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地獄の道連れ、誰にする? 「新・必殺仕置人」第3話

第3話、「現金無用」。
げんなま無用。
2話は、こちらで以前に書いております。
3話だって書いているじゃないかって、すみません。
書いたものが消えてしまって、しばらく立ち直れないので、また後で書きます。

旗本、沖田政勝の屋敷前で、中元が自害して果てた。
沖田政勝に、妻を奪われた恨みだった。
腹を切り、苦しむ中元を沖田は介錯と斬って捨てた。
駆けつけた妻は「お恨み申し上げます」と言って、自害して果てた。

沖田の屋敷に絵草紙屋として出入りしていた正八は、ことの顛末を見ていた。
今日はこの騒ぎで、絵草紙どころではないだろうと、用人の堀内新兵衛が正八を追い払った。
「許してください。私が至らないばかりに」。
沖田の後妻・お梶が、そう叫んで走ってきた。

寅の会に、沖田の仕置きがかけられた。
鉄と伊三郎、そして柔術家の玄達で競り合った。
収拾がつかなくなりそうになった時、寅が制止した。
結局、仕置は入れ札となり、伊三郎に決まってしまった。

仕事を持って帰らなかった鉄に、仕置人たちは不平を言う。
みんな、仕置料を頼りにしていたのだ。
主水もやってくるが、当てが外れたと言われる。

「5両でも10両でもいいじゃねえか、やりがいのある仕事なら!」
「世の中にゃ晴らせぬ恨みつらみで、がんじがらめになって泣いてる連中がたくさんいるんだ」。
主水はそう言うと、「もう、おめえに任しておくわけにゃいかねえな」と鉄に言った。
そのの言葉に、正八も同意する。

寅の会抜きでやればいいのではないか。
そうすれば、寅の会に上前もはねられない。
だが鉄は「八丁堀、おめえ寅の会のこと、よく知らねえからそんなこと言うんだ」と止める。

すると主水は「おめえもすっかりタガが緩んだな。いつからそんな腰抜けになったんだ」と言う。
「とにかく虎のことは甘く見るな」。
仕置人たちに向かって、鉄は「おめえたちもだ」と言った。
「でねえと、虎に必ず仕置きされることになるぞ」。

「仕置人が仕置きされるってか」と立ち上がる己代松に「そういう冗談じゃすまねえんだよ」。
そして、自分を見る主水に鉄は「恨みがましい目で見るな」と言った。
「しょうがねえじゃねえか」と言って、鉄は頭を抱えた。

しかし、鉄が落札できなかった沖田政勝は、仕置きの前に心臓発作でなくなった。
虎がふすま越しに頼み人に「あなた様よりご依頼の沖田政勝に突然、不幸があり、私どもの手で仕置きできませんでしたので、このお金はお返しいたします」言った。
向こうには、頼み人がいる。

死神が、部屋の向こうの頼み人に金を持っていく。
部屋には、沖田の後妻のお梶がいた。
死神が言う。
「死因に不審がありました場合、その落とし前としてお命頂戴いたします」。

不審に思った死神は、沖田の遺体を掘り返した。
沖田の死因は、背骨が折れたことによるものだった。
真夜中、不穏な気配に起き上がった鉄は家から出ようとするが、戸は既に押さえられて開かない。

気を落ち着かせる為に水を飲んでいると、背後の障子に死神の影が映った。
「おっ?!何だ、何の真似だ?」
死神は「お前は裏切った」と言った。
鉄は「何だ」と取り合わずに寝に入ったが、死神は「証拠がある」と言う。

「沖田の死因は背骨折り。コイツはお前の手口だ」。
「冗談じゃねえよ」。
だが死神は「お前は虎を裏切った。この落とし前は虎の元締めがつけてくださる」と無機質な声で告げた。
「ちょっと待ってくれよ!」

鉄は跳ね起きた。
「そりゃあ、お前、なんかの間違いだよ。この証は必ず立てるから5日待ってくれよ」。
答えない死神に鉄は「いや、3日でいい!」と言った。

翌日、奉行所にいる主水を、主水の犬のコロを使い、正八が呼び出した。
鉄のところに来る途中、正八から話は聞いたと言う主水。
「だったら、すぐすっ飛んで来い!俺の命に関わる問題なんだから!」と鉄は言う。
しかし主水は「おめえ、本当にやったんじゃねえのか」と言った。

