日本名作怪談劇場、第5話は「怪談 佐賀の怪猫」。


備前鍋島藩35万7千石。
鍋島の殿・丹後守が、龍造寺の当主・又一郎をお手討ちにしたことから始まる化け猫騒動。
丹後守は又一郎の妹の冬を奥方に望んでいたが、又一郎は良い返事をしなかった。
冬は又一郎の家臣の小森半左衛門を想っており、半左衛門もまた、冬を想っていた。

側近の磯早備前は、自分の妹の豊を殿の奥方にと画策していた。
豊が子供を生めば、実権は自分が握り、事実上、鍋島家を乗っ取れる。
そのためには冬と又一郎が、邪魔だった。
豊もまた、丹後守が冬にばかり見とれていた時から、いつか冬を貶めてやろうと想っていた。

色良い返事をしない又一郎に丹後守は不満を募らせた。
さらに、龍造寺家が元は鍋島家の主家筋であることから、又一郎が自分を見下しているのではないかと思い始めた。
この機会を備前は最大限に利用した。
登城しようとする又一郎を、愛猫のコマが止めるかのように邪魔をした。

備前の陰謀により、又一郎は殿にお手討ちとなり、地下の蔵の壁に塗りこめられた。
龍造寺家では、コマが長い鳴き声を上げていた。
その夜、龍造寺政は碁盤の向こうに血まみれの夫の又一郎を見る。
又一郎を壁に塗りこめさせた職人たちも全員、備前に斬られた。

備前はさらに手を回し、龍造寺家を取り潰し。
冬の義姉の政は、家臣たちに暇を出した。
路頭に迷わぬため、鍋島家、備前に雇ってもらう道もあったが、家臣たちはみな、拒否した。

ところが半左衛門は、自分は野良犬にはなりたくないと言って、備前の元へ行った。
一刀流の使い手である半左衛門は、備前に召し抱えられた。
政は衝撃を受け、その夜、夫のあとを追って自害。
その血を、愛猫のコマがなめていた。

備前のはかったように、殿は冬を諦め、豊を寝所に呼ぶ。
ことはすべて、備前の思惑通りに運んでいた。
冬は食べたあとのないコマのご飯の茶碗を見て、「コマ。お前、どこに行ったの。もう帰ってこないの」と泣いた。

しかし、廊下を歩く備前に、猫の鳴き声が聞こえる。
又一郎を塗りこめた壁を前に、備前がほくそえんだ時だった。
猫の鋭い声が響く。

振り向いた備前の目に、こちらをにらみつける猫が見える。
すると今度は背後に、猫が現れる。
今度は足元にいる。
備前は、あわてて逃げた。

城に、コマが現れはじめた。
豊の懐妊の知らせを受けて満足そうな備前に、コマの鳴き声が聞こえる。
「またあの猫か!」

コマの姿を見た半左衛門が、「コマ!コマではないか!」と声をかけた。
あれは龍造寺家の猫と知った備前は、コマを捕まえるように家臣たちに命ずる。
だがコマは捕まらなかった。
コマは備前を付けねらうように姿を見せ始めた。

地下の蔵の前で座るコマの前で、壁が落ち始める。
コマの鳴き声に呼応するように、壁から血が流れる。
備前は猫を差し向けているのは冬だと言って、冬を捕らえさせた。

冬を捕らえて牢に入れれば、猫は必ず現れる。
備前に命令されて、半左衛門が数人とともに冬を捕らえる。
牢に入った冬は、半左衛門に言う。

「そなた、恥ずかしくはありませぬか。コマは恨みを呑んで自害してお果てになった姉上の仇と、備前さまをつけているのでしょう。獣と言いながら、元の主人の恩を忘れぬコマにそなたは…、恥ずかしいとは思わないのですね」。
「冬様、悪いことは申しません。ご家老様に正直子に申し上げたほうが、お身のためだ」。
「そなたとは口もききたくない!」

牢で1人、冬は幸せだった日を思い出し、涙する。
子猫のコマ。
抱き上げる自分、姉上がコマをあやす。

その夜、廊下を歩く備前の耳に奇妙な音が入ってくる。
コツ、コツ。
それは碁石を打つ音だった。
備前の立っている廊下。
その前に部屋で、備前は又一郎を斬ったのだった。
又一郎の顔に、血に染まった白い碁石が張り付く。
その無念の表情。

殿の寝所では、豊が心変わりをしない約束に、冬を殺してくれとねだっていた。
その時だった。
怖ろしい声が響く。
殿がふすまを開けると、大きな猫の影が映る。

仰天した殿は、登城した。
牢の冬を連れ出すため、鍵が開けられる。
「鍵を!」

だが牢番は出てこない。
牢番のいる部屋の障子に手をかけた時、大量の血が飛び散った。
ギョッとした家臣たちの前に、喉を食い破られた牢番の死体があった。

猫の声が響く。
壁一面に大きな猫の姿が映る。
パニックを起こした家臣たちに向かって、半左衛門が刀を抜く。
一刀流の使い手である半左衛門は、家臣たちを次々斬る。

猫の声と姿、半左衛門にパニックを起こしている家臣たちは倒れていく。
「さあ!冬様!」
半左衛門は冬を逃がす。
「そなた!」

「この三月の間、備前の身辺を探りましたが、いまだに何の確証も得ず。冬様、本心をお隠ししたことをお許しください」
「そうでしたか。そなたの心も知らず、ひどいことを私は言い続けました。許して…」。
夜道を冬をつれ、半左衛門はかつての使用人が暮らしている山小屋へ逃げていく。

