中村主水が、どれだけすごいか。
彼は闇にまぎれて不意打ちをする殺し屋というだけでは、ないんです。
剣豪なんです。
それをわかってもらうために人に主水の殺陣を見せるとしたら、どれを選ぶだろう?

最も有名なのは、やはり「新・仕置人」最終回でしょう。
正体のわかっていない3人目の殺し屋。
誰もそれが主水であることを、知らない。
昼行灯の主水を侮っていた諸岡は、主水に斬り刻まれる。

巳代松の痛みを思い知らせるかのように、主水は諸岡に止めを刺さない。
諸岡はもがきながら主水の刃に刺し貫かれ、辰蔵の屋敷に放り込まれる。
次に主水は辰蔵の配下の者を、鉄の痛みを思い知らせるかのように次々に斬っていく。

殺気全開。
持てる能力の全てを開放。
この主水に、殺し屋たちもなすすべがない。

まさに鬼神。
阿修羅。
辰蔵は、匕首を持ったまま、逃げるしかない。
「茜雲」の音楽と共に斬りまくる主水の、しびれるようなかっこ良さ。


「暗闇仕留人」第17話、「仕上げて候」。
仕上屋の本拠地に乗り込んだ主水は刀を抜くと、構えていた1人を斬る。
襲い掛かってきた1人の刀を受け止めると、胴を斬る。
斬りかかって来た1人を斬り、もう1人も斬る。

最後の1人も刺す。
5人全てが斬られ、残るは元締1人。
まったくの形勢逆転。
余裕で笑っていた元締めの顔色が、蒼白になる。

まさか。
まさか、こんな化け物だったなんて。
わかっていたら、用心棒たちに襲わせるなんて、そんなことはしなかった。


「必殺商売人」第8話、「夢売ります 手折れ花」。
おせいを見て、仇敵を前に殺された北岡菊と思った女が悲鳴を上げる。
座敷におせいが走りこむ。
用心棒たちが走ってくる。

その先に現れたのは、主水。
八丁堀だって構わない用心棒たちが、刀を振り上げる。
燃える「修羅雪姫」のようなお菊を描いた絵。
流れる殺しのテーマ曲。

剣を抜いた主水が、横になぎ払って1人を倒す。
今度は刀を振り下ろして、そしてすれ違いざまに2人、3人と倒す。
斬り合いにもならない。

4人目を払う刀で斬り、5人目は抜いた刀で刺し貫く。
勝負は、ほとんど瞬間で終わった。
この主水はぜひ見てほしいと思うぐらい、カッコいい。
そして、この時の草笛光子さんのおせいさんは確かに、獲物を仕留める時の猫の目をしている。


ちょっと話がずれますが、「新・仕置人」第8話で主水は鉄に関節を決められ、無力化します。
無力化され、誤解した仲間に殺されそうになる。
これは鉄たちに対して、主水がどれほど無防備であったかを語るエピソードだと思いました。

口で何を言っても、主水は鉄を信頼しているんですね。
鉄もまた、そうだったと思います。
だからこそ、あの時の鉄は主水を自分が殺さなければいけないと思いつめていた。
復活し、悪態をつく主水を見て、鉄はうれしそうにニヤニヤしている。


さて、話は戻ります。
先にあげた話の主水が、どれほどすごいか。
主水がいるから、圧倒的に不利な状況から逆転できる。
数を覆す強さ。

主水がいるから、無理が通る。
どれほど凄みがあるか。
しかしあの凄みはただ、強いだけじゃ、殺陣ができるだけじゃ出ない。
中村主水という人物は、非常に難しい。

主水という男は並々ならぬ剣の才能を持ちながら、それを生かす境遇にない。
そんな時代でもない。
実現したい正義はもはや、どこにも存在しない。

あるのは汚い世の中への絶望。
無力感。
そして、無力な自分への怒り。

だけどどこかに持っている。
捨てきれない。
諦めきれない希望と、正義。

そして彼は類まれな剣の腕も、正義も生かせる世界を得た。
ただ、それは闇の稼業という世界だった。
ここなら、思っていた正義が遂行できる。

主水は悪への怒りと、かすかに信じている正義のために剣を抜く。
中村主水の凄みは、まさにこういう心理から出ていると思うんです。
仲間を失い、背負っているものの重さが増すごとに、彼はますます、凄みを増していく。
これはやはり、藤田まことさんという人が背負ってきた人生も関係しているんでしょう。

本当に、表ではとことん冴えなくて、裏では壮絶に腕が立つ。
その落差が強烈なキャラクター。
これが藤田さんに、似合いすぎるほどハマった。
山崎さんに鉄が、似合いすぎるほどハマったように。

今思うと「必殺」というのは、キャラクターと俳優の奇跡のような融合だった。
もちろん、これを生み出したスタッフさんたちもすごい。
いろんな奇跡が起きた「必殺」。
道理で今見ても、満足できるわけです。


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2016.05.21 / Top↑
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