『特攻隊』じゃなくて 「英霊たちの応援歌 最後の早慶戦」 

岡本喜八監督は、戦争中、出撃命令がなかったために生き残った方だそうです。
終戦は迎えられたけど、あと1週間ほど戦争終結が遅かったら出撃していたかもしれない。
仲代さんいわく、あと1週間で死んでいたかもしれないという経験は当然、一生の間、監督に付きまといます。

だからなんですね。
非常に胸に迫る映画に、なっています。
岡本監督は「戦争が悪いんだ!」「お前が悪いんだよ!」というメッセージをストレートに出さない。

そういうやり方は、照れてしまうらしい。
だからちょっと茶化したり、斜めから描く。
エンターテイメントに仕立てるから、観客には受けても、評論家の評価が低い。
そのせいで、会社からは「巨匠」という扱いを受けなかった。

ただ、運動神経がものすごく良かった。
だからアクションの描写が、優れていた。
私の大好きな本田博太郎さんは、これまた私の大好きな岸田森さんから、「岡本組」のやり方についてレクチャーを受けたそうです。

「英霊たちの応援歌」には、学生服の本田博太郎さんが今とは違う、ストレートな演技をしています。
純情、一本気な青年がピッタリで、今の本田さんしか知らない人が見たらきっと驚く。
でもこのまま年齢を重ねたら、今より役の幅は広がっていない気はします。

この映画には岸田森さんも、出ていらっしゃる。
そして、役所広司さんがチラッと出ている。
こういう、古い映画を見る楽しみも、ありました。

今は見られない俳優さんが、見られる。
また、今とは違う俳優さんの顔を、見ることができる。
当時はまだ、無名に近い俳優さんの演技が見られる。
今も活躍する女優さんの、美しい姿が見られる。


「英霊たちの応援歌」は、昭和18年から始まる。
野球に夢中な青年たちと、どんどん進み、悪くなっていく戦況が描かれる。
彼らの、今の青年とまったく変わらない悪ふざけや、子供っぽさ。

そこに「山本五十六戦死」「玉砕」という文字と、その情景が重なっていく。
雨の中の、学徒動員の壮行会。
神風特攻隊という文字が、浮かび始める。

昭和20年。
硫黄島玉砕。
東京大空襲。
沖縄にアメリカ軍上陸。

決して強制ではなかった、彼らの出陣。
「ふん、こんな状況でまだ野球なんかしやがって!」
「何だと?見ろ、俺、志願したぞ!お前は!」
ぐっ。

まるで、遊びの張り合いのような口調で、怖ろしいことが決まっていく。
海軍に入隊すると、いろんな学生がいる。
顔見知りの学生もいる。

先に行った部隊の青年たちの、位牌が並ぶ部屋。
思わず息を呑む。
知っている名前がある。

彼らが書いた、銀座の商店の地図を見る。
銀座の街を思い出しながら、残った店舗を埋めていく。
ここは洋品店だった。

隣は銀座劇場だ。
「ここは、ここは何だったか?」
隣は蓄音機店。

「名前は何つったっけ?」
「銀座堂!」
「さすが慶応、銀座は詳しいのう!」

彼らの隊に、ついに出撃命令が下る。
一人一人、遺書と位牌を書く。
「銀座の地図、あと1軒、あと1軒なんだけどな」。

その1軒が思い出せない。
地図が完成しない。
空襲で、後発隊の三上少尉の母親が虫の息という知らせが入る。

「一目会ってやれ、その代わり会ったらすぐに帰って来い」。
「もし貴公が帰らぬ時は、秋山中尉に突っ込んでもらう」。
三上は母親に、一目だけ会えた。
しかし帰りの列車は途中、アメリカ軍の空襲にあって止まった。

機銃掃射もされる中、三上は列車を降りて、必死に走る。
もし自分が戻らなければ、友達が代わりに行ってしまう。
それだけは、それだけは…!
彼は走り続ける。

秋山中尉は、バッテリーを組んだ三上に、俺の妹はブスだけど一人前に膨らむところが膨らんできたと笑った。
そしてもし良かったら、妹をもらってくれと言っていた。
海軍で再会した三上は、秋山に妹はどうしたと聞いた。
3月10日の空襲で、オヤジもおふくろも、妹も、弟も、みんな逝っちまったよ。

