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井戸の中には 「チェンジリング」(2)
2015/10/04(Sun)
ラッセルが中に入る。
人一人が通れるぐらいの、狭い階段があった。
ラッセルは登っていく。

階上から、光が漏れている。
くもの巣が張った、部屋のドアが半開きになっている。
ラッセルがドアを開ける。

小さな車椅子があった。
そして机。
暖炉。

窓は、ステンドグラスだった。
部屋は、くもの巣だらけだった。
机の上には、ノートがあった。
CSB1909年。

何もかも、埃にうずもれている。
暖炉の上に、小さなオルゴールがあった。
開けると、音楽が流れ始めた。
ラッセルはそれを持ってきた。

録音機が回る。
クレアを前に、ラッセルは自分が作曲したピアノの録音と、オルゴールを聞かせる。
まったく同じメロディだった。

自分が作曲したはずの音楽と、このオルゴールの曲がまったく一致する。
この家には何かがある。
何が起こったのだ?

協会で、ミニーという女性はラッセルに警告を与えた。
館には誰も住めない、館が人間を嫌っていると彼女は言った。
だがラッセルは、この現象は警告ではないと言った。

音、水。
誰かが注意を引こうとしているんだ。
割れたガラスも、内部からだ。
屋根裏部屋へ、自分を呼び寄せるためとしか思えない。

クレアはその部屋を見たいと言う。
ラッセルはクレアを、あの屋根裏部屋に連れてきた。
机の上のノートを見る。

「これ、子供の字だわ」。
「ああ、誰が住んでいたんだろう」。
車椅子は子供用だった。
ずいぶん、小さい。

一体、どういう部屋だったのか。
なぜ、子供部屋が屋根裏なのだ。
鍵は外からしか、かけられない。

クレアとラッセルはチェスマンハウスのことを調べ始める。
すると、カーマイケル上院議員が、屋敷を買い上げたことがわかる。
だが1920年以前の資料がない。

協会でミニーが、チェスマンハウスのことを調べる2人を、じっと見ていた。
1909年にあの館は売りに出されたことがわかる。
新聞を調べた2人は、コーラと言う子供があの館の前で石炭運搬車に轢かれたことを突き止める。
名前はあのノートと同じ、CSBだった。

屋敷で異変を起こしているのは、この子供だろうか?
墓に行ったラッセルは、この娘がキャシーと同じ、車の事故で死んだことに注意を引かれる。
クレアは、あの館から出ることを勧める。

その夜、ラッセルは家族のアルバムを見ていた。
ふと、顔を上げる。
階段からトントントンと音がして、何かが落ちてきた。

転がってきたのは、娘と遊んだあのボールだった。
ボールを拾ったラッセルは、階段の上を見る。
階段の上は暗く、何もいなかった。

ラッセルは小物入れを開けた。
入っていたはずのボールは、そこになかった。
ラッセルは車を走らせ、街の川にかかっている大きな橋の上に来た。

列車の音が響いていた。
ラッセルは大きな川を橋の上からのぞきこむと、ボールから手を離した。
ボールは川に落ちていった。
館に戻ったラッセルは、コートを脱いだ。

ドン、ドン、ドンと音がする。
ラッセルが階段を見上げる。
階段からは、ボールが落ちてきた…。
ラッセルの前まで転がってきたボールは、ぬれていた…。

超心理学の教授を訪ねたラッセルは、霊媒師を呼ぼうかと言われる。
霊媒師と呼ばれる人間の99%は、インチキだと教授は言った。
だが残りの1%は、本物だ。
ラッセルは半信半疑ながらも、霊媒師と呼ばれる人間を呼んでみた。

クレアも一緒に、館で降霊術が行われる。
呼ばれた霊媒師の夫婦の妻は、何も言わないうちに階段を見つめ、上っていった。
屋根裏部屋に通じるドアを開けて、中を見た。

彼女に霊が降りたようだった。
ジョン・ラッセル、あなたは不幸な目にあって、妻と子供を失った。
この館の霊は、その不幸を通じて、ラッセルにコンタクトを取っている。
霊媒師は、そう言った。

