「生きるも地獄。死ぬも地獄。どこかで仏に会ったなら、俺は仏を殺すかも知れぬ」。
これは印玄が、第1話で主水に言った言葉。
印玄を殺そうとしていた主水はこの言葉の異様さと、それを口にした印玄の様子に抜きかけた刀を収める。
この印玄こそが仕置屋を救い、市松を変えた。

印玄を演じたのは、新克利さん。
ユーモラスで、何気ない会話もつい笑わせてしまううまさ。
明るさと闇を、印玄そのものという感じで演じています。
この印玄、女好きで笑える坊主かと思ったら、「仕置屋」で非常に大切な人物。


印玄とは、どういう男だったのか。
これが相当に悲惨な生い立ちを持った男だった。
印玄の母は、印玄の父親と5歳の印玄を捨てた。
父親が死んだ後、印玄は1人、母親を探す。

自分を捨てた母親だが、会いたかった。
旅の途中で印玄は、たぶん、死んだ旅の僧侶から衣を得る。
この格好なら、喰いっぱぐれはなかった。
印玄はそう言った。

やっと母親を探し当てた時、印玄は子供から青年になっていた。
14年という月日が経っていた。
母親はある宿場町で、しどけない格好をして三味線を弾いていた。
すっかり大人になった印玄を、母親は妙な目つきで見た。

母親に会えたうれしさで頬を紅潮させている印玄に、母親はあろうことか「女」として接した。
印玄は絶望した。
これが俺の母親か。
畜生にも劣るではないか。

印玄は思わず、母親を払いのけた。
痛い痛いと母親は怒った。
そこに、母親の情夫が入ってきた。
すると印玄の母親は、痛いと言って、男に甘え出した。

印玄が、旅の果てにやっと会いに来た息子の前で母親は情夫といちゃつきだした。
そこにいる息子など、いないも同然だった。
印玄は部屋を飛び出した。

しかし母親の醜い矯声は、印玄の耳に入って来る。
赤い唇から、あられもない声があがる。
もう、耐えられなかった。
印玄は怪力で母親と情夫をつまみ出し、屋根の上から外に放り投げた。

この時、母親の情夫の娘は印玄を恨み、後に印玄の殺しを仕置屋に依頼することになる。
そしてそれがきっかけで印玄の生い立ちが明らかになり、印玄は仕置屋の仲間に絶対的な信頼を置くようになる。
市松の生い立ちも悲惨だが、印玄の生い立ちは壮絶だ。

なぜ、これで、世の中を恨まない。
人を憎まない。
心を閉ざして自分を守って来た市松には、印玄の精神力は脅威に映ったに違いない。

市松は仕置屋の仲間と仕置きを通じて信頼関係を築き、人間性を取り戻して行った。
だが印玄もまた、仕置きを通じて仕置屋の仲間に心を癒されていったのだと思う。
だから印玄は、全 覚との勝負に死を覚悟して向かう主水についていく。
主水が出て来るまで、境内で眠って待っている。


この印玄の過去が明らかになる13話は、三隅研二監督の傑作。
遠藤太津朗さんの、非情な楼主ぶりもハマっている。
印玄の殺しがメインで、主水はそれを助ける展開がまた、物足りないどころかすごく良い。


「生きるも地獄。死ぬも地獄。どこかで仏に会ったなら、俺は仏を殺すかも知れぬ」。
この言葉は、印玄がどれほど、人生に絶望したか。
人間に絶望したかが、良く出ていると思う。

どこもかしこも、地獄がある。
仏は誰も、何も救っていない。
そんな仏に会ったら、俺は殺してやりたい。

印玄を殺しに来た主水が、この言葉と様子で印玄を仲間として認めたのだ。
それほど、この時の印玄には凄みと迫力があった。
印玄の抱えた闇の深さがわかる。


最終回、自分が裏切ることを怖れているのだろうと思った市松に印玄は「おめえはそんな男じゃねえ!」と言う。
「何故だ」と驚く市松に、印玄はちゃんと説明する言葉を持たない。
しかし、はっきり言う。
「とにかく、おめえはそんな奴じゃねえんだ!」

そして印玄は、仲間を救うために死ぬ。
印玄の死は、殺し屋として生きていた市松に「見事だ」と言わせた。
自分を一切守ることなく、仲間を守った印玄の行動は離れかけた仕置屋の絆を結び直す。

主水は自分の社会的な地位を捨てて、市松を逃がす。
捨三は市松を護送中の同心に体当たりするという、この上ない危険を冒した。
印玄が主水と捨三に、そうさせたのだ。
これによって市松の心は再び凍ることなく、完全に溶けた。


「仕置屋稼業」のキャラクター解説で、印玄について見事な解説がされています。
母親を屋根から投げ落として殺すことで、印玄は殺し屋としての道を歩み始めた。
その印玄が女であるおこうを助け、人を落としていた屋根から自分が落ちて死ぬ。
「これ以上、印玄にふさわしい死はあるまい」と。

印玄は「仕置屋を再び結束させ、主水と捨三に保身を考えない勇気を与えた。彼は仏に会えたのだろうか」。
私は印玄は仏に会い、救われたと思っている。
印玄が仏を憎んだ仕置屋だったとしても。


スポンサーサイト
2016.05.31 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://kotatuneco.blog59.fc2.com/tb.php/3269-9c326918