今は悲しい 松方弘樹さんインタビュー

「役者は1日にしてならず」。
俳優さんたちへのインタビューで構成された本です。
春日太一さん著。

好きな俳優さんたちがたくさん出ていて、私にはとても楽しい本です。
現在は闘病中の、松方さんのインタビューが出ていました。
松方さんは、時代劇とヤクザを演じる時、着流しの長さを変えているとか。

「今は、自分で帯が締められる役者さんはいないでしょう。
着流しを衣装さんに着せてもらう時、足を開いて突っ立っていると、帯から下がフレアスカートのようになってしまいます。
僕は着流しを着せてもらう時、足をクロス気味に閉じて着ます。すると、タイトスカートになるんです」。

「僕は先輩がそうしているのを見てきましたが、今の俳優さんは見ていない。
それではダメです。袴も帯の位置も、自分で着て、自分で合わせないと。
帯も締められっぱなしだから、途中で苦しいと言い出す」。

話は萬屋錦之助さんに。
「時代劇で渡世人を演じる時、錦兄ぃは浅黄色のパッチに、ストレッチ素材を特注で入れていました。
ですから、立つ時に皺が寄らなくてカッコいいんです。何であんなにカッコいいのか、今の人はわからないんじゃないかな。
錦兄ぃはセリフも動きも、天下一品でしたよ。僕の若い頃の芝居は、ほとんど錦兄ぃのマネをしています」。

「華があった。華って天性のもので、後から磨けないんですよ。主役には華がないとダメです」。
錦之助さんの弟の中村嘉津雄さん(津は草かんむり)にも、教えてもらったことがあるそうです。
「遠山の金さんの長袴の裾を前に飛ばす時、うまく飛ばない。裾の先に、小銭を入れておくんです。
そうすると、それが重しになって伸びる。そういうのは、中村嘉津雄さん(津は草かんむり)に教えてもらいましたね」。

松方弘樹さんのお父様は、名優・近衛十四郎さん。
しかしお父様に教えてもらったことはないとか。
ただ、立ち回りは見ておけと言われた。

「父は立ち回りは、1回で覚えるんですよ。僕が10回も20回もやっている時、父は『疲れるからやらんぞ』とイスに座っているだけでね」。
「それで本番テストになると、『1、2、3、4手で早く行くぞ。4手と5手で間を入れるぞ』」。
「『6、7、8、9、10、11、12は早いぞ』
『12手と13手は間があるぞ』って言いながら20手ぐらいを1回で覚えるんですね。僕も覚えるのは早い方ですが、何で覚えられるのってぐらい、父は早かったですね」。

「あの頃は先輩と撮影する時は必ず、部屋にご挨拶に伺うの。それは父親でも。挨拶に行くと鏡越しに『おう』と言うだけで、振り向いてもくれません。
ただ、立ち回りだけは見ておけと言われたので、見ていました。撮影が終わると、セットを何杯も見て行きました。
今の俳優は自分のロールが終わると帰りますが、自分たちの時はそんなことは絶対になかった」。

近衛は刀を斬り上げる時に右手を返す型が特長だが、それは松方も引き継いでいる。
「その方がただ、斬るだけより良いんですよ。刀の先が動きますからね。刀は手首に力が入ったら、動かないんです。
今の俳優さんは、手首が硬いまま、刀を振り回している。そうすると、刀は走りません」。

「ゴルフは手に力を入れると、飛ばないでしょう。あれと同じです」。
「大川橋蔵さんは、斬る時に内股になるんです。すると袴をはいていない、着流しの時は裾が乱れずに綺麗なんです。
そういうのは見ていればわかることですが、基礎がなかったら見てもわかりません」。

「僕は先輩がやったことは覚えていて、今も注文しています。
例えば弁慶をやる時、袈裟頭巾と言って、坊さんの袈裟を頭に巻くのがカッコいいんです。
袈裟は金糸が入っていて、綺麗なんです」。

「でも今は、その袈裟をピシッと巻けるスタッフがいない。だから白い布をただ巻くだけ。
注文をこちらから出さなければ、お仕着せになってしまう。
ですから時代劇というのは、ポイントを見ておかないといけないんです。注文をこちらから出せるだけの知識が必要です」。

