「聖二郎!なぜ獣のような真似をするのですか」。
尼僧の桃源院の声が、悲痛に響く。
相手は葵の紋を背負い、狼藉無法の限りを尽くす松平聖二郎だった。
剣の腕も、剣豪といって良い腕を持っている。

「必殺仕事人」、第6話「主水は葵の紋を斬れるか?」。

道場破りをした聖二郎が、外に出て来る。
「看板もらって行きましょう」。
「先生の仇」。
「叩ききってやる」。

聖二郎は、道場の看板の上を土足で歩いている。
襲い掛かる門弟たちを、看板の上を土足で行き来しながら叩きのめす。
左門が見ている。

倒れた門弟たちの刀をまとめて、防火用水に突っ込むのは、用心棒の舎熊。
葵の紋の提灯を倒れた門弟に見せ付けるようにかざして、用人の陣内が行く。
先頭には着流しの聖二郎。

「待てい!」
一人の男が刀をかざしながら、追ってくる。
「お前に俺が斬れるかな」。
聖二郎は見向きもしない。

「これが目に入らぬか」と陣内が提灯を持つ。
「葵のご紋にはむかうってことは、わかってるなあ?」
「一族郎党、死罪だぞお」と、舎熊も言う。
しかし、男は追って来た。

振り向きざま、聖二郎は刀を抜くと走りながら、男を斬った。
ものすごい腕だった。
主水たちが来る。

「おい、役人、なぜ、俺を捕まえん」。
聖二郎が言う。
「十手が泣くぞう!」
「どうだ、意地を見せて俺を捕まえるか」。

「それともこの、葵の紋をくぐるか、どちらにする?」
陣内が提灯を手に、股を広げる。
そこをくぐれ、と言うのだ。
「黙って引き下がるんですか」。

筆頭同心井沢が屈辱に、思わず、身を乗り出す。
その殺気を感じた主水は、「いけません。絶対に逆らっちゃいけません」と止める。
主水たちは地面に這いつくばい、葵の紋の提灯を持つ陣内の股の下をくぐった。

この無法を、役人たちは取り締まらない。
主水が袖の下をもらった商人が、怒りの目で主水をにらんでいる。
しかたなく、主水は袖の下を返した。

金をむしられた挙げ句、妻子を死に追いやられた恨みを晴らしてくれと、鹿蔵に頼んできた商人は、無理だと判断され、鹿蔵の前で川に飛び込んだ。
これに打たれた鹿蔵は、仕事を引き受けた。
だが主水も左門も秀も、相手が葵の紋を背負っているため、仕事は断った。

しかし意外にも聖二郎の殺しを、老中稲葉が鹿蔵に頼んできた。
子供のいない稲葉は、甥っ子の伊藤伊織を息子と思って育ててきた。
その伊織の妻が、聖二郎に辱めを受け、死んだ。
妻の無念を果たそうとした稲葉の甥を、聖二郎は斬った。

市中で主水たちを辱めた時、斬ったあの男が伊織だったのだ。
それだけではない。
秀と左門の暮らす長屋の娘の嫁入り行列の前に聖二郎は立ちはだかり、娘をさらった。
娘は殺された。

左門も秀も、嫁入り行列からさらわれ殺された娘を前にしてはもう、許せなかった。
再三にわたり、この仕事を断った主水もついに引き受ける。
「この仕事から逃げる奴は仕事人じゃねえ。元締めはそう言いてえんだね」。

仕事料は25両という大金だった。
大物の証だ。
「気をつけろぉ。相手はばけもんだぞお」。
主水は左門と秀に、そう言った。

主水たちが仕事に向かう頃、聖二郎を尼僧・桃源院となった実の母親が訪ねてきていた。
追い返せという聖二郎だったが、母はすでに部屋に来ていた。
「聖二郎、やはり、生みの母をお忘れか」。

用心棒の舎熊と用人・陣内がギョッとする。
舎熊が思わず、顔をそらす。
聖二郎は母親の顔を見て、「出て失せろ」と言った。
「出て行け」。

母は聖二郎の前に座った。
聖二郎が、刀を抜く。
母親の前に刺す。
だが桃源院は動じない。

聖二郎は舎熊と陣内に「表へ連れ出しなさい」と言った。
「聖二郎!なぜ獣のような真似をするのですか」。
尼僧の桃源院の声が、悲痛に響く。

「同じ松平家の血を引きながら兄じゃは将軍、お前は日陰の身!そんな風にした私を恨んでいるのですか!」
「聖二郎!せめて人様に迷惑をかけないような人間に!」
「聖二郎!聖二郎!」

