「ビルマの竪琴」。
私が見たのは、1985年版です。
この年、日航ジャンボ機墜落事故がありました。

「ビルマの竪琴」は、この映画の前に学校で読みました。
児童小説だったと記憶しています。
ただ、まったくの童話ではなくて、実在の人物をモデルにして書いています。
確か、このモデルとなった方が亡くなった時に、ニュースになったと思います。

映画では、中井貴一さんがビルマに僧侶として残る水島上等兵を演じました。
水島の隊の隊長で、音楽学校出身の井上隊長は石坂浩二さん。
これがもう、2人ともピッタリなんです。

知性的で、インテリで、歌を歌って隊をまとめる井上隊長。
故郷を遠く離れた国の、つらい行軍でみんなで歌う日本の歌はどれほど心に沁みることか。
みんなをまとめることか。
力を与えることか。

ある日、疲れきった井上隊は、交戦国ではないタイの国境に近い村で休息を取る。
しかし世話になった村で、敵軍のイギリス兵たちに取り囲まれる。
住民を巻き添えにしないよう、彼らを裏口から逃がす。

井上隊長は兵士たちに「歌え!」と言う。
とまどい、怖れる兵士たちに、戦闘準備を整えながら自ら力強く歌いだす。
続いて兵士たちも歌い始める。

次には、広場に置かれている弾薬を取りに行く。
あれに弾丸が一発でも当たれば、大爆発を起こす。
兵士たちは酒に酔った振りをして、表に笑いながら出て行く。

パッと弾薬を積んだ車に飛びつく。
水島がその上に乗る。
決死の覚悟で、竪琴を弾き始める。

一発でも当たれば…。
俺たち、みんな粉々だ。
なんまいだぶ、なんまいだぶ。
囁く兵士もいる。

無事、弾薬を取りに行き、兵士たちは家に入る。
井上隊長が、サーベルを抜く。
その表情は、あの温厚なインテリ青年ではない。
厳しい表情の軍人がそこにいる。

サーベルを抜き、いざ…!と息を呑んだ時。
今まで歌っていた、「埴生の宿」が表から聞こえてくる。
なんだ、お仲間か…と笑った兵士がいたが、違う。
英語だ。

イギリス兵たちが、歌っている。
同じ歌だ。
英語だが、同じ歌。
彼らの表情もまた、兵士として戦場に行く前の自分を思い出していることが伺える。

井上隊も、同じ歌を歌いだす。
水島が竪琴を弾く。
一瞬、外が静まる。
だが次には英語と日本語の曲の、合唱となった。

井上隊は投降し、捕虜となった。
3日前に、停戦となっていた。
無駄な戦闘、無駄な犠牲者は双方出したくなかった。
井上隊の歌は、たくさんの命を救うことになったのだった。

日本は負けた。
この上は生きて全員で日本に帰ろう。
そして今度は、焦土と化したらしい日本を立て直すために働こう。

インテリらしい井上隊長の決意。
しかしまだ抵抗を続ける隊がある。
三角山のその隊を説得する役目が、井上隊に下る。
だが井上隊長は、戦死するかもしれない任務には就けない。

隊長がいなければ捕虜たちを英語で意思の疎通が難しくなるし、捕虜をまとめる人間もいなくなるからだった。
そこで隊長は、その役目を水島に頼む。
軍曹は自分ではないのかと言うが、三角山の兵士たちは気が立っている。
気性の荒い軍曹では、衝突こそすれ、説得は無理だと思われたからだった。

ところが水島の説得は、拒絶される。
やってきた水島の、日本が負けたという情報に動揺する者はいた。
だがこの時、兵士たちはちらりと隊長の顔を見る。

この隊長は、菅原文太さん。
隊長が玉砕だと言うのだから、自分たちはそれを鼓舞するような発現しか出来ない。
内心では、「本当ならやめたい…」と思っていても。

結局、時間切れとなり、イギリス軍の攻撃は再開される。
三角山の隊は全滅。
傷を負ってたった一人、ムドンの捕虜収容所まで水島は歩いて向かおうとする。
気を失った水島を助けたのは、ビルマの僧侶だった。

