何度見てもゾクゾクするのは、「必殺仕置屋稼業」第1話の市松登場シーン。
一発で市松という男に惹き付けられる名シーン。
沖雅也さんです。

あの横顔。
音もなく、後ろにつく姿。
優雅な扇を扱う手つき。
蒸し暑そうな夜、彼の周囲だけ温度が低いような空気感が出ている。

そしてあっという間に標的の首筋を竹串で刺す。
次の瞬間、主水と扇越しに目が合う。
かき消すようにいなくなり、主水が見失ったと確認すると立ち上がり、竹串を折る。
息を呑むような数分間です。

「必殺」には名シーンが数多くありますが、その中でもベストに入るのではないでしょうか。
第1話はこの後も、中村玉緒さんのおこうが一瞬でその個性を見せつけます。
市松は優雅で危険な猫科の動物を思わせます。

おこうは、主水に薄笑いを浮かべながら仕置人であったことを知っていると告げる。
そして、一遍、、お仕置きをした人間は一生、その首かせから抜け出せんのと違いますか?と言う。
この時のおこうの目は、笑っていない。
やはり、隙の無い猫科の動物の目です。

この10分ぐらいの間、たたみかけるように次々と重要人物が現れる。
そして雪崩れ込む仕置シーン。
少女に仕置を見られたと思った市松が飛んでくる。

主水が息を呑む。
少女の目が見えていないことを知った市松が、優しく微笑み、少女を船に乗せるために連れて行く。
構成の見事さ。
この前の作品「仕事屋」は名作ですが、「仕置屋」もそうなのだと思わせるのに十分。


そして「一筆啓上罠が見えた」。
この第2話は、この市松の生い立ちが明らかになる。
親代わりに市松を育てた男は、鳶辰。
裏稼業は、殺し屋。

市松の実の父親を、密告によって死に追いやった男だった。
自分が手配した殺し屋が、標的を狙っていることを標的自身に教えてやる。
その謝礼を受け取る。

殺し屋に狙われるような人間には、何か後ろ暗いことがある。
鳶辰はさらにそれを探り、大金を脅し取る。
市松を育てたのは、そういう男だった。

だが市松は、それを知らない。
この男に市松がかわいがられていることは、鳶の面々がやってくる市松を見るシーンでわかる。
「市松さんだ」と言って鳶たちが立ち上がり、そそくさと出て行く。

やってきた市松は友人・源次とすれ違う。
この友人は、市松同様、鳶辰に使われていた殺し屋だった。
しかし足を洗ったはずだ。
それが復帰しようとしている。

市松の話によると、おみつは裏稼業を嫌っていた。
それなのに、なぜ。
源次は妻のおみつに子供が生まれるためにお金が必要となり、殺し屋に復帰したのだ。

だが源次が向かった相手は、用心棒を用意して待ち受けていた。
源次は返り討ちに遭う。
瀕死の源次が逃げ出すのを、用心棒が追う。

どこからか、竹串が飛んでくる。
用心棒が身を隠す。
出て行こうとすると、竹串が自分を狙って飛んでくる。
その間に源次は逃げおおせた。

おみつの元まで逃げ帰った源次は、10両をおみつに残すと死んだ。
仕置屋に、源次の仇討ちとして鳶辰の仕置が持ち込まれる。
仕事の話を持ってきた印玄だが、市松は断る。

そして独自に、おみつの元へ行く。
おみつに、市松は、金なんか払わなくても俺がやってやった。
なぜ、自分に頼みに来ないと言う。

すると彼女は言う。
自分は、市松に裏稼業から足を洗ってくれと言ったはずだ。
その気持ちは今も変わらない。

おみつの目と市松の様子から、おみつが遊女であったこと。
その店に市松と源次が行ったこと。
最終的におみつは、市松ではなくて源次の方を選んだことがわかる。

理由はおそらく、市松は根っからの裏稼業の人間だからだった。
おみつは市松のことは好きだったのだろうが、市松は裏稼業をやめないことがわかっていた。
だからおみつは、市松を選ばなかったのだ。

