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桜吹雪の下 あんたは裏切った、嘘をついた

桜が咲きましたね。
必殺必中仕事屋稼業、第19話、「生かして勝負」。
桜が印象的な時代劇の1つ。



読経が響く中、階段を上っていくのは仕事屋の元締め・おせい。
廊下に出た女性が、座り込む。
檜屋の伝蔵の、百か日の法要だった。
廊下でしゃがみこんでしまった女性は、伝蔵の妻のおとよだった。

「気の休まる日がないんでしょうね」。
「あ、お姉さん」。
おとよは、おせいを「お姉さん」と呼んだ。

「檜屋さんがなくなってから、ずっと…。でもあんた、えらい」。
「商売だってちゃんと続けているし、こうやって立派に百か日の法要も…」。
「さっきね、お経を聞きながら、ああ、うちの人が死んでから百日経ったんだな。これでやっと、喪が明けたんだなと思ったら人並みに悲しくなってきて」。
「でもこれからはもっと、大変ね。材木問屋・檜屋の看板を背負っていかなくてはいけないんだから」。

「芸者の頃は楽だったわ。何かあれば、お姉さんに泣きつけば良かったんですもの」。
「あの頃はかわいかったわね、あんたも」。
「でもこれからも力になってね」。
おとよがおせいを見上げる目つきは、甘えるような上目遣いだった。

その頃、珍しく半兵衛は博打で勝っていた。
もう、ひきあげるかな~と半兵衛が言った時、奉行所の手入れが入った。
捕まった半兵衛は、百叩きにあった。

隣で百叩きになっていた老人が、いた。
老人は「わしは桧屋の主人だ。こんな目にあういわれはない!」
その老人は、叫んでいた。

お春は店を切り回す傍ら、半兵衛を介抱していた。
「まったく博打で捕まって百叩きにあうなんて」とお春は愚痴った。
お春は客に渡さないで、蕎麦を半兵衛に持っていった。
「重湯にしてくれよ~、重湯に。体中が熱持ってんだから」。

「何言ってんの、食べられるでしょ」。
「そばにいてくれよ、痛えんだからさ」。
甘える半兵衛にお春は「だいじょぶよ、あんたはちょっとやそっとでは死なないから!」と笑った。
半兵衛はお春が去った座敷で、「食欲はあるんだよな」と言いながら、蕎麦をすすった。

材木問屋、桧屋。
雨が降っている。
その廊下から見える庭に、雨の中の桜が美しかった。

おとよが廊下を歩いてきた。
「おとよ!」
半兵衛と一緒に、百叩きにあっていた老人だった。

「ぶちのめされてきたんだぞ!」
老人は叫びながら、おとよににじり寄った。
「ひいい!」
おとよが顔を背ける。

「死者を語り、悪ふざけ、不届き至極!ってな!」
「どうして俺を訴えたんだ。一体俺を…」。
「あんた一体誰なんですの!」

おとよが叫ぶ。
「何だってこんな、たちの悪いいたずらを!」
「おとよ!」
「それは顔かたちは変わったかも知れん。ケガと火傷のせいでな。だがな、お前ならわかるはずだ」。

「亭主の伝蔵だ!」
老人が顔にかぶせていた、手拭いを取る。
顔には火傷の跡があった。

「きゃああ。やめてください!」
おとよは悲鳴を上げた。
顔を背け、目を閉じる。

「怖ろしくはないんですか、忌んだ人に成りすますなんて」。
「わしの顔を見てくれ!」
「誰かあ!」

おとよの叫びで、数人の店の者が飛んでくる。
「この野郎」と使用人が伝蔵をつまみだそうとする。
「おとよ!」
「わしがわからんのか、わしは主人の伝蔵だ!」

雨の中、伝蔵は乱暴に店から放り出される。
それでも中に入ろうとする伝蔵を、店の者が手荒に扱う。
見ていた政吉が「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。どんな事情があるかしらねえけど、相手はけが人じゃないか」と止める。

「こっちは迷惑してるんだ!」
雨の中、放り出された伝蔵に政吉が「大丈夫か」と駆け寄る。
だが伝蔵は「ほっといてくれ」と言うと、フラフラと歩き出す。

桧屋では番頭の忠七がおとよに「もう一度お上にお願いして、懲らしめてもらいましょうか」と言った。
「それはダメ」。
そんなことを何度もやられたら、奉行所に不審と思われる。
桧屋の看板に傷がつく。