「仁義なき戦い」の時の深作監督は、朝まで飲んで、『お前ら寝るな』って言うんです。明日の撮影は、目が赤い方が良いって。
それでも平気なぐらい、集中していました。
監督さんというのは、スタッフ、キャストを引っ張っていくパワーが必要なんですよ。
あの時の深作さんには、パワーがあった。統率力とカリスマがありましたよ。
実働45日で、あの人はほとんど寝てなかったんじゃないですかね」。

「台本を読んで良い役だと思ったのが、ポッと出た俳優と思っていた人たちに行ったことがありました。
でもこれが川谷拓三、室田日出男、志賀勝なんです。その中に入ったら、霞んで消えちゃうんですよ。
出が多ければ良いってわけじゃないんですよ。ワンシーンでもちゃんと演じられるかどうか。
良い台本は良い役がいくつもある。ちょっとしか出てなくてもね。そう言う役がある台本は良い本だ、出たいと思って出ます」。

「悪役はおもしろいです。主役は淡々としている方が良い。ずっと出ているわけですから、やりすぎるとお客さんが飽きてしまう。
悪役が主役を食うほどやると、逆に主役が立ってくるんです。
主役も回りも下手だと、どうにも観ていられない」。
「昔は育ててくれました。今は使い捨てです。僕は良い時代に、俳優の道に入ったと思います」。

話は、映画「十三人の刺客」での立ち回りに及ぶ。
春日さんいわく、「松方は武士としての佇まい、立ち回りの凄み。並み居る若手人気俳優を圧倒していた」。
それについて松方さんは言います。

「立ち回りは、いきなりはできませんよ。刀を持ったことも、差して歩いたこともなければ」。
黒澤監督が「椿三十郎」で当時の若手の加山雄三さんや、田中邦衛さんに「着物を着て生活しなさい」と言いましたね。
仲代達矢さんも、刀は重い。
差して歩いていると、歩き方が違ってくるとおっしゃっていました。

「袴もはいていないから、どんどん下がってきて、5回も座ったらお尻が出て、引きずって歩いています。
僕の立ち回りは出演した若手俳優さんは見に来ていましたが、見ててもできないんです。
しかもあの立ち回りは『動』ばかりで『静』がない。バンバン斬って血糊を塗っているから、誰が誰だかわからなくなるんです」。

「ですから、僕の絡みでは『僕がジッとしたら動くな』と言いました。止まるから初めて、動いた時に速く見える。
立ち回りは、1人ではできない。
絡みがいて、初めてできるんですが、あの現場では2百人のうち、できるのが5人ぐらいしかいなかった。

だから『動くな』と言ってもみんな、はやるんですよ。
自信のない奴はどんどん近寄ってくるんです。
刀は遠くから伸ばした方がよく映るのに、近くに来るんです」。

「絡みができる俳優が、本当にいなくなった。
芯のある主役がいなくて、両方が下手だったら、今の時代劇は観てられないわね。
…ひどい」。

でも松方さんは、今の俳優さんをけなしているのではありません。
「今は使い捨てなんです。昔は、映画会社にはスターを育てるという使命がありました」。
「そう言うシステムの時代に、僕はこの業界に入ったんです。今はもう、そう言うシステムではない。映画会社が自前で映画を作りませんからね」。

「昔の時代劇がちゃんと所作ができているのは、時間をかけているからです。時間とは、お金です。
僕の若い時は20回もテストをしてくれましたが、今は1回か2回ですからね。うまくなりません。
お金をかけないのが、すべてです」。

「俳優さんが悪いんじゃない。
体制が悪すぎる。悲しいです。
良い時代を見ているだけに、悲しい」。

共演した若手俳優さんたちのことを「芝居はうまい」。
「すごく良く考えて芝居をしている」。
「けど、まだ若い。彼らが40歳過ぎて『立つ!』となった時、蓄積したものが残っていたら良いと思います」と話しています。


現在、松方さんは闘病中です。
松方さんの「遠山の金さん」には、女優の池上希実子さんが出ていました。
この時、池上さんは最初、出演を断ったそうです。
理由は、お嬢様の受験。

それを聞いた松方さんは池上さんに「待つ!」と、おっしゃったそうです。
待つと言える松方さんの影響力にも驚きましたが、池上さんを待つと言う松方さんに驚きました。
でもこのインタビューを知ると、松方さんには明確なこの役は池上さんじゃなければいけない理由があったんだと思います。
それだけのこだわりと、見抜く目があった。

