Mr.サンデーで放送した、最後の事件。
それは映画「復讐するは我にあり」にもなった、西口彰による連続強盗殺人事件。
実際に逮捕された時の笑顔が、ものすごく怖い。

言われなきゃ、普通の笑顔の男性の写真。
だからこそ、背筋が凍る。
戦後最悪の連続殺人犯と呼ばれた男は、弁護士や大学教授といったエリートに化けて人々の目をくらました。
だがそんな悪魔の申し子の正体を見破ったのは、10歳の少女だった。

1964年1月2日。
古川るり子ちゃんは、母にお客さんを二階に案内するように言いつけられた。
その男の顔を凝視したるり子は、息を呑んだ。

母に促がされて、二階に案内したるり子は階段の途中でつまづいた。
振り返ると、眼鏡越しにるり子を見つめる、冷徹なまなざしがあった。
男は口を吊り上げて笑ったが、目は笑っていなかった。
るり子は父親の部屋に駆け込んだ。

西口は東京から来た弁護士だと名乗った。
当時、東京の弁護士などと言うのは、超がつくエリートだった。
るり子は外に走り出て、西口彰の手配写真を見る。
家に来たのは、この男だ。

西口は16歳の時から、犯罪に手を染めていた。
そして東京オリンピックの前の年、5人を殺害して指名手配となった。
1963年10月18日。
西口はかねてより知り合いだった顔見知りの集金人を、言葉巧みに酒に誘った。

一杯だけ、うまい酒があると言われ、集金人は西口と一緒に歩いていった。
突如、西口は金槌で集金人を襲い、さらに用意していた千枚通しで突き刺した。
集金された金を奪うと、離れたところで待っていた運転手も殺した。
福岡の片田舎で起こった強盗殺人事件だった。

西口の右眉の上と、花の右側に小豆大のあざがあった。
指名手配になった西口は、船の上に靴と遺書を置いた。
狂言自殺だった。

まんまと逃げおおせた西口は、大学で精神科の教授をしていると言っていた。
西口は静岡県、浜松市に現れた。
旅館ふじみに質屋が呼ばれ、西口はご主人と呼ばれていた。

西口は旅館の主人に成りすまし、壷や金になりそうなものを質屋に鑑定してもらっていた。
二階からもっと持ってくると言って西口は二階に上がり、あちこちを物色し始めた。
その傍らに、旅館経営の親子の遺体があった。

オリンピックを前に、急速に発達する交通網。
警察の捜査は、それに追いつかなかったのだ。
浜松の次に西口は、千葉地裁に姿を現した。
息子の保釈金を持っている女性に、息子さんの担当の弁護士だと名乗り、5万円を騙し取った。

西口には狡猾さと残忍さを兼ね備えた、怖ろしい殺人犯だった。
電車の中、騒いでいる子供をたしなめるため、母親が「いい加減しないと、西口のおじさんにあげますよ」と言った。
子供はたちまち、静かになった。
この時、西口は脇でそれを見て、笑っていた。

次に西口は東京に現れ、弁護士を殺して弁護士バッチを奪った。
「人を殺すと言うことは、なんともなく、詐欺よりも簡単」と、後に西口は語った。
関東への捜査が強化されたのを知った西口は、熊本へ向かった。

標的に選ばれたのが、古川一家だった。
一家の主・古川泰龍は住職を務めながら、冤罪を訴える人を救済する活動をしていたのだ。
西口はその資金に目をつけたのだ。
この時呼ばれた質屋の主人はなくなっていたが、一緒に西口にあった妻が語る。

るり子は父親の泰龍に「あの人、西口だ」と訴えたが、「失礼だぞ、お客さんに向かって、そんなこつ」と父親はるり子を怒った。
母親の美智子は、姉の愛子に交番に行って来てくれと頼んだ。
愛子は途中に、西口の手配書を見た。
あざの特長をメモした。

美智子は、会話の時の西口が何かおかしいと感じていた。
そうだ、いつも右側を見せないで話すのだ。
美智子は、西口の左側に寒いでしょうと火鉢を置いた。
だが西口は火鉢を取ると、自分の左側に置いてしまった。

