鶴田浩二が、吉岡主任警備員を演じる「男たちの旅路」。
前シリーズから引き続き、部下の鮫島は柴俊夫さん。
新しいレギュラーの尾崎兄妹が、清水健太郎さんと岸本加代子さん。

百貨店の前に車椅子に乗った青年が6人、いる。
女性のほうが角が立たないからといわれ、女性警備員の尾崎信子が言う。
邪魔だからどいてくれ、と。

言われた青年の1人が言い返す。
あっちには10人いますね。
信子は、こんな入り口にいたら誰だってどいてくれと言わざるを得ないと言わざるを得ない。

人の迷惑になることはしないっていうのが、常識があるわけよね。
じゃあ、あんた、外に連れてってくださいと青年は言う。
自分で行けるでしょう。
行きたくないんです。

そういうこと言っちゃ、いけないんじゃないかしら。
こんなところに6台もいれば、どいてくれっていうのが当たり前でしょう。
そんなこと言ってたら、同情する気持ちだってなくしちゃうんじゃないですか?

青年達の無言。
いいですか、あたし、車椅子の人に偏見なんて全然ないんですよ。
でもいくら車椅子の人だからって、人に迷惑をかけて良いなんてこと、ないんじゃないですか。

「男たちの旅路」最終シーズンの最終話。
「車輪の一歩」。
何と言うオープニング。
そして車椅子の青年達を演じている俳優の顔ぶれに、あっと言う。

古尾谷雅人が浦野一郎。
京本政樹が藤田重雄。
斎藤洋介が川島敏夫。
車椅子の少女、前原良子が斎藤とも子。

彼らは自分達を注意しに来た小島信子とその兄、尾島清二につきまとうようになる。
それがきっかけになり、彼らと吉岡たちは交流を持つことになる。
重雄はいつも1人で家に閉じこもっている良子を、外に連れ出そうと必死になる。
だが良子の母親は、娘のことは放って置いてほしいと言う。

「悪いけどみんな車椅子じゃないの。そんなのが4人で外に出てどこへ行けるって言うの」と良子の母親は言う。
「どこへだっていけますよ」と繁雄は言う。
「どうやって?タクシーが乗せてくれる?一人で階段登れるの?切符は自分で買えるんですか?」
「周りの人に頼みます。切符は駅の人に頼みます!」

「娘はねえ、階段をあげてもらいたかったら、3日前に予約しろって言われたのよ。国電に乗るなら3日前に予約しろって言われたのよ」。
「良い人も居ます。そんな人ばかりじゃありません」。
「どっちにしたって、頭を下げなきゃならないでしょう」。

「1人で外に出れば1、2段の階段を上がるんだって、誰かに助けてもらわなきゃならない。ぺこぺこ、ぺこぺこ頭を下げて、お礼を言って迷惑がられて」。
「あたし、自分の娘をそんな目にあわせたくないのよ!あたしが生きている間は、あの子を厄介者にしたくないのよ」。
「それで娘さん、幸せですか」。
「幸せなわけないでしょう!」

「だったら」。
「外に出れば良いことある?娘は骨身にしみてるのよ。もう、何度も何度も嫌な思いをしているのよ」。
「外に出て良いことないって、懲りてるのよ。気持ちはわかるけど、ほっておいてちょうだい。帰ってちょうだい」。

それでも、重雄は良子を誘いに来る。
仲間がいる。
それなら子供が笑っても、大丈夫だと。

信子を誘いに、這ってやってきた一郎や敏夫の熱意で、良子は外に出た。
公園でキャッチボールをして遊んだ。
その帰り、踏切を渡った時だった。

良子の車椅子の車輪が線路に、はまり込んでしまう。
身動きが取れない。
遮断機が下りる。
電車が近づいてくる。

6人も男がいて、誰も助けられない。
通行人が気づいた。
車を運転していた人も、降りてくる。
危険を顧みず線路に入り、何とか助け出す。

6人もいて、1人を助けられない自分達が惨めだった。
帰り道、良子は失禁してしまっていた。
脊髄損傷の良子は、トイレを我慢できないことがある。

みんな、目をそむける。
良子は泣いた。
彼女が外に出たがらないのは、そういうこともあったのだ。

その話を聞いた尾島、鮫島、吉岡。
尾島は陽気に飲もうと言った。
吉岡は何か言おうとしたが、敏夫は聞きたくないと拒否した。

だがその翌日、敏夫は吉岡のアパートにやってきた。
敏夫は喫茶店でもと言うが、吉岡は彼を背負って自分の部屋に連れて行く。
「こうやって対等に喋ろうと思っても、すぐに世話になっちゃうんですよね」。
「対等に喋れば良い」。

