第2話、「一発勝負」。

寒い、雪の舞う夜。
貧しい長屋の一角。
それでも部屋の中は、温かさがある。
若い父親と母親が、赤ん坊を見て幸せそうだからだ。

そこに数人の男が押入ってくる。
赤ん坊を取り上げ、「話し合いでは埒が明かん。若君をもらっていく!」と叫んだ。
「太一!」

父親も母親も必死に追ってくる。
「太一!」
だが、追ってくる夫婦は足蹴にされる。
それでも夫婦は、「太一」と子供の名前を叫びながら追う。
雪が降る。

飛脚屋の嶋屋。
その座敷の奥に、その夫婦がいた。
「お願いでございます。私たちの子供を取り戻してくださいませ!」
母親が叫ぶ。

「話の次第によってはお力になります」と、おせいが応える。
ここで話したことは一切、外にもれることはない。
おせいは言った。
だが、母親はぐっと、言葉を呑み、うつむいた。

それを見た父親が、「おしの、何なら俺が」と声をかけた。
しかし母親は気を取り直し、「いえ、大丈夫。私が…」と言う。
母親は、おしの、と言った。

「私は2年ばかり前までお旗本一千石、朝倉主膳様のお屋敷に女中奉公しておりました。その折りにお出入りの植木職人の、この人と契りを。そして私は身ごもったんです」。
「そのことから私、お屋敷に言って、一日にも早くお暇をいただこうと思っていました」。
「そんな矢先に…。…。お殿様が…」。

納戸部屋で片付け仕事をしているおしのの元に、主膳がやってきた。
「おしの、その方、とみに美しくなってきたの」。
主膳はそう言うと「おしの」と言って、おしのに襲い掛かった。

「お許しください」。
おしのは、必死に逃れようとした。
「これ、おしの」。
「お離しください。お許しください。お願いでございます!」

「ダメだ」。
主膳は歪んだ笑みを浮かべた。
おしのはなおも、抵抗した。

「貴様、女中の分際で手向かいいたすか!」
主膳はかっとなり、何度もおしのの頬を張った。
おしのは気絶した。

主膳が唾を飲み込む。
帯が解かれる。
奥方が、入ってきた。

主膳とおしのを見て「あなた!」と声を上げた。
奥方が目をそむける
「冗談じゃ。冗談じゃ」。
主膳は笑った。

「…私は何度死のうかと思ったか、知れません。だけどお腹には、植松さんと私の赤ちゃんが。それに植松さんは、私たちが所帯を持つ家を、一生懸命用意して。それを思うと私は思い切って、何もかもこの人に話しました」。
植松は、黙っていた。
しかし「おしの、俺は、おめえが今話したこと、なんも覚えちゃいねえ」と言った。

「もし仮に覚えていたとしても、金輪際口にしねえ。必ず忘れる。だからおしの、おめえも何もかも忘れちまえ。な、忘れよう」。
「あんた」。
「生んでくれ。俺とおめえの子供、生んでくれ!おしの、おれたちは夫婦なんだ」。
「あんた!」

「このようにして、私たちは朝倉家を出て所帯を持ち、やがて赤ん坊が生まれて、この人が太一と名づけて。やっと私たちも、幸せな日々を送れるようになりました」。
「ところが、4歳になる朝倉家の若様が流行病で急に亡くなられ、太一を朝倉家の跡継ぎにするなど、勝手なことを申したて、無理やりに力づくで…」。
それが、あの雪の夜のことだったのだ。

聞いていた利助が「そんな無茶な。あんたがたの子供さんには、その朝倉家の血は何の関わりも」と言った。
主膳には他にも手を付けた女中がいて、その子供を引き取った。
だが、子供が体が弱いとわかって、太一を寄越せと言って来たのだった。

朝倉の屋敷では、赤ん坊の泣き声がしていた。
おせいの頭の中でも、赤ん坊が泣いていた。
泣いている赤ん坊を前にして、おせいがいた。

赤ん坊をはさんで、向こう側には武家の男女が座っていた。
男が口を利いた。
「おせい。この金ですべてを約束どおり。このややは、旗本五千石、松永家の世継ぎとしてもらいうける。良いな」。