「何、おめえまで俺のこと疑ってるのか」。
「いや、信用してるぜ。なあ、1人で仕事するような、そんなきたねえ男じゃねえよ」。
「だが、背骨折りとくりゃあおめえしかねえな!」

主水の言葉に鉄は「やっぱりおめえ、俺のこと疑ってんじゃねえか!」と叫んだ。
鉄は主水につかみかかった。
「それじゃおめえ、みんなに納得いくような言い訳してみやがれ」。

「だからそれができねえから、みんなにこうして集まってもらったんじゃねえか」。
「3日のうちに証を立てねえと、俺は虎に仕置されちまうんだ」。
「とにかく、虫が良すぎるよ」と巳代松が言う。

おていも「あたしもそう思うよ」と言った。
正八も「俺もなんだかよくわかんねえけど、そう思うよ」と言った。
みんな、当てにしていた寅の回の仕置料が入ってこなかったことに、まだこだわっていた。

「そうか」。
鉄が怒り出した。
「おめえら、それが仲間に言うセリフか!」
「ようし、わかった!」

「いい、わかった」。
「俺も地獄に堕ちるのは1人じゃ寂しい!みんな、道連れになってもらおうじゃねえか」と言い出した。
「地獄堕ちは、にぎやかな方がいいや」。

すると主水は「冗談じゃねえや。割り切れねえ気持ちのまま、おめえと一緒に死ねるかい!ええ?」
「だいたい、競りに外れっぱなしってのがおかしい」。
「おう、俺は俺のやり方で、ちゃんと調べさせてもらうぞ!」と言った。

己代松も「念には念を入れ、だ」と言う。
主水と巳代松の会話に、鉄はそう言うと頭を抱える。
「そうしろ、そうしろ」。
「ったく!」

「鉄。おめえ、なんか心当たりねえのか?」と聞く主水に、鉄は思い出す。
「俺もそのこと、ずっと考えてたんだ」。
「今度の競りで、最後まで張り合って外れた野郎が、俺の他n1人いる」。
「誰だそれは」。

「玄達といって、柔術家の表看板を下げている野郎だ」。
「俺が当たってみる」。
巳代松の言葉に、鉄が目をまん丸にした。
「それに沖田の屋敷も探りを入れる必要があるな」。

そちらは、絵草子で出入りをしている正八が請け負った。
沖田の屋敷には跡取り息子の政高がいて、おふみという下働きの少女といつも仲良く遊んでいた。
政高が転ぶと、おふみが飛んでくる。

泣きそうになった政高は、すんでのところで泣くのをこらえた。
若様を誉めるおふみ。
正八が行くと、おふみがお梶に取り次ぎに行った。

「お姉ちゃんと仲がいいね。お姉ちゃん、好きなの?」
「うん、大好き!」と政高は元気よく答えた。
「母上とどっちが好き」。

正八の問いに政高は「母上は大嫌いだ」と答えた。
「母上嫌いなの。う~ん、じゃ、おじちゃんと一緒だ!」
おふみが来て、お梶は誰にも会いたくないと言っていたと告げる。
正八は帰った振りをして、屋敷に忍び込んだ。

天井裏に潜んだ正八が見たのは、用人・堀内新兵衛とお梶の密会現場であった。
しかもお梶は、子供を身ごもっていた。
その父親は新兵衛だった。

一方、賭場に忍び込んだ己代松は、80両という大きな借金を玄達が全て返済しているのを知った。
親分は玄達は命拾いしたな、と笑った。
このことから主水は、お梶が新兵衛との間の子ができて、それがわかってしまう前に政勝を殺したと予測した。

だが、おていは門前で殺された中元夫婦の恨みも相当なものだと言う。
妻が沖田に奪われたうえ、夫が殺され、妻は後を追ったのだから。
己代松は、寅の会は頼み人が死んだら、頼み料は返さなくてはいけないことに目をつけた。

玄達が寅の会を通さずに、じかに頼み人と取り引きしたとしたら?
寅の会を通さないのだから、頼み両はそのまま、玄達に入る。
頼み人にしたら、安くも済むだろう。

主水は、問題は、玄達とお梶たちがどこでどう繋がっているかだと言う。
のんびりしている正八に鉄は「俺の首が飛ぶかどうか、あと2日しかねえんだぞ!」と怒った。
鉄が外を見ると、長屋の外ではやはり死神が見張っていた。

