日本怪談名作劇場。
第7話「怪談 玉菊燈籠」。


『吉原の夜を彩るものに遊女の白無垢と、玉菊灯篭があります』。
花魁が語る。
吉原に伝わる悲しい話が、燈籠流しをする、花魁の口から語られる。

ある冬の夜。
「覚悟は良いな」。
「はい」。

踊りの師匠の菊と、旗本・樫山家の跡取り息子の主水正が心中した。
だが死んだのは主水正だけで、菊は生き残ってしまった。
心中の生き残りとして、路傍にさらし者にされる菊。
人々はおもしろい見世物を見るように、寄ってくる。

「この子に見せてやっておくれ!」と叫ぶ母親がいた。
「色だの恋だの、身持ちが悪いとこうなるんだよ!」
母親はそう言って、菊を良く見るように娘を突き出す。
菊はあごをつかまれ、顔をさらされる。

着物のすそが乱れ、足が露わになる。
蔑まれ、笑い者にされた挙句に、菊は吉原に売られ、奴女郎として一生働くことになるのだ。
人々がそう言う。

吉原で女郎になり玉菊と名を与えられた菊だが、その美しさに客はついた。
しかし玉菊は、死んだように何にも反応しない。
悲しむ顔もしないが、笑いもしない。

およそ、人間らしい感情というものが感じられない。
何に対しても、玉菊は無反応であった。
イライラした客が郭に文句を言うと、玉菊は折檻される。
ついに首を吊ろうとした玉菊だが、発見され、また折檻を受けるだけであった。

そんな玉菊の様子を見ていられなくなった花魁が、玉菊を自分の座敷にも呼ぶようにしてくれた。
ある夜、玉菊に1人の客がつく。
「お客人、こちら、玉菊太夫」。

やり手婆の声に、相変わらず死んだような目をした玉菊が振り返り、客の顔を見た。
それまで何も言わず、表情ひとつ動かしたことがない玉菊の口が開く。
目が見開く。

客の男は、玉菊を見る。
その目が、残酷に細くなる。
玉菊が息を呑む。

心中の時。
死ぬ前に、主水正の刀で玉菊は自分の指を切った。
指から流れる血を、主水正は唇でぬぐった。

客の顔は、主水正その人であった。
「もんどのしょうさまあ!」
玉菊が絶叫する。
まるで突然、人形がしゃべったかのようだった。

「うわああああ!」と悲鳴を上げ、玉菊が客の首に抱きついた。
「ひどい人!」
「どうして!どうして!」

抱きついた玉菊が、今度は狂ったように笑う。
「玉菊さんが!」
やり手婆が驚いて、階段を下りて郭主の巴屋に報告する。

玉菊は男の首にかじりつき、泣き叫んでいた。
「似ているか!」
客が口を開いた。

「顔が似ているか!」
「似ているはずだ。俺は樫山源吾。主水正の弟だ!」
玉菊が驚き、客の顔を見た。

「兄者を殺し、樫山家を取り潰し、自分は平気で生き延びて、夜毎数知れぬ男の慰み者になっている女はmどんな顔しているかと思ってな!」
「それでこうやってやってきたのだ」。
玉菊は顔を伏せた。

「なぜ死なぬ!」
「そなた、なぜ兄者のところへ行ってやらぬのだ!」
男の厳しい声に、玉菊は「わああああ」と泣いた。

「死ぬのが怖いか。おい!」
玉菊は、肩をつかまれた。
「何度死のうと思ったことか、主水正の元へ行きたいと思ったか。でも、死ねませんでした…」。
玉菊は鳴き崩れた。

そして、源吾に向かって「どうぞ、殺してくださいませ」と手を合わせた。
「お願いでございます」。
源吾の手が、玉菊の首に掛かった。

「うれし、い」。
源吾の手が、玉菊の首を絞めていく。
玉菊の手が愛しいものに触れるように、源吾の手に触れる。
源吾の手が止まった。

玉菊を締めていた手が緩んだ。
すると、玉菊が咳き込む。
そのまま目を閉じて仰向けになった玉菊の顔を、源吾が見つめる。

花魁の声が響く。
『愛を得て、玉菊さんは再び、生きているおなごとして蘇りました…』。
その夜から、源吾は玉菊の元へ通い続ける。

「お前は、拙者の胸のうちがわかるか!」
他の座敷に呼ばれた玉菊の手を引っ張り、源吾が他の客を取ることを責める。
「お願い、苦しめないで」。

「気が狂いそうなんだ。いてもたってもいられぬ」。
玉菊は、源吾の背中に顔を寄せる。
「あなたは私の命です…」。
玉菊が言う。

「あなたにお目にかかるまで、私は死ぬことしか考えていなかった。それが今は…!」
「こうして、お目にかかれる時だけのために、私は生きていたい。何としても生きていたい」。
だが、源吾の顔が曇る。
「俺は身代わりか。兄者主水正の幻なのか」。