女が言った。
「これであなたとややは、他人です。今後、一切会うことはなりませぬぞ」。
2人は立ち上がった。

おせいが叫んだ。
「お願いです!今一度その子を抱かせてください!」
おせいは手を伸ばした。

「なりませぬ」。
女の冷たい、断固とした口調だった。
すると、おせいは懐剣を取り出した。
政吉の持っている赤い懐剣。

それをおせいは、赤ん坊の前に置く。
「せめてこの守り刀を、私の形見として」。
男はうなづいた。

おしのと植松を前にしたおせいの目からは、涙がこぼれていた。
「太一をお願いします」。
「お願いします」。

おしのと植松は、おせいに頭を下げた。
「わかりました。わたくしどもの仕事は手落ち、間違いのないように念には念を入れなければなりません」。
「一応お調べさせていただいたうえで、ご返事をさせていただきます」。

今日も半兵衛のそば屋には博打仲間が集まり、座布団の上にさいころ博打をしている。
「おめえもへえれよ」。
言われた半兵衛の顔に、笑顔が広がる。
「そうですか、じゃちょっとだけ、やらせてもらいます」。

するとのれんの向こうから、「あんた」とお春がにらみつける。
はっとした半兵衛は「お前さんがた、店での博打は一切止めてもらいます。この店で博打をするなら、2度と来ないでもらいます!」ときっぱりした口調で言った。
しかし次には、「…そう言えって言うんですよ。山の神が」とひどく困った顔になった。

お春の表情におそれをなした客は、引き上げる。
だが、半兵衛はその客たちに、盛りを注文させた。
そして、窓を開ける。

向こうから人が来るのが見える。
「しっかり稼いで!」
半兵衛は、向こうから来るのが男女のどちらかで賭けをすることを勧めたのだ。

お春が「あたしはね、店のためを思って言ってんのよ」と言う。
上の空の半兵衛に「ちょっとあんた、聞いてんの?」と怒る。
「聞いてるよ」。
「まったくもう」。

半兵衛は、お春に売り上げを台帳に載せるように指示すると、先ほどの客にそばを運ぶ。
そして、半兵衛も賭けに参加した。
「男!」
「女や!」

「それそれ、やったやった」。
向こうから来たのは、女性だった。
女性に賭けた客が色めき立つ。
だが半兵衛は「待ったあ!」と言った。

途中までやってきた女性だが、ふと、道を引き返して帰ってしまった。
代わりに来たのは男だった。
「男はいらん」。
「男ほしい!」

結局、男に賭けた半兵衛が勝った。
「おっさん、今度女行けよ」。
そう言われた半兵衛だが、「いや、今度は見送ろう」と言った。
「ん?」

今度に向こうから来たのは犬だった。
「ええ勘してる!」
「いやいや、他に働きがないんで」。

すると、今度、道を来たのは利助だった。
今度は自分たちの勝ちだろう。
「おっさん」。

だが半兵衛は、今度はどちらにも賭けていなかった。
「張ってへん」。
「運が強い」。

おせいに呼び出された半兵衛と政吉。
「じゃあ、あたしたちの仕事は」。
そう、朝倉という旗本から赤ん坊を取り上げて返してやることだった。

「あたしはだめだ。お前さんこそ似合いの仕事だ」。
半兵衛と政吉は、お互いに押し付けあった。
だがおせいは「半兵衛さん政吉さん。もしかしたら命がけの仕事になるかもしれませんよ」と言った。

厳しい声だった。
政吉はそのいわくを聞いたが、「仕事の内容についてはお教えしないのが決まりです」とおせいは突っぱねた。
「半兵衛さん。どんなことがあっても、必ず子供を母親の手元へ。政吉さん、わかりましたね」。

だが「大の男が2人かがりで子供を取り返すなんて」と政吉は納得しない風だった。
半兵衛が政吉に離れるよう指示し、急に目を彷徨わせ始める。
向こうから、源五郎が来たのだ。

「真面目にやってる?」
半兵衛に十手を突きつけながら、源五郎は聞いた。
「薬味のねぎ仕入れに」。
「そうお」。

半兵衛は源五郎をやりすごし、歩いていく。
政吉と早速、朝倉家の前にいた。
すると政吉が、この中間部屋で博打をやっていると教えた。

夜までにはまだ、間がある。
「いいねえ~」。
2人は屋敷に入っていく。

屋敷では、太一が泣いていた。
主膳に向かって奥方が、「女中の子を朝倉家の跡継ぎに!」と嘆いていた。
跡継ぎは自分が生んでみせる。

「わかっておる。その折りには、あの子を始末すればいいではないか」。
その言葉に呼応するかのように、太一の泣き声が激しくなる。
「ええい、うるさい。すぐ部屋へ連れて戻れ!」と奥方が怒る。
「はい、申し訳ございません」。