主水が帰ると、せんが寝込んでいた。
りつも傷だらけだった。
50両が5本も当たるという富くじを買いに行き、殺到する人のなかで転んだのだった。
「何もかも、あなたの甲斐性のないせいです!」

翌日、その主水が玄達を仕置人として捕まえてきたと奉行所で騒ぎになった。
「昼行灯が?」
「仕置人なんて本当にいたのか!」

態度が大きい玄達に対して主水は怒ったが、玄達は悠然としている。
「わしを知らんのか」。
「身元保証人でもいるのか」。
すると玄達は、旗本の沖田政勝の奥方・お梶が自分のことは知っていると言った。

「よく調べてみろ」。
その通り、玄達の身元を、お梶が保証したのだ。
上に叱り飛ばされ、畳に頭をこすりつけて詫びた主水。

だが、1人になると「これで玄達とお梶の線は繋がった」とつぶやいた。
開放された玄達の後を、鉄が尾行する。
玄達は沖田の屋敷に入った。

屋根裏に侵入した鉄は、お梶と新兵衛、玄達の3人の会話を聞く。
「全くマヌケな同心だ」。
新兵衛が嘲笑う。
「本物の仕置人を捕まえておきながら…」。

「その点、お梶は抜け目がない。セリで負けた念仏の鉄というやつの手口で、殿を殺して」。
お梶の声がする。
「もし、わたくしたちが玄達殿と知り合いでなければ300両の頼み料が80両になるなどということは」。
「ふふふふ」。

「ところでご用は」と玄達が聞く。
「玄達殿、今一人片づけてほしいのですが」。
「と、おっしゃいますと、誰です」。

「政高です」。
「若様を?」
「百両出します」。
「百両」。

「しかしあの子は沖田家の嫡子、沖田家は断絶に」。
「嫡子はおります」。
「わたくしのお腹の中に」。

「なるほど、新兵衛との間に…。わかりもうした」。
「ではこれを」。
玄達は赤い薬の包みを、懐から出した。
「食あたりと言うことにいたせば」。

それを廊下でおふみが聞いていた。
おふみは部屋に戻ると、政高の顔を見る。
鉄は飛んで帰った。

「沖田のせがれが殺される?」
主水も、正八もおていも、己代松も驚愕の目で鉄を見た。
「グズグズしちゃいられねえんだ」と鉄はウロウロと歩き、焦った。
「鉄!こうなったら、いちかばちだ。玄達の抜き差しならねえ証拠を、寅に突きつけるしかねえ!」

「玄達、はめるんだ!」
「はめるったって、どうやって…」。
表には死神がいる。

「鉄!ちょっと来い!」という主水の声で、仕置人は輪になった。
声を潜める仕置人たち。
玄達に仕置きを依頼して、寅の会を通さずに仕置きするところを死神に見せるのだ。
「まずはあたしの出番だね」。

おていに、「ヘマは許さねえぞ」と主水の声がかかった。
だが、誰かが玄達に仕置きされなければならない。
殺される役は誰がやる。
「そいつは俺がやる」と己代松が言った。

町中でまず、おていが日本橋の商人から財布をスリ取った。
主水は商人を呼び止め、財布をやられたことを教える。
集金したお金が30両。

青くなる商人に、主水は取り返してやるから奉行所に届けるなと言う。
次々、おていは商人の懐を狙ってスリをやる。
その後を主水がつける。
商人たちにすられたことを知らせ、奉行所には届け出るな、自分が何とかしてやると言い含めて歩く。

鉄のあんまに、正八がやってくる。
死神が見張っているので正八は客を装って、事の首尾を鉄に伝えに来たのだ。
鉄が長屋を出ると、死神もついてくる。

玄達が通る道で、鉄はおていが玄達から財布をスルのを待った。
その通りに、おていが玄達の財布をすった。
途端、玄達は「待て!」とおていの手をつかんだ。

「けえしてくれ、胴巻きだ」。
「胴巻き?ご冗談でしょ?」
とぼけるおていを玄達は物陰に連れて行った。
「裸にすりゃわかるんだ!」とおていの着物を脱がしにかかった。

