犬神家の一族はなぜ、おもしろいのか。
これほど、犯人がわかって、トリックがわかっているのに何度見てもおもしろい謎解きミステリー、推理小説の映像化の映画ってないです。
この手の映画は、犯人がわかってトリックがわかっていたら、もう二度は見なくても良いや、と思うものが多い。
なのにどうして、市川崑監督が作った横溝正史の映画はそうではないのか。

この疑問、持っていた人も多いでしょう。
私も持っていました。
それに答えてくれたのが、またしても春日太一さんですが、春日さんの「市川崑と『犬神家の一族』」でした。

ヒッチコック監督が言っていた「ミステリーは映画にすると、つまらない」。
「だから自分の映画はミステリーではなく、サスペンスだ」。
「サスペンスのために、ミステリーがある」。

では市川監督は、謎解きが興味の全てになりがちな推理小説、ミステリーをどうやって映画として見せたのでしょう。
どうやって観客の気持ちを、惹き付けたのか。
そのために、いかにたくさんの工夫を凝らせ、計算していたのか。
知って、感動しました。

おもしろさの理由のひとつ、やはり、金田一耕助に石坂浩二さんを起用したことが大きかったんですね。
石坂さんは声変わりの時、声がうまく出ないことがあったらしい。
それでボイストレーニングに通った。
この時、声にもメジャーな声とマイナーな声があることを知った。

良いナレーションは邪魔にならない。
BGMと合っている。
それでいて、ちゃんと聞いて耳に入らなくてはならない。

音楽が長調なら、ナレーションの声は短調。
音楽が短調なら、ナレーションの声は長調。
こうすれば、ナレーションが邪魔にならず、心地よく聞いてもらえる。
短調、長調の声を使い分けて、石坂さんはナレーションを行っていた。

市川監督には、それがわかっていたんです。
横溝正史の小説は、登場人物が多い。
先代から続く、複雑な人間関係もある。
事件が起きる以上、見ている人にはそれを理解させなくてはいけない。

つまり、事件を解き明かす金田一はナレーション役でもある。
観客に無理なく、退屈させず、それを理解してもらわなければ、訳がわからない。
説明に、そんなに時間をかけるわけにもいかない。
だから名ナレーターの石坂さんに、金田一を演じさせたかった。

また、ビックリしたのは、石坂さんは相手の声に自分の声を合わせていたらしいんですね。
相手の声に応じて、自分の声を作る。
そして耳障りにならないように、見ているこちらに聞いてもらう。

古舘弁護士や警察署長は、ガラガラ声でまくしたてる。
弁護士は犬神家を語り、署長は事件を語る。
だから金田一は高めの抑えたトーンの声で話す。

また、坂口良子さんの旅館の従業員。
彼女とのコミカルなやり取りの中で観客は、犬神御殿を知り、珠代を知り、家系図を見、彼女が報告した毒について知り、金田一の性格も察する。
坂口さんの旅館の娘は、のんびりした声で話す。
だから彼女に対しては金田一は、低めに早い口調で話す。

…すごい。
本当に、本当に石坂さんはすごい俳優さんなんだ。
石坂さんは、そんなことまで計算して演技していた。

これぞインテリジェンス、これぞ知性。
石坂さんは知識も豊富ですが、知識だけではない、それを有効に使うことができて知性なんだと思いました。
本当に頭が良いって、こういうことなんだと思ってしまいました。

前に仲代さんが、「この映画では自分の中で一番低い声で話した」とおっしゃっていました。
本当にプロというものは、そういうことまでするんだ。
できるんだ。

コミカルな坂口良子さんについても、初めてその女優としての才能を知りました。
こういう方たちが集まって、演技しているんです。
それを理解している監督が管理する。
おもしろいものが、できないわけはない。

演技もですが、石坂浩二さんの知性が映画を成功に導き、後の横溝正史の映像化を導いた。
石坂浩二さんという知性を起用した市川監督のすごさ。
改めて石坂さんのすごさと、横溝正史映画のすごさ、市川崑監督のすごさを知りました。
「犬神家の一族」のおもしろさのひとつは、石坂浩二さんの起用だったのですね。


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2015.11.23 / Top↑
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