2人になると主膳は奥方に囁いた。
「それに子供の親がだいぶ騒いでいるようだ。ぐだぐた言われてことが面倒になると、な」。
主膳の言葉を聞いた奥方が、「わかっております。そのことで軍十郎たちを…」と囁いた。

長屋では、植松が朝倉の家に行こうとしていた。
「あんた!」
「おしの、俺はじっとしていられないんだ。太一の奴、腹すかせていねえか、泣いてねえか…」。
その時、向こうから太一を奪っていった男たちがやってきた。

おしのと植松は、危機を感じた。
「よお、おしのさん!今そこで八丁堀に会ってね!」
声をかけたのは、利助だった。
利助を見た男たちは、去っていった。

半兵衛は、博打の合間に屋敷を歩いてみた。
すると、奥に向かう木戸がある。
だが木戸の向こうには、犬がいた。

犬は猛然と半兵衛に吠え掛かった。
すると、おしのたちから太一を奪った勘八がやってきた。
半兵衛は厠に行きたいとごまかして、何とかその場を逃れた。

博打場に帰ってくると政吉が、朝倉の用心棒の軍十郎相手に金を取られて、イライラしていた。
「あの野郎、俺の反目反目に張りやがって!」
半兵衛は「お前さん、若いねえ」と笑った。
だが…。

半兵衛の金もどんどん、軍十郎の前に積まれていってしまう。
「ああ、ちくしょう、頭来たくやしい!」
「半兵衛さん、勝負ってのはカッカしたら負けじゃねえのか」。
そう言った政吉の頬を、半兵衛が張る。

夜になり、待ちきれない植松は長屋を出た。
おしのは仕事屋に頼んだのだからと止めた。
それでも植松はやはり、自分の子供のことは親がやらなければ!と言って出て行った。

屋敷では太一がまだ、泣いていた。
乳母が落ち着かないのでございますと言い訳をしていた。
「落ち着かぬ?育ちが卑しいと、しょうのないものじゃ。泣きやまぬか!」
イラついた奥方は赤ん坊の頬を、扇でつついた。

「太一」。
朝倉の屋敷に入り込んだ植松は、太一の泣く声を聞いた。
部屋に近づこうとした植松に、犬が吠え掛かった。
あわてた植松は、見つかってしまった。

「待て!」
追われた植松は、それでも屋敷の奥へ入っていく。
「貴様!」

見つかった植松は、家来たちに殴り飛ばされた。
ぞうりで顔も踏まれた。
騒ぎを聞いて、主膳がやってきた。

主膳を見た植松は「殿様、太一をお返しくださいませ。太一はわたくしのせがれでございます。どうか、お情けを」と懇願した。
勘八が「若君に向かって何を!」と突き飛ばす。
「太一!」

赤ん坊に近づいた植松を、主膳は一刀の下に斬り捨てた。
植松が倒れる。
主膳は平然と、斬った刀を家来に持たせた。

「太一、おっかちゃんが待ってる。おっかちゃんが」。
植松はそう言って、絶命した。
「ふん、愚か者が」。

奥方が吐き捨てるように言った。
そして「おしのを呼び寄せ、始末を」と言う。
主膳がうなづく。
「おしのに、この狼藉者の死体を引き取るよう、そう伝えろ」。

この騒ぎに、博打に来ていた客はざわざわしていた。
しかし騒ぎはなんでもないと言われ、半兵衛と政吉は博打に戻ってしまった。
半兵衛は軍十郎に向かって「よう、でっかいお侍さんよ、あたしはもうひとつの名前を、明け方の半兵衛って言うんだ。明け方になるとつよいよお~」と宣言した。
「良い名前だねえ、明け方の半兵衛さんか!」

政吉が合いの手を入れる。
「おう」。
「俺のことも、ちょっと聞いてよ。俺はね、一発の政ってんだ!」
「一発?」

「一発勝負につええから、一発の政ってんだ」。
「一晩中で一発か!」
半兵衛が笑った。

2人は調子よく「半!」と張った。
バカにしたように、にやりと軍十郎が笑った。
そして「チョウ」と言った。

朝になった。
「野菜も買えやしねえ」と言いながら、半兵衛が中間部屋を出てきた。
「何が夜明けの半兵衛だ」と政吉が文句を言う。
「そういう自分だってな、一発の政だって?いちころの政じゃねえか」。