その途端、おていの懐から大量の小判が落ちる。
小判の数に、玄達は驚いた。
「この金はどうした!言え!言うんだ!」とおていを押さえつけた。

「言いますよ。言うから離してくださいよ」。
「この江戸に仕置人っていう、人殺しをしてくれるって商売があるっていうんで、その為に貯めたお金なんですよ」。
「その話、誰から聞いた」。

玄達とおていの会話は、鉄をつけてきた死神も聞いていた。
「ただ噂に聞いただけなんですけどね。どうしても殺してもらいたい男がいるんですよ」。
「お金がこれで足りなきゃ、いくらでも」。

「何だったら、その仕置人とかに俺が話をつけてやってもいいぞ」。
「あんたが?」
「ああ」。
「その代わり、礼金は百両!」

その頃、正八は沖田の屋敷で、絵草子を政高に読んでやっていた。
お梶が、政高の食事に玄達から渡された薬を注ぐ。
それを、おふみがそっと見ている。

お梶が食事だと言って、政高を連れて行った。
廊下に出た正八を、おふみが呼び止めた。
「あのお」。

「何だ、どうした?」と立ち止まった正八を見た新兵衛が、「絵草子屋!」と呼ぶ。
「用が済んだら引き取ってもらおう」。
おふみは「この絵草子、お返しします」と言って、自分が持っていた絵草子を差し出した。
「あ、そうですか。それじゃあまた、新しいのを何か一つ」と言った正八に、おふみは丁寧に頭を下げた。

その思いつめたような様子に、正八が不安を感じる。
屋根裏から、正八がお梶と政高を見ている。
「今、食べたくありません」。

食事をしようとしない政高に、お梶は「さあ、いただくのです」と強要した。
「そのようなワガママは許しませんよ」。
政高は、しかたなく手をつけようとした。

その時、おふみが飛んできた。
「若様、飲んではいけません!」
政高が飲もうとしていた椀を、おふみは跳ね飛ばした。

新兵衛が「おふみ、貴様!来いっ!」と怒る。
おふみを引っ張って行く。
正八はそれを、屋根裏で聞いている。

「おふみー!おふみー!」と叫ぶ政高の声。
新兵衛が刀を抜く。
政高の叫び。

「静かになさい!」というお梶の声。
そして、静かになる。
天井裏にいた正八が顔をゆがめ、いたたまれず背中を向ける。

正八が鉄の家にいる。
預かってきた絵草子の中には、おふみの書いた書付と小判が2両、包んではさんであった。
煙管をくわえた鉄が、書付を読む。

「わたしにもしものことがあったときは どうかわたしのうらみをはらしてください」。
「このおかねはなくなったおくさまにいただいたものです」
「鉄つぁんよう」。

正八の声は震えていた。
「俺、この子の恨み、晴らしてやんないと気が済まねんだよ!」
「安いけど頼むから、競り落として」。
鉄はタバコをふかしながらも、小判を見つめ、しっかりとうなづいた。

その夜、おていは玄達に、飲み屋で飲んだくれている己代松を見せた。
「あれがそうなんですよ」。
玄達は己代松を路地裏に連れ込む。

そして、バタバタと暴れる己代松の骨を折った。
「ぎゃっ」という声をあげ、己代松は動かなくなった。
その一部始終を、死神が見ていた。

玄達が走り去ると、鉄が路地裏に飛び込んできた。
「松!」
「松!」
動かない己代松の胸を押すと、己代松は息を吹き返す。

「あばらが折れてら」。
「おめえに昔、右やられて今度は左だ。釣り合いが取れていいや」。
己代松が痛みをこらえながら言う。
そう言って痛みにうめく己代松の頭を、鉄はそっと抱き寄せる。

寅の会。
「本日、寅の会番外として、皆様にお集まりいただきました」と死神が言う。
「この寅の会の中に、掟を破る裏切りの事実があったからです」。

仕置人たちの間に、緊張が走る。
「この裁きは虎の元締め、自らの手で仕置きされます」。
仕置人たちが硬直する。

虎が立ち上がる。
玄達の目が泳ぐ。
下を向く。

座っている仕置人たちの前に、虎が進み出る。
虎の足が、玄達の前で止まった。
玄達がハッと、顔を上げる。

虎が棍棒を、玄達に向かって振り下ろす。
玄達は「うわっ!」と言うと、勢いで部屋の奥まですべった。
そして、障子を破って止まった。
虎は勢いに押された仕置人たちの前を通り、何もなかったように元の席に座る。

