警部は、外にパトカーと見張りの警官を置いて行った。
車が去っていったのを、暗闇でピーターが寒さに耐えながら、見ていた。
クレアも殺されているのではないか。
フィルはそう言うと泣いて、疲れたので2階の部屋で眠ると言った。

屋根裏部屋では、クレアの腕には古びたぬいぐるみが置かれ、誰かが楽しそうに歌っていた。
そしてまた、その誰かは梯子を降りてくる。
バーバラの部屋のドアが、そっと開く。
酔いつぶれて眠っているバーバラの枕元には、クリスタルの置物があった。

変な大声が聞こえ、驚いたジェスがバーバラの部屋に駆けつける。
バーバラが喘息の発作を起こして、声を上げたのだった。
ジェスは吸入器で手当てした。
「こわいわ。あたし、たぶんね、うなされたのよ。誰か来たような。夢を見たのよ。それでぜんそくの発作が起こったのよ」。

外で賛美歌を歌う子供の声が聞こえた。
ジェスがドアを開けると、子供の聖歌隊が歌っていた。
歌声にジェスが聞き惚れている時、誰かが階段を上がっていく。

荒い息遣い。
廊下を歩き、バーバラの部屋の戸を開ける。
「アグネス、俺だビリーだ。怖がるなよ。アグネス、あのことを話してみろよ!」

声はそう言うと、突然、バーバラの枕もとのペガサスの置物を手にした。
ペガサスの鋭いガラスの角が、バーバラめがけて振り下ろされる。
バーバラの悲鳴が上がる。
その声は、聖歌隊の賛美歌のクライマックスにかき消される。

しかし公園で子供の死体が見つかったことで、聖歌隊は撤収していく。
部屋に戻ったジェスの前で、電話が鳴り響く。
「もしもし」。
ジェスが電話を取ると、あの声が「あああ、うううう」とうめいていた。

「誰なの!」
「やめて、やめてよ、ビリー!」
今度は女性の声が叫んだ。

「こらあっ、やめろ!こら、ビリー!いけない!」
「なぜ、そんなに悪事をするんだよ?!」
「およしよぉ」。
いくつもの声が、互いに支離滅裂な会話をしていた。

ジェスは警部に言われたとおり、電話を引き伸ばすため、耐えていた。
その時だった。
「腫れ物を潰すようなわけには行かないんだからね!」

それはジェスがピーターに言われた言葉だった。
「まさか、そんな、ばかな!」
思わず、ジェスは電話を切ってしまった。

逆探知は時間が足りなくて、できなかった。
「もう少し、引き止めておいてくれないと、無理なんですがね」。
フラー警部は言った。

そして「まさか、ばかなって、何か気が付いたんですね?」と聞いてきた。
「いえ!あんまり気持ちの悪いことを言うから」。
「そうですか。前にも今のように声の種類をいくつも使い分けてしゃべりましたか?」

その会話をしている寮の中、階段に誰かがいる。
ジェスと警部の電話を聞いている。
警部は、先ほどすれ違ったピーターのことを聞いた。
ジェスは「友達で、ちょっとけんかをした」とだけ、話した。

その時、警察署では警察官が畑に入り込み、持ち主に銃をぶっ放されたトラブルが起きた。
警部との電話を終えたジェスは、フィルに今の電話の話をした。
もしかして、電話をして来ているのは、ピーターなのでは。

ジェスは不安を訴えた。
だが、フィルは否定した。
確かにピーターは芸術家らしく、変わり者だとは思うが、そんなことをする人ではない。

フィルは眠ろうとしたが、物音がして眠れなかったと言った。
ジェスは、その物音は、バーバラのぜんそくの発作だと話した。
不安になったフィルは外を見るが、パトカーがいるのを見て、安心した。

その時、電話が鳴り響いた。
「もしもし」。
「ジェス」。
ピーターだった。

「頼む。助けてくれよ」。
「解決がつくことだから…」。
「ねえ、ジェス。赤ん坊は殺せない」。

「今、どこにいるの」。
「頼むよ、ジェス。僕の気持ちを考えてくれよ」。
「どこにいるか、教えて」。
だが電話は切れた。

警察署で寮の電話を聞いていた警部は今の話のことを聞いた。
ジェスはしかたなく、自分の中に子供がいると言った。
「殺すだなんて、怖ろしい言葉を使いましたね?」

「芸術家だから、感じやすいのよ」。
「ジェス、嘘をついちゃいけない。わかりますよ、何か隠しているんでしょう」。
「万一、ピーターが犯人だとしたら助けなくちゃいけない」。