2人とも、負けてしまったのだった。
懐をかきながら政吉が言う。
「くそ坊主そば食いてえな」。
「勘定はもらうよ」。

おせいに呼ばれた半兵衛と政吉は、植松が殺されたことを知った。
「じゃあ、あん時の騒ぎが」。
「そうです!」

利助が頬を膨らませた。
「その時に、植松さんが殺されたんです!あんたがたが仕事を忘れて、博打に夢中になっている時にね!」
「それだけじゃない。もしあんたがたが見つかれば植松さんのように、殺されていたかもしれないんですよ。半兵衛さん政吉さん。この稼業を甘く見過ぎていないですか!」

しかし、おせいが沈んだ声で、言った。
「今度のことは、すべて私に責任があります。お2人を仕事屋として認めたのは私です」。
だが利助は収まらなかった。

「だいたいね、おかみさんにこんな風に迷惑をかけるなんて。あんたがた仕事屋になる資格なんてありませんよ!」
「かぁーっ!」
政吉が反論する。

「言いたいことを言うじゃねえか、このガキは!だいたいな、俺は今度の仕事に関しては、ちょっとひっかかってることがあるんだよ」。
「何です、聞こうじゃありませんか」。
利助も引き下がらない。

「その赤ん坊を取り返したいって母親は、貧乏人なんだろう」。
「そんな貧乏暮らしよりよ、一千石の旗本屋敷で、乳母日傘で育ったほうが赤ん坊にとっちゃ、よっぽど幸せかもしんねえじゃねえか!」
政吉の言葉は、おせいの心を貫いた。
おせいを見ていた半兵衛の顔色も変わった。

「政吉さん…」。
おせいが搾り出すような、つらそうな声で言う。
「母親にしてみればね、お腹を痛めた子供を手放したくないのは、当たり前なんですよ」。

まるで、政吉にも、自分にも言い聞かすような口調だった。
「どんなに貧しくたって、母親の手で育てるのが親としても子としても、一番の幸せなんです」。
「そうかねえ、俺はそうは思わねえな」。

「人間が生きてくうえに、一番頼りになんのは金だよ。おふくろなんかいなくても、結構楽しくやってけんだ」。
政吉が遠い目をして、微笑んでいた。
「結構楽しくな」。
「政吉さん!」

おせいの声は鋭く、悲しげだった。
政吉がハッとする。
半兵衛だけではない。
利助も、おせいの様子に驚いていた。

おせいは目を閉じた。
大きく息を吐く。
「仕事には私情を挟まないように、いつも戒めてきた私が…。これからは気をつけます」。
もう、おせいの声はいつもの冷静な、事務的な口調に変わっていた。

「朝倉は今度の一件が世間にもれないように植松を殺し、次はおしのさんの口を封じるために命を…。どんなことがあっても、これだけは食い止めなければなりません」
「半兵衛さん、政吉さん、二度と間違えのないようにお願いします」。
政吉が、神妙に深くうなづく。
半兵衛もうなづく。

おしのが、半兵衛、政吉、利助と一緒に朝倉家にやってきた。
半兵衛と政吉、利助は頬かむりをしている。
利助が車を引いていた。

「中だ」。
勘八が邪険に、指をさした。
主膳と奥方が見ている。

おしのが、植松の遺体に近づく。
冷たくなった植松を見て、「あんた…」と絶句する。
あんた、あんたと言って、おしのが泣き崩れる。
半兵衛が、辺りを見渡す。

利助が車を持ってやってきた時、勘八が戸を締めようとした。
だが利助は、扉に車をはさんで阻止した。
男たちが利助を追い出しに走る。

半兵衛と政吉が男たちを殴り、追い払う。
植松の遺体をかつぎ、車に乗せて4人は逃げる。
風が吹く。
枯葉が舞う。

その後を、軍十郎たちが追ってくる。
風が吹く。
道に落ち葉が、舞い上げる。
追っている軍十郎たちが刀を抜こうとした時、歌声が流れてくる。

数人の若者の声。
道場帰りらしい若者の集団が、歌を歌いながらやってくる。
軍十郎たちは、半兵衛たちに斬りかかるのを諦めた。
何も知らない若者たちが、半兵衛たちの横を通過していく。

