それは魔性 第12話「一筆啓上魔性が見えた」(1/2)

一度、書いているんですが。
第12話、「一筆啓上魔性が見えた」。


ある夜、市松は乾屋という煙草店の前を通りかかった。
不穏な気配に気がついた市松は、裏口に回り、黒い影が立ち去るのを見た。
乾屋の中に入ると、一家、奉公人に至るまで9人が斬殺され、血の海であった。

中を探っている市松の足を、虫の息の主人がつかんだ。
水をほしがる主人に市松は、鉄瓶の水を手拭いに浸して飲ませる。
乾屋の主人は言う。
「全部、やられた」。

そう言って、市松に恨みを晴らしてくれるよう頼むと、主人は息絶えた。
市松は主人の血まみれの手を開き、小判と小銭を手拭いに包む。
仕置屋の集まる釜場で、市松は「どうする?」と聞いた。

死人の頼みだ。
このまま金だけネコババしても、構わない。
捨三は、そんなことはできないと言った。
印玄もそう言った。

自分たちが晴らさなければ、誰がやる。
そう言う捨三に市松は、お上がやってくれると言う。
「そうだな八丁堀」。
「うん…」。

主水の答えには、微妙な響きがあった。
たった今、現場を見てきた主水は難しいと言った。
あれでは捕まらないだろう。

主水は言った。
乾屋というのは、タバコの一服売りから始め、やっと店を構えた男だ。
それが店を持ち、女房をもらい、子供を儲けた途端、盗賊に殺されたなんて、死に切れないだろう。

「だんな、俺もらうぜ」。
捨三は小判を手に取った。
印玄も、もらった。

「市松、おめえどうする」。
主水の問いに市松は、「死人に頼まれたのは、この俺なんだ」と答えた。
「そいつを忘れてもらっちゃ、困るぜ」。
市松は小銭だけを手拭いに包んで、持っていく。

主水は表の仕事として、盗賊吟味方を調べる。
夜の町を探りを入れながらあるう市松に、乾屋に入った盗賊の情報を持ってきた男がいた。
市松は、その男に小判を渡す。

翌朝、市松は生薬屋の越中屋の前の店に来ていた。
前の店の女性は、越中屋はこの周りの店とはあまり付き合いがないのだと言った。
そして、中から出てきた1人の女性をされが女将さんだと市松に教えた。
市松の顔色が変わる。

近くの寺に参詣に行った女性に、市松は声をかけた。
「おるいさん」。
「願掛けかい?」
「あんた…」。

「覚えているかい?」
市松が微笑む。
「いっつぁんじゃないの!」
「そう、市松だ」。

おるいが目を丸くする。
「どうしたの、どうしてこんなところにいるの?」
「10年よ、10年も会わない、どうして、いっつぁんがあたしの目の前にいるのよ?!」

「本当にいっつぁんなんだね。あんたは昔から人を脅かす子だったけど、ぜんぜん変わっちゃいない」。
「会う早々からお説教とは、おるいさんの癖も変わっちゃいねえな」。
おるいは父親が、三島で浅間屋という旅籠をしていて、そこの娘だったのだ。

市松は三島の旅籠のことを聞いたが、おるいは人手に渡ったという。
「俺か?俺は」。
市松は遠い目をした。

「叔父貴に教わった竹細工で、細々とやっているよ」。
「おまえさん、何しているね」。
「何って」。

「人並みに亭主を持って、ただ生きてるってとこよ世。商売は生薬屋だけどね」。
「何ぁに?」
「変わらねえなあ。10年前のおるいさんがそのまんま、大人になってらあ」。
「当たり前よ。浅間屋のおるいさんは、いつまで立っても浅間屋のおるいさん」。

市松がおるいの目を見る。
「また会ってくれるかい?」
「いつ?」
おるいの手が市松の手に、そっと触れる。

印玄は、図面師の男が死んだ葬式から、情報を得てきた。
主水は地元の人間は、あんな荒っぽい仕事はしないと言う。
あれは、よそ者の仕業だ。

仕置屋が話しているところに、市松が現れる。
市松もまだ、何もつかんではいないと答えた。
おるいと越中屋のことは、何もまだ言わなかった。

市松は屋形船に、おるいを呼び出していた。
「何だか酔いそうだ」と、おるいは言った。
「船にか」。
「…」。

「ううん、あんたは怖くない。でも私が怖い。昔から、いっつあんのこと好きだったの」。
おるいは、昔旅籠にいた婆やに言われたことを話した。
市松より、おるいの方が年上だから一緒にはなれないと、おるいは言われたのだ。

