「仕置屋稼業」の第11話、「一筆啓上悪用が見えた」。

南町で同心も与力も一目置く、腕利きの岡引き・佐平次。
この佐平次が駕篭かきの雲助と組んで、悪事を働いていた。
雲助が札差の女房のお栄に絡む。
それを助けた伊三郎という男が、雲助に怪我を負わせた罪で島送りとなる。

お栄は、自分のために伊三郎の一生がめちゃくちゃになったのをすまなく思っていた。
そこにつけこみ、佐平次は罠を仕掛ける。
伊三郎とお栄を不義密通に仕立て、お栄から百両を巻き上げた。

知った伊三郎は佐平次を刺そうとするが、逆に殺されてしまう。
おこうのところに、佐平次、駕篭かきの源造と辰次、そして佐平次の殺しの依頼が来る…。
佐平次の所業に、印玄は憤る。

「とんでもねえ岡引きだ!こともあろうに、雲助と組んで女をゆするなんて!」
捨三は「伊三郎って奴も、気の毒な野郎ですね」と寂しそうに言う。
市松が言う。
「他人と関わりあうと、ろくなことはねえんだ」。

主水が言った。
「人の難儀を正面から救うってのは、勇気の要ることなんだ」。
ため息に近い状態だった。
「とてもじゃねえが、俺たちにはできねえことだ」。

次の瞬間、それは怒りに変わる。
「佐平次って奴ぁ、許せねえな!」
印玄が「佐平次は俺にまかせろ」と言って来る。

だが主水は止める。
「あの野郎は、ただの岡引きとは、わけがちがうんだ」。
「だったら、俺が仕留める」。

市松だった。
「いや、おめえでも無理だろうな」。
「とにかくあの野郎は南町切っての腕利きだ。あいつを殺れば、南町は面子にかけても下手人を探し出すぜ」。

「南だろうが北だろうが、奉行所怖がってちゃ、この稼業はできねえぜ」。
「おめえには、組織の怖さってのがわかっちゃいねえんだ」。
「それにな、あの佐平次ってのは鎖帷子、着込んでやがる。今度ばっかりは、おめえの竹串も通用しねえぜ」。
「だったらなおさら、ゆずれねえな!」

主水が市松の顔を見る。
そのキッパリとした様子に「うん…」とうなづく。
小判を配分する。

その小判を持って、印玄は女郎屋に急ぐ。
市松は竹串を削る。
傍には、鎖帷子を着せた人型がある。

1人、市松は黙々と竹を削る。
先を尖らせる。
切っ先を凝視し、鎖帷子を指す。
ぴきりと音がして、竹串は折れ、先が曲がった。

印玄は酒代をはずむからと言って、渋る源造と辰次の駕籠を寺まで走らせた。
喜んだ源造と辰次は、寺に急ぐ。
寺に着くと、印玄は金を「ひとつふたつみっつよっついつつ、むっつ」と源造の手のひらに載せた。

「なぁーんでぇ」と2人が不満を口にする。
「三途の川の渡し賃だ」。
2人が「はっ?」と言う顔をする。
「おめえたちの死に場所だ」。

印玄は2人を力ずくで屋根に引っ張っていく。
「ゆけ!」
2人の背中を押す。

「やめて、とめて」。
「やめて、とめて」。
2人は悲鳴を上げながら、屋根の上を滑るようにして歩いていく。

止まらない。
「ああ~あああ!」
絶叫し、屋根から落ちる。

グキリ。
骨が砕ける音がする。
見届けた印玄は、屋根から姿を消す。
その頃主水は、医師の良庵を酒に誘っていた。

市松は…、竹串を削っていた。
竹串の先を、ろうそくの炎にあぶる。
見つめる。
水につけた。

人型に、手拭いをかぶせる。
竹串を構える。
ざっ。
刺す。

手拭いに、小さな穴が開く。
竹串は、楔帷子の穴を通過していた。
折れてもいない…。

番屋に「おまちどおさま、蕎麦屋です」と出前持ちが入っていく。
主水は番屋の前の屋台で、良庵と飲んでいた。
続いて、番屋に佐平次が入っていく。
佐平次がみんなに、蕎麦を振舞ったのだ。