「大丈夫。何とかします」。
忠七がおそるおそる、言う。
「つかぬ事をうかがいしますが…。なくなられた旦那様に双子の兄弟がいたという話をお聞きになったことは」。
「いいえ、なぜ」。

「実はあの男、今日、ほんの一瞬ですが…。なくなられた旦那様にそっくりだったの」。
おとよは、ハッとする。
「忠七、あんな男の言うことに惑わされないで!」

「いえ、私はただ…」。
おとよは、振り向いて嫣然と笑う。
歩いていき、廊下への障子を閉めた。

「忠七」。
おとよが、忠七の手をとる。
「あたし、お前だけが頼りなんだよ」。

「おかみさん!」
忠七が抱きつく。
「いけないよ、忠七」。
だが2人はそのまま、抱き合って倒れた。

「お姉さん」。
「あら」。
おせいの嶋屋に、おとよがやってきた。
「今そこで、こんな大きな犬に吠え付かれたの」。

おとよの声が弾んでいた。
犬は、利助が追い払ってくれた。
おせいとおとよは、楽しそうに笑いながら、嶋屋の奥に入った。
見送った利助は思わず、「後家の花、二厘か。もったいねえなあ~」と言った。

「それで?今日は何?わざわざ甘えに来たのね」。
「それじゃいけないかしら」。
「お姉さん、助けてほしいの」。
「ほら。はいはい、私でお役に立つかしら。難しいことじゃないといいけど」。

おせいの声は、そう言いながら楽しそうだった。
「お役人じゃ埒が明かないようなことでも、お姉さんなら何とかかたをつけてしてくれるでしょ」。
おとよの言葉に、おせいの笑いが消えた。

「仕事屋の話は、私だって知ってます」。
「そう、でも、おとよちゃん。その方はよくよくでないと」。
「私、もうどうしたらいいのか。お願い、助けて」。
おとよはそう言った。

賭場に来た半兵衛と政吉。
半兵衛が「こないだはえらい目にあっちゃった」と言う。
そこに立花屋に、すがりついている老人がいた。

「わしゃ伝蔵だよ、伝蔵!」と、老人は言っていた。
「わしゃもう、あんただけが頼りなんだ」。
だが立花屋は、老人を邪険に突き飛ばした。

それを見た半兵衛が「あのオヤジ、まだやってんのかなあ」と言った。
「何だよ、知ってんのか」。
政吉の問いに半兵衛は「知ってるってほどのもんでも…」と口ごもった。
結局、老人は、追い出されてしまった。

さあ、博打…と半兵衛と政吉が座る。
その時、利助が半兵衛の肩を叩く。
「お2人ともお楽しみのところ、仕事ですよ」。
半兵衛も政吉も、嫌な顔をする。

おせいの依頼は、次のようなことだった。
自分は死んだ桧屋の主人だと、名乗っている老人がいる。
このまま放っておけば、店の名前に傷がつく。
それに、こんなことで再三、役人を呼ぶわけにも行かない。

政吉が「まさか。桧屋伝蔵が、墓場から這い出てきたjんじゃねえだろうな」と言った。
利助が、「バカなこと言わないでください!」とキッパリ言う。
「夜に、おしっこにいけなくなるじゃありませんか!」

半兵衛も政吉も、無言になる。
先に口を開いたのは半兵衛だった。
「で、あたしたちにどうしろと」。
「これ以上、仏様になった方の名前を名乗らせないようにしてもらいます」。

「やり方は任せます。なるべく早く始末をつけてください」。
しかし半兵衛は言う。
「おかみさん、いくら昔の朋輩の頼みと言っても、ですよ」。

ここまで言うと半兵衛は、言葉を選んだ。
「いやまあ…」。
良いにくそうに、だが半兵衛は言う。
「その、おとよさんという人を信用するとして」。

「あたしの見たところ、あの爺さん、せいぜい、桧屋に遺恨を抱いている人に踊らされているって感じじですけどねえ」。
おせいがむっとする。
「半兵衛さん」。

「いや、そんな人簡単に、始末しろって言われても」。
「おとよちゃんとは芸者時代からの、深い付き合い。私に嘘をつくわけがありません!」
おせいの言葉は、半兵衛に何がわかるか、と言いたそうだった。

「元締めの私が、間違いないと思って決めたことです」。
おせいは明らかに怒っていた。
「それをとやかく言われたのでは、わたくしの立つ瀬がありません!」
「もう結構です。頼みません!」

