長い「必殺」シリーズの中に多く登場する殺し屋たち。
その中の、最も愛された一人に、山崎努さん演じる念仏の鉄が入るのではないでしょうか。
山崎さん自身も、10年ほど前ですが、インタビューの中で言っています。

今でも言われるのは、念仏の鉄という役だと。
鉄というのは、人の背中やあばらの骨を、素手で折る乱暴な殺し屋です、と。
それが今でもいろんな人に「見てました」とか「覚えています」とか「好きです」と言われるらしいんですね。

山崎さんは同じ役は、やらない方だそうです。
それが鉄は、2度やった。
ということは、山崎さんにとっても鉄は、相当に魅力的なキャラクターだったんでしょう。

「仕置人」の時、おきん役の野川由美子さんが疲れた撮影の帰り、「みんな、これ、もう一度やるって言ったら、やる~?」って聞いたとか。
するとみんな「やる」って言ったそうなので、本当に楽しい撮影だったし、良いスタッフさんだったし、魅力的なキャラクターだったんでしょう。
演ずる方にも、見ている方にも魅力的な男、鉄。
なぜ、この無頼の男がそんなにも愛されるのか。


人は、自分で自分の面倒を見なければならない。
自分で自分の面倒が見られて、自分のことを自分で決められる。
それが自立の始まり。

子供は自立できない。
だから親が引っ越す時には、嫌でもついていかなくてはいけない。
自分で自分のことを決められない。
決める力を持っていない。

自立すると今度は人は社会で生きて、社会の中で生活を送る。
そこから外れると、相当に厳しい生活が待っている。
社会の掟、規律から外れると、人は社会的に制裁を受ける。

つまり、社会的に抹殺される。
社会が人を、守ってくれる。
だから人は社会に属するということ、社会で生きることが重要になってくる。

そして社会で生活していると、自分の立場というものも重要になってくる。
地位とか名誉とかお金が、重要になってくる。
なぜなら地位とか名誉とかお金があれば、制約が少ないから。

人の言うことを聞かなければいけないことは、少ない。
好きなことが、できる。
豊かな生活が、送れる。
我慢することも、少なくなる。

自由が大きくなる。
権力者は、その頂点にいる。
しかし同時に、果たさなければならない責任も大きい。
完全な意味で、自由はない。


だけど、鉄はどうだ。
自由だ。
虎の会の死の掟はあるが、鉄はほとんど自由だ。
虎の会というものはあるが、誰の言うことも聞かなくて良い。

鉄はいつも、好きなことをしている。
物質的、金銭的に豊かな生活はしていないかもしれないけど、自分のやりたいことだけやっている。
我慢していない。
責任はほとんど、ない。

鉄にひとつ、守るべき規律があるとしたら、それは「外道にならないこと」。
人は社会の掟、規律から外れると、社会的に抹殺される。
だが権力が大き過ぎたり、狡猾過ぎたりすると、何の制裁も受けずに非道が通ったりする。

これを葬るのが、「必殺」の世界だった。
「仕置人」だ。
それで鉄はその、「仕置人」だ。

主水だって仕置人だ。
だけど、主水には社会的な生活を送る義務も責任もあった。
つまり、鉄というのはとことん、社会から外れている存在だった。

せんが主水の治療に来た鉄のことを、「無頼漢!」と罵る場面があります。
確かに鉄は、無頼漢。
せんのような立場の人間からは、考えられないような男。

さらにすごいのは、鉄の直前に山崎さんが演じていた土左衛門が、実にきちんとした武士であること。
土左衛門は非業の死を遂げた奥方について、その夫に最期の見事さを伝える。
実際はその奥方が命乞いをした末に、殺されていても。
この様子は、見ているこちらの背筋が伸びるほど。

その武士が翌週には、無頼漢。
山崎さんってすごい。
鉄を演じた山崎さんは、どこから見ても鉄にしか見えない。
でもおそらく、実生活ではすごく実直でまじめであるところがまた、すごく良い。


何で読んだのか、今、ちょっと思い出さないんですけど、元締・虎も鉄の自由さはわかっているというんですね。
自分も「新・仕置人」で虎が、「鉄さん、外道を頼む」と言ったシーンで思ったんです。
「鉄さん、虎の会を頼む」ではないんだな、と。

その文章にもありましたが、虎は鉄の力も、人望も、すべてを認めていてもなお、虎の会を頼むとは言わない。
虎は、鉄の自由さを知っているんだと。
掟に縛られているようでいて、本質的には自由である鉄を知っていると。

虎の会の掟は、もちろんある。
だが、鉄は他人の干渉をほとんど受けない。
鉄が自由なのは、強いから。

人が憧れてしまうのは、鉄の強さ。
強さによって自由に生きている、いけているところ。
そうそう、できる生き方ではない。

鉄は、力も強い。
精神力も強い。
生き抜く能力も強い。
だから鉄は自由で、無頼でいられる。

しかしその無頼の男は、外道ではなかった。
決して、外道にならない。
この一点において、鉄がとても忠実なこと。

最後にこの自由な無頼漢は、この唯一つの自分の中の決まりによって、死に至る。
自分が決めた、この一点において。
その厳しさは、実は普通に社会生活を送る者以上だった。

主水は、貢によって裏稼業の限界を知り、解けることのない課題を持った。
さらに剣之介に裏稼業の業と、自分の行く末を見た。
思い知った。
その主水を引きずり戻すほど、鉄は魅力的だった。

鉄は本当に深い魅力を持つ男です。
私も鉄が大好き。
鉄は永遠の仕置人。
自分にとって鉄は、永遠に生き続けるキャラクターなのです。


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2016.04.24 / Top↑
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