「たとえば今、あなたとケンカして下に行くには、どうしたら良いですか」。
「飛び出すなんてわけにいかない。這って行くには、時間が掛かりすぎる。挙句にケンカしたあなたにおぶさっておりていくなんて、はめになるんですよ」。
「ケンカしに来たかい?」
「そうじゃないけど、時々世話になることがやりきれなくなりますよ」。

「(吉岡のアパートを)探しただろう、バス降りてからちょっとあるしな」。
「橋を渡ってきたんですよ」。
「まさか、乗せないってわけじゃ」。
「つきそいがないと、だめなんですよ」。

「そうか」。
「そういう規則が出来る前は、お客がみんなで乗せてくれたりしたけど、規則破ってまで乗せてやろうなんて人、いないからね」。
「そうか」。

「タクシーは断るからシャクだし、金もないしね」。
「今度から電話くれよ。迎えに行くよ」。
「(吉岡が)何を言おうとしたのか…、気になってね」。

「あの時は妙な説教されたらたまらないと思ったけど、家に帰ったら、あなたが何を言おうとしたのか気になってきたんですよ」。
「そうか」。
「あれきり…、ただ、ウダウダ生きているだけだから」。
「そうか」。

重雄は、鮫島に言っていた。
良子が自分に心を開かないのは、「車椅子の女は車椅子の男が嫌いなんだ」と。
「付き合う男ぐらい、健康な奴が良いと思ってるんだ」。

「あんたもそうかい?」
「僕はそうじゃない。車椅子の苦労を一番知ってるのは、やっぱり車椅子の人間だもんな」。
「丈夫な奴となんか付き合えば、裏切られるに決まってるんだ」。

吉岡と向かい合った敏夫は「なかなか言わないんですね」と言った。
「あの晩、言おうとしたことですよ。何でも言って欲しいな。割と俺達、言われないんですよね。みんな障害者(セリフ、ドラマのまま)だと思うと遠慮しちゃうんですよね」。
「言いにくい…、と言うより自信がない」と吉岡は言う。
「君達はいろんな目にあってきた。私達はそれを想像するだけだからね。見当はずれだったり甘かったりするかもしれない」。

「それでも良いんです。本気で言ってくれるんなら」。
「君達は丈夫で、歩き回れる尾島君と妹に取り付いて、迷惑をかけてやろうとした。車椅子の人間がどんな気持ちで生きているか、思い知らせてやろうとした」。
「それを良いとは言わない。でも、そんな風に恨みを人にぶつけると、結局は自分が傷つく」。
「だからと言って人に迷惑をかけるなと、聞いた風な説教は出来ない」。

「あの晩にはまだそれほど、考えが熟さなかった。今の私はむしろ、君達に迷惑をかけることを怖れるなと言いたい気がしている。それは私にも意外な結論だ」。
「人に迷惑をかけるなと言うルールを、私は疑ったことはなかった。多くの親は子供に最低の望みとして、人に迷惑だけはかけるなと言う」。
「のんだくれのなまけものが、俺はろくでもないことを一杯してきたが人様に迷惑だけはかけなかったと、自慢そうに言うのを聞いたことがある」。

「人に迷惑をかけないと言うのは、今の社会で一番疑われていないルールかもしれない」。
「しかしそれが、君達を縛っている。一歩外へ出れば、電車に乗るのも、少ない石段をあがるのも、誰かの世話にならなければいけない」。
「迷惑をかけまいとすれば、外へ出ることができなくなってしまう。だったら、迷惑をかけてもいいんじゃないのか」。

「もちろん嫌がらせの迷惑は、いかん。しかしギリギリの迷惑は、良いんじゃないか。いや、かけなればいけないんじゃないか」。
「君達は普通の人が守っているルールは、自分達も守ろうと言うかもしれないが、私はそうじゃないと思う」。
「君達が町へ出て、電車に乗ったり、階段を上ったり、映画館へ入ったり、そんなことを自由に出来ないルールはおかしいんだ」。
「いちいち後ろめたい気持ちになったりするのは、おかしい」。

