
夏八木さんは紳士であり、度胸の据わった武士の風格で関谷氏を演じてます。
よくぞ、演じてくれました!

東条英機は、火野正平さんですよ。
これがまた、ピッタリだからすごい。
役者だ。
鹿島夫人は、桃井かおりさん。

そして、GHQのフェラーズ准将の通訳兼運転手・高橋を演じたのは、羽田昌義さん。
良い俳優さんですねえ。
美しいアヤは、初音映莉子さん。
こういう俳優さんを発掘して、使いこなすのがハリウッド映画のすごさなんでしょう。

木戸幸一は、伊武雅刀さん。
重みがあります。
マッカーサーは「宇宙人ジョーンズ」トミー・リー・ジョーンズ!
フェローズ准将は、マシュー・フォックス。

いろいろと、おもしろい描写があります。
皇宮警察は敗戦後もサーベルを持ち、皇居前で守っている。
これは近衛兵ってことなんでしょうか?

彼らはGHQに対しても、高圧的な態度を崩さない。
しかしそのプライドの高さも、命を捨てて皇居を守るであろうまなざしにより、納得が行く。
態度は違うでしょうが、この覚悟はおそらく、今も昔も変わらないのでは。

街を行くフェローズに、「はぁーい、おにいさん」と笑いかけてくる夜の女性たち。
焼け跡の東京、「うちはうどんしかないよ」と言うおばあちゃんのバラックの店。
フェローズを見る日本人たちの、決してアメリカ人を許していない目。

いやいや、焼け跡の東京のすばらしい再現。
こういう再現力のすごさも、ハリウッド映画のすごさだと思ってしまう。
鮮やかな、戦争前の日本の美しい風景がこの焼けた風景と代わる代わる現れるため、余計に終戦の荒廃さが目立つ。

フェローズと、近衛文麿との面会。
まるで、京都の御所のような屋敷に「そのままどうぞ」と靴のまま、案内されるフェローズ。
近衛文麿を演じるのは、英語力に定評がある中村雅俊さん。
この近衛文麿に、言わせたセリフがすごい。

日本が戦争に突入せざるを得なかった理由。
石油を止められ、封鎖されて。
このまま屈服するか、戦うか。
あの時、日本に選択肢はあったのか。

日本だけが悪いのか?
じゃあ、あなた方、欧米は何をしたのか?
シンガポールに、フィリピンに、インドネシアに、インドに、何をしたのか?
あなた方は、アジアを奪わなかったと言うのか?

あなた方は、悪くはないのか?
なぜ、日本だけが責められなくてはならないのか?
あなた方は、罪に問われないのか?
この裁判の意味は?

近衛氏の言葉には、説得力があった。
戦争して良いとか、正しいと言っているわけではない。
また、本当にこれを発言したかどうかはわからないけど、彼という人物を通して、このセリフを言わせることがすごい。
これは欧米諸国に対しての「一筆啓上偽善が見えた」だから。

本人についての話や、発言について他の主張にしてほしいことがある等、いろんな意見は出ると思う。
他の主張なら、他の人がした方が良いかもしれない。
ただ、彼の在任中のことを考えると、彼はこの主張で良いんじゃないか。

あなたの歴史の講釈はもういいと言って、立ち去るフェローズ。
さすがに、これに対して説得できる言葉を持たない。
戦勝国側の見方、ワケがわからない敗戦国日本という見方では描かれないところが、この映画のすごさだと思う。

鹿島大将の、日本人には本音と建前があるなどの言葉とともに、日本とは日本人とはを考えさせられる映画。
アメリカ映画が、このセリフを近衛に言わせたことはすごい。
いや、勝者だからこそ、言えたセリフなのだろうか…。

そうだとしても、近衛にこの内容を発言させるハリウッドの「器」には、たまに驚かされる。
ハリウッドだから作れた映画なのかもしれない。
アメリカをたまにすごいと思うのは、こういうところなんだよ…、と思う。

荒れていくフェローズの耳に、行方がわからなかった木戸が訪ねてきたと高橋が告げに来る。
木戸は玉音放送にまつわる話をする。
終戦に反対する者から、襲撃があったこと。
だが、それを裏付ける証拠は何一つない。

そして、アヤが死んでいたことがわかる。
失意のフェローズに、鹿島から連絡がある。
鹿島邸を訪ねたフェローズは、2人の息子、鹿島夫人、そしてアヤの位牌を見る。
この広い邸に、残ったのは鹿島一人だった。