割って入ったのは、政吉だった。
「いやいや、おかみさん」。
「俺は…」。
そして半兵衛には「半兵衛さん、金はいらねえのか」。

「いや、金はいる」。
半兵衛は言った。
「やり方は考えます。やり方を」。

伝蔵は桧屋に今日も来て、頼みなのはあんただけなんだよと、今度は職人頭の徳平にすがっていた。
「墓に埋められているのは、違う人間だ!」
職人たちに迷惑がられている伝蔵を、政吉と半兵衛が連れて行く。

「一緒に百叩きにあった仲かじゃねえか、つきあえよ」。
「断るよ、わしゃ間違って百叩きにあったんだ。おまえらみたいな悪党じゃねえんだよ!」
すると政吉が「いつまでもこんなことしていると、本当の悪党にされちまうぞ」と言った。
伝蔵は政吉の顔を見て、「お前、誰に頼まれた。おとよか。番頭の忠七か」と言う。

3人は、桧屋の墓の前にやってくる。
伝蔵が、自分の墓をなでる。
4ヶ月前、伝蔵は手代の忠次と一緒に秩父に材木の買い付けに行った。
そして、山小屋に泊まった。

夜中にふと目が覚めると、あたり一面、火の海だった。
伝蔵は忠次、忠次と手代の名を呼んだ。
返事はなかった。

ふた月ぐらいの間、おそらく頭を打ったせいだろう。
伝蔵は、ぼんにりしていた。
「へえ、頭打ったの」と半兵衛が聞いた。
「それで自分が誰だか、わからなくなったの」と、政吉も聞いた。

だが伝蔵は思い出した。
自分が、桧屋の伝蔵だということを。
伝蔵は、旅はまだ無理だという医者を振り切って。江戸に帰ってきた。

「だが誰もわしをわしだと認めてくれん。手代の忠次耳と一緒に火事で焼け死んだと言う。自分を知らないと言う」。
「これがわしの墓だ」。
伝蔵が、震える手で自分の名が書かれた墓をなでる。

「これが!」
「わしゃ、わからん。わからん。わからん」。
伝蔵は泣いた。

その夜、おとよは料亭に言った。お
「遅くなりまして」。
艶っぽい声でそう言うと、おとよは座敷に入った。

先に作事奉行の大山栄之進が来ていた。
「待たせるのも手管のうちか」。
おとよは笑って、「この荷が重くて」と言うと、ずっしりと金を出した。
「作事奉行、大山さまのこの月の取り分です」。

「お前もしゃあしゃあとしているではないか」。
「たっぷり代償は払っております」。
「伝蔵のほうは、どうだった」。
「はい、確かな筋に頼みましたから、もう」。

「まったく手間の掛かることだ。お前の亭主だった男は!」
「お前と組む手があったから、良かったようなものの」。
「秩父の山奥で火達磨になり、崖から落ちながらも戻ってきた。せっかく身代わりの死体を用意したのに、危うく水の泡だ」。

おとよが不安そうに「まるで別人だったから追い出せたようなものの…」と言った。
「なあに、その時はその時で手はある」。
大山はおとよを抱き寄せる。

やがて、大山が帰って行く。
おとよは、座敷の布団に横たわっていた。
背後のふすまが開く。

「忘れ物ですか」。
「そういうことだったのか!」
おとよがギョッとして起き上がる。

「売女!」
ふすまを開けたのは、伝蔵だった。
「大山なんかとつるんで!恩知らず!泥沼稼業から救い出して、女房にまでしてやったこのわしによくも!」

「もう聞き飽きたよ、そんな言い草は!」
おとよの声は、鋭かった。
伝蔵も言う。

「あん時の涙は空涙だったのか!。一生わしの恩は忘れないと言った、あの言葉は!」
「あの頃の私は、バカだったのさ!」
おとよの言葉は、止まらない。

「芸者から女房になったのがうれしくて、人並みに幸せになれると思って、ほんとにバカだよ!芸者の時よりもきついとは知らずにさ」。
「何だと!」
「あんた、私に一文だって自由にさせてくれたことがあったかい?!」

「なまじ大店の女房と言うんで、周りにはいつも喉から手が出そうなものが、ちらちらしているというのに、 あたしゃただ、かついでていなきゃいけなかったんだよ!」
「亭主のあんたは、腐るほどお金があるというのに!地獄だよ!」
「それで、お前はわしを殺す気になったのか」。