「私はむしろ、堂々と胸を張って迷惑をかける決心をすべきだと思った」。
「そんなことが通用するでしょうか」。
「通用させるのさ!君達は特殊な条件をしょってるんだ。差別するなと怒るかもしれないが、足が不自由だと言うことは特別なことだ。特別な人生だ」。
「歩き回れる人間のルールを、同じように守ろうとするから、おかしい。守ろうとするから、歪む。そうじゃないだろうか」。

「もっと外をどんどんと歩いて、迷惑をかけて。そう、階段でちょっと手伝わされるとか、切符を買ってやるとか、そんなことを迷惑だと考える方がおかしい」。
「どんどん頼めば良いんだ。そうやって君達を街でのあちこちで、しょっちゅう見ていたら、並みの人間の応対の仕方も違ってくるんじゃないだろうか」。
「たまに会うだけだとみんな緊張して、親切にしすぎたり敬遠したりしてしまうが、君達をしょっちゅう見ていたら、もっと何気なく手伝うことが出来るんじゃないだろうか」。

「君達は、並の人間とは違う人生を歩いている。そこのところを、私たちも君達も、しっかり認め合うことが必要があるんじゃないか」。
「権利かなんかみたいに、どんどん人に頼めっていうこと?周りの人間をどんどん使えと言うこと?」
「もちろん節度は必要だ。しかし、世話になった、また世話になった。心を傷つけながら生きているより、世話になるのが当然なんだ。並みの人間がちょっと手伝ったりするのは当然なんだ。そう、世間に思わせてしまう必要があるんじゃないか」。

「世間がそんなに甘いとは思わないけど」。
「甘いとは、私も言ってはいない。抵抗は当然あるだろう。それでも、迷惑をかけることを怖れるな。胸を晴れ。そう言いたいんだ」。
「特別な人生?」

「一段下とか上とか言ってるんじゃあ、ないんだよ」。
「わかってます」。
「特別な人生には違いないだろう」。

「確かにね。俺達、普通の人生じゃないなって思うことありますよ」。
そう言うと、敏夫は自分の経験を語り始めた。
「俺、おふくろにこんなこと頼んだことがあるんですよ。今考えると、よくあんなこと頼めたもんだと思うけど、その時はすごく切羽詰った考えだったし」。

「俺は稼ぎが少なかったし。親父は厄介者の俺が嫌いだったし。おふくろに頼むしかなかったんですよね」。
母親が敏夫を、布団に寝かせていた。
隣の部屋で、父親が背を向けていた。
テレビがついていた。

「お母ちゃん。俺、いっぺんで良いからトルコ言ってみたいんだよ」。
「トルコって外国の」。
「そんなとこ、行きたがるわけないじゃないか」。
「じゃあ、あの…何かい」。

「決まってんだろう」。
「俺、女にもてっこないだろう。嫁さん、来ると思う?いっぺんでいいから、ああいうところでいいから、女の人と付き合ってみたいんだよ。一生女なんか縁ないかもしれないもんな」。
「どうなの?黙ってるんだね。俺だって金が有るなら、おかあちゃんにこんなこと頼みやしないよ」。

「いいよ」。
母親が言った。
「行っといで。いくらあったらいいんだい」。

「3万か、4万やっとけ!」
背中を向けていた父親が言った。
「いいか、ケチるんじゃないぞ。チップははずむんだぞ」。

「でもそんな金」。
「バカやろう。そのぐらいの金、俺だってどうにかすらい」と父親が言う。
「…どうにか、するわい」。

「翌日の晩、お袋が上から下まで新しいもの着せてくれて、金4万5千円持って出かけたんだけどね」。
繁華街を車椅子で行く敏夫。
「車椅子はどこもダメだって言うんだよ。どこへ行っても転んだりして、事故があったら責任がもてないって言うんだ」。

「結局うろうろしただけで、家に帰って来たんだけど、断られたなんて言いたくなくて」。
車椅子の敏夫の両側を、柄の悪い男が囲んだりしていた。
「おかえり」。
帰ってきた敏夫を、母親が迎えた。

「ただいま」。
「やだよ、この子ったらゲラゲラ笑って」。
「そりゃそうだよ。行ってよかったよ」。

「どうだった」と、父親も聞いた。
その途端、敏夫は「うわあああああ」と声を上げて泣いた。
「考えてみれば、こんなこと。普通の親子じゃないよね」。


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2015.09.22 / Top↑
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