「いただきます」。
番屋ではみなが、そう言って食べ始めた。
佐平次は障子に背を向けた席に、座っている。

市松が番屋の裏の路地の暗がりから近づく。
懐から竹串がのぞく。
市松が竹串を手に取る。
ちらりと、番屋を見る。

障子に映る、佐平次の影。
すっと竹串の先が、障子を縦に切って行く。
小さな裂け目ができる。
その小さな裂け目から市松が、中を見る。

佐平次の鎖帷子の首筋が見える。
市松が狙いを定める。
一気に刺す。
竹串は、佐平次の首に刺さった。

佐平次が口を開ける。
市松は、抜いた竹串の先を見る。
血がついている。

ガシャン!
佐平次が、持っていたどんぶりを落とした。
何も言わず、前のめりに倒れた。

「親分」。
「親分が!」
「大変だああ!」
番屋は大騒ぎになった。

外で飲んでいた良庵は、「騒々しい奴だなあ。静かにせんかあ」と怒った。
主水も「せっかくの酒がまずくなるぞお」と言った。
「さ、飲みなおして」と良庵が、主水に酒を注いだ。
「ところが先生、そうはいかなんだ」。

「ボツボツ、先生の出番ですぜ」。
「え?」
主水の言葉に、良庵がきょとんとした。

「お、親分が」。
大騒ぎの番屋に、主水が入っていく。
主水を見て「佐平次親分が急に倒れたんで」と訴えた。

良庵を前に出し、主水が「先生、こりゃあ病気でしょう?」と聞く。
佐平次を見て良庵が「こりゃあ、心臓が止まっとるぞ」と驚く。
「で、病名は」。

酔いがまだ完全にさめない良庵は主水に聞かれて、「え、びょ、病名はな」とうろたえた。
「心の臓のほ、発作」。
「はっきりしとくんなさいな」。
「心の臓の発作じゃ」。

今度は良庵は、はっきりと言った。
「報告書書くんだ」。
主水が命令した。

「早くしろ。間違えねえようにな」。
筆を持ってきた男に主水が念を押すように「心の臓の発作だ」と言った。
そして、「心の臓の発作か」と、つぶやいた。
「いや、俺も気をつけなくっちゃ」と肩をすくめる。

「検屍報告書」。
与力の村野が、つぶやく。
「心の臓の発作か。中村、人の命というものは、わからんもんだなあ」。

「惜しい男を亡くしましたなあ」。
「天命とあればしかたがない」。
村野は振り切るように検屍報告書を閉じ、「中村、お前たちも佐平次の功績をよぅく習うんだな」と言った。

奉行所の表で、同心たちが佐平次の話をしている。
「人の命は本当に儚いもんだな」。
「まったく良く働きましたな」。
「奉行所の名物男」。

「では!」
主水が手を上げ、去っていく。
「亀吉!」と、岡引きの亀吉を呼ぶ。

「だんな、これを見ておくんなさい!」
亀吉が襟を開け、佐平次の着ていた鎖帷子を自分も着ているのを見せる。
それを見て主水は「おめえ、腹でも壊したのか」と言う。
「へ?」と亀吉が言う。


この11話、話自体は基本的な悪を滅ぼす仕置屋の話です。
でもこれ、いろんなところに壷にはまる見所があるんです。
まず、仕置き前の合議で主水たちが見せる憤り。

基本的にみんな、正義感が強い。
印玄は怒っている。
捨三は、伊三郎の運の悪さを嘆いている。

市松の「人と関わるとろくなことがない」も、市松が実は困っている人を放置できないから。
「幽鬼が見えた」では、酔客に絡まれた依頼人をどうしても放置できない。
自分を呪うように目を閉じ、酔客をぶっ飛ばしに行く。
そしてもめる。