「あんた、私を先に殺そうとしたんだ」。
「たわけたことを!どうしてわしがお前を」。
「それもいかん、これもするな、あれもするな。年中、家に押し込めて、あんた、亭主らしいこと一度もしてくれたことあったかい!?」
「ろくに抱いてもくれなかったじゃないか!あたしゃ、生身の女なんだよ。まるで蛇の生殺しじゃないか!」。

「あんたは楽しんでたんだ。真綿で首を締め上げて、あたしが苦しんでたの楽しんでたんだ!」
「そ、そんな風にこのわしが…」。
伝蔵は絶句した。

「いや、わ、悪いことは改める。大山さまのことも目をつぶる。だからもうわしを、桧屋へ戻してくれ!頼む!」
「ごめんだね!」
「おとよ!」

「今さら、やり直しなんかきくもんか!」
「おとよ!」
おとよが、匕首をかざす。

逃げる伝蔵を追い詰め、喉元に匕首の刃を突きつける。
「そんな風にわしが!」
「ジタバタするのは、およし!あんたの言うことなんか、誰も信じしやしないんだから!」
「ああ」。

「これ以上うるさくすると、今度こそ、あんたを…」。
「出てって!2度と私の前に現れないで!」
「出てって!」
伝蔵は転がるように、座敷を出て行く。

翌日。
おせいとおとよが会っていた。
「おとよちゃん」。
おせいが言う。

「私に、偽りや隠し事はないでしょうね」。
「どうしてそんな」。
「この仕事で裏切りは、命取りなの」。

「話したでしょう」。
「私がお姉さんに、嘘なんかつけると思って??下地の頃から、本当の妹みたいにかわいがってくれている人、どうして」。
「そう…、だったらいいのよ」。

「でもなぜ、なぜ今になって急に」。
「調べてみるとね、あんたの迷惑がってる人、言ってることがまんざら、でたらめだと思えなくてね」。
「あんたの内々のことも、いろいろ知ってるし」。

「そうなの」。
おとよは平然としている。
「どうやって調べたのか。そういうことを並べ立てて、わしが主人だって言いふらすでしょ。だから手に負え名うて、お姉さんに」。
「そう。じゃ、安心して待ってて。あんたを信用してきっと、ケリをつけてあげる」。

「それはそうと、おとよちゃん、あんたこのごろ、お遊びが過ぎるんじゃない」。
「ええ?」
「夜、出かけることが多いんでしょ」。

おせいは、大山のことを言っているのだった。
気づいたおとよは、客をもてなさなければいけないこともあると誤魔化した。
「旦那様の喪が明けて、まだ人が浅いんじゃない」。

すると突然、おとよはうずくまった。
「お姉さん。あたし。自分の体が憎らしい」。
「魔物よ!魔物が棲み付いているのよ。芸者をしている頃から、いつの間にかこんな体に…」」。

おせいはおとよを介抱しながら、目をそむけた。
「よしましょう。ただね。桧屋のような大店を取り仕切っていくにはあんた、もう少し身を慎まなきゃ」。
「さあ、もうお帰りなさい」。

おとよが遠ざかっていくのを、おせいは見送っていた。
その目に、疑惑が満ちてくる。
キッと、前を見据え、おせいは立ち上がった。
おとよはおとよで、おせいの方を密かに振り返って見ていた。

神社の境内で、おせいが佇んでいる。
その目は何かを決心したようだった。
半兵衛、政吉、利助がやってくる。

「仕事はちょっぴり、回り道してください。桧屋の様子をもう少し探ってもらいます」。
おせいの言葉に半兵衛が「あの人が信用ならねえんですか」と聞いた。
「私は、おとよちゃんを信じてやりたい」。

おせいの声は、切迫していた。
「でも過ちは犯したくありません。人一人の、運命が掛かっているんですから」。
「おかみさんもつらいところだ」。
半兵衛と政吉は、桧屋伝蔵を居酒屋で見かけた。

桧屋に戻ったおとよに、番頭の忠七が話をする。
「あの男のことはもう、心配ないって言ったでしょ。この辺りをうろついてることは、わかっているじゃないか」。
しかし忠七は言った。
「だんだん妙な気分になってきまして。ひょっとしたらあの人、旦那様じゃないか」。

