こたつねこカフェ

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追悼山行 「赤いヤッケの男」

安曇潤平氏の著書「山の霊異記 赤いヤッケの男」。
メディアファクトリーから出版されている実話集です。
怖くて、怖いだけではない怪異談の数々。


「追悼山行」。
語り部の友人が、学生時代に属していた山岳部で代々伝わるお話。
3月、その山岳部はリーダーと副リーダーが新人3人を連れて山岳訓練を行った。
副リーダーが先頭で、間に新人3人を挟み、最後をリーダーが歩く。

新人といえど、山岳経験は豊か。
順調に進むかと思った登山だが、途中から雪がちらつき始めた。
地上では3月は春だが、山では冬。

この先、どうするかリーダーと副リーダーは話し合ったが、リーダーはこのまま山頂を目指す決定をした。
だが雪は予想を超えて降り始め、8合目辺りでは前が見えないホワイトアウト状態となった。
リーダーは後悔しながらも山小屋を目指し、やっとのことで山小屋に到着した。

午後も4時となり、あたりはもう暗い。
そこで新人の1人、Kがいないことに気づく。
確かに間に挟まって歩いていたのだが。
はぐれたか!

副リーダーが探しに外に出ようとする。
だがリーダーはそれを止め、一緒に行こうとする副リーダーには、残ったメンバーの面倒を見るように言った。
そんなに遠くにはいないはずだ。
すぐに連れて戻ってくる。

残った3人が息を潜めて、待つ。
20分ほどして、小屋の戸にドーンという衝撃があった。
あわてて戸を開けると、Kが転がり込んできた。

いつの間にか道を外れてしまったが、何とかたどり着けたと言う。
「お前、リーダーに会わなかったか?」
「いいえ」。

「お前を探しに行ったんだ」。
「えっ!」
仰天したK。

副リーダーが外に出ようとしたが、外はすでに人が歩けるような天候ではなくなっていた。
リーダーは戻ってこなかった。
救助隊が出動し、捜索隊が出動し、春には山岳部のOBまでが加わって探した。

それでも、リーダーの遺体は見つからなかった。
捜索が打ち切りになった1年後の3月。
山岳部はリーダーの追悼登山をすることにした。

天気は良く、晴れ渡っていたが、一行はリーダーを最後に見た山小屋に宿泊することにした。
思い出話に花が咲いた。
みんな、車座になって座って、話した。

その時、天候が変わった。
外が吹雪になったのだ。
しばらく天気は良かったはずなのに。

こんな状態では明日は登頂を目指すことを、あきらめなければならないかもしれない。
その時。
「おい…、誰かこっちに来るぞ」。

1人が言った。
ザッ、ザッ、ザッ。
雪を踏みしめ、外を歩いてくる音がする。

みんな、口を閉ざした。
確かに登山靴が雪を踏みしめながら、こちらに近づいてくる音がする。
夜の10時だ。
この時間に、山を目指して登ってくる者がいるだろうか?


…怖いです。
夜の闇。
雪の音。
静寂。

その静寂の中、こちらに向かってくる足音が感じられます。
みんなの緊張。
恐怖も伝わってきます。

都会でも怖いでしょうが、周りに家も灯りもない山の中。
こんなことがあったら、とても平常心ではいられません。
逃げ場もない。
どうしたらいいか、考えてもわからない。

山の大きさ、自然の驚異。
自分の無力さを感じる話です。
ちょっとしたことが命に関わってしまうんだと思う。
生死が隣り合わせにある山なら、こんなことは起きるだろうと思ってしまう。

そして、山に登る人たちの絆が固いわけもわかる。
戦友ですよね。
もう、極限状況を力を合わせて越える、戦友なんじゃないかと。

その友情は固いでしょう。
こんな友情を得られるだけでも、山に登る意味ってあるんじゃないかと思ってしまう。
そしてこの恐怖の後、人の思いが胸に迫る出来事が続きます。
こういう話を知ると、人間の思いって肉体がなくなっても残るんじゃないか?と思いますね。



なぜこの話が、怖くて、最後に胸に迫る理由。
こういった話が、いくつも入っているのが、この本がただの怪異談とは違うところ。
ネタバレになりますので注意。
この話を良いと思った方には、この本はお薦め。


靴音は、山小屋の前で止まった。
全員が息を呑み、扉を見つめる。
やがて音はザッ、ザッと、小屋の周りを周り始めた。

誰も声を発しない。
全員、肩を寄せ合い、ただ、目で音のする方を追い、耳で音を捉えているだけ。
「何か…、言ってる」。
全員が固唾を呑む。

「おい…、あれ…、リーダーの声じゃないか」。
かすかに聞こえる声。
「おおい…、K。Kはいるかあ…」。

一行の中で、歯を食いしばって黙っていたKが立ち上がる。
叫ぶ。
「います!」

「僕は無事です!」
「ありがとうございました!」
すると、音は止まった。

ザッ、ザッ、ザッ。
靴音が遠ざかっていく。
山の中へ。
一行は戸を開けると、山のほうへ向かって頭を深く、深く下げた。

その後。
あれほど探しても見つからなかったリーダーの遺体が発見された。
遺体は、ほとんど損傷がなかった。
そしてその顔は、何かに安心したようにかすかに微笑んでいた。

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