でも自分のために「待つ」と言ってくれたら、それはうれしいですよね。
期待に応えようと思います。
松方さんを大切に思います。

ご家族のことや私生活でいろいろと言われることもある松方さんですが、慕う人も多いはずです。
目黒弘樹さんの立ち居振る舞いと殺陣の見事さに、最近でも感嘆したばかりです。
松方さんがインタビューで言っていることは、さすが、時代劇を演じ続けて来たスターだと思いました。
松方弘樹さんの回復を心より願います。



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お久しぶりです。

こんばんは…お久しぶりです。
『シン・ゴジラ』気になりつつも未だに観られずのキラです(笑)。

『役者は一日にしてならず』松方弘樹さんのインタビュー。僕も感じ入って読みました。
所作事や殺陣だけではなく、脚本や演出の約束事を伝えて活かす場(ば)もない時代劇の現状…松方の言葉通り、切ない…そして寂しいかぎりですね。

「美術の世界であれ、音楽の世界であれ、基礎もろくに勉強していない者が一流になれるようなニセモノの世界ではない。映画にも骨法と呼ばれる先人の築いた基本がある。顔を洗って出直して来い!」

映画『仁義なき戦い』『二百三高地』等を書かれた脚本家の笠原和夫さんは、晩年自分の所に脚本を持ち込んできた、脚本家志望の若者の脚本(ホン)を読み、こう言われたとか…。
文化の継承と継続の大切さ、伝わりますね。

ちなみに松方さんといえば、僕が思い出すのは“ある時期の”東映映画。
『仁義なき戦い』『県警対組織暴力』『脱獄広島殺人囚』『北陸代理戦争』『広島仁義・人質奪回作戦』
勢い余って風情無し!松方さんの不思議な明るさとクセになるしつこさは(笑)あの頃の東映映画によくハマっていました。

それでは、また…。
やっぱり気になるわぁ~『シン・ゴジラ』(笑)

キラさん

>キラさん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>『シン・ゴジラ』気になりつつも未だに観られずのキラです(笑)。

そうなんですか!
好きか嫌いか、わかりませんが、おすすめします(笑)

>『役者は一日にしてならず』松方弘樹さんのインタビュー。僕も感じ入って読みました。

ですよね。
やっぱり、すごい俳優さんだと思います。
そして、松方さんの前にも、すごい俳優さんたちがいたんだと思いました。

>所作事や殺陣だけではなく、脚本や演出の約束事を伝えて活かす場(ば)もない時代劇の現状…松方の言葉通り、切ない…そして寂しいかぎりですね。

本当です。
これほど危機的とは思いませんでした。
今の時代劇に何があれば違って来るのか、わかったように思いました。

>「美術の世界であれ、音楽の世界であれ、基礎もろくに勉強していない者が一流になれるようなニセモノの世界ではない。映画にも骨法と呼ばれる先人の築いた基本がある。顔を洗って出直して来い!」
>映画『仁義なき戦い』『二百三高地』等を書かれた脚本家の笠原和夫さんは、晩年自分の所に脚本を持ち込んできた、脚本家志望の若者の脚本(ホン)を読み、こう言われたとか…。

脚本のことだけではない。
すべての世界の職業に対しての敬意が感じられる言葉ですね。

仲代達矢さんは、学ばなくてもできてしまう、天才っているんだよとおっしゃってました。
でも、基礎はやっぱり学んだ方が良い。
年齢重ねて行くから、天才でもやっぱり学んでおいた方が良いとおっしゃってました。
笠原和夫さんのおっしゃることと重なります。

>文化の継承と継続の大切さ、伝わりますね。

はい、これは確かに、途切れたら取り返しがつかないと思いました。

>ちなみに松方さんといえば、僕が思い出すのは“ある時期の”東映映画。
>『仁義なき戦い』『県警対組織暴力』『脱獄広島殺人囚』『北陸代理戦争』『広島仁義・人質奪回作戦』
>勢い余って風情無し!松方さんの不思議な明るさとクセになるしつこさは(笑)あの頃の東映映画によくハマっていました。

この時の松方さんは良い!
すごく記憶に残ると言われていますね。

>それでは、また…。

良かったら、また来てくださいね。

>やっぱり気になるわぁ~『シン・ゴジラ』(笑)

おすすめします(笑)。

コメントありがとうございました。
プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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