その時、うっかり、ちゃぶ台の上のお猪口を西口が落とした。
横を向いた西口の右側の顔に、しっかり、あざがあった。
夜、美智子は夫に「あの男、西口ばい」と言った。
「間違いなか…」。

長女の愛子がメモした西口の特長と、今、古川家に来て東京の弁護士だと名乗っている男の特長が一致した。
さすがに西口だと確認した泰龍は、全員を集めろと言う。
泰龍は西口を今夜、ここに泊めると言った。
今、西口を外に出せば何をするかわからない。

美智子は自分たちが危ないと反対したが、どっちにしても西口の顔をみんな見ているのだ。
もう、危ないだろう。
西口を泊め、寝たところで警察を呼びに走る。
警察が来るまでの辛抱だ。

泰龍は西口のいる二階に行き、そろそろ帰ると言う西口に今夜は古川家に泊まることを勧めた。
西口は一瞬、考えたが、そうさせてもらいますと答えた。
長女はその時の恐怖を、今でも震えが来ると言う。
紐、一本あればみんな殺される、と。

当時のままの古川家の部屋、西口が泊まった部屋を案内して、愛子さんは語った。
ここで西口は、次の犯行を考えていたのだ。
古川家をみんな殺して、資金を奪う…。
まさに間一髪だったのだ。

西口が寝たところ、派出所に美智子と愛子が走る。
だがあいにく、巡査は本署の当直で留守だった。
巡査の妻に言って、警察署に電話してもらった。

警察署は西口の特長を、電話口で話した。
美智子は今、古川家にいる男にはあざがあると話す。
警察は半信半疑だった。
東京に潜伏していると思われる西口が、熊本にいるなんて…。

古川の家に戻った美智子は、警察は来たらそこの窓を叩くと教えた。
夫は鍵が余っているのに気が付き、釘で戸に簡単な鍵をつけることを考えた。
トン、と、トンカチが釘を打つ音がする。

泰龍は、気づかれないようにゆっくり、ゆっくり釘を打ち付け、鍵をつける。
30分かかった。
これでいざと言う時、時間稼ぎができるだろう。

そして、明け方午前4時。
窓が叩かれた。
刑事が来ていた。

ひとつ、お願いがあると刑事は言う。
朝、西口が起きたら、風呂に一緒に行ってくれと言うのだ。
決定的な特長、右の胸の刃物痕を見たいと言う。
もちろん、露天風呂には警察も客を装っているから。

泰龍は「冗談じゃない」と言ったが結局は承知した。
朝になり、西口は廊下の電話を使っていた。
るり子が見ていて、西口と目が合った途端、おびえて引っ込む。

美智子はさりげなく、近くに露天風呂があるからいかがですかと勧める。
西口はいいですね、と承知した。
一緒に風呂に行った泰龍だが、西口は右側を見せない。

右側には、手ぬぐいがかかっているのだ。
泰龍は、背中を流しましょうと言った。
「ちょっと、手ぬぐいば」。

手ぬぐいを取った西口だが、今度は腕組みをしていた。
覗き込む泰龍は、西口と目が合った。
その視線に、泰龍は震え上がった。

何かに、西口が気づいた。
さっさと古川家に戻り、二階に上がる。
遅れて泰龍が帰る。
このまま、逃がすのだろうか。

泰龍が警察に電話し、西口が発つと教えた。
るり子が帰り支度をしている西口をそっと見ていると、西口が振り返った。
眼鏡越しに合った目の冷酷さに、るり子もまた震え上がった。

泰龍は西口をバス停まで送るよう、指示された。
もう良いと言う西口を、もう少しだからとバス停まで泰龍は送る。
角を曲がれば…!

