「おめえ…、一人旅か?」市松とは

主水は竹の湯に行き、そこで捨三にこの前会った坊主、印玄を仲間に入れてほしいと言われる。
裏稼業のことを話した捨三をぶっ飛ばした主水は、釜場の前にいる印玄を斬るつもりで中に入る。
そこで主水は印玄が丸太を素手で、真っ二つにするのを見る。
怪力に主水が目を見張る。

「生きるも地獄。死ぬも地獄」。
「どこかで仏に会ったなら、俺は仏を殺すかも知れぬ」。
後ろを向けたまま、印玄が地の底から響くような声で言う。

「ふ、ふはははは、ははは」。
印玄が笑う。
こうして印玄が仕置屋に参加することになる。

主水はおこうに、約束の4両を受け取りに行った。
おこうは喜び、おいとの手紙を読んでくれと言った。
しかし主水は「金だけで良いんだ」と言って、読まなかった。

主水たちは、市松を待っていた。
「本当に信用できるのか、あの男…」。
「心配するな、必ず来る」。

「近江屋の奴、気がついてるんじゃねえのか?」
印玄が疑い始めた。
近江屋は突然、長崎に行くことになった。

市松が自分たちが命を狙っていることを、話してしまったのではないか。
早くしないと、仕置きできなくなってしまう。
船に乗ったらお仕舞だ。

その時、市松が姿を現した。
「船出は潮の加減で四つに早まった」。
市松は、そう言った。
「へい」と言って、捨三が動く。

印玄も行った。
主水は市松の分の小判を指差した。
市松がかすかに、だが確かにうなづいた。
しかしその目は、少しも気を許してはいない。

近江屋が船に乗るためにいる船宿に、主水も印玄も捨三もいる。
そして、どこかに市松も。
主水は賄賂を渡しに来た番頭を、密かに刺し殺す。
人が通る。

だがそれは酔っ払いが友人に支えられて、海を見ているようにしか見えない。
人が去ると、主水は手を離す。
番頭は水に落ちた。

捨三が仕込んだ薬で、近江屋は厠に駆け込んでいた。
船頭が風の具合を見て、船を出すことに決めた。
人々が船に乗るため、船宿から出て行く。
近江屋は誰もいなくなった宿の厠から、出て来る。

すっ、と目の前に扇子に乗せた手拭いが差し出される。
誰かわからないが、粋なことをする。
近江屋は手拭いを取ると、手を拭いた。
捨三が見ている。

ぱちん、と、扇子が畳まれる。
市松だ。
扇子の下には、竹串があった。

市松は扇子を畳み、竹串だけを手に取る。
手にかざす。
「どうも…」と言いかけて振り向いた近江屋が、ぎょっとする。
恐怖で叫び声も上げられない。

息を呑んだ瞬間、市松が近江屋を後ろに向かせ、顔を壁に押し付ける。
容赦なく、竹串が首筋に突き刺さる。
声一つ立てることなく、近江屋は白目をむいた。
市松は厠の中に、近江屋を突き飛ばす。

