山小屋の掟「赤いヤッケの男」

冬山に登る方は、お気をつけて。
「山の霊異記  赤いヤッケの男」。
メディアファクトリーから出版。
著者・安曇潤平さん。

山に登らない自分にも、山の風景、澄みきった空気、そして気配までが感じられる。
著者の山への愛情が感じられます。
同時に、載っている話はかなり、怖いです。
あの「何か」が「来る」時の前触れって、共通しているものがあるんですね。

怖いですよ。
ですが、温かさもあるという怪異談もいくつかあります。
全部含めてこれ、山に登る人には、リアルに感じられるんでしょうね。
この「山小屋の掟」は、そういう話。


「山小屋の掟」。
冬の小屋仕舞いを控えた、ある晩秋の日。
その登山者は、山小屋にたどり着いた。
大きな部屋は貸し切り状態で、登山者は自分のベッドで大の字になって体を休めた。

登山者は、少し眠ってしまった。
目が覚めた時は、もう窓の外は真っ暗で夜が来ていた。
自炊なので、食事を作ろうと部屋を出た。

その時、炊事場に向かう途中の廊下から見えた談話室に、1人の男が座っているのが見えた。
山登りをするには、ちょっと華奢な体の男だった。
男は何をするでもなく、窓の外を見ていた。

声をかけることもせず、登山者は自炊部屋に向かった。
そして即席ラーメンを作り、食べて、外に出た。
夜の山の空気を吸って、登山者は再び部屋に戻った。
山小屋はもう、灯りを落としており、廊下は常夜灯の薄暗いオレンジの光があるだけだった。

登山者は部屋に戻った。
部屋の戸を開けて、一瞬、ひどく驚いた。
誰もいないと思っていた部屋の入り口のベッドに、男が寝ていたからだ。
男の近くには、古めかしいザックが置いてあった。

山では、夕方近くになると雷雨が発生することもある。
だから登山者は午後の3時ごろにはもう、行動をやめるのが普通だった。
ましてや夜も10時になって、この小屋に到着するような行動は考えられなかった。

だが考えてみれば、この男は自分が自炊部屋に行く前に談話室にいた男かもしれない。
自分よりも早く到着したのを、自分が気が付かなかっただけだろう。
登山者はそう思って、自分も窓際の二段ベッドの上の段にもぐりこんだ。

しかし、夕方に眠ってしまったせいか、今度はなかなか寝付けなかった。
このままだと、明日に差し支える。
そう焦りながらも、うつらうつらした時だった。
耳鳴りがした。

起き上がろうとしたが、体は動かなかった。
耳鳴りは、ますます激しくなる。
登山者は懸命に体を動かそうとして、横を向いた。
その時、声にならない悲鳴を上げた。

二段ベッドには、登るための階段がある。
その階段の上から、誰かが自分をのぞき込んでいる。
先ほど、入り口付近で寝ていた男だ。
あの男が、自分をのぞきこんでいる。

登山者は、あまりの恐怖に固く目を閉じる。
全身から、冷や汗が吹き出た。
すると、耳鳴りがやんだ。



…いや~、これは怖かった。
相手が人間だってこれは怖いですよ。
絶対、こんな経験したくない。


以下、ネタバレになりますので伏せます。
この話が好きな人には、この本、お勧めします。
山を知らない私がおもしろかったので、山に登る人はもっとおもしろく、怖いのではないでしょうか。


目を開けてみると、誰もいない。
ベッドから下を見ると、寝ていた男もいない。
男のそばに置かれていた、ザックもなかった。

夜中の1時に、山に向かう無謀な者はまずいない。
登山者はとても眠る気になれず、1階に降りようと考えた。
荷物をまとめ、部屋を出て、階段を下りようとして振り返った。

その時、登山者は見た。
ザックを背負った、あの男が廊下を歩いていた。
こちらに背中を向け、廊下の突き当たりにあるドアに向かって歩いている。
そしてそのドアを開けて、外に消えていった。

登山者は悲鳴を上げて、階段を駆け下りた。
この話を聞いた2人の若い従業員は、夢ですよと言った。
従業員は、騒ぐと他のお客さんが起きてしまうとも言った。

騒ぎに気づいた山小屋の主人が、起きてきた。
話を聞いた主人は、「ほう」と言うと、談話室に3人を呼んだ。
「それは遭難者の霊ですよ」。

従業員に「お前たちは今年来たばかりだから知らないだろうが、2階にドアがあるのは知っているだろう」と主人は言う。
男が消えたドアは、もう老朽化で取り壊した冬季小屋に続く廊下のドアだった。
山小屋はもうすぐ小屋仕舞いすることでもわかるが、冬季はやっていない。
泊まれるのは、冬季小屋だけだ。

冬季小屋には遭難してやっとたどり着き、息絶えて長い間見つけられなかった登山者がいた。
その冬季小屋がなくなったので、ドアを開けても外には廊下も何もない。
ドアを開けたら、2階から落ちるだけだ。
だからドアは閉鎖している。

ではあのドアは、あの世とこの世の境にあるのだろうか?
従業員が「お客さん、今日は僕たちの部屋で寝ましょうか」と言う。
登山者に異論はなかった。

従業員は言った。
「オヤジさん、そんなドア、潰しちゃいましょうよ」。
すると主人は言った。

「霊だって、たまにはあったかい布団で眠りたい時もあるだろうよ」。
主人はあくびをしながら言う。
「来る者は拒まず。それが山小屋の掟だ」。



…懐大きい!
怖くて、それで温かいという珍しい怖い話。
人間の力が及ばないものがある。
山を甘く見ないこと。

確かに怪異談ではありますが、この怪異談からはそんなメッセージも伝わって来ました。
山、自然と言う人の生死がかかる場所で過ごしてきた人が持つ思いやり。
私には言えない、こんなこと。
ただ、怖いだけ。

山という自然の中で暮らす人は、こうなるのかな。
この話に興味を持った方はもちろん、山に興味ある方もない方もぜひ。
もっと怖い話もありますよ。
メディアファクトリーから、出版されてます。





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