「仕置屋稼業」はいかにも暑そうで寝苦しそうな風が吹き、風鈴が鳴る夜に始まる。
ならず者がやってくる。
縁日の屋台が並ぶ通りを、音を立て、肩を怒らせて歩く。
周りの者が眉をひそめ、ひそひそと陰口を叩く。

そこに美しい優雅な手が、扇子をあおぐのが映る。
扇をあおぐ手から、男の全体の姿が映る。
彫刻のような横顔が見える。
よどんだ空気を吹き飛ばすような、清涼感。

青年は扇子をあおいで風を送っているが、青年の周囲だけ温度が低いように思える。
息を呑むような美しい青年は、猫のようにならず者の背後につく。
扇子に何か、隠し持っている。

くるりと美しい動きで扇子を返した青年は、その隠し持っている何かを右手に持つ。
竹串だ。
鋭く先を尖らせた竹串を手に持ち、青年は、ならず者に近づく。

ならず者の首筋に、竹串が刺さる。
深く刺さる。
誰も気が付かない。
ただ1人、中村主水をのぞいて。

青年と主水の視線が、扇子の格子越しに絡み合う。
確かに、互いが互いを認め合った。
竹串が抜かれ、男が崩れ落ちるように倒れる。

主水が立ち上がり、走ってくる。
だがもう、青年の姿はどこにもない。
どこにまぎれてしまったのか。

背後で倒れた男に「親分!」と悲壮な声で呼びかける声が響いている。
主水にはもう、その声は届いていない。
彼の目は、一瞬で鮮やかに殺しをやってのけた美青年を探していた。

青年の名は、市松。
殺し屋の父を持ち、殺し屋の養父に育てられた殺し屋。
生粋の殺し屋である。

人に殺しを気づかれたことは、なかった。
なぜこの、風采の上がらない同心だけが市松の殺しに気づいたのか。
この時の市松には、まだわからない。

それは中村主水が、殺し屋だからだ。
同じ不穏な空気を持つ者を、かぎつけることができるからだ。
市松を見つけられない主水は、黙って立ち去る。

あの同心は殺しであることを、騒ぎ立てもしなかった。
それを少し不思議に思いながら、主水がいなくなった縁日の物陰から市松が立ち上がる。
市松は、男の首筋を刺した竹串を音を立てて折った。
自分の殺しに気づいたあの同心を、殺さなければならないと市松は思った。


市松という青年は決して、冷酷な殺し屋ではない。
ただ、感情を表に出せなかっただけ。
彼にとって人間らしい気持ちを出すことは、命取りになることだった。
実の父親は、おそらくは市松の養父の裏切りによって命を落としている。

養父は市松を殺し屋に育てたが、最後は殺そうとした。
市松が生きて来た人生で、裏切りは当たり前のことだった。
隙を見せれば、たちまち殺される。
心を閉ざすことが、市松の生きる方法だった。


市松を見事に演じたのは、沖雅也さん。
沖さんのベストワークだと思っています。
スタッフさんも、沖さんという素材を得て、力が入っているのがわかります。

市松は、沖さんにしかできない。
動きが優雅。
猫科の動き、身のこなし。
目付き、眼差し。

これがあの、錠を演じた俳優さんと同じだと言うのが信じられない。
クールな美形殺し屋と、熱血青年の殺し屋の原点は市松と錠だと思います。
正反対のこの2つの殺し屋を演じて作り上げたのが、同じ沖さんと言うところがまず、脅威ではありませんか。

市松を主役にした話、そうではない話も含めて、「仕置屋」は市松の変化が見られる。
2話で市松は、育ての親を手にかける。
それは結果的に主水を助けることになった。
しかし、傷心の市松に主水の感謝の気持ちは届かない。

市松の目は、涙が溢れそうだ。
だが市松はそれを見せない。
振り向いた市松の顔には、冷たい皮肉な表情しか浮かんでいない。

市松は、危機を救ってくれたことに礼を言う主水に、憎まれ口しか叩けない。
そういう市松の性格などまだ知らない主水はカッとなり、印玄は顔をしかめ、捨三は不快な表情を隠さない。
市松に、仲間とうまくやろうという気持ちはない。
嫌われた方が気が楽だ。

傷口が深く大きいほど、市松は冷たい態度になる。
不器用な、哀しい青年なのだ。
去っていく市松の顔は、見えない。
だが、こちらにはわかる。

市松は泣いている。
市松の肩が泣いている。
市松の背中が泣いている。

この市松は、一見の価値ありです。
沖さんという俳優の才能に、感嘆の一言。
市松はこの人以外、できない。
いや、この人がいなくて、市松が作れようか。

この人がいたから、市松が生まれた。
ドラマは誰かに感情が入らないと、盛り上がらない。
それを見て、これから市松はどうなって行くのだろうと、思うのです。


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2016.05.25 / Top↑
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