だがその背後、誰もいないと思った庭に1人の小さい女の子が立っていた。
こちらを見ている。
市松の目が、子供を捉える。

ためらいなく、市松が一直線に子供の所へ飛んでくる。
見ていた主水が、仰天する。
迷いもなく、市松は少女の正面に向かって、ムチのように竹串を振り下ろす。

主水が駆け寄ろうとする。
血に染まった竹串の先端が、少女の目の前に突き出された。
だが少女は、微動だにしない。

主水の目が不思議そうになり、市松を見る。
市松もまた、少女に向かって突き出した竹串を裏返す。
少女は動かない。
その視点もまったく、動かない。

波の音が響く。
少女が市松の帯に向かって、手を伸ばした。
市松の手を、少女が手探りで探し当て、触れた。
その手を市松が見る。

主水が大きく、息を吐く。
自分の前に血に染まった竹串があるのに、少女は気づかない。
「おじちゃん、船まで連れてって」。

市松が座り、少女の目を見据える。
そうか。
だから、気配がしなかったのか。
視線を感じなかったのだ。

少女には、何も見えないのだ。
市松の頬に、笑みが浮かぶ。
「おめえ…、1人旅か?」
「うん」。

少女が、あどけない声で答える。
市松が微笑み、ピキンと竹串を折る。
「旦那様!」と店の者が声をかける。
「急いでください。船を出しますよ」。

その声に振り向いた市松は、懐から草鞋を出す。
草鞋を履き、市松は少女を抱きかかえる。
優しい手つきで少女を抱きかかえると、市松は船まで連れて行く。

その優しい仕草、微笑。
これは先ほどまで、本気で少女を殺そうとしていた青年だろうか。
市松という青年、一体どういう青年だ。

しかし見ていた主水に、限りない安堵の表情が浮かぶ。
ホッとしたように、大きいため息が出る。
やっと、微笑む。
主水は歩き出す。

もし、あの少女の目が見えていたら…。
市松は、どうしたのだろう。
自分は、どうしただろう。
そんな考えを振り切るように、主水は歩き出す。


主水のためらいと、裏稼業への復帰。
市松という青年。
これをこの時間で完璧に描ききった、まったく無駄のない話。

市松について、これ以上の紹介の方法はないと言える。
完璧。
1話を見て市松に興味を持つな、なんてことは難しい。
一体この青年、どういう人間なのだ。

主水を殺そうとするのは、殺し屋としてわかる。
その標的から殺しの依頼をされて、市松は理由を問わない。
何故、その男を殺したいのか。

その男が何をしたのか、問わない。
市松にとって、殺しの理由、是非は問わないのか。
そういう流儀で仕事を請けてきたのか。

市松は対決するまで、主水を侮っている。
自分の殺しの腕に、自信と確信を持っている。
主水の依頼を受けたのは、自分が殺す男の最後の頼みを聞いてやるつもりだったのか。
余裕だったのだろうか。

だがその余裕は、見事にひっくり返されることになる。
そもそも、市松の殺しを看破したこと自体が異様なことだったのだ。
市松の美しい顔が驚愕する。
恐怖する。

主水の力量を認めた市松は、主水との仕事を請けることにする。
まだ、主水を殺すことを諦めたわけではないが。
そこは生粋の殺し屋。
近江屋の出発の時間まで、ちゃんと調べてやってきた。

市松という青年を、ものすごい力を入れて作ってるのがわかります。
演じる沖雅也さんが、これに見事に応えている。
ひとつひとつの映し方。

それにしてもなんて、映しがいのある青年だろう。
登場する時に流れる音楽までが、市松を彩っている。
市松が出るだけで、画面から冷気が立ち上る。
氷の微笑。

だがこの話はこれだけでは終わらない。
最後にもう一つ、市松にクライマックスがある。
美しい市松の、優雅な殺し。

だが今回、またしても市松は殺しを目撃される。
なぜ、気が付かなかったのか。
その理由は、少女に気配がなかったのだ。
見ていなかったから。

目撃者に向かってためらいなく、市松は飛んでくる。
血のついた竹串を振り下ろす。
主水が息を呑む。

この時、主水はどうするつもりだったのか。
少女が見ていないことを知ると、市松の表情は一変する。
最後の、温かい微笑。

この青年の本質は、ここにあるのではないか。
しかしそれを引き出すには、どうしたら良いのだろう。
市松にためらいはなかったのか。
どういう青年なのか。

後に市松は、自分は長いことないと覚悟しているということがわかる。
自分のやっていることを、市松は認識している。
子供には限りなく優しく接することも。

市松の少女を前にした、一瞬の表情の移り変わり。
あっという間に、優しい目になるあの演技!
沖雅也、天才だ。
自分はこの一瞬の演技に、目を奪われました。

すばらしいです。
ものすごいものを、見せてくれました。
「必殺」シリーズの第1回は、わりといろんなことが起きるのですが、このオープニングは完璧です。


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見事な第一話

こんばんは、おじゃまします。

記事に書かれていた、ラストの市松と盲目の少女と主水のシーン。

「もし、少女の眼が見えていたら、市松は果たして…」
冷徹な殺人者の顔と、優しさを感じさせる微笑み…。

物語の余韻に想像を巡らせ、次回以降に更なる興味と期待を抱かせる…。
何と見事で巧みな脚本、演出、演者たちかと思いますね。

物語の主軸を担う男(主水)と変遷を担う男(市松)。
これからこの二人の男は、どうせめぎ合い、すれ違い、分かり合えるというのか…?
うーん、また見返したくなってきましたよ(笑)。







横から失礼いたします

>うーん、また見返したくなってきましたよ(笑)。

キラさん、はじめまして。
ちゃーすけさんの “仕置屋・掘り下げ再レビュー” の数々に、
私、一足お先に第一話からの見返しを開始しております^^
映像の季節感もピッタリですし、是非是非どうぞ!