半兵衛が前をキッと向き、きっぱりと言う。
「俺ぁ、やるよ」。
政吉も言う。
「ああ」。

利助が、半兵衛と政吉に朝倉家の見取り図を見せていた。
中間部屋から母屋に行くには、木戸を通らなねばならない。
半兵衛が情けない声で、「そこに犬が」と言う。
「犬ぐらいなんです」。

さらに、赤ん坊の部屋に行く前の部屋には、若頭たちがいる。
「主膳の部屋はどこだい。それにかみさんは」。
政吉が聞く。

利助が「ここと、ここになります」と見取り図を指した。
「こいつらに植松さんの恨みをな!」
政吉が見取り図を指差しながら、強い口調で言った。
だがおせいが「政吉さん、まず、子供を」と諭すように言う。

すると政吉は素直に「うん」と言ってうなづいた。
その様子を、半兵衛が見ている。
おせいが微笑む。
半兵衛が、2人を見る。

おしのを芝浦の浜に待たせておくと、おせいは言った。
子供を取り返したら、おしのは木更津の親戚を頼っていく。
打ち合わせを終えた半兵衛と政吉の2人は歩いていくが、ふと、半兵衛が戻っていく。

「おかみさん。ちょいと話が」。
半兵衛は、おせいを呼び止めた。
「何でしょう?」
半兵衛は、おせいと2人きりになった。

「おかみさん。ずうっと気になっていることがありましてね」。
「え?」
「いや。今度の仕事で、もしかすると私か政吉が死ぬようなことになるかも。いやこれは、例えばの話ですよ。その前にひとつだけ、聞いておきたいことが」。
「これは私の勝手な勘ですがね」。

「おかみさん、もしかすると政吉の…」。
おせいが目を伏せる。
顔を横に向ける。

そして「半兵衛さん、私には子供はありませんよ」とだけ言った。
半兵衛は確信した。
しかし、半兵衛が発したのは「は…、はははは」という笑い声だった。

「やっぱり勘が外れたか!あたしの勘も当てには、なりませんね。ははは」。
「…半兵衛さん!」
おせいの声は思いつめたようだった。
「?」

おせいが半兵衛の目をしっかりと見て、うなづく。
「すみません」。
半兵衛が頭を下げた。
「このことはもう、二度と口には…。ごめんなすって!」

半兵衛は政吉の待つ道に、戻っていく。
「ああ」と、政吉が返事をする。
去っていく2人を見送るおせい。

利助が来る。
ふっとおせいは目をそらし、歩いていく。
不思議そうに見ていた利助だが、おせいの後をついていく。

朝倉家に侵入した半兵衛と政吉。
木戸を開けると、やっぱりあの犬がうなっている。
「犬の始末!」と、半兵衛が政吉に囁く。

「ほら!」
半兵衛が小銭を投げ、手の上に乗せてその上にまた手を乗せて伏せる。
「裏」と政吉が言う。

小銭を見た半兵衛は、にっこりと笑うと政吉に、細長いざるを渡す。
政吉は木戸を開け、屋敷内に入る。
犬に政吉が近づく。

ざるに入れていた餌を犬に向かって、放り投げる。
犬はそれを拾って、おいしそうに食べる。
政吉が近づく。

えさが張っていたざるを、犬が覗き込む。
政吉はそのざるについている金具を、犬の首輪にかけてしまった。
犬がクゥーンと悲しげに鳴く。
だがもう、それしか声を立てられない。

「さすが、一発だな!」と半兵衛が賞賛した。
庭には、中間が2人いた。
「冷えますですねえ」。
半兵衛が手をこすりながら、やってくる。

「何だお前、こんなところに何しに来た」。
「あたし?どろぼう」。
「なにい?」
半兵衛が2人を気絶させる。

屋敷では奥方が太一にイライラしていた。
「ええ、泣きやまぬか!かわいげのない。このような子は朝倉家には向かぬ。お殿様に言って、他に適当な子を見つけるゆえ、おきぬ、捨ててまいれ!」
乳母は「そのような、奥方様!」とうろたえた。
「そちが捨てることができねば…」。