だが舎熊と陣内は、桃源院を門前に放り出した。
「若がああ言っている。2度と来ないほうが良いよ」。
そう言って、扉を閉めた。

その直後、秀が、舎熊と別れた陣内を襲う。
壁に押し付けられた陣内はろくに抵抗もできず、秀に首筋を刺された。
酒蔵に酒を取りに来た舎熊を、左門が襲う。
刃を合わせた末、左門が斬る。

葵の紋の入った提灯が、燃えている。
暗い廊下を誰かがやってくる。
明かりのついた座敷が見える。

聖二郎が飲んでいる。
廊下から現れた主水が頭を下げる。
聖二郎が、不思議そうに見る。

市中で老中・稲葉の甥っ子を斬った時にいた、同心の1人だ。
斬ったのが稲葉の甥っ子だったとは知らなかったが、妻を辱められたために刀を抜いてきた。
だから一刀の元に、返り討ちにしてやった。

市中だったため、同心たちがやってきた。
だから同心たちを、葵の紋で震え上がらせてやった。
舎熊の股の下をくぐらせてやった。

その時にいた、同心の1人だ。
一番風采が上がらない、下っ端のようだった。
「何の用だ」。

「はい、ちと悪いお知らせがあってやってまいりました」。
「何?」
「はっ。ただいま、葵のご紋の提灯持ちが2人、なくなられましてな」。
「それで」。

聖二郎の声には、驚きもなかった。
「わたくしめ、八丁堀同心中村主水と申します」。
主水が平伏する。

「お願いでございます。提灯持ちにわたくしめを新規ご採用願えませんか」。
主水は大刀を、自分の前に横にしておいた。
その前、主水と聖二郎の間には膳がある。
これ以上ないほど、主水は頭を下げる。

聖二郎が、じっと見る。
「葵のご紋から」。
そう言いながら主水の手は、眼の前で横に置いた大刀をつかんでいる。

「月々いただく三十俵二人扶持のお手当てでは」。
平伏した主水はそっと、大刀の柄をつかみ、鞘から出している。
主水の前におかれていた、聖二郎の刀がすうっと引いていく。

入れ替わりに主水の抜き身の刀が、聖二郎と主水の間にある膳の下に入っていく。
膳が聖二郎に、ひっくり返される。
主水が膝を立てる。
聖二郎と主水、お互いの刃がはじかれる。

立ち上がった聖次郎がもう一度、刀を振り下ろす。
主水は交わす。
聖二郎は、刀の切っ先を回転させる。
「ええい!」

膝を立てたままの主水の左手に握った小刀が、聖二郎に突き刺さっていた。
主水の頭の上には、聖二郎の刃がある。
刃は主水の頭まで、降りてこなかった。

深く、もう一度、主水は聖二郎に自分の刃を突き刺す。
主水が立ち上がる。
聖二郎は主水に刃を向けたままの姿勢で、ジッと見つめる。
主水が立ち上がり、聖二郎と対峙する。

「良い奴に巡り合った…」。
聖二郎の刃は、主水の肩の上にあった。
「いつか俺を殺してくれる奴を、ずうっと待っていた…」。

聖二郎の声には、わずかだが笑いが含まれていた。
「葵の紋に、逆らう奴をな」。
聖二郎は首にも、一筋の傷を負っていた。

主水はそのまま、聖二郎を刺す。
黒い着流しに白く染め抜かれた、葵の紋が見える。
聖二郎の手が、だらりと落ちた。
目は、主水を凝視したままだった。

主水が清次郎から刀を抜いた。
「うぅ」。
聖二郎が倒れる。

刀を杖として支えながらもう一度、聖二郎は立ち上がろうとする。
そしてなおも振り返り、主水に向かって刃を閃かせた。
だが主水は一気に、今度は右手の大刀で聖二郎を斬った。
さらにもう一度、横殴りに斬った。