本田少尉には、淡い思いを抱いていた恋人がいた。
大森に住んでいた。
3月10日の空襲後、彼女の家も、彼女も何もなかった。
見慣れた家の水道だけが、宙にぶら下がっていた。

彼女にもらったハンカチーフ。
奄美の特攻の基地に向かう彼らの乗る飛行機の中から、東京が見えた。
隊員たちは、息を呑む。

何もない。
東京には、何もなかった。
それを見た本田少尉は「もう、俺、吹っ切れてしまった」と言った。

でもお国のために特攻するって、何かぴんと来ない。
後発隊の本田少尉は恋人のハンカチーフを、ポケットに入れる。
このため。
俺、このためになら、突っ込める。

先に特攻する隊員たちの中に、落語研究会の学生だった正木青年がいた。
「笑点」の山田隆夫さんが、演じている。
兵士にはあまり向いていない感じだが、彼はいつも人を笑わせていた。
出撃の前の夜も、彼は落語「まんじゅうこわい」で、人を笑わせた。

機に乗る前も、振舞われたまんじゅうを口にし、「まんじゅうこわいよー」とおどけた。
みんな、笑った。
「そろそろ、お後の仕度がよろしいようで」と言う。

整列!の声が掛かる。
特攻服の青年たちが、並ぶ。
ゼロ戦に乗る。
笑って、手を振る。

基地では「草薙隊、敵艦発見!」との声が飛んでいた。
無線の前の兵士が叫ぶ。
ぴぴぴぴ、と通信の音がする。

「攻撃、開始!」
「我、空母に突入す」。
13番機、5番機、7番機、19番機!
9番、18番!

次々、あちこちの無線の前の兵士の声が飛ぶ。
15、20、11!
「全機、突入したようです」。
ピー。

どの機ももう、応答しない。
無言の無線。
ピーという音が響く。
「2番機の調幅、消えます」。

続いて5番機。
8番機。
3番機。

まだ聞こえている機がある。
「何番機だ!」
「1番機です」。
それも消える。

無言。
「…やったか」。
もう、音も鳴らない。
静まり返る部屋。


これは…、きつい。
これは、精神に来る。
こんなこと、耐えられない。


「明治大学 正木馨」と書いた位牌の前に、まんじゅうが置かれる。
「まんじゅう、こわい、か…」。
「俺はスキー部のジャンパーだからな。飛び降りるの、怖い、さ」と、後発隊の仲間が声をかける。

後発隊の出撃は、明日の朝だった。
三上はまだ、戻らない。
黒板の銀座の地図が、1軒空いていて完成しない。

「下駄屋、じゃなかったな」。
「番傘?」
「ちくしょう、思い出せない」。
後発隊の自分たちの出撃は、明日だ。

秋山中尉の家にいたお照は、秋山を追いかけてここまで来ていた。
そして、ついに女郎に身を落としていた。
行きつけの飲み屋の屋台で、お照は秋山が隣にいるのに見えない振りをして屋台のオヤジさんに語る。
「3月10日に東京に空襲があったでしょう?」

「あたし、昨日来た中尉さんの家、知ってるのよ」。
「何にもなかった。残ってたのはこれだけ。あの中尉さん、ここに寄るんじゃないかな。そうしたら…」。
「これ渡しておいて!」

お照がオヤジさんに渡したのは、弟のノートの燃え残りだった。
秋山はオヤジさんからそれを受け取ると、女郎屋に戻ったお照を追う。
お照に向かい、秋山は「俺の、嫁になってくれ!」と叫んだ。