「何を言い出すんだい。旦那様は私がちゃんと見届けて、埋葬したんだよ」。
「間違え、ってこともありますし」。
「忠七!」
「こんなこと申し上げちゃ何ですが、あの亡骸は…、焼け爛れていて」。

「焼けていても、旦那様の印は、いくつも見つけましたよ。歯の形、数、脇の下のあざ。左足の小指が欠けてているところまで、私ははっきり、確かめたんだよ」。
しかし、忠七は言う。
「今夜、居酒屋であの人が話したのは、旦那様でないとわからないような…」。

「どこかで盗み聞きしたんだよ」。
「おかみさん。私はもう何だか怖ろしくて…もしあの人が…」。
「忠七、どうしたんだよ。桧屋は今が一番大事な時じゃないか。お前がそんなことじゃ、私ゃ、一体誰に…」。
「おかみさん!」

「わかりました。もう余計なご心配は、かけません、ですから、おかみさんもどうか、大山さまとあんまりしげしげとお会いになるのは…」。
おとよは、はっとした。
しかしすぐに「忠七、私が好きで、大山さまに抱かれていると思っているの?あのお方のご機嫌を損じたら、桧屋の店はどうなるかお前だって!」

そして忠七に「私が好きなのは、お前だけなんだよ」と言った。
「いずれは桧屋の主になってほしいんだよ」。
「わかっておくれ、私が好きなのは、お前だけなんだ」。

「おかみさん!」
忠七は思わず、おとよを抱きしめる。
その途端、突然、背後から忠七は刺される。

おとよが背中に回した匕首で、忠七を一突きにしたのだ。
「うああああ」。
おとよが忠七の手を、振り解く。
そしておとよは、匕首を振り回した。

背後から大山が現れ、忠七を抑える。
おとよの匕首を持った手を取り、忠七を刺した。
忠七が倒れると「思い切ったことを」と言った。
「危ない者は芽のうちに積むと、おっしゃったでしょう。この男の代わりは、いくらでもおりますか」。

荒い息を吐いていたおとよだが、突然、大山にむかって抱きつく。
「大山さま、抱いてください!」
「おとよ。怖い女だ」。
そう言う大山の声には、笑いが含まれていた。

政吉がすべて、床下で聞いていた。
そして、深い息を吐いた。
居酒屋で伝蔵を見た半兵衛と政吉が声をかけると伝蔵は「私はもう、伝蔵じゃありません」と言った。
「名無しの権兵衛になりました」。

その夜、半兵衛は伝蔵を賭場に誘った。
伝蔵は、ついていた。
「何もかも諦めるとバカづきするんだ。私は賭け事なんて、数えるほどしか、やったことがないのに」。

さいころが転がった。
その時、廊下に政吉が現れた。
半兵衛が立ち上がり、政吉の方へ行く。

伝蔵が半兵衛の顔を見る。
「半、半」と半兵衛が指示する。。
「半だ」。

「できました、勝負!」
「勝った勝った勝った!」
伝蔵はまたしても勝った。

半兵衛と政吉は、伝蔵に居酒屋でおごってもらっていた。
伝蔵は意外なことを口にした。
「わしはもう、おとよの前には顔を出しません」。
「へえ、そりゃどうしてまた」。

「せっかく墓もあることだし、桧屋の伝蔵の名前はそこにうずめてしまおうってわけですよ」。
政吉は「ひでえな、こりゃあ。一天地六のどんでん返しだ」とうなった。
「いやね、からくりがわかってみると、作事奉行の大山さまが黒幕だったんだ」。

「わしはすっかり、思い出したんだ。おとよの奴も大山さまに脅されて、仕方なく従ってるんでしょ」。
「今さらわしがしゃしゃり出て、これ以上、おとよを苦しめちゃかわいそう」。
「言われて見ると、わしゃ、鬼のような亭主だった…」。

伝蔵の目が遠くを見ている。
「で、あんた、このまま泣き寝入りするのか」。
「よお、腹立たねえのか、こんな目にあわされて」。
「本当の相手は、天下の作事奉行様だ。生きながら死人にされてしまったわしに、何ができる?」

その頃、桧屋では大山がおとよに「良い手を思いついたぞ!厄介ごとを、いっぺんに片付ける方法をな」と言っていた。
「お前がやるんだ」。
おとよは、不思議そうに大山を見ていた。