「なお、今回の件、頼み人については、私の身内の調べが甘く、不行き届きがありましたので、このように処分いたしました」と虎が言う。
死神が、仕置人たちの隣り合った部屋のふすまを開ける。
中には、いつも句を読みあげる喜平が、不自然な姿で硬直していた。
仕置人たちは背筋を寒くする。

「この件に関わり、番外の依頼がありました。頼み料は2両です」と死神が言い、虎が短冊に書く。
「頼み料は、2両です」。
「沖田の妻、梶」。
「堀内新兵衛」。

「2人で2両…」。
「見送りだね」。
その中、鉄は「1両!」と声をあげる。

仕置人たちが鉄を呆れた顔で見る。
「他にありませんね。なければ1両にて、念仏の鉄さんに落札いたします」。
鉄が頭を下げる。
うっすらと笑う。

地下室で、「あらかじめね、小銭に両替しておいた」と正八が言い、小銭が分けられる。
「早くしろ早く」。
「できてるよ」。
「3朱と20文」。

次々と、小銭を受け取って行く仕置人。
「この小銭は、小判よりずっと、値打ちがあるぜ」。
主水の言葉が、重い。

にっこりするおてい。
胸に包帯で板添木を結び付け、小銭を取る己代松。
鉄は主水に死神が目を光らせているので、今度の殺しは俺がやると言う。

己代松にもその体じゃ無理だと言った。
だが己代松は「冗談じゃねえよ、もう大丈夫だ、ほら」と言って、添え木を叩いてみせる。
鉄がわずかに笑みを浮かべて、顔をそらす。

夜の町、仕置きに向かう鉄はウキウキしている。
隣には、胸に手をやっている己代松がいる。
沖田家では、お梶と新兵衛が政高を早く殺す相談をしていた。

新兵衛がお梶を抱き寄せようとする。
お梶は、はばかりに立つ。
片袖を脱いだ鉄が、厠の外で指を鳴らす。

鉄は、厠の窓をそっと開けた。
中にいるお梶を、見下ろす。
身支度を整えたお梶が、立ち上がる。

鉄がお梶の背後の、戸の格子から手を伸ばす。
お梶の首根っこを、まるで猫の子をつかむように背後からつかむ。
首根っこをつかまれたお梶が、ヒュッと息をのむ。
鉄に背後から首筋を引っ張られ、お梶は首を回して背後を確認する。

お梶を見下ろし、睨む鉄と目が合う。
鉄に睨まれたお梶の目が、恐怖のあまり、見開く。
息が荒いのに、声も出ない。

お梶の前で鉄は人差し指と中指を伸ばし、手を鳴らして見せる。
ぐきり、ぐきり。
震え上がったお梶が呼吸を止め、目を細めた。
その瞬間、鉄の手が戸を突き破り、お梶のあばらを折った。

鉄が指を抜いた瞬間、お梶は目と口を開いた。
お梶は声もなく、扉の向こうで崩れ落ちる。
鉄はそれを見下ろして、確認すると格子を閉める。

寝床でお梶を待っていた新兵衛に、己代松が近寄る。
新兵衛が己代松に気づき、「誰だ!」と叫んだ。
火花が散る。

だが、新兵衛は肩を撃たれただけだった。
絶対に的を外さないはずの己代松。
それが、的を外したのだ。

「はっ!」
己代松が、自分の失敗に気付いた。
肩を押さえながら新兵衛は、刀を取る。
怒りの新兵衛は、己代松に向かって刀を振り下ろす。

最初の一撃は、避けた。
だが痛みに耐える己代松は、追い詰められる。
燃え尽きた鉄砲を手にした己代松が、とっさにそれで自分の頭をかばおうとする。

斬られる!
鋭い金属音が響く。
新兵衛の刀は、己代松の頭に届かなかった。

主水が障子の向こうで、新兵衛の刃を受け止めていた。
そのまま主水は刀を横に払う。
新兵衛は蚊帳の上に、倒れた。

「八丁堀…」。
胸を押さえたまましゃべる己代松を支え、主水は外に出る。
表に出ようとした鉄は、死神がいるに気付く。

「八丁堀、死神がいる」。
そう言って、主水を止めた。
「すまなかったなあ、俺の為に」。
鉄はニヤつくのを、止められない。

そんな鉄を見た主水は、「勘違いするなよ。別におめえの為だけにやったわけじゃねえや」と言った。
己代松も「そうだよう」と言う。
鉄は2人を下がらせると死神に愛想良く、戸を開けて外に出て行く。