「私が殺してやる」。
奥方が、懐剣を抜いた。
「子供を渡すのじゃ」。
「お許しください奥方様」。

「どけ!」
子供を守って、乳母が倒れる。
奥方が懐剣を振りかざした時だった。

政吉が突然、入ってくる。
「あっ」。
さっと、奥方を懐剣で刺す。

半兵衛が子供を抱きしめる。
「クセモノ!」と叫び、勘八がやってくる。
政吉は勘八も刺す。

半兵衛が子供を抱え、庭に飛び出す。
「どろうぼうだ」と、政吉が叫ぶ。
そして半兵衛がいるのと反対の方向に、家臣たちを誘導する。

政吉が誘導する方とは逆に、半兵衛が逃げる。
「ややがさらわれた。朝倉家の大事じゃ!探せい!」
主膳が叫ぶ。

政吉は家来たちを自分のいる方に誘導したが、半兵衛のいる方から赤ん坊の泣き声がしてしまう。
焦った政吉は「こっちだぞこっち!」と木を叩き、音をさせてひきつける。
半兵衛の方に向かおうとした集団と、政吉の方に向かおうとした集団が鉢合わせして倒れる。

「おうい、頼むよお」。
泣きやまない赤ん坊に、困り果てた半兵衛が鳴きそうな声で叫ぶ。
軍十郎がやってくる。

刀を抜いて、襲い掛かってくる。
半兵衛は刀を避けて逃げる。
燈籠をはさみ、半兵衛が逃げる。

必死の半兵衛は犬のように土をかいて、軍十郎にかける。
政吉が飛び出してくる。
刀を持った軍十郎の手を押さえる。

半兵衛が政吉に抑えられた軍十郎の小刀を抜いて、わき腹を刺す。
軍十郎が、のけぞる。
政吉が取り上げた刀を軍十郎に向かって、振り下ろす。
軍十郎が倒れる。

「この野郎には博打で勝ちたかった!」
そう言った半兵衛だが、軍十郎を刺した刀から手が離れない。
燈籠に刀の柄をぶつけて、やっと手から刀が離れた。
一方、政吉も軍十郎を斬った姿のまま、しばらく動けなかった。

それでも2人は必死に、塀を越えた。
主膳が馬に乗って、屋敷を出る。
馬に乗り、主膳がやってくる。

2人が逃げる。
主膳は馬に鞭をくれる。
半兵衛が政吉を「おぅい!」と呼び止め、赤ん坊を投げる。
政吉が受け取る。

子供を抱え、政吉が走る。
だが主膳は追いついた。
政吉に向かって、鞭を振り上げた。

逃げる政吉だったが、主膳の鞭が当たった。
政吉が額を押さえる。
血が流れる。

政吉は逃げる。
走っていく。
政吉が曲がると、馬に乗った主膳も曲がる。

木を曲がった時、主膳のスピードが落ちた。
その木の上には、半兵衛がいた。
半兵衛が主膳の馬の上に、飛び降りる。

主膳の後ろに乗り、首にかみそりを当てた。
首筋を切り裂く。
馬から飛び降りる。

主膳は馬に乗ったまま、走っていった。
そしてやがて、首ががくりと前に垂れ、馬から落ちた。
馬だけが去っていく。

終わった…。
すると、赤ん坊がまた泣き出す。
赤ん坊を渡された半兵衛が「あああああ、はいはいはい」とあやす。

船着場。
おせいと利助が、見送る。
船の上のおしのが、頭を下げる。

しっかりと、赤ん坊を抱く。
おしのと赤ん坊を乗せた船は、遠ざかっていく。
半兵衛と政吉もそれを見送る。

そば屋で、客がお春に催促をしている。
お春がそばを持っていくと「遅せえじゃねえか、待たせやがって」と文句を言った。
そして、お春の尻をぺろっとなでる。

「きゃあっ!すけべえ!」
お春が悲鳴を上げた。
笑い声が起きる。

半兵衛は、調理場にいた。
湯気が立つ。
半兵衛が湯気を煽る。

湯気がもうもうと立ち、半兵衛が見えなくなる。
その隙に半兵衛が、売上金に手を伸ばした。
「あんたっ!」

お春の叱責の声が飛ぶ。
「ははは」と半兵衛が笑う。
笑いながら「ちえっ」と、残念そうに首をかしげ、指を鳴らす。
しかたなく半兵衛はそばをこね、切っていくしかなかった。


必殺の女神の1人、ジュディ・オングさんがおしの。
ささやかな幸せを壊す旗本・朝倉主膳は、菅貫太郎さん。
この菅さんがもう、ザ・菅貫太郎劇場!
バカ殿、狂乱の殿様を演じさせたら世界一の菅さん。