聖二郎が、うずくまる。
主水は両手に刀を持っている。
両手に刀を持ったまま、部屋の奥に歩く。
ろうそくの炎を吹き消す。

聖二郎は暗闇の中、1人残った。
「母上、これで良いんだろう」。
そう言うと、聖二郎は動かなくなった。
暗い、部屋の隅で。

数珠が飛び散る。
聖二郎の母・桃源院は、門前で自害していた。
秀と左門が、主水を待っている。
主水が来る。

「門の前を見たか」。
左門が聞いた。
「あんまり気にするな。後味の悪いのはお互い様だ」。
「人にはそれぞれ、いろんな生き様ってもんがあるんだ。じゃ、けえるぞ」。

主水が去っていく。
先ほどの激闘を、微塵も感じさせない口調だった。
左門と秀も帰って行く。



松平聖二郎は、目黒祐樹さん。
やっぱり、すごく良いね!
葵の紋が入った、黒の着流しがお似合いです。
裾裁きも綺麗。

すばらしいのは、道場破りをして取り上げた看板の上を歩くシーン。
一直線に線を引いたようにまっすぐ、歩く。
端まで行くと、引き返す。
この所作が、すごく綺麗。

着流しの裾のさばき方も、綺麗。
殺陣はやはり、さすがの迫力。
さすがだなあと思いながら、見ていました。

無法をしても、それで聖二郎の心が休まるわけではない。
聖二郎の兄が将軍であり、自分は日陰者であることは変わらない。
兄にこの気持ちも、感情もぶつけることはできない。

自分の根本が解決しない限り、人にぶつけても解決はしない。
心は荒む一方。
しかし、そんなことは他の人間には何一つ、関係がない。

そんなことに巻き込まれた人間が、納得できるはずはない。
聖二郎がやったことは決して許されない。
市中の者の怨嗟のまなざし。

あれは放置したら、そのうち幕府、将軍への非難となっていくことでありましょう。
いや、聖二郎は案外、そうなってほしかったのかもしれない。
それが兄への、将軍への何よりの復讐になる。

葵の紋には、誰も逆らえない。
聖二郎は葵の紋をたてにして無法を働くが、その実、葵の紋に誰も逆らってこないことに苛立っている。
少しも楽しくない。
それは自分もまた、葵の紋の力には決して勝てないと思い知らされるだけだから。

逆らってきた相手はいても、聖二郎を斬るに至らない腕ばかり。
本気を出した聖二郎には、あっさり斬られてしまう。
誰も自分を斬ってくれない、葵の紋を地に落としてくれないのだ。

ついに主水が、闇の暗殺者としてやってくる。
対決。
じわじわと高まる緊張感。

平伏しながら、刀を抜き始める主水。
聖二郎は密かな殺気を察知し、こちらもまた太刀を引き寄せる。
交わされる主水の刃、交わされる聖二郎の刃。
刃が閃き、重なる。

これはもう、暗殺ではない。
優れた剣の腕を持つ同士の、ぶつかり合い。
初めて、初めて聖二郎は充実感を感じたのかもしれない。

勝負は一瞬の間で決まった。
一瞬で決まったようだが、それはどちらが斬られていても不思議はない勝負だった。
主水が、二刀流で対抗するほど。
そして聖二郎の武士としての意地は、最期まで主水に向かって抵抗を試みる。

一方、聖二郎は言う。
誰か、俺を斬りに来る奴を、と。
俺を眠らせる奴を待っていたのだ、と。
憎み、憎みながらも離れることができなかった葵の紋を地に落とす奴を。

「誰も斬ってくれなかった…」。
葵の紋があるゆえに。
異常に強い腕があるゆえに。

聖次郎の苦悩は、全覚の地獄を彷彿とさせる。
主水が全覚との地獄を見ていなかったら、勝てなかったかもしれない。
いや、この時の主水なら、全覚にこうして安らぎを与えられたのだろうか。

激闘の末、やってきた主水は門前で尼僧が自害していることを聞く。
左門も秀も、嫌な気分だった。
だが剣士として勝負を決めてきた主水は、あっさりしている。


さてこの回は、この後、元締めの鹿蔵とっつぁんが主水の家までやってきます。
そして、当分の間、戻らないと言う。
今回、直接仕事を依頼した稲葉に、自分がいることで迷惑が掛かるかもしれない。

鹿蔵は主水に、半吉の面倒をよろしくと言っていく。
尾張の方に大きな仕事があるから、それをして帰ってくる。
その時はまた、2~3人殺してもらいますよと言って、晴れ晴れと笑う。

この晴れ晴れさに、凄みがある。
笑顔で去っていく鹿蔵。
実に貫禄があり、大物の元締めという感じがある。

次回から、山田五十鈴さんが登場。
舎熊と左門さんの侍対決もあり、こちらの殺陣も楽しめる。
いろいろと見所ある回です。

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2016.06.17 / Top↑
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