鹿島が持ってきたのは、アヤが書き綴っていたフェローズへの手紙。
箱一杯の、くしゃくしゃになった紙もある、手紙の数々。
箱に入ったたくさんの手紙。

空襲下、轟音と防空壕が欠片が落ちてくる。
人々が恐怖に震える中、アヤはフェローズへ手紙を書いている。
最後の灯火が消えるまで書き綴った手紙だった。
「愛を込めて」とあった最後の手紙を受け取ったフェローズは、涙する。

この話のこの恋愛ドラマ部分は、フィクションらしい。
フェローズに、大学時代に日本人女性の友達がいたことは確かだけど、彼女は空襲でなくなっていない。
恋人関係だったのかもわからない。
しかし、これはこれで良い、この部分も必要だと思う。

アヤを失ったフェローズが、高橋に聞く。
最初に高橋に、君に家族はいないのか?とフェローズは聞いていた。
高橋は、答えていなかった。

だが、今度の高橋は答える。
妻が空襲で死んでいる。
立ち直ったか?

そう聞いたフェローズに、高橋が涙ぐむ。
「少しも」と否定する。
ちょっと困った主人と、忠実だが心を許していない通訳兼運転手。
2人の心が通ったシーン。

屈折していたフェローズの心は、晴れて行く。
彼はマッカーサーに、自分がアヤの地域を避けて空襲を指示したことを打ち明ける。
それを聞いたマッカーサーの器もでかい。
彼はフェローズを日本びいきと告げ口しに来た男を、ダメな男だと放逐していた決意を語る。

同時に実現する、マッカーサー元帥と陛下の会談。
事前にマッカーサーは、いろいろと進言されている。
陛下の目を見てはいけません。
直接、お話もいけません。

だがあらかじめされた注意をあざ笑うかのように、GHQ側はマッカーサー元帥と陛下を並べ、写真を撮る。
これがあの、ラフな格好のマッカーサーと、正装した陛下の写真。
あわてる側近たち。
だが昭和天皇は、通訳以外の人間を退去させる。

昭和天皇を演じるのは、片岡孝太郎さん。
すばらしい。
伊武雅刀さん演じる木戸幸一の言葉も、泣いた。
だが、クライマックスの陛下の言葉にはもっと泣いた。

これまでの即位した天皇陛下の中で、もっともつらい思いをした天皇と言われる昭和天皇。
マッカーサーと陛下との会見の、本当の内容はたぶん、永遠に秘密。
マッカーサー元帥と、昭和天皇のみが知っている秘密。
だから、これを「単なる創作」と言ってしまうことは簡単。

しかしマッカーサーに関する資料によると、おそらく、これに近い会話がなされていたのではないか?と思う。
軍隊が悪い、首相が悪い、政治家が悪い。
自分に決定権はなかった。

陛下はそのようなお話はまったくなさらず、ただ、「罪は私一人に。8千万人の日本人には何も罪がない」と。
日本人がどうなるか、それだけが心配、と。
このシーンで私は、泣いていた。
日本人の血が泣かせたのだと思う。

マッカーサーが陛下について「骨の髄まで感動した。日本最高の紳士であった」と言った言葉が残っている著書もある。
陛下を待ち受けていたマッカーサー元帥が、帰りは陛下を車まで見送り、礼を尽くしている。
この態度から、マッカーサーの感動がうかがえると思う。

フェローズとアヤのラブストーリーは、退屈に思う人も多いと思う。
しかし、クライマックスの会見で、すべてが吹っ飛ぶ。
このために、この数分のために、今までのすべてが存在したのだと思える。
たったこの数分のために、見てよかったとまで思ってしまう。

ラストは、近衛文麿の服毒による自決。
関谷貞三郎、木戸幸一、そしてフェローズ、マッカーサー。
映画はこの判断に関わった人々の、その後を映し出して終わる。

近代史として、学校も教えない、今や知る機会がほとんどなく、知らないことをなんとも思わないこの時代、そして人物。
日本がこの映画を作ったなら、作れるなら、本当にすばらしかった。
また、さきほど焼け跡の日本が見事に再現と書きましたが、本当にこんな状態からよく立ち直った。
そう思わずにはいられないほど、この終戦時の日本の描写は見事でした。


この映画を見終わって、どうしても消せずに浮かんでくる一言が「ありがとうございます」。
いろんなことに感謝したくなる。
こんな映画を作ってくれたハリウッドにも、心から感謝します。
ありがとうございます。



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