兄さん寒かろ、お前寒かろ 「ふとんの話」

まんが日本昔ばなしには、ちょっと怖いものもある。
この「ふとんの話」も、幽霊話でしょう。
でもこれは、どちらかというと悲しい話だと思います。


ある宿屋の主人が、古道具屋からふとんを買う。
主人は古道具でふとんを揃えたが、その分、良い宿にしてお客に喜んでもらおうと考えていた。
宿屋は開業し、お客をもてなして、やがて夜になった。
部屋でお客が寝ていると、どこからか声がする。

お客が耳を澄ます。
「兄さん、寒かろ?」
「お前、寒かろ?」

部屋には誰もいない。
声はふとんから聞こえていた。
この宿には幽霊が出る!
お客はそう言って、夜中だと言うのに宿を出て行く。

変なことを言われてはたまらない。
主人は憤慨するが、やがて同じようなお客が何人も出た。
そして、この宿屋には幽霊が出ると言われるようになった。

ついに主人は、その噂の部屋に自分が泊まってみることにした。
夜も更ける。
するとお客が言うように、声がする。

「兄さん、寒かろ?」
「お前、寒かろ?」
声は、ふとんから聞こえるのだった。
その夜、ふとんは一晩中、話し続けていた。

朝になり、主人はふとんを買った古道具屋に行く。
古道具屋聞くと、ふとんは小さい店から買ったので自分にはふとんのことはわからないと言う。
次に訪ねていった店はもっと小さい店から、このふとんを買っていた。
そうして何軒も回り、直接ふとんを買ったという店に、やっとたどり着いた。

このふとんは、ある小さな村から買ったものだった。
その小さな村には、一軒の借家があった。
母親は病で長患い、父親が働いて妻と子供2人を支えていた。

しかし一家はよそ者で、村に助けてくれる親戚も知り合いもいなかった。
そのうち父親が、急な病で一週間ほどわずらった末、この世を去ってしまった。
後を追うように、病弱だった母親もなくなった。

残された子供は、家財道具を売って暮らしたが、それもすぐに尽きた。
そして子供たちが一番恐れていたことが、現実となった。
ここの借家の家主は、冷たい男だった。

家主は子供たちに家賃を払えと迫った。
払えるはずがなかった。
家主は兄弟にとって、最後に残ったふとんを取り上げた。

そして2人は家を追い出されたが、時節は大寒。
一年で一番、寒さが厳しい時だった。
兄弟は雪の中をさまよった末、元の家に戻るしかなかった。

何もない家で兄弟は2人、寄り添った。
「兄さん、寒かろ?」
「お前、寒かろ?」

そう言い合いながら、抱き合った。
2人はやがて、寒さも感じない世界に旅立った。
何日も経ってから村人が発見した。
兄弟のなきがらは、観音堂に納められた。

その話を聞いた宿の主人は、ふとんを観音堂に納めた。
お坊さんに経をあげてもらい、ねんごろに供養した。
以来、ふとんは口を利かなくなった。


切ない、悲しい。
そりゃ、誰もいないはずの宿の部屋で声がしたら、恐怖で飛び上がる。
ふとんから声が聞こえたら、逃げ出す。

でも真相を知ったら、怖いより悲しい。
「フランダースの犬」も、街の人も後ですごく後悔しただろうなと思った。
この村の人も、最悪の事態を見て、後悔したのではないでしょうか。
でも、村の人も人の子供の面倒を見るほどの余裕がなかったのかもしれない。

社会的な弱者に、あまりに悲しいことが起きないよう。
幸せに暮らせるよう。
そのために国は、豊かさを目指したのだ。

こんなことを思ったりする。
それが達成されているか、正しいやり方をしているかは別にして。
こういう悲しい出来事があって、だから人は幸せになろうとがんばったのだろうと。
そんな風に思わせされたお話。

ふとんが物を言わなくなって、宿屋はきっと繁盛したと思う。
兄弟の幽霊が感謝したとか、そういうことは言わなかった。
だけど、優しい主人のいる宿はきっと、旅人を癒せたと思う。


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