お大尽の奈良屋が、花魁の座敷に上がった。
奈良屋は玉菊の踊りを所望したが、玉菊は辞退した。
この座敷に呼ばれるだけでも幸いなことなのに。
周りがあわてるが、玉菊はあの踊りの師匠は、今はこの世におりませんと言い放った。

「今ここにござを汚しておりますのは、遊女玉菊というふつつか者の。お目にかける踊りはございません」。
しかし奈良屋は、玉菊を身請けすると言い出す。
あんな気風の女はいない。
「惚れました」。

巴屋も女将も、大喜びだった。
だが奈良屋は、「玉菊には悪い虫がついているようですね」と言った。
そこで巴屋と女将は、源吾を始末することにした。

やり手婆の1人のおりきは玉菊に、前から女将の鼻をあかしてやりたいと思っていたと言った。
だから源吾と玉菊を逃がしてやると、おりきは持ちかけた。
一方、忘七の1人の七之助は、源吾にも同じ話を持ちかけていた。

だが吉原を出る時には、吉原同心の調べが入る。
ところがこの話には、同心の斎藤左馬之助が噛んでいるのだ。
左馬之助は以前から、玉菊に思いを寄せていた。
逃がしてやる代わりに、左馬之助は玉菊に襲い掛かる。

一方、源吾は七之助との約束で、百両作るため、家宝である刀を売った。
「よろしゅうございます」。
道具屋はすぐに返事をし、刀は百両になった。

吉原を、駕籠が出て行く。
駕籠は、左馬之助の前で止まった。
左馬之助は駕籠の中を見るが、許可した。

七之助は源吾が待つ小屋に、百両を受け取りに来た。
だが源吾は、玉菊が確実に来るとわからないうちは渡せないと言った。
すると七之助は、信じられないのなら、自分を斬れと言う。
そこまで言うならと、源吾は七之助を信用した。

『怖ろしい時が近づいていることを、2人は知りませんでした』。
約束の時刻の鐘が鳴る。
源吾は七之助に百両を渡した。

おりきが小屋にやってきて、源吾と玉菊が落ち合う場所に連れて行こうとした時だった。
戸を開いたのは、左馬之助とそれに率いられた捕り方たちだった。
源吾は玉菊を連れ出そうとした罪で、捕らえられた。

捕らえられた源吾の竹光を目の前にかざし、七之助は「こいつが初めからわかってたから、こちとら威勢の良い啖呵を切りましたのさ。へへへ、おあいにく様で」と笑った。
怒った源吾は捕り方を突き飛ばし、竹光を構える。
「竹光だ!」
笑い声が上がる。

しかし源吾は竹光で捕り方を1人、突き刺した。
七之助の顔色が変わる。
源吾は竹光を振り回し、捕り方をまた1人叩きのめした。

おりきの顔色も変わり、「七さん!」と叫び、逃げ出す。
玉菊は、源吾が来るのを待っていた。
「殺せ殺せ、殺せ!」
左馬之助が捕り方に叫んだ。

捕り方の刀が、源吾に刺さった。
倒れた源吾は砂利をはいずり、玉菊の元へ行こうとする。
七之助が玉菊のところに来て、「けえるぜ」と言う。

玉菊が何かを察し、七之助を振り切って、夜道を走り出す。
おりきと七之助が追っててくる。
「源吾さまあ!」
「いやあああ!」

狂ったように玉菊が叫び、走ってくる。
倒れた源吾を見て、駆け寄る。
「逃げろ、玉菊、逃げろ!俺に構うな、逃げろ!」
「ははは、この侍、まだ玉菊の色のつもりでいるわ!」