「俺は明日、突っ込む。嫁さんになってくれ!」
「あたしは…、女中だったし、もう…、こんな体になっちまったし」。
「俺は明日、突っ込む!」

「1人じゃ、しに切れん!」
「照ちゃん、嫁さんになってくれ!」
お照は秋山に抱きつく。
抱きついて、泣く。

トラックが到着する。
隊員たちが乗り込む。
「わかった!」
「ほんとか!」

2人が突然、トラックの荷台から降りた。
部屋の黒板に走る。
1つ空いていた銀座の店の空白部分。

「スガハラレース」。
「そうだ、レース屋だ!」
「よかったなあ!」
そう言って、2人はトラックに走る。

翌朝、三上は線路の上をまだ、走っていた。
村人たちが、最敬礼でトラックを見送る。
小学校の子供たちが、手を振る。

乗り込む前、隊員は上官に一人一人、名乗っていく。
「早稲田野球部、秋山中尉」
「慶応野球部、小島少尉」

「同じく江田少尉」
「本田少尉!」
「早稲田野球部、安川少尉」
「明治野球部、久保少尉」

一人一人が教官に名乗り、挨拶をしていく。
「秋山中尉以下、13機、ただいまより出発します」。
「成功を祈る!」
見送りの人たちが、鉄条網の外に来ている。

隊員たちが、時計を合わせる。
「5秒前、3秒前!」
「かかれ!」
全員が散っていく。

機に向かって走っていく秋山に、三上が抱きついた。
「良く間に合ったな」。
約束どおり、三上が特攻する。
秋山は誘導、そして、やってくるグラマン機を一手にひきつける。

「発進!」
飛んでいく機。
ここは、本物の画像らしい。

本田少尉は、恋人のハンカチーフを首に巻きつける。
しかし、死んだと思っていた恋人は三上と同じ列車に乗っていた。
彼女は国分の基地まで、老人とともに歩いていく。

その上を、ゼロ戦が飛んでいく。
「あれは特攻隊でしょうか」。
「ああ…。気張れよ…」。

「奄美大島上空、高度2500右前方、敵戦闘機群発見!」
グラマンがやってくる。
秋山が言う。
「三上、そのまま直進しろ、グラマンは引き受けた」。

「頼むぞ秋山!」
三上が全員に対して、「俺に続け」と叫ぶ。
空から、海から雨あられのようにアメリカ軍は撃ってくる。
火を噴いて落ちる機もある。

「攻撃開始、突っ込めー!」
あああああああと叫ぶ声。
海に落ち、爆発するゼロ戦。

「いよっしゃああああ!」
ハンカチーフを首に巻いた本田少尉は、艦の上に突っ込んだ。
三上は、砲撃で目をやられた。

「秋山ああ、秋山機、目をやられた!見えない」。
「突っ込むまでサインを出してくれえ」。
秋山が言う。
「おっけー!がんばっていこう!」

「下げろ。もうちょい、下げろ。ようし、水平」。
2人は、まるで、野球のバッテリーを組んでいるように声を掛け合う。
「ようし、そのままそのまま。いいぞお」。

眼下に敵艦が見える。
「スワニー型空母だ」。
「でっけえぞう~!」

雨のように降り注いでくる弾丸。
秋山の左腕から、血が吹き飛ぶ。
「ぎゃあっ!」
弾丸が当たったのだ。

「どうした!」
三上が心配そうに声をかける。
「どんまい、どんまい」と秋山が言う。

「ファウルチップだ」。
「哲夫、外角スルーだ」。
「そう。そこだ、シュート!シュートをかけろ!」
「ありがとう、信吾お!」

そう叫んだ三上がポケットから取り出したのは、白い野球のボールだった。
「打つぞおおおーっ!」
三上の機は火を噴きながらも、スワニー型空母に突っ込み炎上した。

「ナイスボール、哲夫!ストライクアウトだー!」
秋山が、手袋を外す。
「次は俺の打順だ。待ってろ哲夫!」
秋山もまた、ボールを握り締めた。

真っ黒な、土がついて真っ黒になったボール。
「行くぞーっ!」
「うわあああああああ!」
秋山の機もまた、敵艦に衝突し、派手に炎上した。

地上では、お照が基地の柵の鉄条網を握っていた。
手からは血が流れていた。
お照は、そこから離れなかった。

昭和24年、晩夏。
終わったのだ。
戦争は、終わったのだ。
1人、生きて帰ってきた野球部の相田マネージャーが歩いてくる。

ボールがなかったら試合が出来ないと言って、つてを使って野球部顧問の飛田が集めた300のボール。
飛田は防空壕の中に、それを保管すると言った。
毎日、子供たちと草野球をしながら、飛田と飛田の犬がそれを見守ると約束した。