居酒屋で飲んだ半兵衛と政吉が、伝蔵と別れる。
「大丈夫か」。
「気をつけてな」。
「気をつけていけよ!」

半兵衛と政吉は、何度も言って、伝蔵を見送る。
「仕事は終わりましたね。だけど妙な幕だったね」と、政吉が言った。
「奴さんが本物の伝蔵で、悪はあの女房だってわかったのにな。しかしまあ、本人が諦めたんだからそれでいいか」。

政吉が、ポツリと言った。
「だけどな。あのおとよって女は、おかみさんだましたんだよな」。
半兵衛も言う。

「番頭も殺してる」。
「どういう風にしましょうか」。
だが半兵衛は「明日、ね。今夜良く寝て明日考えましょ」と言った。。

伝蔵が神社で、水を飲もうとしていた。
「あんた」。
伝蔵に、声をかけたのはおとよだった。

桜の花が綺麗だった。
その中で、おとよがニッコリ笑った。
「おとよ」。
おとよが、伝蔵に近づいてくる。

坊主そばに帰ってきた半兵衛は、目だけを残して手拭いで頭を覆った。
そしてお春に「お春。俺がこうやってよ、夜、こうやって、ただいまって帰ってきたらわかる?」と聞いた。
「何やってんの」。
明日の仕度をしながら、お春は呆れる。

「目え、だけ、目だけ」。
「わかるわよ」。
「何でわかるんだよ?」

「匂いでわかるの」。
半兵衛が自分の袖やらの匂いをかぐ。
「バカなことやってないで」。

お春にうながされて半兵衛は、お春の首筋をかみそりで整えてやる。
突如、素っ頓狂な声を出して「あれえ。こんなとこにつむじがあるよ」と驚いた。
「そうよ、知らなかったの」。