理不尽。
横暴。
乱暴。
狂気。

お世継ぎ、いたのか。
いて、これなのか!
どうなっちゃってんだ。

怖いわあ。
迷惑だわ。
関わりたくないわ!と思いながら、菅さん堪能。

殿が怖けりゃ、ここでは奥方様も怖い。
おしのに対する嫉妬、赤ん坊に対する憎悪。
綺麗な加賀ちかこさん。
殿が悪いのか、もともと怖い人なのか。

彼らの自分勝手さが、自己中心が、ささやかな幸せをあっさりと壊していく。
罪の意識もない。
人を人とも思っていない。

仕事屋としてのプロ意識など、微塵もない半兵衛と政吉。
博打に夢中になり、植松が殺されるのを防げない。
それを利助に責められ、政吉が切れる。

だいたい依頼自体がどうなのかと言う。
貧乏な実の母親より、金持ちの方が良いと口走る。
自分の経験から、母親なんていなくても生きていけると言う政吉。

母親への恨みなら、まだ良い。
政吉の言葉は、母親の拒絶だ。
自分を捨てた母親へのうらみではない。
政吉が母親を、母親と言う存在を捨てている。

でもその口調は、決して楽しそうではない。
むしろ、「生きていけた」という口調。
「生きていけるんだ」と言う口調。

おせいは衝撃を受ける。
恐らく、自分に育てられるより旗本屋敷の方が幸せだと思って手放したはず。
なのに、なぜ政吉は博打打ちになっているのか。
政吉に何があったのか。

長年、おせいを見ているはずの利助もビックリ。
その2人を見ていた半兵衛が、親子ではないかと疑問を持つ。
ここでもまた、半兵衛の勘の良さは発揮された。

それはこういう仕事を、こういう人生を歩んでいくのに一番大切なものだと思う。
博打には発揮されなかったけど。
でも博打でこの勘を使い果たさなくて、かえって良かったんじゃないの。

しかしおせいの体勢の建て直しもすごい。
次には口調がもう、事務的なものに変わっている。
すべて、自分が悪いと言って…。

おせいの様子に加えて、おしのの嘆きを見た半兵衛。
親子を、幸せを壊す権利など、誰にも、何千石の旗本にだってありはしない。
なのにまだ、いや、なお、主膳たちはおしのを殺そうとする。

主膳の仕打ちに対する怒り。
おしのの嘆きに対する深い悲しみ。
半兵衛に、仕事達成への覚悟が生まれた。
「俺ぁ、やるよ」。

おしのの依頼が正しいのかと言っていた政吉にも、火がついた。
こいつらに恨みを…と言い始める。
そこにおせいが、まず子供をと言う。
すると素直に政吉が、「うん」と言う。

この様子が、まるで子供のようだった。
ヤクザ者の政吉が、まるで子供のように「うん」と言う。
にっこり笑うおせい。
一連の流れに、呼吸のような自然さを感じるのも無理はない。

そして仕事屋というのは、あくまで目的の達成のために動くということがはっきりされる。
目的のために殺しをすることもあるという、基本がはっきりする。
しかし、半兵衛も政吉も殺しは素人。

勢いと怒りで、奥方を始末。
さらには勘八も始末。
迫ってくる軍十郎は武士だ。

半兵衛の、砂をかけて逃れようとする様子はまさに追い詰められた素人。
飛んでくる政吉との連携で、軍十郎を倒す。
しかし刀が手から離れない。
もう、必死。

馬に乗ってやってくる主膳。
菅さん、実はすごくカッコいい。
半兵衛は木の上から奇襲。
身が軽い半兵衛の攻撃は成功。

朝倉家は、断絶になっちゃうんだろうか。
植松、おしの、太一の引き裂かれた関係に、おせいと政吉の親子が重なり、最後はおしのの元に太一が戻って終わる。
おしのにはおせいが、ちゃんとしてやったんだろう。
去っていくおしのから、安堵と哀しみが漂う。

幸せになると良いな。
だけど半兵衛さん、あんなふうに赤ちゃんキャッチボールは怖い…。
最後は半兵衛の情けない姿で終わって、笑いで締める。

1話で政吉とおせいが、親子であることが描かれました。
さらにこの2話で、子供を旗本に奪われた母親と、旗本の養子に出して生き別れになった政吉とおせいがシンクロしました。
しかしこの設定はこれっきり、最終回近くまで、なりを潜めるんですね。
その理由と衝撃は、23話ぐらいまでわからない…。


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2015.11.10 / Top↑
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