そして警部は、電話がかかってきた時、ピーターがそばにいたことがあるかと聞いた。
ジェスの顔が輝いた。
「いたわ!今夜ここにいたのよ、最初の電話がかかってきた時だから、ピーターじゃないってことだわ。違うのよ、この家にいたんだから!」

しかし、ピーターがひどく興奮していたことから、警部はピーターに会ってくると言った。
ピーターは男子寮にいるが、今夜のように何かあったときはいつも、大学でピアノを弾く。
警部はジェスに、電話が来たら、なるべく長く話すように言った。
「じゃ、がんばって!もう少しの辛抱ですからね」。

電話を切ったジェスはフィルに向かって「良かった」と安堵の声を漏らした。
「そうよ、ピーターじゃないって」。
寝ようとしたフィルが、窓から捜索隊が覗き込んでいるのを見て、悲鳴を上げる事件があったが、これもすぐに笑い話になった。

フィルが眠る仕度をしていた時、屋根裏の四角い出入口の、縁の色が変わる。
誰かが屋根裏にいるのだ。
電気がもれたのだ。

出入口が開いて、光が漏れたのだった。
誰かがいるのだ。
フィルは眠る前に、バーバラの部屋の前に立った。

「バーバラ、起きてる?」と声をかけ、ドアを開けた。
部屋の中は暗く、よく見えなかった。
囁くような「入って…」と言う声がした。
ドアが閉まった。

大学で警部が見たのは、壊されたピアノだった。
ジェスは、すべての戸締りを確認していた。
ドアをきちんと閉め、フィルに声をかけた。
「フィル。そこにいる?」

電話が鳴り響いた。
ダイヤルを回す手が映る。
「はい」。

あの声だった。
「豚め。豚め。腐った豚め。悪い豚だ。これからどうしてやるか、見てな」。
「やめてーっ、やめて、ビリー!」

「ビリー、ビリーッ!どこにいるんだ」。
「雨の中、置いてかれちゃったぞ」。
「赤ん坊はどこにいる。ビリーッ!ビリーッ!」

ジェスは目を閉じ、じっと耐えた。
大学で、壊されたピアノをジッと見ていた警部に、例の電話がかかった知らせが来た。
電話局では、電話がどこからかかっているのか、突き止めていた。

「ビリー!ビリー!」
「どこにいるのか、わかってるんだ」。
今度は哀れそうな声が「かあさん、かあさん、こっちだ、早く」と言った。

「アグネース!」
「うさぎを取りに母さん、狩りに…」。
電話が切れた。

フラー警部に連絡が入った。
電話は、ベルモント通り6番地課からかかっている。
「それはおかしいよ」。
「電話はそこに外からかかってきているんだ」。

「外からじゃなかったんですよ!」
「こりゃいかん」。
「ジェイムズ」と、警部は無線でパトカーの警官を呼んだ。
だが応答はない。

パトカーの中。
運転席の警官の喉は、ぱっくりと裂かれていた。
警官が答えないので、警部はナッシュ警官に連絡をする。
「いいか。ドジッたら承知しないぞ」。

その頃、ジェスは寮でフィルの名を呼んでいた。
「フィル、どこにいるの。返事をしてよ!」
電話が鳴り響く。

「はい」。
「誰ですか」と、電話の声が言った。
ナッシュだった。

「ジェスよ」。
「捕まってよかった。警察のナッシュです。家にはあなただけですか」。
「いいえ。バーバラが上で寝てるけど、なぜ?」
「良いですか。何にも聞かないで、これから私の言うとおり動いてください。わかりましたね。すばやくやるんですよ」。