西口は捕まるはずだった。
だが、バス停には誰もいなかった。
絶望しかかった時、「ちょっと、よろしかですか」と声がかかった。

「凶悪犯 西口捕まる」のニュースが全国に流れた。
77日間で、10件の詐欺。
5人の殺害。

るり子は小さな名探偵として、脚光を浴びた。
実はるり子は、同級生と西口の名前が一字違いだったので、手配書を毎日良く見ていたのだった。
エリートを名乗り、人々を惑わせ、だました西口だった。
だが、10歳の少女にそれは通じなかったのだ。


ナレーションは、松重豊さん。
重いナレーションだったことでしょう。
淡々としたナレーションが、余計に事実だということを感じさせました。

西口役は、陣内智則さん。
陰険さ、不気味さがちゃんと出てました。
意外にも、というと失礼ですが、似合ってましたよ。

しかしもう、当時の警察に、はらはら、いらいら。
危ないじゃないの!
早く来て!って感じです。

お風呂~?!
確かめろ~?!
無茶言わないで!って。
恐怖の一夜どころじゃないですよ。

5人殺した人間が今、二階にいる。
気が狂っちゃいそう。
紐一本あれば、殺される…。
今でも震えが来る、って長女さんがおっしゃってましたが、当たり前。

実際に西口は、古川一家を殺して金を奪い、沖縄に逃走する計画だった。
何度も怖ろしいチャンスはあったと思います。
無事で本当に良かった。

バス停に警察がいなかった時、見ていたこっちが絶望しましたよ。
無事だったからいいですけど、刑事さんが声かけるまで危なかったと思います。
泰龍さんは、蛍雪次郎さん。
ガメラに毎回出てくれてましたね、良い俳優さんです。

「復讐するは我にあり」も、緒形拳さんが怖かったけど、やっぱり事実はもっと怖い。
当時、取調べをした刑事は、西口が最初の犯行を犯した動機を聞いた。
でも動機がおかしいと言う。
愛人と駆け落ちするための資金、と西口は言ったらしい。

だがそんなことで、2人を残酷に殺せるのだろうか。
「お前、そんな単純なことで人殺せるか」と刑事は聞いた。
すると西口は「その通りですよ」と言った。

逮捕された時の、西口の笑顔の写真が写る。
刑事は思った。
「これは、人間じゃないな」と。

西口事件の反省から、警察は広域捜査の体制を整え、今に至っている。
逮捕から5年。
何と、西口はるり子に手紙を送ってきた…!
それは達筆だった。

「その折りは大変迷惑をおかけいたし、まことに申し訳ございませんでした」。
「るり子さんも高校生に成長なさって、朗らかに、毎日元気にお過ごしのこととうかがっております」。
「決して皮肉ではございません」。
「できたら今後、るり子さんと文通をしたいと思いますが、唯『こはい人』と言った感じだけを残しているのかもしれませんネ」。

どういう気持ちなんだろう。
西口はエリートどころか、16歳の時から裏街道を歩いてきたような男だった。
それが、エリートを装い、人は信じる。

信じると言うより、その時、西口は演じていたのではなく、本当に自分がエリートだと思っていたのかもしれない。
そういう人生を生きているつもりだった。
だけど、そんなことが破綻しないわけがない。

それは人を殺すことで終わらせるという、もっとも救いようがない破綻を迎える。
いや、そうやって破綻させる。
西口は、いつも偽りで固めてきた。

そんな自分を看破した、10歳の少女と話してみたかった。
捕まる以上に、それは西口に現実を突きつけるものだったのかもしれない。
だから、そんなことをした子供と話してみたかったのかもしれない。

こんなことを思いました。
だからと言って、全然、西口の気持ちはわからないし、わからなくていい、わかりたくない。
西口の手紙には、押し花が添えてありました。
横には短歌らしきものが、書いてありました。

「(この部分はナレーションなし)白無垢に白足袋添えて送り来し」
「(ナレーションつき)喜ぶべきか死刑囚吾れ 西口彰」。
よろこぶべきか しけいしゅう われ にしぐち あきら。

うーん、これは…。
ノンフィクション作家さんなんかは、書いてみたいと思うのかもしれません。
あまりに、心の闇が深すぎて。

でも、私なんかは最後の手紙を見て、余計ゾッとしてしまったんですけどね。
絶対に、絶対に、関わりたくない。
隣に座るのも、ごめんです…。
何が怖いって、現実に一番怖いのは、こういう人間じゃないでしょうか…。


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2014.11.02 / Top↑
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