悪鬼、妖魔、妖怪 「黒百合の系図」

美内すずえさんというと、「ガラスの仮面」が何と言っても有名ですが、この方、ホラー描くとすごく怖い。
「13月の悲劇」などの外国を舞台にしたものも良いですが、私が思い出すのはこの3話。
「白い影法師」「黒百合の系図」「妖鬼姫伝」。

友達は熱を出して学校を休んだ時、お母様がマンガを買ってきてくれたそうです。
そのマンガが「白い影法師」。
2度目に熱を出して休んだ時は「黒百合の系図」。
「なぜだかわからん…」と言っていました。

「白い影法師」と「黒百合の系図」では、クライマックスで姿を現した亡霊や怨霊の顔がすごい。
私は「黒百合の系図」のページをめくって、バーン!と顔が出ていた時は本気でギョッとしました。
何度か読み返しましたが、最初の時は見るたび、ギョッとしてましたよ。


高校生の安希子は、ある日突然、母親を亡くす。
誰もいない陸橋から落下したのだが、母親に自殺する理由はない。
しかし数日前には、妙なことがあった。

庭に黒百合の花が咲いた。
珍しいので、安希子は母親を読んだ。
それを見た母親は真っ青になった。

ぼんやりと考え事を下かと思うと、安希子に「安希子を残して行きたくない」と泣いた。
母親の死には、何か理由がある。
安希子は母親の遺品を整理すると、そこには「魔霊退散」と書かれたお札があった。

母親の旧姓は、「飛竜」。
そして故郷は、鬼姫谷。
母親は故郷から出て来て、父と結婚したが、二度と故郷に戻ることはなかった。

安希子は母親の故郷に向かう。
母親の実家は山奥にあった。
そこで、親戚の秋月家を訪ねた。

夜、田舎の村は静まり返っている。
安希子が寝ている秋月の家も、静まり返っていた。
その時、誰かが廊下を歩いて来る。
安希子の体が、動かない。

やってきた誰かは、安希子を見て言った。
「お前で最後…!」
そう言って、片頬をあげて、クッと笑った。

近所の子供に、道なき道を近道と案内されながら母親の実家にたどり着く。
家に入ろうとすると、村中の者が妙な表情を浮かべている。
そこは化け物屋敷だと言うのだ。
真っ暗な中、家に入った安希子が見たものは床に突き立てられた日本刀だった。

安希子の母の飛竜家は、戦国時代にここを収めていた松永家の家老職だった。
ある時、松永家は戦で絶体絶命の危機に陥った。
当主の勝久は、鬼神の像の前で祈願した。

「この戦に勝たせてくれたら、今度の子供はそなたにやろう」。
奇跡的に、松永家は勝利を収めた。
そして奥方が生んだ女の子の頭には、小さな角があった。

鬼神だ。
鬼の子供だ。
姫は千也姫と名付けられた。
千也は類い稀なる美貌と、類稀なる残虐さと狂気を持つ姫だった。

「父上の真似じゃ、お手打ちごっこじゃ!」
そう言って笑いながら、庭に並べた犬の首を切り落として行く。
見ている子供も、家来も震えた。

成長しても、千也姫の気質は変わらない。
内掛けが気に入らないと言っては、侍女の腕を切りつける。
今度やったら、切り落とすと叫ぶ。

ついに勝久は、刀を持って姫を斬ろうとする。
松永は勝久殿を止めようとするが、殿が振り下ろした刀は石に当たった。
石に当たった刀は跳ね返り、勝久の胸を貫いた。
「なぜ、止めた、わしは鬼を退治しようとしたのだ」と言って、勝久は絶命する。

それを見て千也姫は、クッと片頬をあげて笑った。
自ら甲冑を着て、戦に出るようになった千也姫は連戦連勝。
瞬く間に周囲の国を落とし、領土を広げた。
その戦いぶりは、目を覆うような残虐なものだったと言う。

しかしある年、この地方には天変地異が続けて襲った。
稲は実らず、困り果てた国は、いけにえを捧げることにした。
選ばれたのは、フキという村娘だった。

顔に面をつけられ、生贄になるフキは叫んだ。
「呪われよ、飛竜。「お前の一族が絶えるまで、未来永劫、呪われよ」。
これをきっかけに、あれほど強かった鬼姫が床に臥せるようになり、亡くなる。