水島はこの僧侶の衣を盗み、腕輪をつけてムドンに向かう。
僧侶の衣を身にまとっていれば、食に困ることはなかった。
必ず、住民が拝みながら、食料を差し出した。

ムドンへの道の途中で、水島が目にしたものは鳥が全滅した日本兵の屍をついばむ光景だった。
見ていられなかった水島は、兵士たちを埋葬する。
しかし次には海岸線におびただしい数の屍があった。
たまらなくなった水島は、走り出した。

そしてムドンに到着。
近くの僧院に泊まることができた。
その時、僧侶たちが水島を仏に近い席に案内し、「そのような腕輪をする徳の高い僧侶には初めて会った」と言う。
水島が世話になった僧侶は、かなりの高僧であることがわかる。

明日は捕虜収容所で合流、と思っていた水島だった。
収容所の近くに、竪琴を弾いて、イギリス兵からお金をもらおうとしていた幼い少年がいた。
水島が弾く竪琴のうまさに、少年はそれが弾ければお金がもっともらえると言う。
少年に竪琴を教えていると、近くの病院から看護士たちが牧師とともに出て来る。

イギリス兵を埋葬するのだと少年が教える。
その時、水島の目はある墓標にひきつけられた。
「日本無名戦士の墓」。
この言葉は、水島の胸を貫いた。

無名戦士。
無名戦士…。
立派に埋葬してもらえる、イギリス兵。
水島が見てきた骸。

野ざらしになり、葬るものはいない。
水島は、仲間を前にして元来た道を戻っていく。
この時の水島の心情は、良くわかりました。

水島が戦死したと聞いた井上隊長は、非常に後悔していた。
そして、水島の生還を願っていた。
来た道を戻る水島は、捕虜として使役を果たしている井上隊が戻ってくるところに出くわす。

あの僧侶、水島に似ていないか…?
兵士たちは、すれ違う時、水島?と呼びかけてみた。
だが反応がない。
水島は、ビルマ人の格好をしてビルマ語を話すと、まるでビルマ人に見えたのだが。

戻った水島は、野ざらしになった骸を埋葬し始める。
興味深い顔で見ていた現地の人もやがて、水島を手伝い始める。
そしてある日、水島は埋葬のために掘った穴で、何か光るものを見つける。

ルビーだ。
現地の人は、不思議だと言った。
この辺りでルビーが採れることはないのに。
死んだ人の魂だ。

水島はルビーを握り締めた。
井上隊は、道を整備したために、イギリス兵の慰霊に参加することになった。
その時、僧侶たちの最後尾に水島そっくりの僧侶がいることに気づいた。
しかもその僧侶は、日本式の遺骨を持っていた。

井上隊長は、納骨堂にその僧侶が持っていた遺骨の箱があることに気づく。
そっと箱の中を開けてみると、中には輝くルビーがあった。
隊長は確信した。
あれは水島だ。

そして、水島はもう、隊には戻って来ない。
一体、水島は何を見たのだろう。
どんな経験をしたのだろう。
隊長は涙ぐむ。

やがて、隊に帰国許可が下りた。
沸き立つ兵士たち。
だが水島がいない。

あの僧侶。
もしあの僧侶が水島なら、収容所の鉄格子の前で歌えば出て来るのではないか。
そう思った隊員たちは、声がかれるまで歌い続ける。

あと3日しかない。
「日本ばあさん」と呼ばれている、収容所に来る物売りのおばあさんに言葉を教え込んだオウムを託す。
オウムは「おうい、水島。一緒に日本に帰ろう」と喋る。

帰国の日の朝。
あの、僧侶が来ている!
隊員たちは外に出る。

僧侶は無言だった。
だから隊員たちは歌い始める。
埴生の宿。

たまらなくなった水島は、傍らにいる少年の竪琴を弾き始める。
水島だ!
隊員たちは沸き立った。

良く帰ってきたな!
早くこっちへ来い!
だが、水島は動かない。
一体どうしたっていうんだ!