突然、お邪魔いたしました。

キラさん

>キラさん

こんにちは。
訪問ありがとうございます。

>「もし、少女の眼が見えていたら、市松は果たして…」
>冷徹な殺人者の顔と、優しさを感じさせる微笑み…。

これは本当にどうしたか、想像してしまいますね。
これからわかっていきますが、市松は決して冷酷な殺し屋ではない。
子供に手をかけたら、誰よりも市松自身が苦しんだと思います。

>物語の余韻に想像を巡らせ、次回以降に更なる興味と期待を抱かせる…。
>何と見事で巧みな脚本、演出、演者たちかと思いますね。

あのシーンで市松と言う青年に対して、目が離せなくなります。
この作り方はうまいですね。
最近は視聴率が初回から最終回まで上がっていくより下がっていく番組が多くなっていると聞きました。
録画ができるようになり、娯楽の多い現在は昔より、最初から最後まで興味を持たせる、見逃したくないと思わせる番組を作ることはより、大変になっているんでしょうね。

>物語の主軸を担う男(主水)と変遷を担う男(市松)。
>これからこの二人の男は、どうせめぎ合い、すれ違い、分かり合えるというのか…?
>うーん、また見返したくなってきましたよ(笑)。

「必殺」シリーズの1話っていろんなことが起きるんですが、この当時は本当に見事に1時間にまとめていますねえ。
だからめが離せない。

徐々に市松が、本人も意識していないかもしれないところで、打ち解けてくるんですよね。
反発しかなかったお互いを認めてくる。
これがまた、おもしろい。
それは命をかけた仕事を互いにしていくうちに生まれる信頼。
半年に渡る話を貫く芯がしっかりしている。
そのひとつを立派に勤めた沖さんは、やはりすばらしいです。

コメントありがとうございました。

まっきーさん

>まっきーさん

ありがとうございます。
「仕置屋」はこの季節、梅雨から夏の季節感がたっぷりで、私もこの季節が来ると思い出します。

No title

昨日の7/4は、41年前に仕置屋がスタートした日ということで、
ツイでは “#今日は何の日” “仕置屋稼業 lang:ja” “仕置屋 lang:ja” などで検索しますと
「地獄」回と同シリーズについて語られている方々がチラホラいらっしゃいましたね。
また名シーン(映像やスチールなど)をうpして下さってる方もあり、
この第1話と仕置屋は、世代を超えて語られる素晴らしい作品なんだなぁと改めて。

ちゃーすけさん。
腰は徐々に回復されているとの事で安心いたしました!
あ、でも決してご無理はなさいませんように^^
ツイといえば先日も、6/12の#沖雅也生誕祭2016タグや、6/28の沖さんご命日(34回忌)にも、
やはり世代を超えてのつぶやきが沢山ありましてジ~ン…。
さて、本日より時専chでスタートしました『幡随員長兵衛 お待ちなせぇ』。
錠と市松の間(鶴吉の直前でもある)のまたまた初見な沖さんを堪能しようと思っています。

まっきーさん

>まっきーさん

こんにちは。
いつもコメントありがとうございます。

>昨日の7/4は、41年前に仕置屋がスタートした日ということで、

おおっ、まだまだコアなファンはいらっしゃるのですね。

>ツイでは “#今日は何の日” “仕置屋稼業 lang:ja” “仕置屋 lang:ja” などで検索しますと
>「地獄」回と同シリーズについて語られている方々がチラホラいらっしゃいましたね。

うれしいですね。
ネットが発達する以前は、話が通じる人を探すのさえ、難しかったですから。

>また名シーン(映像やスチールなど)をうpして下さってる方もあり、
>この第1話と仕置屋は、世代を超えて語られる素晴らしい作品なんだなぁと改めて。

映画並みのクオリティですよね。
この当たりの時期の「必殺」はどれも非常に凝った映像などで名作揃いですが仕置屋もまた、製作者がかなり力を入れているのがわかります。
特にこの1話は、がっつり見る者の心をつかみます。

>腰は徐々に回復されているとの事で安心いたしました!

おかげさまで回復してきています。
ありがとうございます。

>ツイといえば先日も、6/12の#沖雅也生誕祭2016タグや、6/28の沖さんご命日(34回忌)にも、
>やはり世代を超えてのつぶやきが沢山ありましてジ~ン…。

そうだったんですか。
良かった。
時代と世代を超えて、沖さんが残って良かった。

>さて、本日より時専chでスタートしました『幡随員長兵衛 お待ちなせぇ』。

見ましたよ~。
また違う沖さんで良かったです。
小松政夫さんとは、後の市松と亀吉だなあなんて思いながら見ていました。

>錠と市松の間(鶴吉の直前でもある)のまたまた初見な沖さんを堪能しようと思っています。

「ふりむくな鶴吉」が見たいんですよね…。
どうにかならないものでしょうかねえ。
プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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