あの子供たちは、どうしただろう。
飛田は、走り回っていた犬は、どうしただろう。
相田は防空壕を開ける。

あの時のままの、木箱がある。
蓋を開ける。
ボールだ。
白いボールは、そのままあった。

そして、時は昭和54年。
若者たちが声援を送る中、早慶戦が進んでいく。
挟まれる、白黒の写真。

あの時は、試合で「海行かば」を歌った。
そして言った。
「大学出たら23か」。
「23で死ぬんだな、俺たち」。

白黒の写真の中に、三上がいる。
本田がいる。
落語をしている正木がいる。

笑っている。
みんな、笑っている。
普通の青年だ。

ああ、涙が止まらなかった。
音楽がまた、明るいところがたまらない。
そんなにうれしいんだ。
銀座の地図が完成できて、うれしいんだ。

思い出したあ!
良かったなあ!
ナイスシュート!
どんまい、どんまい!

普通の青年だった。
特攻隊の青年じゃない。
神風特攻隊じゃない。
自分と同じじゃないか。

2時間半、まったく時計が気にならなかった。
テレビ東京開局15周年を記念して、作られた作品。
ならばぜひ、テレビ東京でも放送して欲しい映画。

現在の野球場に「かっとばせー!」の声が、飛ぶ。
お照のその後は、どうだったのだろう。
どれほど、どれほど、野球が、スキーが、落語がしたかったことでしょうか。
生きたかったことでありましょう…。


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映画作家たちの戦争体験

これも特攻を描いて秀逸な映画でしたね。
岡本監督は当時のミニュチア特撮が好きじゃなかったので、極力表現上の工夫を重ねたようです。無線機の音とメーターの描写もそのひとつ。本作を観た人は生涯このシーンを忘れないでしょう。

戦争体験のある監督、作家たちが描いた戦場は、仮にイデオロギーに染まっていても個々の描写に当時を生きた人間のリアルとリアリティがありました。
銀座の地図のエピソードは監督の発想らしいですが、黒板前で悩む若者たちの姿だけで、個人にとっての戦争を表現してしまいます。机上の観念だけで、反戦映画か戦争賛美映画かと語る無意味さがわかります。

この映画の舞台となった戸塚球場(安倍球場)も、既になくなりました。
戦争を描き得る作家の条件というものも、これから変わっていくのかもしれません。

kaoru1107さん

>kaoru1107さん

>これも特攻を描いて秀逸な映画でしたね。

さすが、名匠でした。

>岡本監督は当時のミニュチア特撮が好きじゃなかったので、極力表現上の工夫を重ねたようです。無線機の音とメーターの描写もそのひとつ。本作を観た人は生涯このシーンを忘れないでしょう。

ここは本当にキツかったです。
あの、静けさが物語るもの…。

>戦争体験のある監督、作家たちが描いた戦場は、仮にイデオロギーに染まっていても個々の描写に当時を生きた人間のリアルとリアリティがありました。

自分たちの経験、見たこと、感じたことを伝えておきたい。
伝えなくては。
イデオロギーに染めようとしているより、そんな思いが伝わって来る。
そういう人が作る作品は、心に残ります。

>銀座の地図のエピソードは監督の発想らしいですが、黒板前で悩む若者たちの姿だけで、個人にとっての戦争を表現してしまいます。机上の観念だけで、反戦映画か戦争賛美映画かと語る無意味さがわかります。

まったくです。
本当にそう思います。

>この映画の舞台となった戸塚球場(安倍球場)も、既になくなりました。

寂しいですが、時は流れて行くんですね。

>戦争を描き得る作家の条件というものも、これから変わっていくのかもしれません。

いろんな規制、自分たちの中で規制してしまっていること、変わるシステムなど、昔とは違う難しいことがいっぱいあるんでしょうね。
でも体験者ではないから描けない、なんてことはないので、作って欲しいと思うんです。

コメントありがとうございます。
良ければまた読んでくださいね!
プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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