こたつねこカフェ

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あるいは幻 「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」

伊藤潤二の猫日記 よん&むー。
ホラーマンガ家・伊藤潤二さんの飼い猫との日々を描いた愛猫マンガ。
タッチがホラーなので、落差に笑わずにいられない。

第3話では、猫じゃらしを使って遊ぶ光景が、まるで何かを攻撃しているかのように描かれてます。
ホラーマンガの本領発揮は第5話「よんはやっぱり変な顔」。
締め切り間際の徹夜で、頭がもうろうとしたJ。
顔を洗おうとして廊下に出て、「はっ!」とする。

廊下には椅子の足より大きな、なめくじがいたのであった!
ヌメー。
そのヌメヌメ、ヌラヌラした質感。
長く尾を引く影と、触覚。

「ひょ~っ!」と悲鳴上げたJ。
しかし、それはよく見ると、長く伸びた「よん」の寝姿であった。
『な…、なんだ、「よん」か…。でっかいナメクジに見えた…』。
『俺も相当、疲れてるな…』。

ピクリと耳がJの方を向き、フワーっと大きくあくびをした「よん」。
(すごい、こういう顔になる、猫のあくびは)。
むにゃむにゃと手をなめだし、ペロペロペロと大股を開いて肢をなめる。
(ちゃんとお尻の穴まで描写…まっ)。

「いい気な奴。人が徹夜してるってのに」と言ってJは廊下を歩いていく。
すると、スタスタスタスタと、よんが歩いて来る。
その目がギラリと輝く。
「!?」

次の瞬間、Jの横をシュルシュルシュルシュルと通って行ったのは!
背中に「ドクロ」の模様をつけた、異形の蛇。
ツチノコであった!

「出た!ツチノコだ!」
「A子、ツチノコだ!」
「早く捕まえろ!」

「何言ってるの、あれは『よん』だよ」。
眠い目をこすりながら廊下を見たA子は言った。
「な…、なんだと。はっ。またしても幻覚」。
「にゃあああ」と、よんが鳴いた。

顔を洗うJを横で見ているのは、むー。
ブクニャンという声に、「よかった。むーは、やっぱり『むー』だ」。
「お前はおっとりしてて可愛いね」と、抱き上げる。

ゴロゴロ言っていた「むー」だが、突然、カッと目を見開くと、ガブッ。
Jの指に思い切り、噛みついた。
「まあ、『むー』は猫らしい可愛さがあるから許す…。本気で噛むが」。

「問題はやはり、『よん』だ。あれは本当に猫なのか?」
そっとテレビのある部屋をのぞく。
すると、背中に3つの丸い模様があるおっさんが、座っている。
「だ…、誰だ!?あのおっさん」。

「あっ…」。
次の瞬間、おっさんは「よん」になった。
Jは、疲れているのだ。

必要なのは、癒しだ。
すると、背後で声がする。
「ニャー」。
「よん…」。

突然、よんがJの膝に飛び乗った。
クルン、と腹を見せる。
「な…、なんだ。どういう風の吹き回しだ…」。
Jの額に、汗がにじんでくる。

ブルン、ブルン、ブルン。
よんの顔と、ブルン、ブルン、ブルン、という音。
Jのよんを凝視する目にも、それは響いて来る。
(ほとんど、ホラー)。

『奇妙な時間が流れた』。
『そう…、それは例えるなら、「そういうムード」だった』。
ブルン、ブルン、ブルン。

音を立てている「よん」に、Jは小指を差し出す。
「よん」が口を開ける。
(うわあ、本当に猫の口元ってこんな感じ)。

舌がのぞく。
Jの指が接近する。
チュボッ。
音を立て、よんがJの小指を口にした。

チュッチュッ、チュッチュッ。
よんがJの指をかかえ、赤ん坊のように吸っている。
『それは初めてのチュッチュだった…。今までA子にしかしなかったチュッチュ…』。
『よんのザラつく舌が私の疲れた小指を熱く包み込み…』。

『まるで鼓動のように静かに…、そして熱く!』
『しかし…、それはあるいは幻なのかもしれなかった…』。
(…、なんだこれ…笑)。

よんちゃんの鼻。
その周りのヒゲと、ヒゲが生えている皮膚というか、毛の部分の描写、見事です。
舌といい、毛といい、リアルです。

体温があります。
息までかかって来そうなリアルさ。
猫に指をなめられた時の感触が、蘇ってきます。

うれしいはず。
待ちに待った瞬間のはずのJは、目を閉じ、あきらめたような表情。
まるで、女性に逃げられたような、傷心のようなシーンなのが、おかしい…。

いやいや、伊藤潤二さんの発想ってすごい。
描写もすごいですが、発想もぶっ飛んでます。
よんは確かに白い猫だけど、ナメクジに見える?

ツチノコになる?
おじさんに見えることが、あるのだろうか。
確かに、おじさんっぽい時もありますけど…。

そういえば、映像化された作品もありますね。
中でも、よくこんな発想するな、と思うような作品が映像化されているそうです。
どんな作品になっているのか、その映像が気になりだしました。

私がマンガを読み始めた頃、ホラーマンガと言ったら楳図かずおさんでした。
当時はホラーとは言わずに、「恐怖コミックス」「怪奇コミックス」と書いてあった気がします。
近所の友達がマンガたくさん持ってたんですが、楳図かずおさんのマンガもいっぱい持ってた。

良く借りたものですが、机の上に置いてるのも怖かった。
顔の半分に、グロテスクなもう一つの顔ができていたり。
夜ごとに庭にあるお墓から、ゾンビのようになった娘がやってきたり。

借りておいて、家にあって怖くないの?とか失礼なこと聞いてました。
何で怖いの?って言われましたが。
大人になって、本人を見た時は別の驚きがありました。
その後、メルヘンチックな家を作ってそれにも驚きました。

「まことちゃん」というギャグマンガがヒットした頃には、「怖いマンガも描いているのですね」なんて言われたそうです。
私たちが楳図さんのマンガに怖がりながらも魅了されたように、伊藤潤二さんも人を惹きつけているのでしょう。
その非凡な画力、表現力はこの愛猫マンガにも十分、生かされているのです…。
また描いてほしいものです。


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