では、飛竜家に祟っているのは、この村娘なのか。
その通りに、飛竜の家の者は次々、非業の死を遂げて行った。
安希子の母は叔父の家に身を寄せていたが、ある夜、叔父は日本刀を振り回して襲ってきた。
そこで母親はかろうじて逃げ、東京に来て働き、父と知り合って家庭を持ったのだった。

母親を守っていたのは、安希子が見つけたお札だったのだろう。
だがついに、その呪いが来たのだ。
東京に戻った安希子にも、次々に魔の手が伸びてきた。

庭に黒百合が咲いたのだ。
それを見た父親は、愕然とする。
通学で電車に乗ろうとした安希子は、髪の毛を引っ張られた。

後ろを見ると、面をかぶった和服の女性が立っている。
安希子は電車の閉まったドアに、首をはさまれた。
そのまま、首を電車のドアに挟まれ、ホームを引きずられたまま移動していく。

騒然とした乗客たちが知らせて、すんでのところで安希子は解放された。
あのまま電車が走ったら、どうなったか。
居合わせた乗客も、戦慄していた。

家でも危険なことは、起きた。
安希子が湯を沸かしていた時、ガスの火が消えた。
ガスだけが部屋に充満し、安希子は倒れていた。
知り合ったルポライターの源太郎が安希子を訪ねて来て、発見し、安希子は助かった。

安希子は夢を見る。
骸骨が甲冑を着て、戦場を走っている。
人々の声がする。

次に、面をかぶった女性が括られている。
女性は「呪われよ飛竜!」と叫ぶ。
安希子は、そこで目が覚めた。

自宅で倒れた安希子が退院した時に、友人がふざけて写真を撮った。
現像した写真を見た友人たちは、恐怖におののく。
そこには安希子の背後からしっかり、のしかかる女性の姿が映っていた。
源太郎は安希子に、鬼姫の呪いなどに負けないでくれと言う。

飛竜家に祟っているのは、フキではないのか。
いや、あれほどの鬼姫が村娘の呪いで倒れるわけがない。
フキと巧みに入れ替えられ、面をつけたまま生贄にされたのは千也姫だったのだ。

さらに安希子は、父親が捨てていた黒百合を発見する。
今度は私の番…!
『お前で最後…!』と鬼姫が、片頬をあげた笑みを浮かべているのがわかる。

その時、安希子が感じたものは恐怖ではなかった。
何の罪もない自分の母親。
松永家の子孫たち。

安希子が感じたのは、怒りだった。
ここで怯えながら死を待つより、戦おう。
安希子は決意し、再び、母の故郷に向かう。

フキと入れ替わった千也姫はバラバラにされ、それぞれの体の部位は塚に埋められていた。
だが、首塚がない。
千也姫が鬼である証拠は、頭の角だ。
その角がある首塚を見つけて、除霊すれば良いと僧侶は言う。

このためには、首塚を見つけなければならない。
安希子にのしかかる鬼姫の写真を見た僧侶は、この顔は亡霊などではないと言う。
悪鬼、妖魔、いやもう、妖怪の類いだと。

安希子は、秋月家の志郎の家に泊まっていた。
志郎の母親と祖母は、歓迎の笑顔とは裏腹に安希子を何とか帰さなくてはと考えていた。
しかし、母親はそれとは別に「首塚など探されてはなるものか」と、つぶやく。

