終戦70年。
日本だけじゃなくて、ドイツだって70年。
ヒトラー、ナチスとして悪役に描かれることが多いドイツだって、あの戦争で兵士たちは相当につらかったと思わせる。

1941年。
ドイツ占領下のフランス。
ラ・ロシェル軍港。

イギリスの糧道を立つためにヒトラーが期待をかけた潜水艦隊は次々大西洋に出て行く。
だが敵も護送船団を強化している。
ドイツ潜水艦乗組員4万人。
そのうち、3万人が帰ってこなかった。

薄暗い、青い画面。
ゴボゴボという音。
うっすらと現れる巨大な影は、ドイツの潜水艦U-96。
潜水艦の映画は傑作が多いと言われますが、おそらくこれはその中でも最高峰でしょう。

当直の人間が寝ていたぬくもりのあるベッドで、当直ではない人間が眠るというベッド。
50人に1つのトイレ。
人一人がやっと立てるというような、厨房。
通路。

フランス娘を恋人に持つ乗組員がいる。
彼女のお腹には、自分の子供がいる。
そんなこと、レジスタンスに知られたら、彼女はただではすまない。

チャーチルの悪口ばかりを流しているラジオを聴いた艦長は、その老いぼれにドイツが追い詰められていると言う。
だって、味方の飛行機はどこにいるんだ?
ゲーリングは恥を知らないのか。

艦長は、英語の歌を歌うことを許可する。
いいじゃん、歌ぐらい。
「ナチスドイツの軍隊の兵士」じゃない。

みんな、人間だと感じる。
こういう人間たちが描かれ、一人一人に感情移入する。
その上で極限状況のドラマが描かれる。

敵の輸送船を見つけて、魚雷を発射。
2艘を撃沈。
しかし敵も追ってくる。

響くソナーの音。
上を通過する船のスクリューの音。
沈むにしたがって、ギシ、ギシと軋む船の音。

息を潜める。
すべてが終わるのを、じっと息を潜めて待つ。
まだ、まだ追ってくる。

潜航しろ。
メモリが150、160と進む。
船が軋んでいく。
水が浸水してくる。

ボルトがはじけ飛ぶ。
耐えるのか。
潜水艦はこれ以上の潜航に、耐えられるのか。

そこに突如、炸裂する爆雷。
潜水艦が揺れる。
水が入ってくる。

どこだってそうなのかもしれないけど、潜水艦で何名救出ということはないんだとわかった。
ダメな時はもう、全員。
全員ダメなんだ。
だって外は水圧がすさまじい、水しかないんだから…。

狭い、人がすれ違う時は、片方の人間は壁にへばりつかなくてはいけないほど狭い通路。
そこを乗組員たちが走っていく。
走らずにはいられなくなる状況。

U-96は狭い、幅11キロしかないジブラルタル海峡をU-96は通らなければならなくなる。
イギリスの修理港があり、駆逐艦もウヨウヨいる海峡だ。
とにかく、敵だらけ。

見つからないわけがない。
通れないに決まっている。
やはり、U-96は見つかり、爆雷をくらう。

あちこちがやられ、U-96は海底に沈んでいく。
200、210、水深計のメモリがどんどん進んでいく。
でも艦は止まらない。

メモリがない。
だが針は進む。
水深280メートル。

もう、深度計のメモリはないほどの海底。
よくも艦が耐えたものだと、感嘆する艦長。
艦長は「神が海底に置いてくださった」と言うが、それは強がりでしかない。

浮上するには、何もかもが故障している。
エンジンも、バッテリーも。
全員、酸素ボンベから空気を吸う。

そして横になる。
じわじわと、真綿で首を絞められるなんてもんじゃない。
極限状況。

その状況で、人間の精神がどうなるか。
乗組員の表情に恐怖と、狂気が浮かんでくる。
空気の音、しゅーっ、しゅーっ…。

15時間が経過。
艦長が同行した報道部の少尉であり、記者であるヴェルナーに艦長はすまないと言う。
15時間たった。

だが直らない。
すまない…。
しかし、U-96の機関長はじめ、機関兵たちは優秀だった。

ヴェルナーに、自分の故郷は今頃、雪だと言った機関長。
妻と一緒の写真があった。
出撃前夜、妻は出産のために入院した。
これが彼にとっても、最後の航海だった。

直った!と、機関長が報告に来る。
すべて直った!
そして空気を吐き出し、推進力として浮上する。
チャンスは1度だけだ。

浮上したら、全速力で逃げる。
ディーゼルが動くことを祈る。
奇跡だ。

運と、そして乗組員隊が相当に優秀だったこと、みんなをまとめあげる艦長と下士官たちが相当に優秀だったことも奇跡だった。
完全に沈めたと思った敵は、追ってこない。
U-96は走る。

あの、バラエティー番組で流れて相当の人が知っているであろう爽快感に満ちた音楽ともに、海上を走る。
全速力で逃げる。
息苦しい極限状態の後のこの脱走劇の、何と解放的で爽快なことか。