「知らなかった。前からあったか」。
「あんたそういう風に薄情なのよねえ」。
お春が呆れた時、利助が呼びに来る。

「俺、ちょいとぶらっと出かけてくるわ」。
半兵衛の言葉にお春が「もう帰ってこなくて良いわ」と言った。
「え?」
「こっちは頼りにしてないんだから」。

翌日。
遺体が揚がった。
半兵衛が野次馬で見に行こうと走る。

すると、走って来る源五郎と一緒になった。
「あらっ、半ちゃんじゃない」。
「ああ、源ちゃん」。

「そんなに急いでどこ行くのさ」。
「うん、ほら、あっちの方で、ひとだかりがしてるだろ。あれ」。
「あたしとおんなじよ!」

「あれ、お前の仕事か。じゃ、俺帰る」。
踵を返した半兵衛に源五郎が「見てよ、あたしのいいところ」と言った。
「やだよ、仕事じゃ」。

「あたしの仕事ぶり、見てて!」
「いや」。
「いいじゃない!さ、行こ。行こ、早く!」

「これ、どいたどいた!」
打って変わって、源五郎の声にはドスが効いている。
「見ててね」。
半兵衛を振り返る源五郎の声は、変わっている。

「うん」。
遺体を見た、半兵衛の顔色が変わる。
それは伝蔵と、忠七だった。
2人は互いに、匕首を持っていた。

おとよが伝蔵を指した。
大山がやってくる。
番頭の遺体を、引きずってくる。
そして2人の手に、匕首を持たせた。

「おとよと大山が、グルで仕組んだんだ」。
「忠七を殺った後で、仕組んだんだな」。
半兵衛と政吉は、そう言う。

おせいが2人を呼び出した。
2人の前に、仕事料を置く。
「これは、わたくしが改めてお二人に依頼する仕事料。2人で大山栄之進を始末してください」。

利助が教える。
大山は、秩父の御用林に見回りに出かけた。
幕府の御用林の伐採で、大山とおとよは手を組んでいたのだ。
「今夜は熊谷宿泊まりですね」。

半兵衛と政吉は、熊谷まで急ぐ。
おせいが無言で、袖から出した得物を見る。
力を入れて引っ張ると、鞘からは鋭い針が出る。

熊谷は、ひどい雨だった。
笠をかぶり、半兵衛と政吉が大山が載っている駕籠を見ている。
歩きながら半兵衛が、かみそりを手拭いで磨く。

向こうから駕籠がやってくる。
2人と駕籠の距離が近づく。
半兵衛と政吉が、籠を真ん中に右と左に分かれる。

駕籠の中の大山に向かって、政吉の懐剣が刺さる。
ギョッとした大山の喉元に、半兵衛かみそりが当たる。
喉を切り裂く。

2人が足早に去る。
駕籠の中から雨の中、大山が落ちる。
「いかがなされました」。
家来たちが騒然となる。

「探せ!」
「探すんだ!」
大山を殺した相手を探そうとする家来たちが叫ぶ。
だがもう、2人の姿は消えていた。

「おとよちゃん」。
おせいが声をかけた。
「お姉さん」。
桜の花が、雨のように散っていた。

2人が並ぶ。
おせいが口を開いた。
「なぜ、あんた…。本当の旦那様を自分の手で」。

おせいが知っているのがわかると、おとよは動揺した。
「しかたがなかったのよ。ああでもしなきゃ、私が殺されている」。
「そうなる前にどうして、私に」。

「元の毎日に逆戻りするなんて、死んでも嫌だった。伝蔵との暮らしがどんなものだったか、お姉さんには想像もできないでしょうね」。
「何かあるたびに芸者上がりと罵られて。店の者にまで小さくなって」。
「着物一枚、かんざし一つ買って貰えなかったのよ。これだけの身代がありながら、私ゃ、一文のお金だって、好きに使えなかった」。

「夫婦の交わりだって、一緒になった当座だけで、後は放りっぱなし。まるで、牢屋に閉じ込められたのと同じじゃないか」。
「女房は囚人じゃないんだ。だから大山さまから企みの相談があった時、清水の舞台から飛び降りるつもりで承知したんだよ」。
「そんな暮らしから逃げ出せるんだったら、私、何だってやってやる」。

「お姉さん、わかって!」
「欲でやってんじゃないんだよ。つらい、惨めな毎日から逃げ出したかったんだよ」。
おとよの声は、甘えるような声だった。

だがおせいは、眉一つ動かさない。
「でも、あんたは私を裏切った…」。
「ひっ」。

おとよが息を呑むほど、おせいの声は冷たかった。
「お姉さん!」
おとよが、おせいの前に回る。

桜が散っている。
闇の中、散っていく桜は雪が激しく降っているように見えた。
おせいは前を向いたまま、おとよを見ない。

「許せない」。
おとよの目が、恐怖に丸く見開かれる。
「お姉さん」。

おとよが駆け出す。
そして、り込む。
「許して」。

桜が散っている。
「おとよちゃん」。
おせいが言う。
「バカな人」。

何の感情も入らない声だった。
おせいが、近づいてくる。
「近寄らないで」。
おとよの顔が、闇に浮かび上がるように白い。

その目が殺意に満ちている。
おとよが振り向いた。
立ち上がる。
走ってくる。

おせいに向かって、おとよは匕首を突き出した。
それをおせいが交わし、おとよの手を押さえる。
手首をつかむ。
おとよの手から、匕首が落ちた。

「嘘をついた報いを受けるのよ」。
おせいが、袖口から得物を取り出した。
手を振り上げる。

おとよの胸元を、一突きだった。
「うっ」。
おとよがひらひらと回転し、倒れる。

羽織が、おせいの手に残った。
おせいはそれを、おとよの顔にかけてやる。
桜が闇の中、激しい雪のように散っている。



これも、桜が美しい風景で出てきます。
クライマックス、その桜が怖ろしい光景になります。
仕事屋も映像が凝りまくってます。

おとよが忠七と最初に話すシーン、おとよは髪を解いて手鏡をのぞいています。
忠七が鏡に映ります。
鏡の中、おとよの表情が映っています。

背中を向けられている忠七には、おとよの顔は見えません。
私たち、視聴者だけが、おとよの顔を見ています。
鏡の中のおとよは、本心をむき出しにした鬼が映っているように見えます。

おとよは、おせいに甘えるのがうまい。
面倒見の良い性格のおせいは、昔からこの甘え上手な妹分をかわいがって面倒見てきたのでしょう。
その頃からおとよが、おせいを利用していたのかはわかりません。
でもおとよは、おせいに対して、とても甘い声を出しています。

もしかしたら、おとよは本当につらかったのかもしれない。
つらくて、伝蔵を恨んでいたところを、大山の誘惑があった。
おとよはおとよで、自分の身を守ろうとしたことがきっかけだったのかもしれない。

伝蔵に対しておとよが吐く恨みの言葉に嘘があるようには、思えない。
本当に憎いように見える。
欲のために抹殺したのではなく、本当に憎かったように感じる。

女房は囚人じゃない。
今、使ってもおかしくない言葉。
おとよは贅沢をしたかったのではなく、愛されていると実感したかったのかもしれない。
皮肉なことにそれを感じさせたのは、大山だったのかもしれない。