水島は、竪琴で「仰げば尊し」を弾いた。
今こそ、別れめ。
いざ、さらば…。
そして、朝もやの中、消えていった。

不可解な気持ちの隊員たちに、日本ばあさんが餞別を渡す。
ばあさんは、オウムも持ってきた。
いらだった軍曹は、そんなオウム要らないと言うが、これは違うオウム。
僧侶に渡したオウムの、兄さん鳥。

すると、そのオウムが喋りだす。
「僕は、日本に帰るわけには、いかない」。
この、人がいつも言う言葉を覚えるという、オウムの使い方もうまい。
ばあさんは、隊長に僧侶からと言って手紙も渡した。

帰りの船の中、隊長は手紙を読んだ。
そこには、水島がどれほど、仲間に会いたいか。
日本に帰りたいか。
復興のために働きたいかが、書かれていた。

だが、そうすることはできないことも。
自分は名もなく、異国で果てていった兵士たちを埋葬して回りたい。
その魂を慰めたい。
この仕事が終わったと感じたら、日本に帰れるかもしれない。

あるいは、この地で自分は一生を終えるかもしれない。
だがどうしても、日本に帰りたい気持ちに勝てなくなった時は、僧侶の禁を破って竪琴を弾きます。
手紙には、そう書かれていた。
みんな、泣いた。

そして、時がたち、みんなは帰国する故郷のこと、故郷でやりたいことを話し始めた。
小林はそっと、傍らの岡田に水島は本当にもう、日本に帰らないのだろうかと聞いてみた。
この小林上等兵は、渡辺篤史さん。
岡田上等兵は、小林捻持さん。

小林の言葉に、岡田は何だ、小林、水島には冷淡だったくせにと言った。
確かにそうだ。
今まで自分は、水島のことを考えたことはあまりなかった。

この話を知った今でも、水島のことを考えていたわけでもない。
ただ、水島の家の人はあの手紙を見て、どうするだろう。
隊長がきっと、うまく言ってくれるんだろうななどと、変なことばかり考えていた。

水島だった僧侶は、1人、ビルマの赤い土の上を裸足で歩く。
ビルマの土はあかい。
水島は、ビルマのその赤い土の中、歩いていった。

日本ばあさん役の北林谷栄さんが、また、見事。
それと、ビルマの高僧がすばらしい。
水島がおそらく、自分の衣と腕輪を盗っていくこともわかっていての沐浴。

日本兵の格好のまま、長い道のりはつらかろうと思ったのでしょうか。
おそらく、食うこともままならず、行き倒れるであることも。
悟り方、水島にかける情け。
さすが、高僧。

川谷拓三さんが、軍曹。
気が荒くて、でも決して嫌な軍曹ではない。
川谷さんも、菅原さんも、北林さんも、監督も、関係者の方々がなくなられていることが時の流れとはいえ、寂しい。

ビルマの描写、僧侶の戒律。
おそらく、日本人がハリウッド映画で描かれた日本や日本人を見て、違う!と思うことと同じようなことがこの映画にもあると思います。
歌で敵味方が殺しあわずにすむとか、そんな甘いことはないと言う指摘もごもっとも。
お互い、仲間を殺され、自分も殺されそうになっているんですから。

インパール作戦。
白骨街道。
自分の親戚の1人も、ビルマでとても若くしてなくなっています。

市川監督も、この原作者も戦争を知っている世代。
戦争が、戦場がどういうものか。
いかに悲惨か。
どれほど、人から人間性を奪うものか。

知っているからこそ、歌で殺し合いをしなくてすむ。
同じ人間であることが確認できる。
こういうファンタジーが作りたかったのでは。

国同士が争い、民族が違っても、通じるものはあるんじゃないか。
お互いの人間性を蘇らせるものは、あるんじゃないか。
音楽は、人類共通の言語なんじゃないか。

そんなファンタジーが、作りたかったのでは。
甘いと言われようとも、ベタな作りでも良い。
最後の「仰げば尊し」で、泣けてしまうベタな人間は思う。

うまく出来てる映画だと思う。
みんな、うまく演じてると思う。
実際の戦争は陰惨で、救いがないからこそ、こんな優しい戦争映画があっても良い。
そんなことを思った映画です。


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2015.08.16 / Top↑
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