必ず、備前の口から、又一郎の行方を吐かせる。
「お城へ、帰るの?」
「くれぐれも、お気をつけて!」

冬が逃げたことは、備前の耳に入った。
いよいよ、猫を探す家臣たちの動きは激しくなった。
城下の様子を見ていた使用人は、その動きでコマがまだ捕まっていないことを確信した。
「獣とはいえ、コマはきっと、小森様と一緒にお殿様のお行方を探してくれましょう…」。

2~3日のうち、必ず猫は捕まえる。
備前からの報告を受けた豊は「きっとそのようにお願いしますよ、兄上」と言った。
殿の来るのを待っていた豊だったが、殿は熱を出して来られなくなった。

さっそく見舞いに行くと言う豊だが、誰も良い返事をしない。
「何を怯える。猫を怖がっているんでしょう。ついてこなくても良い!」
豊はそう言うと、1人、廊下を歩く。
猫の鈴の音が聞こえる。

続いて、猫の声。
どこから聞こえてくるのか、わからない。
豊が辺りを見回したとき、突き当りの壁に大きな猫の顔が映った。

悲鳴を上げ、豊は逃げていく。
逃げて、逃げて、蔵の前jまで走っていく。
その様子を、半左衛門が見ている。

何かに追われるように悲鳴を上げて、蔵の前まで来た豊は扉を背にした。
扉が開き、豊は蔵の中へ逃れていく。
半左衛門が中をのぞこうとした時、豊が絶叫する。

扉に耳をつけた半左衛門の前に、血が滴り落ちてくる。
「あっ!」
すると扉が開き、豊が現れた。

豊はもう、何も見ていない。
半左衛門は、すべてを察した。
「殿!殿!」
扉に向かって、半左衛門は叫ぶ。

冬は半左衛門から、すべてを聴いた。
「半左衛門、そなた、備前を斬るつもり!そうですね!」
半左衛門は目をそらした。
「半左衛門、私も行く!」

「なりません!」
「そなたのいないこの世に生きながらえて、何の楽しみが…、私も行く!」
「冬様!」
「行きます、一緒に!」

鍋島の殿は高熱にうかされ、「許せ、又一郎」とうわごとを言っていた。
隙を見て、半左衛門と冬は、城に侵入した。
「なぜ御病室に参らぬ!」と備前は豊を叱った。
「わたくしがまいりましても、とののご病熱がさがるわけでもありますまいに」。

豊が何の抑揚もない言葉で、理由を述べる。
「あれほど、魚を嫌うておったのに…」。
備前は、綺麗に骨だけが残った魚が乗った皿を見る。
「身ごもって、食の好みがかわったようです」。