かわいがっていたおとよの頼みで、珍しく、おせいが簡単に依頼を受けます。
よほど、おとよをかわいがっていたのでしょう。
これに対して、おとよに何の先入観もない半兵衛が違和感を覚えます。
半兵衛に対して、短気を起こすおせい。

珍しい光景です。
割ってはいるのが、政吉。
半兵衛と政吉が仕事屋として、成長しているのがわかります。
ここで利助の「夜、おしっこにいけなくなるじゃありませんか!」の口調がまじめでおかしい。

思わず短気を起こしてしまったおせいですが、さすがにおとよの様子に疑問を持ちます。
おとよを信じたい。
しかし、湧き上がってくる疑問を否定できない。

おとよと会った後のおせいの表情。
無言の中、おせいの葛藤が見えます。
確かに間違ったことは言っていない。

でも、裏の道を歩いてきた者の、鋭い勘が「怪しい」と言っているんです。
「信用ならねえんですね」。
半兵衛の言葉を、今度はおせいも否定しません。

桧屋伝蔵は、浜村純さん。
伝蔵の昔の主人振りが想像できる。
火傷を負い、人相が変わって、物乞いのようになった今とのコントラストが違和感ないのもすごい。
墓をなでる伝蔵の哀れさ。

いなくなった子供を探すが、子供の存在を疑われる映画で「バニーレーンは行方不明」という映画がありますが、誰も自分を知らないと言われたら、どうするんでしょう。
姿かたちが変わっていたら、自分だと言うことをどうやって証明するんでしょう。
ちょっと怖い話です。

おとよの恨みの言葉に、詰め寄っていた伝蔵がたじたじとなる。
女房だった女性の、自分に対する恨みに驚く。
刃まで向けられ、逃げていく伝蔵。

しかし伝蔵は自分を反省し、おとよを理解する。
おとよにはおとよの、つらさがあったのだと思う。
大山にしかたなく従っていると思う。

おとよの言葉には、伝蔵を反省させるだけの恨みがあった。
伝蔵はもう、自分はおとよの邪魔をせずに生きていこうと決心する。
もう少し、この気持ちを早く持って、見せていれば、うまく行った夫婦になったのではないだろうか。
だがおとよは、すでに我欲で人を殺すまでに変貌していた。

伝蔵が良いなら、しかたがないと半兵衛と政吉は納得する。
だが政吉は、おとよがおせいをだましていたことを指摘する。
これだけは、穏便に行かないだろうと言っているようだ。

そして、おせいはつらい決断をする。
おとよは自分が殺す。
雨の中の、半兵衛と政吉の一瞬の仕事。
それに対して、桜の花が雪のように散る中、ゆっくりと行われるおせいの仕事。

おせいと、おとよの感情が入り乱れる展開だった。
だがおせいの気持ちは決心した以上、もう動かない。
おとよは誤った。
ここにいるのは、芸者だった姉貴分のおせいではない。

おとよが話したのは、仕事屋の元締めのおせいだった。
仕事屋の元締めに、おとよがしてしまったのだ。
おせいの気持ちをどうしても動かせないとわかったおとよは、おせいに斬りかかる。

「バカな人」。
この静かなセリフに込められた殺気。
怒りの激しさ。

だが、おせいはおとよのしたことを責めてはいないのだ。
おせいは飽くまで、おとよが自分に嘘をついたことを怒っている。
つらい身の上から逃げるためにしたことを、一言も責めてはいない。

ただ、嘘をついた。
裏切った。
それを指摘している。

裏街道を歩いてきた、おせいのこれまでの人生が伺える。
世間の常識ではなく、自分とのつながりを重要視してきたことがわかる。
そういう常識になる裏街道の人生が、どんなものだったのか。
裏稼業の人間の、特異な価値観、正義感が垣間見える。

こうしておせいもまた、過去の楽しい思い出と決別する。
そうやって、おせいは生きてきたのだ。
おそらく、半兵衛と政吉もそうなる…。

大山栄之進は、井上昭文さん。
おとよは、池玲子さん。
色っぽい女優さんです。

桜の花の散る激しさが、おせいの内面を表しているかのよう。
闇と桜と、おせいとおとよの他は何も見えない。
サックスの響く音楽と共に、ラストを迎える。
戯れに、気軽に、触れるべからず、裏稼業。


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