「話が終わったら、何でも良い。すぐに表の戸をドアを開けて、外に飛び出すんです」。
「どうして?」
「説明している暇がないんです!」

ナッシュが怒鳴った。
「さあ、早くしてください」。
「わかったわ。バーバラとフィルを探してくるわ」。
「いいや、それはいけない!そんな余裕はないんだ!」

ジェスは目を丸くした。
ナッシュは言った。
「ジェス、電話の男がいるんです」。

「うちの中から、かけていたんですよ」。
ジェスの目が階上に向けられる。
誰もいない踊り場。
階段。

「ジェス!」
「2階へ上がっちゃいけません!」
だが、ジェスは聞いていなかった。

「やめてください!行ったら殺されるんだ!」
「ジェス!」
ジェスは電話機を放した。

ブランと、受話器が垂れ下がった。
「…フィル!バーバラ!お願い返事をして!」
だが屋敷は静まり返っていた。
「フィル!バーバラ!何とか言ってよ!」

ジェスの目に、暖炉の火かき棒が入ってきた。
それを手に取り、ゆっくりとジェスは2階へ向かう。
息が荒い。

恐る恐る、階段を見る。
誰もいない。
あたりを見回しながら、ジェスは階段を登る。

2階の廊下にも、誰もいない。
ジェスは目を留める。
バーバラの部屋のドアだ。
「バーバラ!フィル!」

ドアが開いた。
ジェスの目の前で、フィルが、その上にバーバラが重なっていた。
2人からは、血が流れていた。

ジェスは、後ずさりしていく。
ふと、ドアの向こうに目を留めた。
「アグネス」。

あの声だった。
「俺だ。ビリーだ」。
「アグネス、俺がしたことを教えてやろうか」。

ドアの後ろ。
壁との間から、ドアの隙間だった。
大きな目玉が除いていた。

ジェスが思い切り、ドアを閉めた。
走る。
背後で、ドアと壁に挟まれた男の悲鳴が上がった。

男の血にぬれた手が、ドアにかかる。
ジェスは必死に表に出ようと、玄関のドアを開ける。
階上で誰かがやってくる、すごい音がする。

表へのドアは、開かない。
ジェスの髪が、引っ張られる。
悲鳴を上げる。

ジェスは振り切り、地下室へと逃れる。
ドアを閉める。
「うわあああ、うわあああ!」

男がわめく。
ドアの鍵が、男が揺する振動で揺れる。
やがて静かになり、足音が去っていく。

ジェスはドアから離れ、さらに地下室の階段を下りる。
地下室に潜んでいるジェス。
窓を見る。

すると、窓の外を誰かが歩いている。
影が映る。
その影は窓に手を付き、中を覗き込んでいる。

中はそこからは、見えないようだ。
次の窓へ映る。
「ジェス!大丈夫か。どうなんだ」。
ジェスに向かってかけられた声は、電話の声に思えた。

「聞こえるかい?」
汚れたガラスをこする音がする。
そして、ピーターの顔が現れた。

「ジェス」。
ガラスが割られる。
ジェスが奥に引っ込む。

「ジェス?」
それはいつもの、ピーターの声だった。
「ジェス?」
「いるんだろう?」

パトカーが寮に到着した。
寮の中から、悲鳴が聞こえる。
ドアが破られ、地下室に懐中電灯を持った警部たちが降りてくる。

風の音。
悲鳴のようにも聞こえる。
警部たちが駆け込んだ。

暗くて見えない。
懐中電灯で、辺りを照らし、警部たちはジェスを探す。
そして警察が見たのは、目を見開いた血だらけのピーターだった。

ジェスはピーターの後ろで、目を閉じていた。
血の気がなかった。
だが、ジェスは生きていた。

警部は言った。
「わかってたよ。あの男だって。ピンときたんだ」。
「どうして人を殺したんだろうな」。

「それはわからん。、とにかく一人を殺すたびに電話をかけていたんだ」。
「でも、ピーターが犯人だなんて、意外だな」とクリスが言った。
ジェスを見ていた医者は、「4、5時間で目が覚める」と言う。
もうすぐ、ジェスの両親も来る。

医者は、話は明日の午後まで待ったほうがいいと言った。
外には、マスコミが押しかけている。
警部は全員、追い出すように言った。

ハリソンは娘のクレアの身の上を察して、気絶してしまった。
病院へ連れて行かなければならない。
クレアは1人、残される。

「何だ、この人、どうしたんです?」と警官が言う。
「ショックを起こしたんだ。病院へ連れて行く.車を手配してくれ」。
ジェスが寝ている部屋の戸が閉まり、電気が消された。

マスコミも追い払われた。
寮は再び、静かになった。
暗闇だった。

バーバラの部屋には、もうバーバラもフィルもいない。
血のついたマットレスが置かれた、ベッドだけがある。
誰もいない部屋。

1人、1人の部屋。
誰もいない。
カーテン。
消された廊下の電気。

その廊下には、梯子がある。
屋根裏への四角い出入口。
そこから、声が聞こえる。
誰かが低い声で歌っている。

四角い出入口の、縁の色が変わる。
誰かが屋根裏にいるのだ。
電気がもれたのだ。

「アグネス俺だ。ビリーだ」。
マックの死体がある。
窓際に、クレアの死体が見える。

外の人々からは、遠ざかっていく窓。
クレアの死体が窓から見える。
でも、誰も気が付かない。
そしてまた電話が鳴った。


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