翌日、主水はおていがすった金を、あちこちに返して回っていた。
「間違いねえな?」
「30両、確かにございます」。

「礼なんか言われる筋合いはねえけどな」。
お店の主人は、金がちゃんと戻って安心していた。
「間違いはねえな」。

「はい、確かに30両…、あ」。
主人は笑って頭を下げると1両包み「些少ではございますが」と言って主水に渡す。
「みっともねえから何度も同じこと言わすなよ」。

「これは、ご無礼致しました」。
主人はもう一度、笑って頭を下げた。
羽織の袖を翻し、主水はちょっと渋い顔をした。



この3話、大好きな話です。
お梶を演じるのは、美しい花には毒がある。
本阿弥周子さん。
良い役でも、悪役でも、見ていて目が楽しい素敵な女優さん。

おふみ役はこの主題歌「あかね雲」の歌手、当時13歳の川田ともこさん。
玄達は大好きな悪役、今井健二さん。
悪役も良いですね。
13話の江幡高志さんとか。

正八が「手負いのオオカミ」という凶暴さ。
恩人の医師もアッサリ、手にかけようと言う凶悪さ。
この時、寅の会の仕置は頼みんにが死んで取り下げのはず。
そこを鉄たちが助けてしまう。

あれ、医師は気づいていたと思うんです。
誰かが、助けてくれたと。
あんなに一致団結して自分たちのところに居座っていた盗賊たちが、逃亡を前に、仲間割れなんかするわけがない。
首領は鉗子で留められてるわけですし。

この回の殺しは、己代松もうまい。
鉄は見事。
これぞ暗殺者、仕置人。

主水の殺しは、一瞬で決める。
その凄まじさ。
正八が改めて主水の顔を見るほど。
って、後で13話の時に書けばいいのに、自分!

主水が、寅の会を軽視する。
すると鉄が、甘く見るなとくぎを刺す。
まさに玄達が寅の会を通さずに仕置して、手数料を払わなくて済む頼み人お梶が登場する。

最初の沖田の殺しを落札できず戻って来た鉄に、主水が言う。
「5両でも10両でもいいじゃねえか、やりがいのある仕事なら!」
そして旗本殺しについて、仕置人たちが旗本相手だったら安くは請け負えないと言っている。
全部、これ、最後につながるんですね。

仕置人たちの描写としては、すねる鉄がおかしい。
「だが、背骨折りとくりゃあおめえしかねえな!」
「やっぱりおめえ、俺のこと疑ってんじゃねえか!」

「とにかく、虫が良すぎるよ」。
「あたしもそう思うよ」。
「俺もなんだかよくわかんねえけど、そう思うよ」。

「ようし、わかった!」
「俺も地獄に堕ちるのは1人じゃ寂しい!みんな、道連れになってもらおうじゃねえか」。
「地獄堕ちは、にぎやかな方がいいや」。
この辺りの粋のピッタリ合ったところが、すごくおかしい。

前にも書きましたが、お梶たちの話をしている時、鉄の家でみんな、餅焼いてる。
それで主水が「奥方の腹がぷうーっと膨れてきたってんで」と言うと、網の上の餅が膨れてくる。
「おう、膨れてきた膨れてきた。それでやべえからと、旦那を殺したんだ」。
怖い話を平然と、おかしくしているところがさすが、裏稼業の人たち…。

死神がいるから客を装って来た正八を揉み治療しながら鉄ちゃん、「銭、ちゃんと払えよ」と言う。
「冗談じゃねえ、これ仕事のうちじゃないか」。
「お客さん、だいぶ凝ってますね!」

「俺、払えないよ」。
「払わなきゃ払わなくていいんだよ」。
頭、グキッといきそう。

「あー!払います!」。
「お客さん、いつもおおげさなんだから」。
もう、鉄ちゃんいるだけでこんなにおかしくなる。

正八が政高に絵草子読んでるんですが、それが「食うに困ったかぐや姫は、しかたなく吉原に身売りをすることになり」。
「おもしろいか?」
「うん!もっと続けて!」
「続けていいのかな?」

その後、お梶が「どの絵草子にするか、決まりましたか?」
「はい!かぐや姫にします!」。
「ありがとうございます」。
えー!