源次は、市松の父親同様、鳶辰の密告によって、死ぬ。
市松の父親が、回想の中に現れる。
彼同様、涼しげな容貌の黒ずくめの男。

おこうに仕置を頼んで、おみつは自らの命を絶つ。
鳶辰の正体を知った市松。
「すぐにけえってくるからな」と言って出かけた父親は、それっきり帰ってこなかった…。
源次同様、鳶辰の罠にはまって落命したのだ。

父親が市松に折ってやった鶴。
市松は折り鶴を見る度、帰ってこなかった父親を思い出す。
本当の父親、そして「オヤジ」と呼んでいる鳶辰。

鳶辰は、いったい、何を思って自分が死に追いやった兄貴分の子供を育てたのだろう。
決して、贖罪のために市松を育てたのではないと思う。
市松の殺し屋としての素質に、惹きつけられたのだろう。

しかしそれにしても、子供だった市松が成長するまでの時間があった。
誰にもわからない、市松と鳶辰の心の交流だってきっとあったのだ。
だがそれは、偽りの絆。
市松はそれを、断ち切らなければならない。

第1話では得体の知れない、人間らしさがない冷酷な殺し屋に思えた市松。
捨三は、「あっしらは仕置屋ですよ」と主水に言う。
市松は殺し屋だ、殺し屋と仕置屋では全然違うと言う。
信用できない。

それほど捨三に言わせる市松だが、殺人機械どころか人間だった。
人間らしいどころか、誰にも触れられない傷を一人で抱えている青年だったのだ。
そして今、彼はその傷口をさらに深くし、血を流すのだ。

折り鶴を残して、帰ってこなかった父親。
夕日を浴びながら、市松は折り鶴を折る。
その夜、仕置屋は鳶辰を狙った。
仕留めたと思った鳶辰は、影武者だった。

主水を影武者の罠にはめ、鳶辰は短筒を向けた。
捨三がかばおうとするが、とてもではないが守れない。
するとその背後に、折り鶴が飛んでくる。
主水がそれに気づき、笑う。

竹串に仕掛けられた折り鶴は、勝ち誇っていた鳶辰の首筋に深く刺さった。
白い折り鶴が、鳶辰の血で赤く染まっていく。
「ん?」と鳶辰が首筋に手をやる。

血の気が引いていく。
鳶辰は倒れた。
彼にはわかっただろうか。

自分のやったことが。
これが市松からのものだということが。
市松の彼に対する別れだということが。

そしてこの折り鶴が市松にとって、父親の象徴だったことは誰にもわからない。
父の象徴である折り鶴を、自分の父親を殺した義理の父に投げる意味を。
心の痛みを。

目に涙をため、去って行く市松。
これが自分の運命か。
なぜ、こんな呪われたような運命なのだろう。
自分には人間らしい生き方は、赦されないのか。

市松の心は張り裂けそうだ。
背後の主水たちに、もう市松の目は向いていない。
そこに主水が声をかける。

「助かったぜ」と笑う主水に市松は振り向く。
さっきまでの表情は、嘘のように消えている。
不敵で冷酷な市松が、そこにいる。

無表情に、手を差し出す。
仕置料、寄越せ、ということだ。
しかし主水は、おこうから市松の分までは受け取っていない。

そう言うと市松は「そんなことは知ったことか」と言う。
助けてやったんだから、金を払えと。
「おめえの命料だ」。
主水は渋々、自分の分を差し出す。

2両を受け取った市松はバカに仕切ったように、「2両か」と言う。
「安い命だな」。
これには主水もカッとなった。

聞いていた印玄も、露骨に顔をしかめた。
捨三に至っては、吐き捨てるような表情だ。
嫌な奴。
そこにいた全員が、そう思った。

「危ねえ時ゃ、またな」。
そう言うと、市松は去って行く。
後ろ姿が泣いている。
だがそれに気づく仕置屋の人間は、いない。

市松は感情がない冷酷な殺し屋なんかじゃない。
しかし市松は声も出さず、涙も見せない。
自分に対する運命の悪意を受け止め、負けないぐらいの悪意で返す。

だから誰も気がつかないだけだ…。
一皮むけば、そこには痛いほどの心の傷を抱えている、繊細な青年がいる。
実に痛々しく、哀しい…。
第2話は市松の人となりを掘り下げる、痛々しい話でした。


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2016.12.14 / Top↑
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