七之助が笑う。
「源吾さまあぁあ…」。
「おい、この玉はな、もう奈良屋のお大尽が買占めたのよう」と七之助が言う。

おりきが、「いいかい玉菊さん、この男が死ぬとこを良ぅく、見ておくんだよ」と言った。
「だ、ました、ねぇえ…」。
玉菊が恨みを込めて叫ぶ。

「ひひひひ」と、おりきが笑う。
玉菊がつかみかかる。
七之助が引き剥がし、おりきが玉菊を引っぱたく。

「源吾さま、源吾さま!」
左馬之助も、玉菊を十手で引っぱたいた。
「玉菊ぅ」。
「源吾さまぁ」。

突如、落雷する。
みな、地面に伏せた。
落雷し、燃え上がる木の下に、源吾が立っていた。
源吾が、崩れ落ちる。

「源吾さま、源吾さま」。
玉菊が駆け寄る。
源吾は絶命していた。
玉菊が泣き叫ぶ。

血まみれの源吾の手に、竹光が握られていた。
玉菊が震える手で、その竹光を手から離す。
竹光の刃を握り締め、「あなた1人では…」とつぶやく。
「やりませぬ!」

玉菊がキッと、前を見据える。
「私も参ります!」
そして今度は、左馬之助たちを見据える。
「うらめ、し、や」。

「私たちを騙した、1人、1人に…」。
玉菊が、なめるように左馬之助たちを見る。
「この恨み、このうらみ…」。

そう言うと玉菊は、竹光を胸に突き刺した。
再び、顔を上げる。
口から血が流れる。
その目で見つめられた左馬之助の顔色も、変わる。

郭の裏口で七之助が、「お前さんが言ってくれよ」と、おりきに話をしていた。
「死にましたってかい?冗談じゃないよ!」
そう言いながら、2人は小判を分けていた。
床に1枚、小判が張り付いている。

七之助がそれをはがそうとするが、はがれない。
やっとのことで引き剥がしたが、その小判には恨みの形相の玉菊が映った。
「ぎゃっ」。
七之助が思わず、小判を落とす。

源吾の上で、息絶えた玉菊の姿。
その上に、もう1人の玉菊が映る。
立ち上がったもう1人の玉菊は、そっと源吾の上に覆いかぶさる。

「ふう」。
源吾が息を吹き返した。
自分の上で死んでいる玉菊を見る。

「玉菊。なぜ死んだ!」
「なぜ死んだ!」
源吾が泣く。

だが玉菊の手には、売ったはずの源吾の刀が握られていた。
「これは…、これは拙者の!どうしてここに…」。
「玉菊!」

源吾が玉菊を抱きしめる。
「お前に代わって、この刃で恨みを晴らしてやる!玉菊!」
源吾が刀を抜く。

巴屋の主人と女将、七之助とおりき、左馬之助が奈良屋を前に酒を飲んでいた。
奈良屋は「ほしいものは必ず手に入れると言った奈良屋。生まれて初めて、見事袖にされました。見上げたおなごもあればあるもの」と言う。
「もうしわけございませぬ」と言いながら、巴屋と女将は笑っていた。

奈良屋が盃を口にしようとして、ふと手を止めた。
酒は真っ赤に変わっていた。
「血、血だ!」
奈良屋が盃を放り出すと、畳に血が飛び散る。

巴屋も、女将も、左馬之助も息を呑む。
ひゅうう。
風が吹いた。
ろうそくが消える。

おりきが最初に、悲鳴を上げた。
天井から、燈籠が下がってくる。
全員、恐怖に畳に顔を伏せ、這いつくばる。

左馬之助が、燈籠を斬ろうとする。
部屋から出ようとした奈良屋が、驚いた。
廊下に立っていたのは、血まみれになった源吾であった。
目を血走らせた源吾が、刀を片手にやってくる。

「キサマぁ、死に損なったか」と左馬之助が言う。
「拙者にも、意地がある」。
源吾が言う。
「女郎にも、まことがあるのだ」。

そう言って、源吾は刀を抜いた。
左馬之助と源吾が、向き合う。
2人が斬り結んだ時、源吾はぎろりと巴屋と奈良屋を見た。

全員が怯えきって、逃げ惑う。
「ひええええ」。
斬りかかる左馬之助の刀をはじき、源吾の刀は七之助を貫いた。
恐怖に歪んだ七之助が、腹を押さえて倒れる。

「ひえっ!」
次に源吾は、おりきをにらむ。
左馬之助が斬りかかった隙に、奈良屋たちは戸を開けて外に逃げようとした。
しかし戸の前には、青い顔をした玉菊が立っていた。

「ひゃあああっ!」
一同は、表に出ることができない。
「きゃあっ!」
左馬之助と斬りあっていた源吾の刀が、おりきを斬る。

「ぎゃあああ」。
おりきが叫ぶ。
源吾はおりきから刀を抜くと、巴屋を斬った。
そのまま、今度は腰を抜かした女将に刃を突き立てた。

おりきの死体に寄りかかられて身動きが取れなかった左馬之助が、やっとおりきを突き放し、源吾を斬る。
源吾が立ち上がると、その首筋に刀を振り下ろす。
その隙に奈良屋が逃げようとするが、目の前には白い顔をした玉菊がいた。