その晩、おるいは朝まで泣き明かした。
次の日から、市松とは口を利かなかった。
おるいはそう言うと、外を見た。

それから、おるいは市松と一緒に遊びもしなかった。
死んだ父親がそんなおるいのことを、気が強いと呆れていた。
そこまで言うとおるいは、「もうだめね」。と言った。

「こうしていっつぁんと会ってしまったんだもの。きっとダメね」。
市松が、おるいの手を取る。
2人が見詰め合う。

その後、市松は乾屋の殺された現場におるいを連れて行く。
「さあ、おいで」。
死体はないが、外れた障子が破れ、血が飛び散ったままになっている。
生々しさが残っている。

それを見たおるいが、「いや」と言った。
「おるいさん」。
市松が肩を抱く。

10日前、ここに盗人が入った。
「かわいい子供から、60過ぎの飯炊きばあさんまで、一家9人。1人残らず殺された」。
市松の声が廃墟に響く。
「皆殺しだよ」。

血が飛び散った障子が目の前にある。
「血は乾いたかもしれないがね。恨みは消えやしねえ」。
「うかばれねえ仏の魂がまだ、そこらじゅうさまよってるんだ」。

おるいが、後ずさりしていく。
「おるいさん、教えてくれないか」。
「9人殺したのは誰なんだ。おめえさん、盗人たちとどういうつながりがあるんだ」。

「聞かしておくれ」。
座敷で、おるいが座り込む。
「私、知らなかった。今度のことは、どこでどう運んだのか、まるで知らなかった」。
「江戸で始めての仕事だから、女は黙ってろってそう言われたんですよ、いっつぁん!」

おるいは語り始める。
「うちの人が盗人だなんて、夢にも思わなかった…」。
「父親に言われて、当たり前のように一緒になり、このまま旅籠の女将になると思っていた」。

だが父親のお通夜の晩、夫が、自分の本当の仕事は盗人だと告白した。
それも父親の片腕で、一家を取り仕切っていたことを、おるいは初めて知った。
「おとっつぁん、盗人だったんだ。私は盗人の娘だったんだ、って」。

「何度も死のうと思った」。
「盗人の暮らしが嫌で、飛び出しては捕まり、逃げては引き戻された」。
「気がついたら、いつのまにか何も言わないで黙ってあの人の言うとおりに生きてた」。

「しょうがないもん。私は…、こういう生まれなんだ。こういう運命なんだって、自分で自分に言い聞かせて」。
「いつかはあの人も捕まるだろう。一緒に引き回されて、獄門にさらされて、それがせめて…」。
「私と、おとっつぁんの罪滅ぼしなんだって」。
「そう諦めて生きていたのに」。

「嫌だ」。
「もう嫌だ」。
おるいは泣いた。

「生きてるのがいや。死ぬのもいや」。
「ねえ、一体どうすれば良いの?どうすれば良いのよ?」

越中屋では、盗人たちが今度の仕事について話し合うため、集まっていた。
おるいの夫で、首領の銀次が乾屋で奪った金を分ける。
だが分け前はたったの5両だけだった。

手下が文句を言うと、今渡せば派手に使って、町方に目をつけられる者が必ず出て来ると銀次は言う。
それに、乾屋の仕事は思ったより、金が少なかった。
今度は違う。

おるいが帰ってきた。
銀次はおるいを見て、「また、いつもの病気が始まったのかい」と言った。
「おめえは一仕事すむと、すぐそれだ。今さらどうあがいたって。この稼業から足を抜けるわけがねえんだよ」。

「第一、おめえの体には、盗人の血が流れてるんだ。その血だけはどうしようもねえ」。
おるいは顔をそらしていた。
「さあ、いい加減にしてくつろごうぜ」。

銀次が、おるいの肩を抱く。
「やめて!」
銀次に押し倒されたおるいの目に映っていたのは、夕焼けだった。
かごめかごめをして遊ぶ、市松との思い出だった。

主水は図面師のロクを捕らえたが、ロクは白状しない。
だから主水はロクを泳がせ、亀吉に後をつけさせた。
しかし、亀吉はあっさり阻止された。

亀吉をまいて、ロクを越中屋に連れて来させたのは、銀次だった。
銀次はロクから次の標的、讃岐屋の絵図面を求めた。
ロクは小判の包みをいくつか手にすると、絵図面を出した。
こう見えても、同心に責められたって、口なんか割らないとロクは言った。