子供とのやり取りの中、さりげなく正八が「母上とどっちが好き」と言う。
大して意味があったわけじゃない。
でも政高は「母上は嫌いだ」と言う。
正八が「おじちゃんとおんなじだ!」と言う。

明るく見えても、仕置人。
普通の生い立ちで、普通の生活をしている青年が関わる世界じゃない。
この正八に、どんなことがあったのだろうと一瞬、思わせる。

さてかぐや姫の絵草子の後、話は悲壮な方向へ行く。
このようにいろんなことが散りばめられているから、仕置人は目が離せない。
おふみが殺されるのをわかっても、なすすべもない正八。

つたない文字で書かれた書付が、涙を誘う。
「わたしにもしものことがあったときは どうかわたしのうらみをはらしてください」。
「このおかねはなくなったおくさまにいただいたものです」。

正八の声が、は震えている。
「俺、この子の恨み、晴らしてやんないと気が済まねんだよ!」
「安いけど頼むから、競り落として」。

幼いおふみが必死に今まで奉公し、もらった小遣いを貯めた2両。
その頼み料に、名乗る仕置人はいない。
悪いと言ってるんじゃなくて、ものすごく危険なことをするんだから、それに見合う金額が欲しいと言うのはしかたがない。

でもこの中で「いちりょう!」とはっきり手を挙げる鉄は、たまらなくカッコ良い。
そして「この小銭は小判より値打ちがあるぜ」と言う主水も、たまらなくカッコ良い。
もちろん、己代松も見せ場あり。

死ぬ危険を冒してまで、鉄の為に玄達にやられる。
虫が良いと言っていた己代松の協力に、鉄でさえ初めは目を丸くしている。
「右やられて今度は左でちょうどいいや!」って言って痛みに耐える己代松も、たまらなくカッコ良い。

玄達が仕置きされるシーンで、虎を演じる藤村さんの現役時代のフィルムが入る。
虎の元締めの仕置きが、太い棍棒で打つんですが、それは迫力があって当たり前。
藤村さんをキャスティングするって、すごい考えたなあ。

死神がいるから主水はやらなくて良いと言う鉄もまた、主水を思っている。
己代松にやらなくて良いと言うのも、己代松を思っているから。
それを拒絶する己代松を見た鉄の、しみじみとした笑み。
この時から鉄は、主水と己代松のためには死ぬつもりでいたのだと思います。

だけど仕置の後には、ニヤニヤしちゃう。
すると主水「おめえの為だけにやったんじゃねえや」。
己代松「そうだよ」。
みんな素直じゃないねえ。

仕置きのシーンの鉄はもう、ホラー。
お梶じゃなくても、夜道で会ったら腰抜かしそう。
これは、凶悪な面相です。
肩袖脱いで見えている、赤の襦袢が不吉なほど鮮やか。

光と影の使い方、本当にうまい。
まるで子猫をつかむような、お梶の捕まえ方が鉄の圧倒的な力を感じさせます。
死神に言われていた「寅の会を騙したら…」が、現実にやってきたことに恐怖するお梶。

3話っておもしろいけど、考えたら子供は殺されるわ。
悪女とはいえ、お腹に子供がいるお梶は仕置されるわ。
今じゃ絶対、作らない話なんですね。

百発百中の己代松が、怪我のために仕損じる。
彼の技は、しくじると後がない。
やられる。

ここでカキーンという音。
姿を現す主水。
こんなにもカッコ良い主水。

小銭が小判より価値があると言った主水。
なのに小銭をせびるラストの主水。
この対比も、すごく良いんですね。
大好きなエピソードです。


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川田ともこ(主題歌歌手)
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こんにちは…お邪魔します。
『現金無用』は『王手』『裏切』とともに初期『新仕置人』の中でも個人的お気に入りエピソードです。