館にいるのは、子供の霊だ。
安らかに眠ることができず、苦しんでいる。
霊媒師の手が勝手に、紙に字を書き始める。
ラッセルとクレアは、ジッと見つめていた。

「お前の名前は?」
「さあ、話してごらん」。
「お前の名前は?」
「お前はコーラなの?」

「石炭運搬車に轢かれたあのコーラ?」
「違う」と、字は書いていた。
「お前の力になりたいの」。

「お前の名前は?」
「ジョセフ」。
「お前はこの館で死んだの、ジョセフ?どうして死んだの?」

「ここにいる人で、今、お前が話したい人は誰?」
「ジョン」。
「助けて」。

助けて。
助けて。
助けて。

助けてジョン。
文字が書きなぐられる。
霊媒師は気絶した。

ラッセルの席を替え、再び降霊術が始まる。
「どうしてお前の魂は休まらないの?」
「ジョンに話すが良い」。
「ジョンはここにいるよ」。

「ジョンに、どうしてほしいの」。
「どうしてお前は苦しんでいるの?」
テーブルの上の、円錐形の金属の置物が揺れ始める。
「お前はどうして死んだの?」

「この館の中で死んだの?」
「どうしてこの館に留まっているの?」
突然、クレアの前のグラスが横に飛び、壁に当たって粉々に割れた。
屋根裏に通じる部屋のドアが、ばたんと閉じられた。

霊媒師とクレアが帰って、ラッセルは録音機のテープを巻き戻した。
「お前の力になりたいの」。
霊媒師の声が聞こえる。

「お前の名前は?」
「石炭運搬車に轢かれたあのコーラ?」
「…チガーウ」。
かすかな声が答える。

続いて、紙に書かれた字を読み上げる霊媒師の夫の声が「違う」と言った。
かすかだが、子供の声が聞こえている。
ラッセルはテープを巻き戻す。

「石炭運搬車に轢かれたあのコーラ?」
「違う」。
今度はもっとはっきり、聞こえた。

続いてまた、紙に書かれた字を読み上げる夫の声が「違う」と言った。
最初に答えたのは、その声ではない。
小さな子供の声だった。

ラッセルはまた、テープを巻き戻す。
「石炭運搬車に轢かれたあのコーラ?」
「違う!」
声は、どんどんハッキリしてくる。

それに続いて、字を読み上げる夫の声が「違う」と言った。
「お前の力になりたいの」。
「お前の名前は」。
「じょせふ…」。

「お前の名前は」。
「じょ、せふ」。
「お前の名前は」。

「ジョセフ」。
「ジョセフ」。
「ジョセフ」。

「お前はこの館で死んだの?ジョセフ」。
「この館」。
「僕、怖いよ」。
「助けて」。

「どうして、お前の魂は休まらないの」。
「オトウサンガ」。
「僕の部屋で」。

霊媒師の声が響く。
「どうして死んだの」。
ラッセルも一緒に「どうして死んだ、どうして死んだ」とつぶやいていた。

「お父さん」。
「お父さん」。
「牧場」。

「セントメリー」。
「僕のメダル」。
「お父さん」。
「お父さんやめて」。

ラッセルの頭の中に、ある光景が浮かんだ。
誰かが、浴槽から出ている子供の脚をつかんだ。
「お父さん、やめて!」

傍らの時計の時刻は、6時だった。
脚を持たれた子供の顔は、浴槽に沈む。
苦しさに子供は、浴槽を叩いた。
ごーん、ごーん。

音が響く。
あの音だ。
6時に響く、あの音だ。
浴槽を叩く音だったのか。

「苦しい」。
「お父さん、やめて」。
もがく子供は、必死に動く手を振り上げ、浴槽の壁を叩く。

ごおおおん。
「たすけてえええ」。
ごおおん、ごおおん。

「オトウサン…」。
音がやんだ。
30秒だった。
子供の手が止まった。

水面に、目を見開き、息をしていない子供の顔が映る。
ラッセルが見た、あの顔だった。
「僕の体は、牧場の、井戸の中」。
「僕の名前は、ジョセフ・カーマイケル」。

ラッセルは、霊媒師が書いた紙を見ていた。
走り書きされた文字の中、はっきり、書かれた名前があった。
それは今、テープの声が言った言葉と一致していた。
ラッセルは、フラフラと立ち上がる。