銀二の手が懐に伸びる。
匕首を出すと、ロクを刺し殺した。
手下たちも、次々ロクを刺す。
おるいはそれを、影から見ていた。

そしておるいは、逃げ出した。
銀次がおるいが逃げたことに気がつく。
おるいは、市松の家に走った。
市松は竹を削っている。

戸を開けて飛び込んできたおるいを見た市松は、「おるいさん、来たのか」と言った。
「逃げてきたのよ。怖かったわ。また年寄りが殺されたのよ」。
「あのおじいさん、良い人だったわ。おとっつぁんのように優しくて強い人だった」。

「もう、我慢できない。あの男がそばにいると思うだけで私、気が狂いそうになる」。
「いっつあん、私を助けて」。
「しっ」と市松が静かにするように言う。

足音が近づく。
戸が開く。
男が2人、踏み込む。

「どこだ、女は」。
市松に言う。
「女?知らないねえ」。

「おとなしく出しな!」
男達がすごむ。
「出さないと言ったら?」

「命知らずの野郎だぜ」。
男たちが笑い、匕首を出して市松に襲い掛かった。
だが市松はすっと身をかわすと、削っていた数本の竹串を男の首筋に刺した。

おるいの目が、それを捕らえる。
市松が竹串をかざす。
「どうした?」

市松の正体に、もう1人の男が気がつく。
「野郎!」
男はおののきながらも、市松に斬りかかった。

だが市松は男を押さえつけた。
一突きだった。
おるいは戸の影から、凝視していた。
全てが終わると「いっつぁんあんた…」と言った。

市松は竹串の血を手拭いに吸わせながら、「おるいさん、もう一度聞くがな」と言う。
「乾屋さんを殺したのは、おめえさんのご亭主なんだな」。
おるいは、うなづく。

「そいつらひとまとめにして、片付けてもおめえさん…」。
「殺して!」
おるいは叫んだ。

「みんな殺して!1人でも残ったら、私が殺される」。
「始末をして、いっつぁん」。
おるいが哀願した。

釜場では、図面師が殺されたことで捨三が主水を責めていた。
これで、盗人に繋がる手がかりはなくなった。
印玄はバツの悪そうな主水を見て、笑った。

「勝手なことばっかり言いやがって」。
だが逆に、ロクが殺されたということは、盗人がまだ江戸に潜んでいる証拠だ。
市松が、やってきた。

越中屋の盗人たちのことを市松は知らせた。
「今夜あたり、仕事をして高飛びするつもりだ」。
その言葉で、仕置屋は動いた。

捨三が提灯を持って、主水を誘導する。
おるいを追った2人が来ないのを、仕事前の銀次は苦々しく思っていた。
そこに「こんばんは」と捨三の声が響く。

「おるいさんの使いの者でございます」。
その言葉で銀次の手下が戸を明けた。
途端に、主水が踏み込む。

応対に出た男を主水が抑えて、中に入る。
「静かにしやがれ」。
同心姿の主水を見て、手下が襲ってくる。
主水は、立て続けに2人斬る。

1人の手下は、屋根の上を走って逃げた。
だが待ち構えている印玄が男をつかんだ。
「離せ」と騒ぐ男を印玄は、「行け!」と言って突き飛ばした。

「やめてとめて」。
男はその言葉を繰り返しながら、屋根の上を滑っていく。
「あああああ」。

悲鳴を上げて男は落下した。
ぐきり。
骨が砕ける音がした。

銀次は部屋の中に逃げ込んだ。
その背後の障子に映る市松の影。
市松の影を見た銀次は、「てめえら、殺し屋だな!」と叫んだ。

匕首をかざして、市松を襲う。
市松がその手を押さえる。
そしてそのままくるりと、市松が床に転がる。
銀次が匕首を振り下ろし、市松を刺そうとする。

市松が竹串を銀次目がけて、突き出す。
竹串は銀次の片方の目に、深々と刺さった。
思わず銀次が目を押さえて、悲鳴を上げる。
銀次の背後から市松が、首筋を深々と刺す。

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Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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