トラブルは避けなければならない。
しかし見過ごせない。
だから、関わってはいけないのだ。

主水の言葉も良い。
いかにも、表の役人としての正義に失望した主水らしい。
「人の難儀を正面から救うってのは、勇気の要ることなんだ」。

奉行所同心、正義の施行者の主水はこの難しさと勇気を、身にしみて知っている。
だから、主水は仕置人になったのだ。
それでも「とてもじゃねえが、俺たちにはできねえことだ」となる。

自分たちができるのは、恨みの結末をつけることだ。
正面から、表から人は救えない。
それができたなら、仕置屋はなくていいのだ。

自分たちにできないことをして殺された伊三郎への、思い。
次の瞬間、それは怒りに変わる。
「佐平次って奴ぁ、許せねえな!」
印玄は怒りで「佐平次は俺にまかせろ」と言って来る。

主水は止める。
「あの野郎は、ただの岡引きとは、わけがちがうんだ」。
主水は知っている。

そこに反発するのが、若い殺し屋・市松。
「だったら、俺が仕留める」。
この時の主水の止め方がまた、味がある。
「おめえは組織の怖さを知らない」。

「あいつを殺れば、南町は面子にかけても下手人を探し出す」。
役に立たない奉行所の正義。
それでも組織として動く時は、怖ろしい力を発揮する。
奉行所の裏も表も、知り尽くしている主水の言葉。

さらに佐平次の鎖帷子を指摘する。
鎖帷子まで着込むということは、佐平次が自分のしていることを自覚していることでもある。
だがこの言葉は、市松に火をつけた。
「だったらなおさら、ゆずれねえな!」

市松のプライドをかけた一言。
主水はその意地と誇りを、確かに感じ取った。
だから、「うん」と言う。
市松のために主水は、飲めない酒を顔をしかめて、捨てながら良庵に付き合う。

この流れが、ほんとに見ていて気持ちが良い。
市松が竹串を作るシーンに流れる音楽。
暗がりから近づく市松と、白く浮かび上がる障子。
映る佐平次の影。

流れる仕置きのテーマ曲。
暗がりに浮かぶ、市松の美しい顔。
竹串の切っ先。

市松は、障子をすっと、切り裂く。
ほんの少しの隙間に、目を凝らす市松。
見事に刺さる竹串。

仕留められる大木さんの演技も最高。
抜いた竹串の血を確認する、市松。
怖ろしくもすばらしい、プロの殺し屋のプライド。

市松のプロ根性は、第20話でも炸裂します。
最後の疾風の竜と会った時の、お互いを認める視線。
この話もすごかった。
そしてこの時も主水の、市松への最高のサポートがあります。

さて、番屋の騒ぎを背に、主水がしゃっきりする。
今度は主水のテーマ曲が流れる。
主水だ。
主水がいるから、主水の関わった裏稼業はいつもちゃんと成立するのだ。

いつも、主水が鍵なのだ。
コミカルな演技の影に見え隠れする凄み!
結末をちゃんとつけながら、コミカルにとぼけて見せる。


人が良いのが不運を呼んだ悲劇の男、伊三郎が平泉征さん。
同心も与力も一目置く黒門町の佐平次が、大木実さん。
お栄は「子連れ狼」で拝一刀の妻も演じた清楚な美女・松本留美さん。
ある意味、ファム・ファタールにふさわしい。

ファム・ファタールといえば、この次の12話に、すごいのが出てきます。
魔性の女・おるい。
怖いですよ~。

こういうすごい魔性の女が出て来るのが「必殺」。
この当たりの仕置屋稼業の話は、名作揃い。
「仕置屋」が好きな人の気持ちが、十分理解できる名作揃いです。
市松が仕置屋仲間に心を許して来ているのが感じられます。

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2016.06.11 / Top↑
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