備前が出て行った後、豊がにんまりと笑う。
呼ばれて出て行った備前は、蔵の中で死んでいる豊を見つける。
骨だけの魚が脳裏を掠める。

部屋にいる豊が、行灯の油に手を伸ばす。
後姿。
廊下を行く冬と半左衛門の横に、備前たちが走っていくのが見える。
ただ事ではない様子に、2人は後を追う。

備前が豊の部屋の戸を開ける。
豊が、ゆっくりと振り向く。
その口は耳まで裂け、目は爛々と輝いていた。
ぺろりと赤い舌を出して、豊は備前を見た。

「見たぞ、己の正体!」
その声に豊は長い爪が生えた手で、手招きをする。
「おのれ…、この化け猫を討ち取れ!」

家臣たちが刀を抜いて迫った時、豊、いや、コマは宙返りした。
回転した足が着地すると同時に、飛び上がる。
天井にコマが張り付き、備前たちを見下ろす。

「たかが化け猫一匹!斬れ!斬れ!」
備前の声に、コマが長い爪をかざす。
目が爛々と見開いて、備前を見据える。

ヒラリと降りてくると、斬りかかった家臣の一人を押さえつけ、コマが赤い口をぱっくりと開ける。
喉笛に噛み付く。
そのまま喉笛を噛み千切られた男が、絶叫する。

冬と半左衛門が、部屋に飛び込んでくる。
目の前で男の喉笛を食いちぎったコマが、回転する。
「コマ!」

気が付いた冬が驚く。
備前が刀を抜き、コマに斬りかかる。
コマはするりと刀を避け、別の斬りかかってきた家来を押さえつける。
鋭い爪で、その額を切り裂く。

おののいた備前が、冬たちの前に背中を見せる。
冬がキッと備前を見据え、懐剣を手にする。
それを見たコマが再び、宙返りして備前の元へ降りてくる。
備前が転ぶ。

うなり声を上げて、コマが備前の上に降りた。
背後から備前を押さえつけ、首筋にガブリと噛み付く。
「うわああああ!」
備前がのけぞる。

深く、深く、備前の首に牙を突き刺し、コマは飛び上がる。
備前をつれ、天井まで登る。
「ぎゃあああ!」

垂れ下がった備前の足が、ばたばたと動く。
痙攣する。
そして、だらりと垂れ下がり、動かなくなる。
恐怖に目を見開いたまま絶命した備前が、落ちてくる。

コマが血に染まった口を拭い、天井を走る。
「逃げたぞ!」
「殿を守れ!」

寝込んでいる殿の枕元に血が滴る。
腰元たちが悲鳴をあげ、腰を抜かして逃げていく。
目を開けた殿は、天井に張り付き、自分を見下ろしているコマを見た。

「豊!」
コマは冷然と、殿を見下ろす。
「お方さまではございません!」
「正体は猫でございます!」

家臣たちが走ってくる。
「許してくれ、又一郎!」
殿は悲鳴をあげた。

コマは平然と近寄ってくる。
家臣たちは刀は構えているが、一歩も動けない。
「許してくれ!」
殿が叫ぶ。

「待って!」
冬が走ってくる。
殿は冬の元に駆け寄り、「助けて、助けてくれ、冬!」と懇願する。
斬りかかった家臣がまた1人、コマに喉を食いちぎられた。

コマはひらりと飛び、天井に張り付く。
血に染まった口をぬぐい、殿を見下ろす。
うなり声を上げ、降りたコマが殿を背後から捕らえた。

「う、うわあああ」。
ぱっくりとコマが赤い口を開けた。
殿が悲鳴を上げた。

喉に噛み付く、その瞬間だった。
「コマ、やめて!お願いやめて!」
冬の声で、コマが動きを止めた。
殿を放し、天井に駆け上る。

「コマ!私よ!」
コマが冬を見る。
「冬よ!お願いだから、やめて!」

コマは冬を見ていた。
「コマ!私がわからないの?!」
コマは、じっと冬を見ている。

冬の目から涙が溢れる。
「コマ!」
コマが、うつむいた。
だが次の瞬間、コマはうなり声を上げて降りてきた。

冬の上に降り、そして転がった。
コマの胸には、冬の懐剣が突き刺さっていた。
「コマ、お前、わざと私の手にかかったのね…」。
半左衛門も、息を呑む。

コマの姿が消えた。
血まみれになったコマは、荒れ果てた龍造寺家の仏間で息絶えていた。
姉が息絶えた場所だった。

それからしばらくして、冬と半左衛門は、墓の前にいた。
墓には、猫塚と掘られた小さな石の墓標もあった。
その前に、コマの首輪が置かれている。

冬と半左衛門は、手を合わせる。
子猫のコマ。
冬が抱き上げる。
姉が毬で遊ばせている。

冬の顔に、微笑が浮かぶ。
「コマ、龍造寺家は再興しましたよ。お前のおかげです」。
にゃおん。
どこかで猫の声がする。


猫ネタが続きますな。
偶然です。
こちらの猫話は、怪談。

豊役は、緑魔子さん。
私の大好きな女優さんです。
もう、ただでさえ猫っぽいのに、この緑魔子さんは絶品!

殿に甘える口調とか、嫉妬に狂った表情とか。
「お願いしましたよ、兄上」と言うねちっこく、かわいらしい口調は誰にも真似できません。
人を狂わせる、まさに魔性って感じがします。
猫っぽい女優さんだ。

そしてコマが変化した時の、冬を見る時の哀しそうな表情。
うつむいた時の目。
わからないはずはない。

コマには冬が、わかってるんです。
化け猫になった自分は、戻れない。
見ていて、こちらも哀しくなってしまいました。

備前役は、亀石征一郎さん。
良い悪役コンビです。
化け猫にとって、相手に不足なし!の迫力。

「猫に知恵を授けて、わしにわざわいをもたらそうとしているのだろう」って、猫にそんな知恵授けられるのか。
猫に吹き込んだのだろう、って、そんなことできるのか。
あるなら教えて。
やられっぷりも良く、徹底して楽しませてくれます。

冬は、永島映子さん。
はかなげで、涙が似合ってしまう。
緑魔子さんと対照的で、これまた良い感じ。

冬を救出する半左衛門を、サポートするように現れるコマ。
盛り上がる、盛り上がる。
化け猫の表現に、壁一杯に映る猫の顔。
つい、カワイイ…って思ってしまう。

死を覚悟した半左衛門についていく冬。
影で涙をこらえる使用人。
時代劇のお約束でも、こういう場面に日本人のDNAがグッと来る。
化け猫にグッと来るのは、主人と猫の絆にグッと来るんでしょう。

そういう意味では、ハチ公物語と同じ。
動物が、人を思うけなげさに泣ける。
化け猫に泣いてるって何なんだと、思うけど。
コマは私のハチ公物語。


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2015.04.16 / Top↑
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