「えっ?」
祖母が怪訝な顔をする。
母親は、どす黒い笑みを浮かべていた。

安希子が、志郎の母親が出した山菜料理を食べていた時だった。
山菜を見た志郎は、自分も食べると言って手を伸ばした。
母親は志郎の手を、はねのけた。

「いけません、志郎さん!」
唖然とする安希子だが、すぐに腹痛に襲われた。
それは毒であり、大量に摂取すると死ぬ危険もあるものだった。

なぜ、母親はそんなことをしたのか。
知らないはずがない。
だが志郎の問いに、母親は答えない。

安希子は離れで床に臥せっていた。
煙が充満してくる。
志郎の母親により、屋敷に火がつけられたのだ。

逃げなくては。
だが体が動かない。
ふと上を見上げた安希子が見たものは…。

部屋の空間に浮かび上がった、鬼姫の顔。
その顔は悪意に満ちていた。
片頬をあげて、クッと笑う。

安希子の、飛竜家の最後の一人を滅ぼす邪悪な喜びに満ちた笑み。
悪鬼、妖魔、妖怪。
「鬼姫…!」

その時、源太郎は首塚を発見していた。
バラバラにされた体が埋められている塚の数々。
その中心にあるお堂。

ここが首塚だろう。
堂を調べると、頭蓋骨が見つかった。
僧侶が清めた水を!と言う。
鬼姫の角がはえた頭蓋骨に、聖水がかけられた。

僧侶が経文を唱えていく。
ビシリ!
鬼姫の頭蓋骨に、ヒビが入った。

安希子の前に浮かんで笑っていた鬼姫の顔が、ビクリとする。
ぎゃああああと叫び、黒い霧となってしぼんでいく。
途端に、安希子の体が、動くようになった。

安希子は必死の思いで、逃げ出す。
屋敷が燃え落ちる寸前に、安希子は助けられた。
志郎の母親は、ここ数日の記憶を失っていた。

安希子は、鬼姫に操られていたのではないかと考えた。
さらに秋月の家が、飛竜の家の財産を横領していた疑いが出てきた。
秋月の祖母と母親が安希子を追い出したかったのは、この発覚を恐れてのことだった。

志郎は安希子に何と詫びて良いのか、わからない。
だがもう、そんなことは安希子にはどうでも良かった。
今はもう、誰を恨む気にもならない。

安希子は東京に帰った。
傍らには源太郎がいる。
飛竜の家の、非業の死を遂げた人々。

「東京に戻ります」。
「明日を、生きるために」。
母親のために、自分はひたむきに人生を生きて行こうと安希子は決心していた。


これは、最後に現れる鬼姫の顔が見事です。
まさに悪鬼、妖魔、妖怪。
美内先生の画力。

子どもの頃の記憶にある、田舎の風景もうまい。
雨戸がピタリと閉められている化け物屋敷と化した、安希子の母親の実家。
古びた屋敷の奥に、日本刀が刺さっている。
怖いですよ~。

そして、田舎の静かな夜。
静かと言っても、虫の声、カエルの声はにぎやかなんですよね。
夜中にふと、目が覚める。

するとにぎやかだった外の声が、まったくしない。
静まり返っている。
なぜ、虫もカエルも鳴かないのか。
一体なぜ。

そう思うと、何かがやってくる。
廊下をすっ、すっと歩いて来る。
「お前で最後」。
子どもの頃の、ふと目を覚ました夜中の怖さを思い出すシーン。

少女マンガだけど、母親がいきなり亡くなったり、結構ハードな展開。
犬のお手打ちシーンなど、残虐なシーンもあり。
でも笑えるシーンも、ちゃんとある。
近道と言って、人がつま先立ちでやっと通れる高い山の細い道を渡る安希子が「近道反対!」と叫ぶシーン。

しかし、あんな状態で正常な状態を保つ安希子は強い。
ちゃんと普通に生活してますもん。
自分ならあの写真だけでまいると思います。

安希子は怯えるより、こちらも怒りを持って立ち向かおうとする。
武将の血筋なのかなあ。
それとも、飛竜の先祖たちが力を貸しているのか。

最後に安希子はもう、恨みからは解放されている。
飛竜の、母親の思いを胸に生きていこうと決心して終わる。
安希子に協力するのは、男っぽい源太郎。
ちょっと安希子に気がありそうな、秋月史郎は「ガラスの仮面」の真澄さまに似ている。

黒百合の花が、印象的。
本当に黒百合の花言葉に、呪いってあるんですね。
どちらかというと、恋の呪縛みたいな意味合いみたいですけど。

そして戦国と黒百合というと、佐々成政という武将。
富山の戦国武将・佐々成政には、早百合という側室がいた。
寵愛を受けている早百合姫に対する嫉妬から、他の側室たちは留守を守る家来と小百合の密通のうわさを流した。

側室たちの陰謀により、初めは信じなかった佐々成政もついに早百合を不義の罪で手討ちにした。
庭の木に早百合をつるし、アンコウのように体を切り裂く残虐なやり方だった。
さらに早百合の一族も、全員殺してしまった。

早百合は最期に「私の怨念で立山に黒百合の花が咲いた時、佐々家は滅亡するであろう」と叫んだ。
御子孫の話では、本当に家では百合の花を生けることはなかったそうですね。
この伝説、「黒百合の系図」のもとになったと思われます。
ただ、佐々成政は富山の領主だったので、のちの加賀・前田家によってだいぶ話が作られたとも言われているんですね。

「黒百合の系図」、さすがに絵は昔の少女マンガっぽいですが、お話はおもしろい。
ホラーだけど、人間ドラマがしっかりしている。
美内先生の描くマンガは、恋愛も絡みますが、骨太の人間ドラマといった感じの話が多い。
だから後まで、記憶に残るマンガになっているのだと思います。


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Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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