帰還の港。
45日間の極限状況は、はつらつと港を出た若い兵士たちの容貌を一変させていた。
それでも生きて、ロシェル港にたどり着いた。

テープが投げられ、迎えの人たちが笑っている。
負傷した航海長に、「太陽の光が拝めるぞ」と声がかけられる。
その時。

鳴り響く空襲警報。
やってくる敵機の編隊。
空襲が始まった時、ゲエッ?!と言ってしまった。
見る見るうちに、港は空襲の阿鼻叫喚の場と化した。

その時間、3分ほどだったと思う。
もうもうと立ち込める煙。
燃え上がる炎。

負傷したヴェルナー少尉が、フラフラと出て来る。
ヴェルナーのポケットに、何かある。
彼がポケットから出して見たのは、機関長の故郷の雪の風景と、そこにいる妻の写真だった。

その機関長。
士官。
乗組員。
みんな、みんな死んでいる。

そして…。
U-96が沈んでいく。
やっと浮かび上がって帰還したUボートが、沈んでいく。

頭がもう、少ししか水面に出ていない。
それをジッと、艦長が見ている。
食い入るように見ている。

なめらかにU-96は沈む。
Uボートが沈みきった時、艦長が崩れるように倒れた。
ヴェルナーが、よろよろと近づく。

艦長は横倒しになったまま、動かない。
画面が暗くなる。
タイトル。

お、終わった。
思わず、そうつぶやいてしまった。
このラストのあっけない破壊劇に、私は言葉を失いました。

戦争映画として最高峰なら、後味の悪さも最高峰。
無事帰還して終わりでも、構わなかったぐらいの映画。
でも「後味悪くすれば、印象に残るよね!」なんて安易な考えで、壊滅を見せたんじゃない。

このラストをつけたことで、この映画はものすごいメッセージ性を持ったと思う。
戦争が、どれだけ空しいことなのか。
その前で人間が、どれだけ儚い存在なのか。

戦勝国となった国で戦争状態となった国はあるが、日本とドイツは戦後70年、一度も戦争をしていないとこの前、話している人がいました。
…やらない。
やらないよ、そりゃ。
こんなの見たら、それはもう、やらないよ!

そう言いたくなるラスト。
戦争映画とか、アクション映画、サスペンスドラマもそうですが、これらの中では人が極限状況、危機に置かれる。
その状況で人間は、生き延びようとする。
この時、ドラマが生まれる。

だから戦争映画、アクション映画、サスペンスドラマは人の命と言うものが掛かっているにも関わらず、作られ続ける。
しかし戦争映画には、そのドラマにもう一つの状況が生まれる。
同じ、必死に生きている人間なのにお互いを生きるために殺しあわなければいけないということ。

この映画でも、もうとっくに人を避難させたと思って、船にとどめの魚雷を撃ち込むシーンがある。
ところが、乗組員はまだ避難していなかった。
「なぜだ!」と怒る艦長。

海に落ちた人たちが、こちらに向かって泳いでくる。
だが助けることは出来ない。
U-96は後ずさりするように、後進して行く。
みんな、苦しい。

「ナチスドイツ」兵なんかいない。
みんな、みんな、人間だった。
必死に生きようとした人間。
お互い生きたいのに、殺しあわなくてはいけない人間だった。

そして、やっと生き延びたと思った人たちが、あっさりと死んでしまう。
戦争映画には、こういう理不尽さと空しさが加わる。
加えてもわざとらしくならない。

戦争映画っていうのは妙な思想を感じさせたりするより、淡々とこの状況を描けばいいんじゃないかと思う。
妙にイデオロギー入れれば、反発を呼ぶだけ。
そして「Uボート」とかこの前の「英霊たちの応援歌」とか、そういうことを描いている映画を戦争賛美なんて言うのはおかしい…。

私はどういう経緯で誰と行ったのかはまったく忘れてしまいましたが、この「Uボート」は劇場で見ました。
そして当時、「船を『床板一枚、下は地獄』というが、潜水艦はまさにこれだと思わせる映画」と言われていたと記憶しています。
とても、とても息苦しい映画。

肉体的に狭い空間で、窮屈。
精神的に追い詰められて。
そして物理的に空気が足りなくて。
いろんな意味で、窮屈さを感じる映画。

自由がないなんていうのは、甘いぐらいの緊迫。
やはり当時、「『浮上できなかった潜水艦の、戸棚や引き出しは全部開いているらしい。乗組員が空気を求めて、すべての空間を開く』こんな話を嫌でも思い浮かべる映画」と言われていました。
閉所恐怖症の友人が、こういうのが一番怖いと言っていた気がする。

私も思った。
潜水艦には乗りたくない!
だから観光で、潜水艦に乗ろうと言われた時も断った。

当直の人間が寝ていたぬくもりのあるベッドで、当直ではない人間が眠るというベッド。
50人に1つのトイレ。
狭くて、おそらく熱気がこもっていて、臭気もこもっていて不快な空間。
観光の潜水艦はそんなんじゃないのは、わかる。

ネス湖の潜水艦は乗りたい気持ちもなくはないが、やっぱり嫌だ。
緒形拳さんが、しんかい2000に乗り込んで深海に行ったのを見たことがある。
この時、緒形さんは何か覚悟をしているのかなと思いました。

…こんなこと覚えているから、他のことは忘れちゃったのか。
だけどこの映画は忘れられない。
忘れられない映画。


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2015.08.23 / Top↑
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