「うわっ」。
奈良屋が飛びのき、巴屋の死体につまずいて転ぶ。
源吾がもみ合っている左馬之助を突き飛ばして、走る。
奈良屋を一刀の元に斬る。

その背後から、左馬之助が源吾を斬った。
源吾が振り向くと、左馬之助は源吾を蹴り飛ばす。
「おのれ!」
留めを誘うと刀を振り上げた左馬之助を、玉菊がにらんだ。

「ひっ!」
玉菊と目が合った左馬之助の動きが、止まった。
息が止まる。
その時、源吾が立ち上がり、左馬之助を刺し貫いた。

「ぐわああああ」。
左馬之助が倒れる。
息絶える。

だが源吾もまた、倒れる。
「たま、ぎ、く…」。
源吾が宙を見て、つぶやく。

玉菊が浮いている。
悲しそうに、源吾を見る。
源吾が顔を伏せる。

『この世では、ついに添い遂げられなかった一組の男と女』。
花魁が、燈籠を流す。
『消えぬ恨み。迷える魂の菩提を弔うだけでなく、あまたの女たちのさだめに、皆様の思いをかけていただければと存じます…』。
たくさんの燈籠が、魂の灯のようにきらめき、川を流れていく。



玉菊は、結城しのぶさん。
綺麗で、はかなげ。
主水正と源吾の二役が、元フォーリーブスの江木俊夫さん。
これが実に良いんです。

実はフォーリーブスのみなさんは、すばらしい俳優さんなんですね。
アイドルが片手間にやっている演技じゃないんですよ。
大人の役が、しっかりできるんです。
だって、演技がすごく艶っぽいんですもん。

憎いはずの玉菊に会った途端、惹かれてしまう源吾。
その苦悩。
苦しいからこそ、会わずにいられない。
玉菊との逢瀬の、艶っぽいこと悲しいこと。

源吾は玉菊を愛しく思いながらも、自分はあくまで、兄の身代わりなのではないかとの思いも消えない。
しかし、玉菊が他の座敷に出ることを思うともう、いてもたってもいられない。
地獄のような日々。
そうして苦悩しながらも、玉菊と会わずにいられない。

源吾の切ない思いが、伝わってきます。
同時に甘美な思いも、伝わってきます。
極限状況の恋なんだなあ…と思います。

その源吾と玉菊がとことん、踏みにじられる。
特に玉菊は、前半からいじめられっぱなし。
まあ、さらし者もひどかったけど、郭の折檻もひどい。

お女郎さんたちには、人としての尊厳なんかなかったんだろうか…。
あれじゃあ、「出」ますよ…。
それでも玉菊は、あまり感情が動かない。

主水正とともに、玉菊はお墓に入ってしまったかのよう。
それが源吾を見た途端、反応するから、お婆もビックリ。
まるで人形が動いたみたいですもん。
ああ、玉菊にも感情があったんだって。

それなのに2人の思いを利用して、金儲けに利用するおりきと七之助の計略で、源吾は滅多斬りにされる。
最期の力を振り絞る源吾を、あざ笑う人たち。
この江木さんは、すごい。

かっこ良さとか、そういうものをかなぐり捨ててやっている。
とことん、惨めに見せている。
「かっこ悪いこともやっちゃう俺って、カッコいいでしょ?」なんて感じじゃないんですよ。
見ていてつらいぐらい、尊厳も何もない。

だからこそ、思う。
「利根の渡し」じゃないけど、これは祟るよぉ…。
当たり前じゃないか。
後半の幽霊の報復は怖いというより、そうじゃなかったらやってられないわ!という感じ。

源吾は、自分は兄の身代わりではないかと悩んでいました。
でも、今度こそ一緒に死ぬと竹光で胸を刺した玉菊の思いは、疑えるものではありません。
確かに源吾は主水正と、瓜二つです。
だけど、主水正とはまったく違う、冷酷な性格だったら玉菊はあそこまで尽くしません。

玉菊は源吾によって、生き返った。
だから源吾とともに、今度は本当に死ぬ。
死ねないと言っていた玉菊は、竹光で自分を刺して死ぬ。
武士にだって、できないこと。

そして玉菊は、恥辱にまみれた源吾の怒りを、武士として晴らさせてやりたい。
玉菊の最期の命の灯火が源吾に吹き込まれたかのように、源吾は息を吹き返します。
1人1人に、見事に恨みを返す源吾。
まるでそれを助けるかのように、出て来る玉菊の亡霊。

怖ろしくも美しい。
しかしこの郭、もうやってられない。
郭主も死んじゃったし。
こんなに人が殺された座敷なんかもう、誰も使わない


いやー、巴屋、潰れたんだろうな。
奈良屋も潰れたでありましょう。
そして人々はこれを、玉菊と源吾の祟りだと噂したでありましょう。
この話は、吉原で語り継がれたのでありましょう。

だけど玉菊とこの樫山家って、何か因縁ありそう。
それじゃ累が淵になっちゃうか。
怪談というより、江木さんと結城さんの切ない恋物語を見ているような「玉菊燈籠」。

「拙者にも、意地がある」。
「女郎にも、まことがあるのだ」。
江木さんの魂から絞り出すような言葉。
熱演が、心に残ります。


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2015.06.04 / Top↑
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