大人たちの醜い策謀に巻き込まれ、幼な子たち(正高、おふみ、お梶のお腹の子)が悲しい目にあい、犠牲になる…重いやるせなさが見終えた視聴者の胸に“しこり”となって残るはずもない?明るく軽妙なノリ(笑)。

死神の処刑宣告に怯える鉄っつぁん。
そんな鉄っつぁんの窮地にも餅焼いて食ってる主水たち。
元締・虎が裏切り者を地獄へ一発叩き込む!
何よりも面白さがまずは優先というか(笑)他のシリーズには見られない『新仕置人』のサービス精神とバイタリティはやはり魅力的ですね。

番外の依頼(頼み料は二両)に他の仕置人たちが呆れて見送る中、ひょいと手を挙げ「一両!」とひと声で競り落とす鉄っつぁん。
「この小銭は小判よりずっと値打ちがあるぜぇ」なんて呟きながらも仕置を外され…しかし、怪我で的を外した巳代松の窮地に間一髪現れて新兵衛を仕留める主水。
二人とも本当、カッコいい…!

それでは、また…。

しかし“おふみ”役の川田ともこさん。
主題歌宣伝のためのゲスト出演だったと思うのですが…果たしてあの退場で良かったのかな?
まぁ…本編にも絡み、出番も台詞もテロップまであった待遇の良さを考えたら何の問題も無いのかな(笑)。




2017年10月24日(Tue) 15:33
キラさん
編集
>キラさん

こんばんは。
コメントありがとうございます。

>『現金無用』は『王手』『裏切』とともに初期『新仕置人』の中でも個人的お気に入りエピソードです。

裏切無用もおもしろいですよねえ。
新・仕置人らしさが濃縮されている話だと思います。

>大人たちの醜い策謀に巻き込まれ、幼な子たち(正高、おふみ、お梶のお腹の子)が悲しい目にあい、犠牲になる…重いやるせなさが見終えた視聴者の胸に“しこり”となって残るはずもない?明るく軽妙なノリ(笑)。

良く考えたらすごい話なんですよね。
あんまりそんなかんじがしないところが、怖いというか、何というか。

>死神の処刑宣告に怯える鉄っつぁん。
>そんな鉄っつぁんの窮地にも餅焼いて食ってる主水たち。

鉄以外は寅の会の仕置を見ていないから、どこか悠長な感じなのか。
自分たちは安全だからなのか。
そう思ったら、思い切り、協力している。
新・仕置人たちは、良く食べてますよねえ。

>元締・虎が裏切り者を地獄へ一発叩き込む!
>何よりも面白さがまずは優先というか(笑)他のシリーズには見られない『新仕置人』のサービス精神とバイタリティはやはり魅力的ですね。

現役時代のフィルムを流すところが、遊んでいる!
ファンサービス素晴らしい~。

>番外の依頼(頼み料は二両)に他の仕置人たちが呆れて見送る中、ひょいと手を挙げ「一両!」とひと声で競り落とす鉄っつぁん。

ここ、カッコ良いですね。
ほんとに、お金じゃないんだって。
仕置の時の鉄つぁんの怖いこと。

>「この小銭は小判よりずっと値打ちがあるぜぇ」なんて呟きながらも仕置を外され…しかし、怪我で的を外した巳代松の窮地に間一髪現れて新兵衛を仕留める主水。
>二人とも本当、カッコいい…!

主水がまた、カッコ良いんですよねー。
カキーン!とい金属音と共に姿を現す主水。
この人はいつも、必要な時に必要な場所にいる。
この人を生かせない奉行所と、中村家はどうかしているのではないかと思ってしまいます。

>しかし“おふみ”役の川田ともこさん。
>主題歌宣伝のためのゲスト出演だったと思うのですが…果たしてあの退場で良かったのかな?
>まぁ…本編にも絡み、出番も台詞もテロップまであった待遇の良さを考えたら何の問題も無いのかな(笑)。

意外なほどの名演を見せてくれました。
だけど、悲惨な運命が…。
主題歌歌手の子にこの役をやらせるとは…。
この後、子役にならなかったところがまた、良いのかも?!

コメントありがとうございました。
2017年10月28日(Sat) 21:22












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