クレアに電話をする。
「クレア、悪いけど、今…、今。来てくれないか」。
ラッセルはそれだけ言うと、倒れた。

やってきたクレアに、ラッセルはテープを聞かせた。
「やめて、お父さん」。
「僕の名前は、ジョセフ・カーマイケル」。

クレアは泣き出した。
ジョセフ・カーマイケル。
上院議員の名前だ。
テープの中で言った「セントメリー」はそういう孤児院が以前、あったのだ。

この館にいた、ジョセフと言う子供はこの屋根裏部屋で殺されたのだ。
ラッセルがそう言うと、クレアは「この家から出なければいけないわ!」と叫んだ。
だがクレアは一点を見つめて、黙ってしまった。

ラッセルが、クレアのそばに来た。
クレアの視線の先。
階段の上に、くもの巣が張った車椅子があった。

運転手つきの車から、カーマイケル上院議員が降りてくる。
傍らには、秘書が2人ついていた。
ミニーから電話が入っていると、女性秘書がカーマイケルに伝えた。
ラッセルとクレアの動きを知らせる電話だった。

チェスマンハウスは、1899年までカーマイケル一家が住んでいた。
ジョセフは3歳の時、萎縮性関節炎に冒され、スイスの病院に入院するため、1906年10月ヨーロッパに渡った。
アメリカに戻ったのは、第一次世界大戦後だった。

つまり、父親は病気の息子を殺した。
そして身代わりに選ばれた子供は病気治療の名目で、スイスに送られた。
第一次世界大戦後、戻って来た。
歩けるようになったのは治療のためだと思い、誰も取り替えられた子供だと疑わなかった。

議員は、このことを知っているのだろうか。
父親の殺人。
身代わりのこと。

実の父親がどうして、我が子を殺したのだろう。
それは妻、つまりジョセフの母親が大富豪のスペンサーの娘であったことが関係している。
遺言書に鍵があると、ラッセルはにらんだ。
それから、牧場のあとを調べなくてはならない。

牧場には、井戸があったことがわかる。
売却され、井戸の上には住宅が建っていた。
ラッセルはその家を訪ねた。
海岸が近い、小さな家だった。

ラッセルが訪ねた時は、留守だった。
郵便物から、ミセス・グレイの家だということがわかった。
牧場も、ジョセフの祖父の遺産だった。

スペンサー家の全財産は、祖父から5歳のジョセフにすべて譲られていた。
父親のリチャードには、息子の後見人として財産管理を任されたのみで、何一つもらえなかった。
義父は、娘の結婚したリチャードが嫌いだった。
しかし息子のジョセフがいる限り、リチャードは財産が管理できる。

だが息子が21歳になるまでに死んだ時は、全財産は寄付されることになっていた。
ジョセフが死ねば、リチャードは一文無しになる。
生まれつき虚弱で、歩くこともできないジョセフ。

リチャードは、確実に財産を手に入れる方法を選んだ。
ジョセフを殺し、身代わりの子供を我が子として育てる。
「チェンジリング」。
「取替えっ子」。

ラッセルはグレイの家を訪ねた。
「普通ならわたくし、こんな話に耳を貸したりしないのですが」とミセスグレイは言った。
3日前、娘のリンダが夜中の1時過ぎに夢を見て悲鳴をあげた。

うなされたことはあるが、ここまでのことは初めてだった。
降霊術があった日だ。
娘の話では、男の子が、それもやせこけた青白い顔の男の子が床の下から必死にはいあがろうとしながら、リンダを見ていたのだと言う。
それ以来、リンダはこの部屋では寝ない。

「あの」。
母親はすぐに、ラッセルの意図を指摘した。
床を掘りたいのだろう。
考えさせてくださいと言って、その日の話は終わった。

その夜。
母親と寝ていたリンダが、むっくりと起き上がった。
空中を見つめたまま、歩き始める。
張りたがらなかった部屋に、入っていく。

床を見つめる。
覗き込む。
ギッ、ギギギと音がする。

床は、半透明になっていた。
肌色の何かが見える。
子供の上半身だ。
顔がこっちを見ている。

きゃああああ!と、リンダがつんざくような悲鳴を上げた。
床の下の水の中で揺れながら、子供はリンダを見ていた。
「リンダ、どうしたの!」

母親が飛んでくる。
電気がつけられる。
母親が床を見る。


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